第14話 エリアル、始まりの民の人達と合流する
そうして、二週間が過ぎた。
「基礎は教えた。日々鍛練あるのみじゃ」
「おす!」
背筋を伸ばした、仁王立ち。
そのまま、拳を前に突き出す。
「はっ!」
拳の素振りを連発で繰り出す。
動きと連動して、風を切る小気味いい音が響く。
「せいっ!」
回し蹴りのコンビネーション。
「あちょ~っ!」
その勢いを乗せて、ジャンプ。
空中でパンチとキックを連続で放つ。
「短期間でよくぞここまで体得したものよ」
「おす! 師匠のおかげっす!」
ゲームでの早熟タイプ設定が活きているのか、短期間の修行ながら、なかなか様になってきたと思う。
気のコントロールに関して、エリアルが得意だった事も大きい。
確かな手応えを感じる。
これなら来るべきゲイル襲撃に対して、切り札になってくれそう。
いい感じで修行を続けていたが、ある日の事だった。
「エリアル様、お迎えに上がりました」
道場に、エリアルの服と同じ感じの、緑色の衣装の集団が現れた。
薄緑色の髪と、エメラルド色の瞳を持った彼らが、始まりの民の一団だ。
まず道場に現れたのは、ふくよかな、中年の女性だった。
(私の侍女、ジーナよ)
「な、なんで汗だくなんですか、エリアル様」
びっくりしているジーナさん。
神子のエリアルが格闘に励んでいる様に面食らったようだ。
「修行っすー」
あたしは袖で額の汗をぬぐいながら答えた。
「風邪を引きますよ!」
「りょっ!」
(変な話し方すんな!)
修行がちょうど終わったところだし、お客さんもやって来た。
そろそろ着替えよう。
「いやー、さっぱりしたっすー!」
汗を拭いて、着替えたら開放的な気分。
「エリアル様、ちょっと見ない間に変わられましたね」
彼らはあたしの修行の事を知らない。
道着姿も初めてだ。
「護身用なんすよー。
しゅばばばっ!」
パンチの素振りをしながら答える。
たくましくなったかなあ。
あたしも最近強くなった実感あるんだよね。
すると、
「神子様ー!」
今度は甲冑を身に付けた、屈強なおじさんが。
「神子様、お久しぶりです」
やはり誰だか分からない。
(聖地の衛兵団長をしてるクレイフよ)
そうか。エリアルにとっては昔から知っている人物みたい。
「拳法道場におられると聞き、びっくりしておりましたが、本格的にやられておられるようですな」
「そうなんすよー。
しゅばばばばっ!」
そう言ってわたしが拳を振り抜くと、風を切る音が。
「何事も健康第一ですからな」
「わかりみー」
(だから変な話し方すんな!)
「しかし神子様、様子が変わりましたな」
「話し方もかなり……」
ジーナさんもクレイフさんも首を傾げている。
あたしのみなぎる強さが、雰囲気にも現れ始めたのかも。
「み、神子様! スカートの下の道着を脱ぎ忘れてますわ」
長衣の下からのぞく道着のズボンを見て、ジーナさんがびっくりしている。
「いやー、最近この方が動きやすくって」
あたしは腰を下げ、構えを取った。
そう言えば前の世界でも、お昼のお掃除前にジャージ履いたら、その上に制服着て、午後はそのままだったっけ。
(代わんなさいよ!)
チェンジさせられた。
まあ、そろそろ代わろうと思ってたけど。
「オホン。しゅ、修行の後で、テンションが上がっていただけよ」
「そうでしたか、神子様」
エリアルの上品な声に、二人とも納得した。
「全てこの星の未来を守るため。
あなた達もよく来てくれました。
状況を聞かせて頂きます」
三人で道場の奥の居間に移動した。
うーん、やっぱエリアルが話すと、オーラが違う。
心の中であたしと話すときは、結構ラフなんだけどね。
大きな居間に十人程度の始まりの民の集団は通された。
「神子様のみならず、始まりの民の方々を迎えられるのは、まことに誇らしいことじゃ」
竜王斎師匠も、歴史ある始まりの民に畏怖の念を抱いているみたい。
「わしはエルドーラやホープインダストリーはどうも好きになれん。
空中に街などを作って、神にでもなったかつもりなのか」
そして、反エルドーラみたい。
だから道場に招き入れてくれているのだろう。
「さあ、長旅でお疲れでしょう。
食べてくだされ」
そのまま宴会になったのだった。
豪華な料理が振舞われる。
(すごい! 師匠、太っ腹)
(料金はこちら持ちよ)
ウィンド視点のゲームでは描写のなかったシーンだけど、こんな事があったんだなあ。
「好き嫌いをしないで、ちゃんと食べておられますか?」
「ふふっ、いつの話よ」
ジーナさんの言葉に吹き出すエリアル。
「わたしはエルドーラに向かうと聞いて心配しておりました。
おそばにおれず、本当にふがいない」
その隣のクレイフさんも話しかけて来た。
「あなた達が聖地を守ってくれているから、わたしも演説できたのよ」
始まりの民の聖地はゲームでは後半で訪れる場所で、強力なモンスターが徘徊している。
「すぐに状況は変わらないかも知れないけど、小さな成果はあった。
信頼できる仲間達ができた」
「神子様、ご立派になられました」
「お父様とお母さまもきっと誇りに思っておられる事でしょう」
「大げさ。 まだまだこれからだって!」
久しぶりに会ったエリアルを、べた褒めのクレイフさん。
答えるエリアルも謙遜してはいるが、とても嬉しそうだ。
あたしはふと気付いた。
エリアルの話し方が心の中と大差がない。
それでいて、あたしと話してる時とも違う、すごくリラックスした感じ。
これが本来の、自然体のエリアルなんだろうな、と思った。
あたしは邪魔をしないように心の声を発しないようにした。
重大な責任を背負って旅をしているエリアルの、やすらぎのひと時を大切にしてあげたいと思った。
でも、一つだけ気になる事が、違和感があった。
エリアルにとって大切なこの人達の事を、あたしは全く知らない。
あたしはファンタジックコスモスを隅々までやり込んだ。
それなのに、ゲームの中で、この二人を見た事がない。
この違和感にはどんな意味があるのだろう。
その事はずっとあたしの心に張り付いて離れなかった。
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