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第374話 隔離されました

「フン……勇者だけあって悪くない身体ね。あんまり長持ちしそうにないけど。アンタを殺して世界を破壊するくらいは出来るから、覚悟はいい?」


 此方に……俺に薄暗い微笑みを向けながら剣を抜くアイシス……いやヘラ。


 見た目は変わらないが中身はもうヘラなのは間違いないらしい。


 と、なれば……アイシスはもう死んだも同然、なのか?


 仮にヘラをアイシスの身体から追い出せたとして、それでアイシスは助けられるのか。


「ヘラ!貴様ぁ!もう勘弁ならん!わしが直々にボコボコノコノコボコノコノココンにしてやるわ!」


「ハッ!やれるもんならやって見やがれ!」


 何処からか取り出した木のような杖……いや、杖のような木?を取り出してヘラに向かって振るうフレイヤ様。


 そしてそれをカラドボルグで受け止めるヘラ。


 その瞬間、二人を中心に衝撃波が起こり、周辺を破壊し、吹き飛ばす。


「うああ!」「がはっ!」「うぐあっ!」


「ママ!」「宰相閣下!」「アニエスさん!」


 俺とアイ、ソフィアさんは吹き飛ばされずに堪える事が出来たが陛下に宰相、アニエスさんは吹き飛ばされ壁に打ち付けられてしまう。


 机や椅子、窓ガラスも吹き飛び、壁や床、天井に亀裂が入る。


「何事だ!」「陛下!御無事ですか!」


 当然、そんな事になれば団長達が突入してくる。しかし、これで形勢逆転、一気にヘラを打倒――とは行かない。


「お主らは下がっておれ!邪魔じゃ!此処はわしに任せ――」


「誰だ貴様は!」「怪しいやつ!貴様なんぞの命令など聞くか!」


「な、なんじゃとー!」


 ……ポラセク団長とブルーリンク団長はまだフレイヤ様の事を聞いてないのか。イエローレイダー団長はまだ眼を覚ましてないらしい。二人は一直線に陛下の元に走って行った。気絶しているが陛下が生きているのを確認して安堵していた。


「で。どういう状況。敵はあの金ピカの女でいいの」


 相変わらずのマイペースっぷりを見せるのはレッドフィールド団長……少しは陛下の心配をしましょうよ。今日の得物はショートソード二刀流ですか。相当な業物ですね……


「チッ!ゾロゾロと邪魔くせぇなぁ!おい、テメェ!場所変えんぞぉ!」


「アンタの思い通りに――なんだ?」


「ハッ!ところがギッチョンってなぁ!」


 俺に何かの力が作用してる……この力の感覚は魔王の力に似てる。まさかヘラが魔王の力を使ってるのか。


「今のあたしは思い通りに出来るんだよぉ!行くぞぉ、あたしの世界――」


「そうは行かん!ヘラ!貴様はわしも連れて行くんじゃ!」


「――チッ!」


 次の瞬間、視界が切り替わり……眼の前にあるのは見渡す限りの草原。


 ついさっきもフレイヤ様に連れて行かれた世界と同じ、か?


「チッ!フレイヤ、テメェ……」


「フフン!わしの見立て通りのようじゃのう!」


 そして此処に居るのは俺とフレイヤ様とヘラ。


 此処に移動したのがヘラの力で間違いないというならフレイヤ様を連れて来たのもヘラという事になるが……何故だ?


『さぁなぁ。ま、すぐ説明してくれるやろ、フレイヤ様が。それよりマスター、戦闘準備や』


 ……ああ。バトルスーツにビームライフルを装備。ドローンも出せ。


「ジュン、お主も戦う準備を――って、準備万端じゃな。流石じゃの」


「それより説明をお願いします。フレイヤ様は何か気付いてるんでしょう」


「そうじゃな。説明してやる――」


「あたしがしてやるわよ。フレイヤ、どーせ、あんたじゃ全ては説明出来なくてあたしにさせるんだろうしぃ」


 ……ほう?意外に落ち着いてるな。てっきり「余計な事喋るんじゃねぇ!」とか言って止めて来るかと。


 自暴自棄、ではないよな。諦め、とも違う。何か企みがあっての事か。


『そうやろな。時間稼ぎ……が妥当なとこ、かな?』


 ……時間を稼いで、どうなるってんだ。ヘラの目的は俺で、この場に居るわけで。俺達に……いや、フレイヤ様の援軍が来る可能性はあってもヘラに援軍が来る事はないだろ。


 まさかヘラに味方する神が居るとも思えんし……居ないよな?


『わからんで。エロース様は色々恨み買っとるらしいし。ヘラ様に味方する神様が居ても不思議やないわ。まぁ、フレイヤ様に味方する神様の方が多そうではあるけども』


 ヘラに援軍が来るならフレイヤ様の援軍も来るよな、当然。


『せやな。ま、本人に語ってもらおうや。自分から話すって言うてるんやし』


 だな……周辺の警戒は任せたぞ。


「先ず、此処はあたしが作った世界。まだ何にも無い、生まれたばかりの世界。此処から世界をイジって世界の在り様を決めて、どんな世界にするか方向性を決めて育てるの。宇宙すら存在しない……ま、世界の卵のようなもんね」


 ……なんかフレイヤ様の説明と違うな。似てるだけで全く別モノなのか?


「そこはどうでもいいわい。何故、わしが言ったように貴様はわしを連れて来たのか。その辺りを説明せい」


「……うっさいわね。言われなくてもしてやるわよ」


 素直にするのか……俺にも知られて問題ない事なのか?


「あたしがあんたらを連れて来た力。もう察してるだろうけど何だかわかるかしら。当ててみな――」


「魔王の力じゃ。傲慢の魔王の、な。わざとらしい時間稼ぎはやめろ。次にやればわしが全て言ってしまうぞ」


「……チッ」


 やはり時間稼ぎが目的なのか……一体ナニを待っている。


「ほれ、早う続きを言わんか」


「……うっさい。フレイヤの言う通り、傲慢の魔王の力よ。何故、あたしが魔王の力を使えるのか。それは説明しなくてもいいわよね」


 依代になったアイシスの力だから、か。つまりアイシスの力をヘラは使える。


「だけど全てを十全に使えるわけじゃないわ。依代になって直ぐであたしに馴染んでないから」


「傲慢の魔王の力は思った事を実現する力。わしの声というノイズが入り、わしを連れて行く事を考えてしまった結果、そうなったという事じゃな」


「チッ……あたしが説明するって言ってんだろがぁ!」


 それだけで?そんな事でそうなるなら簡単に対策はとれそうだが。しかし、だ。


「何故魔王の力を使う。俺をこの世界に連れて来るくらい、神の力で出来るだろう。実際、フレイヤ様は出来た」


「フン……あんた、エロースの加護があるじゃない。しかも今はフレイヤの加護まである。それじゃ神の力じゃ出来ないわよ」


「神の加護とは他の神からの悪意ある干渉を防ぐ効果もある。お主が受けれなければ作用せん。それでもエロースの加護のみじゃ力尽くでどうにか出来たじゃろうがの。念の為与えとって良かったわい。どうじゃ、わしはデキる女じゃろ。わっはっはっ!」


 それは御手柄と認めても良いし御礼も言いますけども。本当にデキる女なら未然に防いで欲しかった事態なんですけども。


「……もういいわね。そろそろ処刑の時間――」


「まだ聞きたい事がある。あんた、何故俺を狙う」


「はぁ?今更何を言って――」


「あんた、あの世界を滅ぼすのが目的なんだろう。なら世界の要を壊した方が早い筈だ。俺が居なくなれば、あの世界は滅びに向かう……のだろうけど、直ぐに滅びるわけじゃない。エロース様に対する嫌がらせにはなるだろうが、致命的な一撃にはならないだろ」


 俺が死んで世界が滅びるまでに時間が掛かる。それこそ、俺と同じような存在をもう一度送ればいいだけ。それぐらいの余裕はあるはずだ。


「あんたの次なんて存在しないわよ。神にも色々制約、決まり事ってもんがあんのよ。それと世界の要の捜索なんて面倒臭い事しないわよ。それが出来るならあんたを探すのに色々送ったりしないっての」


「「……」」


 思わずフレイヤ様を見る。


 顔を逸らしてもダラダラと汗流してるのは見えてますよ……あんた、かなりのやらかしをする寸前でしたやん。


「それじゃ――」


「ああ、もう質問タイムは終わり。良かったわね~寿命が伸びて。でも、ね。あたしの準備は終わっちゃったから」


 パチン、と。ヘラが指を鳴らす。


 同時に空間が裂け、別次元から何かが姿を現す――


「やはり時間稼ぎじゃったか。予想通りにお主の眷族共じゃな」


「フン……それぐらいはわかるわよね。がっちり戦闘用に調整した子達だから。簡単には倒せないわよ」


 出て来たのは天使。数は……二十、か。随分多いな。神様じゃないだけマシと思うしかないか。


「フフン!時間を稼いで援軍を待っておったのは貴様だけじゃないわい!それもこっちは眷属じゃのうて神々が直接――」


「来ないわよ。あんたの援軍は、ね。あたしの味方しか入れないように隔離したもの。連絡も出来ないわよ」


「――なんじゃと」


 ……つまり?


『大ピンチってわけやな……いや、マスター的にはちゃうか』


 そう!俺Tueeeeチャンスだな!


 ……そう思う事にしよう!

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