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第372話 壊れかけの勇者でした

『てめぇフレイヤ!なんで此処に居るんだごらぁ!』


「……それはこっちのセリフじゃ、たわけ。まさか神器を依代にして下界に降りとるとは……通りで見つからん筈じゃ。何考えとるんじゃ、貴様」


 あ、やっぱりこの声はヘラ様なわけね。どっかで聞いた事のある声だと思った。


 それに鎧を依代にって……あの鎧がヘラ様だって事か。てっきりメーティスと同じで鎧に意思がある、生きている(インテリジェンス)(アイテム)的なモノかと。


『わいと同種の存在が近くにおったら、わいは気付ける……んやけども。神様が宿っとるんやとしても気付ける筈やねんけどなぁ』


 フレイヤ様も気付けなかったんだし、そこは何らかの対策をしてたって事だろ。隠れる為に。


 それよりも、だ。考えるべきは……


『何の為に依代を鎧にして、此処にいるのか、やな』


 だな。


 この世界を滅ぼす為に来たなら自由に動ける姿、本来の姿の方が都合が良いはず。何の為に不自由な、アイシス任せになる鎧に宿っているのか。


「何故鎧になっとるのか聞き出したいところじゃが……それは後でよいな。こうして見つかったからには大人しく神界に帰ってもらうぞ」


『……フン。それはやめた方がいいわよ。この人間……アイシスを殺したくないなら、ね』


「ヘラ……貴様……!」


 ……アイシスを、殺す?


 ヘラ様を連れ帰るとアイシスが死ぬって事か。どうしてそうなる。


「……へ~?なんで僕が死ぬの?」


「……あんた、自分の事なのに何でそんなだらけてんの。もっと関心と危機感を持ったら?」


 情緒不安定なヤツだな……最初は自信に溢れてテンション高め。腹が減ったらだらけて。身体触られたら怒って。そしてまただらけてる。


「それもそうですが……それよりもアイシャ殿下。私は鎧が喋ってる事が理解出来ないのですが……」


「我もだ。フレイヤ様、その鎧に神……ヘラと呼びましたか。その鎧にヘラという神が宿っている、という事なのでしょうか」


『ああ!?たかが人間が私を呼び捨てにしてんじゃねえ!』


 ……情緒不安定なのはヘラ様……もう呼び捨てでいいか、敵だし。


 ヘラも情緒不安定だな。キレたり落ち着いたり、忙しいヤツ。


「……そうじゃ。この鎧を依代にヘラは此処におる。何故、鎧なのかは……答える気はあるか、ヘラよ」


『フン……無いわ。だけどこの鎧の能力は教えてあげる。肉体と魂の修復、補強よ。この鎧を脱いだら最後、アイシスは肉体も魂も崩壊して死ぬわ』


 肉体だけでなく魂も崩壊する……何故?そんなにボロボロな状態には見えないが……


「……へ?……うっそだぁ。僕、健康そのものだよぉ~……それよりお腹が減って死にそう~……」


「……死にかけてるんじゃない。冗談言ってないでシャキっとしなさい――」


「アイの言う通りじゃぞ、アイシス。ヘラの言っている事は恐らく真実じゃ。その鎧を脱げば、お主は死ぬ。だからヘラを連れ帰ればお主は死ぬ。ヘラはお主の命を楯に神界への強制送還を躱すつもりなのじゃ」


『フン……感謝して欲しいくらいね、人間が私の役に立てるんだから』


「……へ?」


 ……汚い。今までの事からわかってたがヘラにとって人間は道具でしかないらしい。


『それにこの鎧の御蔭で死なずにすんでるのよ。感謝するのは当然、敬うのも当然。泣いて喜んでその身を差し出すくらいしてもいいでしょ』


「ふざけるな、ヘラ!アイシスがボロボロなのは貴様が何かしたからじゃろう!言え!貴様はアイシスに何をした!何をしたら肉体はおろか魂までヒビが入る!何をしたらこうなるのじゃ!」


『……チッ!チッチッチッ!だからあたしに向かって上からモノ言ってんじゃねぇ!人間如きに執着しやがって!だっせぇんだよ!変態女神が!』


 ヘラが何かしたからアイシスはボロボロ……それなのに泣いて感謝しろって。そういうのマッチポンプって言うんじゃないの。


 ……神がする事かね。


『いやまぁ……よくあるみたいやで。神様が天変地異を起こして、人間の祈りに応えて顕現。天変地異を鎮めてやったから感謝せよ、我を信仰せよ~みたいなん。特に世界の始まりには。大体の神様が一度はやった事あるんちゃう?』


 ……神ってヤツは。


「誰が変態女神じゃ!って、そんな事よりもサッサと答えよ!貴様は何がしたくてこんな事をしたのじゃ!わしが本気で怒る前に洗いざらい吐くのじゃ!」


『……フン。そんなに知りたいなら教えてやるわよ。最強にしてやったのよ。あたしの世界で、手に入れる事が出来る最高の力を詰め込んでやったのよ』


「へ?僕は元から最強だけど~……」


 あたしの世界で最強……それってもしかして魔王が魔神に、勇者が勇者の力を引き継ぐって言うシステムを利用した……


「……どう最強にしたのじゃ」


『魔王が魔王を喰らうと魔神になる。でも最初から魔神を用意する事は出来ないのよ、あの世界ではね。だからこの世界に送った。そして回収した。魔神に成った力を、ね』


 アンラ・マンユ達を送った本当の目的は魔神を造って回収するため、だと?その為にこの世界にどれだけの迷惑をかけたと思ってんだ……いや、待て。もしかしてアイシスは……


『そして与えたのよ。回収した魔神の力を傲慢の魔王に。そして倒させた。その結果、どうなるかはもう聞いてるわよね』


 つまりアイシスは七つの大罪の魔王、その全ての力を得た勇者になった、という事か。


『全てあたしの計画通りに事は運んだ……と、言いたいけれど幾つか誤算もあったわ。魔王を六体も送り込めばあたしが直接手を下すまでも無くこの世界が滅びる可能性も考えてた。そうでなくても……もっと世界に混乱をばら撒いて不安定にすると。でもアッサリと倒されちゃうし。怠惰が強欲に勝つのも予想外。しかも中途半端に勝つから弱っちい魔神の出来上がりだし。役に立たないにも程があるわよね』


「……公表するわけにはいかないがエスカロンは良い仕事をしてくれたようだな」


「せめて我々は心に留めておきましょう、陛下」


 俺も声に出しては言えないけど、褒めておくよエスカロン。


『傲慢の魔王が強くなりすぎたのも予想外。下級神を遥かに超えて上級神に迫る強さになってたのよね。だから――』


「だからカラドボルグを持ちだしたのか……このド阿呆が!」


 そこは予想出来るだろうに。魔王を一体喰らっただけの魔神でさえ、あの強さだ。それを全て

手に入れた傲慢の魔王の強さは……それこそ神の如き強さだったろうよ。


『……フン。そのまま傲慢の魔王をこの世界に送る事も考えたわ。でも正規の手順を踏まずに全ての魔王の力を手に入れたアイツは殆ど壊れてた。それじゃあたしの言う事も聞かないし。何よりアイツはあたしの好みからはかけ離れてた。だから勇者を勝たせたのよ』


 好み?何故、ヘラの好みが関係してくる。そこはどうでもいい筈だろう。


「傲慢の魔王も貴様の犠牲者というわけじゃな……哀れな。しかし、ならばアイシスが壊れかけとるのは……」


『力を詰め込み過ぎたせいね。元々一人の勇者が全ての魔王の力を手に入れるのは想定されてないもの。だから肉体が徐々に崩壊、魂にもヒビ……だからこの鎧をくれてやったのよ。目的を果たす前に壊れたら困るし』


「それも貴様が原因じゃろうが!」


『……チッ!チッチッチッ!いちいちうるせぇ!最後まで黙って聞いてろ!』


 アイシスが壊れかけてるのは魔王の力が原因……もしかしなくてもアイシスが不安定なのも魔王の力が原因か。


 傲慢なまでに自身たっぷりなのも、お腹が減ったら食欲に支配され怠惰になるのも。俺が好みだからと連れ帰ろうとするのも。


 言われて見れば随所に大罪の魔王っぽいセリフが出ていたな。


『……と、言っても殆ど言ったけどね。これであたしを連れ帰れば……鎧をアイシスから奪えばアイシスが死ぬ理由はわかったでしょ。魂はまだそれほどでもないけど、肉体の崩壊は一瞬よ。フレイヤ、あんたの力じゃどうにもならないわよ』


「最低ね、あんた。で、そうまでしてアイシスに何をさせたいのよ」


『ああ!?だから人間如きがあたしに生意気な口を利いてんじゃねぇ!んなもんは決まってんだろうが!』


 だよな。それはもう知ってる。この場に居る全員が。


『さぁ、話は終わりだ!とっとと女の敵をブッ殺せ!』

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