第371話 そこに居ました
「さぁ!表へ出なよ!」
「ふふん!僕に挑むなんていい度胸だね!良いよ、相手して――」
グギュルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
……はて?
大型トラックのエンジンが空回りしたかのような音が聞こえたが。
「あー……その前に、何か食べさせてくれない?」
恥ずかしそうにお腹抑えて頬を染めるアイシス……え、今の腹が鳴った音なの?
俺の腹に響いて来た音が腹の音?どんだけデカい腹してんのよ。
腹にスピーカーでも仕込んでるのかね。
「……自分で出しなさいよ。出せるんでしょ、魔王の力で」
「お腹減ってたらむ〜り〜……それに能力で出した料理ってなんか味気ないんだよね……」
……なんだかなぁ。ついさっきも似たような話を聞いたな。それに、その程度で使えなくなるのか。
思ったより大した能力じゃない……いや、逆か。神の如き能力だから条件も厳しいと考えるべきか。
「だから早く〜……何でも良いから〜……」
「さっきまで紅茶に茶菓子を食べてたでしょうが」
「あんなの足しにもならないよ……」
つっても昼食時はとっくに過ぎてるから、また新たに用意するのも時間がかかるだろ。
「騎士や兵士用の食堂でなら直ぐに食事は出来ると思いますが……」
「じゃ、そこに連れてって~……もう動きたくな~い~……」
なんなんだ、この娘は。
神に言われたとはいえ異世界に来て世界を救おうとする行動力。自分に自信たっぷりな言動。欲しいモノは手に入れると言い張る欲深さ。
これらは勇者らしいと言えなくもない。
だがお腹すいたら食事を要求するだけで、その場から動こうともしない。
とても同一人物がとる行動とは思えない。
「……アイシス、お主、まさか……」
「んあ?なに~……それよか御飯~早く~」
フレイヤ様が難しい顔をしてアイシスを見つめている。アイシスの有り様に何か思う処でもあるのか。
「……はぁ。何だか戦意が削がれちゃった。ジュン、イエローレイダー団長を治してあげなよ。いつまでも放って置いたら可哀想だし」
「あ」
生きてるのはわかってたし、その後の展開ですっかり……そのまま放置しちゃってた。
『ま、怪我も無さそう……いや、骨が折れて内臓が破裂しとる。常人なら既に死んでてもおかしくない状態やわ』
重傷じゃねえか!よく見りゃ吐血もしてるし!アイシスの言う事を信じたばかりに!何が気絶してるだけだよ!
「イエローレイダー団長!」
「ジュン?何をそんなに慌て……もしやイエローレイダー団長は危篤状態なのか!?」
「え~?そんなわけないじゃん~……骨折くらいはしたかもしれないけど~。ま、自業自得だよね~……そんな事より御飯~……肉~酒~」
……こんなのが俺のメインヒロイン候補だと?
無いな。見た目だけは美少女だと認めるがアイとユウだって美少女だし。中身は遠く及ばない。
少なくとも他人を怪我させたのに自分の食事が優先するような性格は受け入れられん。
「ジュン、イエローレイダー団長は……」
「……大丈夫です、魔法で治しました。ですが此処で寝かせておくのもなんですし、医務室へ運びましょう」
「ああ、そうしよう」
アニエスさんが呼んだ騎士によってイエローレイダー団長も退場。イエローレイダー団長が運ばれて行く際、部屋の外で待機してる人だかりが見えたが五大騎士団団長が揃っていた。
運ばれて行くイエローレイダー団長を見て自分達も中に居た方がいいんじゃないかとアニエスさんに詰め寄っていたが陛下の命令で引き続き待機となった。
意外だったのはポラセク団長が陛下やアイだけでなく俺にまで心配そうな眼を向けて来た事だ。
「かなり手加減したのにな~……この世界の人って貧弱~……で、御飯ま~だ~?」
「……あんた、いい加減に――」
「待て、ジュン。怒るな。他の者も怒りを抑えよ。心を平静に保ち、意思を強く持て」
あまりの態度にキレそうになった俺をフレイヤ様が諫める。しかし、フレイヤ様の眼はアイシスに向いたまま。
そしてその眼は、今しがた俺を見るポラセク団長と同じ。アイシスを心配しているように見える。
「アイシス……少し調べさせてもらうぞ」
「え~…………は?ちょ、なっ、何してんのこの変態女神!いくら僕が絶世の美少女だからって女に欲情するな!僕も」
「誰か欲情しとるか!お主の為にやっとると言うのに!」
何を思ったかフレイヤ様はアイシスの身体を弄り始めた。鎧の下に手を入れて。
それで何がわかるってんだ?
「……お主、アヤツに何をされた」
「は?いきなり何。てか僕の身体に触れてタダで済むと――」
「いいから答えんか。お主はアヤツ……ヘラに直接会ったのじゃろう。その時、ヘラはお主に何かしたはずじゃ。話をした、だけではあるまい」
「……ヘラ?」
さっきまで意図的に口にしていなかったアヤツ……この世界を滅ぼそうとする神、ヘラ様の名を明かしたな。
何があって考えを変えた?
「は?……特に、何も?」
「そんな筈はない。お主の身体には僅かにヘラの力の痕跡がある。それにお主の身体はもう既に――」
「僕の身体が何……ていうか、御飯はまだ?怒って一瞬忘れてたけど、お腹すいてたんだった~……」
そこスルーしていいの?多分、君にとってとても重大な事を告げようとしてたよ、フレイヤ様は。
「……よく思い出すのじゃ。ヘラはお主に何をした。何もしてない、何て事は無いはずじゃ」
「え~?……ん~……一回目は剣をくれただけだし……二回目はこの世界を救うよう言われて……ああ、怪我を治してもくれたかな。あと鎧ももらった」
「……鎧も、じゃと」
という事は……あの金ピカの鎧も神器?フレイヤ様が気付かなかった事からカラドボルグほどじゃなさそう、か?
「カラドボルグの衝撃が強すぎて気付かなんだが……その神器はヘラが作ったモノじゃな。どういう能力を持っとるのかまではわからんが……通りで悪趣味な鎧じゃと思ったわ」
同意とばかりにこの場にいる全員が頷く。全身金ピカな全身鎧だもんな。兜こそ無いが、アイシスは金髪だし全身金ピカなのは変わらない――
「え?そう?僕は結構気に入って――」
『だぁれが悪趣味だぁ!これ以上無いくらいに美しいだろがぁ!』
…………おやぁ?




