第365話 超危険物でした
「お、お待ちください。エロース様の使徒であるジュンは兎も角、アイに何を」
「お主らに話せるならこの場で話すわい。心配するな、ちと内密な話があるだけじゃ。それほど時間もとらん。ではの」
「あ、ちょっ」
ソフィアさんが俺に手を伸ばすが一瞬で視界にあった景色が切り替わった。瞬間移動……いや何処かに転移したのか。
転移した先は見渡す限りの草原……転生した時にエロース様に会った場所と同じ場所か?
「此処って転生した時に話を聞いた場所?アレ、てことはウチらまた死んだの?」
「死んどらんわ。此処はわしが作った簡易的な世界……箱庭だとでも思っておけ。で、早速本題の話じゃが」
「うん。てか、ウチらの意思を確認せずに問答無用な移動とかやめてよね。ウチ、他人の都合とか考えない人、嫌い~」
「お主、神に向かって……まぁええ。それだけ重要な用件という事じゃ。で、話じゃが……その前に、ちと我慢せいよ」
「はい?」
フレイヤ様は俺に近付いて来たと思ったら突然俺の身体をサワサワと弄り始めた。性的な目的ではないと思うが……
「ふむ。ええ身体しとるのう。褒めるのは癪じゃが流石はエロの神エロース。ええ趣味しとるわい」
「おまわりさーん!痴女がいますよー!」
話があるっていうし真剣な顔してるから好きにさせたが何しとるんじゃこの駄女神が!
「転生させてくれた恩があるから殺さないけどさ。早く手を下げないとウチ、何するかわかんないからね」
「じょ、冗談じゃ。ちとジュンの身体を調べる必要があったのじゃ。そう怒るでない」
本当かよ。大体俺の身体を調べる理由ってなんだよ。俺の身体について知りたいならエロース様に聞けばいいだろうに。
やっぱりただセクハラがしたかっただけなんじゃ……いやいや、まさかな。仮にも神様がそんな――
『因みに女神フレイヤ様は神界でもトップクラスに性に開放的な女神様やで。ある意味でエロース様より酷いっちゅう噂や』
ダメじゃん。エロース様より酷いってどんだけだよ。性の神より性的ってどんなだよ。
って、何故メーティスがそんな事知ってんだ。
『デウス・エクス・マキナのデータベースに入ってたで。何でこんなデータ入れたんかは知らんけど』
……さいですか。
「で、俺の身体を調べて何がわかったんです」
「それは……今は言えん。言ってもどうにもならんしお主が知っても知らずとも何も変わらん。言える事があるとすれば……お主が人間なのはもはや魂だけじゃな」
「へ」
突然怖い事言われた!なにそれ、どゆこと!いや最初っから薄々思ってたけども!
『あ、思ってたんや』
そりゃな!首ちょんぱされても死なないって人間とは呼べんだろ!実際左半身が吹き飛んでも死ななかったわけだし!
『不老不死やしな。でもそんなんは今更やろ。エロース様が用意した特別製ボディなんはフレイヤ様も知っとるんやろし。マスターの何を調べて、何がわかったんやろな』
……聞いても何も変わらんって言ったばかりだしな。食い下がっても教えてくれたりは――
「いや、それでも教えてよ、気になるし。どうしようもない現実が待ってるんだとしても事前に知ってれば心構え、覚悟は出来るんだし。その後の対処ってもんもあるでしょ」
「それは……そうなのじゃが……ううむ……」
揺らいでらっしゃる。神様ならもうちょっとぶれない姿勢とか軸とか持ってなさいよ。
「いや、やはり言えんな。知ってしまう事で取返しがつかなくなる、そういう類のものなのじゃ、これは」
知ってしまう事で失う?なんじゃそりゃ。俺の身体に何があるって……いや、色々とあるけども。
「ふぅん……今はって事は後々教えてくれる気はあるって事?」
「そうじゃな。時が来ればわしが教えずとも知る事になるじゃろ。しかし、やけに気に掛けるのう。何じゃ、お主ら、良い仲なのか?」
「……へ?ま、まぁね。ウチら結婚を誓った仲だしぃ」
「ほぅ。やはりそうなったのか。まぁ、予想通りじゃな」
「ん?ウチとジュンがくっつくって予想してたの?」
「まぁの。あの世界事情からすれば尚の事の。……他にも理由はあるが」
小声で言った他の理由って……アレか、フレイヤ様も知ってるのか。アイとユウが俺のヒロインって話を。
『ああ~……あったなぁ、そんな話。すっかり忘れとったわ』
忘れとったって、お前……メインヒロインの座はやらんとか騒いでたくせに。
『そうやけど、最近はバタバタしとったしなぁ。それにもう嫁が二千人近いわけやし。正直アイとかユウとかサブヒロインの一人に過ぎへんっちゅうか。どう考えてもマスターと一生涯を共に出来るんはわいだけやねんし~』
まぁ、そうなんだがな……そう言えば最後の一人、アイシスはまだ姿を見せないな。
『ああ、まだ居るんやったっけ、そんなんが。まぁ必ずしも現れると決まっとるわけでもないみたいやし。もう出てこうへんのとちゃう』
そうなのかね?
「んじゃ、これで話、用件は終わり?ウチ、締切が近いんだけど。てか手伝ってよ。神様ならベタくらい出来るでしょ。トーン張りでもいいし。背景とか小物を書いてくれるのでもいいよ」
「神にナニをさせようとしとるんじゃ、お主は……まだ話は残っとる。これで終わったらお主を連れて来た意味が無いじゃろが」
「あ、ウチにもナニかあるんだ」
「うむ。アイ、お主……不老不死になりたいか?」
「……はぁ?」
えらい突然だな、おい。え、何、神様って人間を不老不死に出来んの?そりゃ出来るか?
「……突然過ぎない?どうしてそんな事聞くの」
「どうしてってジュンと結婚するんじゃろ。ならお主に先立たれて一人ぽっちになるジュンが可哀想じゃろ。そう思わんか」
「そりゃ思うけど、逆のパターンもあるでしょ。ウチが残される可能性もあるし、普通は必ず夫婦の片方が先に死――もしかしてジュンって不老不死?」
そう言えばアイに俺が不老不死だって話はしてないな。いや、他の誰にも話はしてないんだが。
結婚する以上はいつかは言う必要がある話なのだが。
何も言わずに姿を消すってのは……残酷だしな。
「何じゃ、聞いておらんのか。こやつは世界中で子作りをするのが使命。千年ほどな。そうせねばあの世界は滅びる、それほどに男女比が狂った世界じゃからの。正直、他にやりようは無かったのかとも思うのじゃが」
「ああ~……まぁ、何となくは察してたけども。で、不老不死?」
「うむ。前世の記憶があるお主の価値観からすれば世界中で子作りに励む夫を長きに渡り支えるというのは苦痛かも知れぬが、それでもジュンを支える者が必要じゃと、わしは思うんじゃ」
『いやいやいや……わいがおるやん。フレイヤ様はナニを言うとるんや』
知らないんじゃね、メーティスが居るのを。だってお前、姿見せてねぇし。
『いやいや、女神様やで?それもフレイヤ様は上級神や。わいの存在なんてお見通しの筈や』
そうなのか?なら、それでも必要だと思ったんだろ。何故かまではわからんが。
つか、この駄女神なら気付いてない可能性もワンチャン……
「ジュン、なんぞ失礼な事を考えとらんか?」
「いえ、別に。何も考えてませんとも」
そういう事は鋭いのな、それなりに。ならもう少し思慮深ければ言う事なしなのに……
「……まぁええ。お主らが無礼なのは慣れとる。で、どうじゃ。不老不死、成るか?」
「ん~……ちょっと考えさせて。別にそこまで急ぐ話でもないでしょ?」
「うむ。お主はまだ成長するじゃろうしの。じゃがわしと直接会う機会はそうそう作れるものではない。アヤツ……ヘラを連れ戻すまでは下界におるがの。下界でこの話は迂闊に出来んし」
ああ~……そりゃそう。不老不死になんてなれると聞けば……アイを殺してその権利を奪おうなんて考える阿呆が虫のように湧いて出る事間違い無しだろ。
「そこで、じゃ。ジュン、お主にこれを託そう」
「これは?綺麗な宝石のように見えますが」
フレイヤ様に渡されたの物は小さな玉……大きめの真珠くらいの玉が三つ。淡く輝いているように見える。
危険な物では無さそうだが。
「それを使えば不老不死……神の眷族、神族になれる。この場合はわしの眷族じゃがな。眷族になっても絶対服従なわけでも精神性が変わるわけでもないから問題ないじゃろ」
「超危険物じゃないですか」
それってつまり、これを使えば誰でも不老不死になれるって事だろ。権力者達が最後に望む夢のアイテムでしょ。これの存在を知られたら確実に争いになるじゃん。
「バラさなければいいだけじゃろが。それに誰にでも使えるわけでは無い。それを受け入れる事が出来るだけの大きさを持った魂の器が必要じゃ。その点、アイはクリアしておるから心配いらんぞ」
「魂の器……それが無い者に使った場合はどうなります」
「それにはわしの神気、神の力が込められておる。器無き者が使えば神の力の奔流に押し流され消え去るの。そうなれば転生も出来ん。魂も消え去る、完全な死じゃ」
こわっ。やっぱ危険物じゃねぇか。
「そもそもそれにはセーフティをかけておる。器無き者には初めから使えんようにしてあるわい。三つあるのは……何となくわかるじゃろ」
……俺のメインヒロイン候補に使えって事か。アイとユウしか居ないから三つあっても余るんだが。
「どう使えばいいんです」
「胸に押し当てるだけで大丈夫じゃ。体内に沈み込んで消えれば成功じゃ」
……胸に押し当てるって、つまり胸を触れと?中々にハードルの高い事を要求なさる。
『なんでやねんな。これを使う相手はマスターと一生を添い遂げるって覚悟を持ってる事が大前提やねんで。乳揉まれるくらいどうって事ないがな』
揉む必要は無かろうが……




