第354話 人生をかけてました
〜〜エスカロン〜〜
私は小さな商会の子として生まれました。
小さな商会……これが他の国であれば大きな問題足り得ません。
しかしドライデンは商人の国。商会の規模が小さいという事は権力が小さく、大きな商会の食い物にされるのもしばしば。
そんな中で私の母は上手くやっていました。私という御荷物を抱えながらも、父と私を護り商会を中堅と言えるくらいの規模にまで大きくしたのですから。
ドライデンでは男は商品。子作りの為の道具に過ぎない。そんな考えが根付いている。
そんなドライデンでは珍しい……いえ、異端と言って差し支えないほどに。私の両親は仲睦まじい夫婦でした。
父はアインハルト王国やツヴァイドルフ帝国の男達とは違い、謙虚で大人しく優しい性格。
見た目はそれほどでもありませんでしたが。母に保護され結婚するまで酷い生活を送っていたそうです。
それを考えると父のような性格が出来上がったのは奇跡と言えるでしょう。
そんな父と父を愛する母。二人からの愛情を受けて育つ私。
三人での生活は幸せでした。私の人生で一番幸せな時間、そう断言出来る程に。
しかし、そんな生活は突然終わりました。呆気ないほどに。
父と私は普段、人目につかないよう屋敷に引きこもって暮らしていました。
ですが、何処からか父の事が洩れ、何者かの手先に屋敷に押し入られ強引に誘拐されてしまいました。
幸い、私と母の命は助かりました。しかし屋敷の使用人や警備に雇っていた者達は皆殺し。金品も奪われてしまった。
それでも母は必死に父を捜し、商会を立て直し、私に愛情を注ぎ、育ててくれました。
しかし父は見つからず。生きているのか死んでいるのかすら不明のまま。
父の捜索、商会の運営、私の子育て。心労と疲労が祟り、母は急逝。
残された私は商会を継ぎ、父を捜し、母の無念を晴らし、腐った国の現状を変えるべく動き始めました。
商会を大きくし、都市ガリアの代表の座を奪い、同じ考えの仲間を増やし、父を捜す。
そんな生活を送る中、私はある商談の為にアインハルト王国の王都ノイスに赴きました。
その時に私は彼に出会いました。いえ、一方的に私が彼を見て認知しただけですが。
彼は小さな孤児院の庭で早朝から木剣を振るい汗を流していた。
言ってしまえばただ、それだけの光景でしたが私の心は躍った。女装はしていたものの、男が剣の鍛錬をしている。言ってしまえばただ、それだけの光景。
しかし、私の心は昂ぶりを抑えられなかった。
余りにも美しい容姿。孤児院の子とは思えぬ気品。見ているだけで感じる知性とカリスマ。
その全てが私の理想像であり、彼以上に王に相応しい人物は居ない。彼こそが王に相応しい。彼を見た瞬間、そう確信しました。
出来る事なら今直ぐに彼を連れ帰りたい。そんな衝動に駆られましたが、そんな事をしても父の二の舞になるだけ。
彼を王に。彼を理想の王に。彼に理想の国を作ってもらいたい。
その為に私は動き出した。仲間の同意を得、ドライデン連合商国をドライデン連合王国と名を変え、初代王座に付き、溜まった膿を出し切った。
此処まで来る為に父の捜索すら諦め、十年近い歳月をかけようやく此処まで来た。
後は彼を、ジュン様をお迎えするだけ。しかし、それが一番の問題でもありました。
結婚出来れば話は簡単でしたが、それは出来ませんし何よりジュン様はアインハルトの王女と婚約してしまった。
そうでなくても彼の周りには大勢の女が居る。簡単には彼を手放しはしないでしょう。
さてどうしようかと、仲間と相談し頭を悩ませる日が続いていたある日。
大きな転換期が訪れました。
そう、私は魔王になった。ある神によって。
カルボウを私に寄越し、レイ殿と喋る剣。私を含め四体の魔王がドライデンに集った。
そして神は言いました。女神エロースの使徒であるジュン様を殺せ、と。
驚き、困惑すると同時に納得もしました。成る程、彼は女神の使徒。であればあの美しさも納得だ、益々もって王に相応しいと。
魔王という駒を手に入れた事で方針は決まりました。
彼には魔王を倒して国を、世界を救った英雄になってもらおう。そうすれば誰もが望むでしょう、彼を王にと。
彼が新王になれば人手がいる。ならば自分も彼に取り立ててもらえるかもしれない、と。周辺諸国の人間も彼にこぞって協力するはず。
当然、ドライデンの民達も。仲間達が上手く先導してくれるでしょう。
その為に私は……どんな汚い事でもどんな外道な事でもやると決めました。民を犠牲にする事だって。
私は歴史に悪王…いえ、そのまま魔王として名を遺す事になるでしょうが構いません。名を変え姿を変えてでも彼に仕え生涯を捧げる。必要なら命を捨ててでも。全ては国を変え世界を変える。それこそが私の生涯をかけての目標、生きる理由なのですから。
それもこれも今日、この日に決まる。ジュン様を王に出来るかが。仮に私が命を落とすとしても、彼の手で。彼が英雄になったのを見届けてから。その時までは絶対に死ぬわけには行かない。
何を犠牲にしようとも!
「だからカルボウ!私の人生を!私が犠牲にした全てのモノを無駄にしない為にも!私はお前に喰われる訳には行かないのです!」
〈ゴオオオ!ワタシモ キエタク ナイ!〉
私は、私は!絶対に!ジュン様を――




