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第349話 嫉妬でした

「くっ!このぅ!いい加減に……一人くらい死ねぇ!」


『敵にそんなお願いは無意味でござる。己の技で為すでござるよ。拙者が伝えた技を思い出すでござる」


「黙れ!駄剣!」


 ……憤怒の魔王だからか、冷静に戦うという事は出来ない、のかな。


 戦いを始めてまだ数分。それでもレイさん(憤怒の魔王)村正宗(嫉妬の魔王)の事が少しわかって来た。


 レイさんはほんの数ヵ月前まで戦いの術を持たない素人だったとは思えない程に高い刀術の腕がある。達人と言って差し支えないと思う。


 だが戦闘においては素人に毛が生えた程度。情報から推測するに魔獣狩りは経験してても対人戦や集団戦における経験は皆無に近いと見た。


 魔王の能力を使う様子も無いのが気になるが……戦闘中に使える能力が無い、なんて事は無いと思うのだが。


 村正宗についてわかった事は少ない。だが自分で言ってた振動と波動の能力についてはわかった。


 刀身を高速で振動させて切れ味を増す事と斬撃の威力を波のように広げて対象の全身に行き渡らせる。鉄をも鋏で紙を切るように裂ける斬撃。アレを全身に喰らえば……なるほど、アイアンゴーレムが塵のようになってしまうのもわかる。


 戦闘時にアドバイスをするのも役割なようだ。刀だからか冷静で経験も豊富な印象を受ける。


『何度同じ失敗を繰り返せば気が済むでござる。いくら素人でも学習はするものでござるよ。あ、また同じ失敗を。今のは三度目でござるよ。主殿の学習能力は猿以下でござるな』


「ぐぅ!うるさいぞ!黙ってろ駄剣!」


 ……性格は悪いようだが。


 いや、わざと怒らせて力を引き出してる?だとしたら有能なのかも。


『あ~あ~……やはり拙者が進言した通りに殺人を経験しないから、このような事態になるでござる。拙者の主ともあろう者が、なんという体たらく。情けなくて泣けてくるでござる。オヨヨヨヨ……眼も口も無い刀でござるが』


「~~~~~っ!黙って――ぐあおう!?」


『あ、もう遅いみたいでござるが、上から敵が来てるでござるよ』


「今更言ってどうする!?そういう事はもっと早く言え!」


 ……いや、アレは正真正銘マジもんの性悪だな。


 あの魔王コンビは強いのは間違い無い。アイとステラさん達の攻撃(院長先生は牽制程度で積極的な攻撃は出来てない)を何度も受けているのに対してダメージを受けてない。


 命を絶つような本気の攻撃をしてないのもあるが、高い身体能力だけでなくタフネスさも常人を遥かに超えるようだ。


 いや、魔王の力で防御もしてるのか。防御してるのは村正宗の方か?タフネスさはそれ故か。


 仲が悪そうに見えて最低限の連携は出来ているらしい。


『わいとマスターのコンビには遠く及ばんっちゅうわけやな!ところで遠目に見てるだけでええん?分析なら十分出来たやろ』


 俺はな。お前の分析を聞きたいんだが。


『概ねマスターと同じやで。だけど、や。あの村正宗っちゅう刀。な~んかやっとるで』


 どういう事だ?


『マスターの読み通り、レイを護ってる力はアイツが魔王の力でやっとるんやろな。でも、それ以外にもなんかやっとるわ。それもレイに対してや。そっちに力の大半を使うとるから弱い防御しか出来てへんぽいな』


 うん?弱い防御?


『ほら、会場の周辺に張ってた結界とか王都を囲ってる結界の事考えれば、もうちっと堅い防御が出来ると思わん?まぁ、アレはエスカロンの力やし同じ事が出来るとは限らんけども』


 なるほど。レイさんに対して何かしてるから防御に力を割けない、と。


 そして、その何かがさっきの様子がおかしくなった原因か。


『多分、そうやろな。あの刀は嫉妬の魔王なんやろ。全く見せてへんもんな、嫉妬の魔王らしい能力を。でも実はとっくに見せてた、としたらどうやろ』


 ……確かに。レイさんの憤怒の魔王と違って噂でも嫉妬の魔王の能力と思しき話は聞いてない。だけど、さっきのレイさんが見せた混乱。アレがそうだとしたら。


「やはりあの刀をレイさんから引き離すのが先決!アイ!院長先生!レイさんからあの刀を奪って!」


「わかってるよ!」


「ジュン……でも、私は……」


「例え腕を斬り落としても俺が治す!生きてさえいればどんな怪我だろうと治せるから!」


「マチルダ!覚悟を決めろ!お前の息子だろう!」


「……わかったわ。レイ!少しだけ我慢なさい!」


「だから!母親面するなと言ってるだろうがぁ!」


 ……院長先生もようやく吹っ切れたか。よし、俺もやってや――


『おっとマスター。此処でお知らせや。デウス・エクス・マキナの武装が一部使えるようになったで』


 ……タイミングゥ。ほんとこっちの状況とかお構いなしだな、神様は。


 まぁいい。で、何が使えるようになったんだ。


『偵察機とスクリーン、レーザーガンやな』


 …………………………それだけ?


『それだけやな』


 ………もうちっと空気読んで別の武装を優先して欲しかった。スクリーンはまだしも、なーぜこの状況で偵察機とレーザーガンなんだよ……ほかにあるじゃん、バトルスーツとかグングニルとかさぁ。


『多分、一番簡単で早く仕上げれたんとちゃう?まぁ、一応性能は上がっとるみたいやし。偵察機は索敵能力と航続距離が。スクリーンは防御力と範囲が。レーザーガンは射程距離と威力が。取り敢えず、レーザーガン使う?』


 この状況でか?今まであまり使ってなかったし、射撃は自信無いぞ。お前が使った方がいいんじゃないか。


『マテリアルボディはまだ使えへんみたいやし。魔法で狙いつけるんと似たようなもんやて。味方に当たらんかったらええやろ』


 ……俺は某怪盗の相棒でも裏世界No1スイーパーでもないんだけどな。


 仕方ない。


「狙い撃つぜ!」


『ノリノリやん。ようわからんけど』


 この位置からだと狙うべきは……左脚!


「ぐあああ!あ、脚が!」


『主殿!次が来る!距離を取るでござる!」


「遅い!御義母様!」


「ごめんなさい、レイ!」


「う、うああああ!?ぐうう!があああああああ!!!」


 アイが腹部に打撃を入れて動きを止め、院長先生が刀を持ったレイさんの右腕を肩から斬った。


 が、完全に落ちる寸前に刀を左手に持ち替え、刀を横なぎに振るい、距離を取った。


「休ませるか!行くぞドミニー!……って、此処で結界か!」


「……」


「これは……簡単には破れそうにないわね」


 さっきまでと違ってかなり強力な結界を張ったな。これは……レイさんが張ったのか?


『……いんや。そうやないな。あの刀からレイに対する干渉が切れたみたいや』


 このタイミングでか?流石に主たるレイさんの危機に動いたか。


「……この、駄剣……こんな、結界が……張れる、なら……最初っからやれ……」


『此処まででござるな』


「馬鹿を、言うな……僕はまだ、やれる……諦める、には……早い、ぞ……」


『いいや、此処まででござる。そして終わるのは主殿だけでござるよ』


「なに、を言って……」


 ……嫌な予感がする。あの刀、もしかして……


「アイ!結界を破壊する!全力でだ!」


「う、うん!ウチも嫌な予感がする!」


 アイツ!レイさんを喰らう気だ!


『今、主殿は妙にスッキリしてないでござるか?』


「……はぁ?こんな大怪我してるのに……何を言って……」


『実はずっと干渉してたんでござる。拙者がこの世界に来て。主殿が魔王になってからずっ~~~~~と』


「……干渉?」


 くそ!魔法剣じゃ時間がかかりすぎる!レーザーガンじゃ威力が足りない!最上級魔法じゃ周りにいる味方にも被害が出る!


『無論、嫉妬の魔王の力で、でござる。おかしいと思わなかったでござるか?ただ母親として接してくるだけの女に激しい殺意を抱く程の怒ったり、実の母親が育てた孤児の男を殺そうと思うなど。凡そ幸せな人生を歩んで来た人間の思考では無いでござろう?』


「……まさ、か」


『そう。拙者が主殿に干渉して嫉妬を増幅させて来たのでござる。しかし主殿は憤怒の魔王。他の魔王の力には耐性がある。故に拙者も全力で干渉してようやく、ほんの少し嫉妬心を煽る事が出来たのでござる。時間をかけて少しずつ』


 ……この局面での種明かし。やはりレイさんを喰う気だな!


「なんの、為にだ……」


『嫉妬は怒りを産むでござる』


「……なに?」


『現に主殿は嫉妬を怒りに変えて力を増幅させていたでござる。母親面してると言うだけであの怒りようでござる。今なら異常だと思えるのでござらぬか?』


「……僕を、強くする為にやったと言う、事か?」


『無論、それだけではござらん。魔王というのは基本的に同格なのでござる。同格のまま喰い合えば、どちらが勝って魔神になるのか、わからないのでござる』


 ……やばい、もう種明かしも終盤だ!急げ急げ!


「割れ、たぁぁ!って、こいつ!」


「また直ぐに結界!?しかもさっきより堅そうなんだけど!」


「レイ!」


 このままじゃ、レイさんは!


『しかし、主殿の身体には拙者の力が浸み込んでいるでござる。主殿自身が気付けない程に、ゆっくりと浸食し、全身に。つまり、主殿は拙者の支配下にあるのも同然なのでござる。言った通りでござろう?拙者は力を使いこなしてる、と』


「お、お前……最初っから、そのつもりで……」


『誤解の無いように言っておくでござるが。主殿が勝てるのであれば、それはそれで良かったのでござる。だからこそ、拙者の能力で過去の主の技を授けたのでござるから。御蔭で短期間で嘘のように強くなれたでござろう?』


「……だ、だけど……お前には口が無い。僕を喰らう事なんて……」


『先程も同じ質問をしたでござるな。今なら教える事が出来るでござるよ。喰らうとは能力で喰らうのでござるよ。全ての魔王に備わっている能力で。暴食の魔王が色欲の魔王を丸ごと喰らったと聞いた故に、思い違いをしたのでござるな』


「あ、ああ……ああああああ!」


『もっと早く喰らう事は出来たでござる。それをしなかったのは結果を見る為と拙者の勝率を上げる為。良い感じに弱ってる主殿には負ける気がしないでござるよ』


「や、やめろ!やめてくれ!」


『主殿が最も妬ましい。そう言ったのを覚えてるでござるか?拙者を振るって命を絶つ事が出来る主殿が、本当に羨ましくて仕方なかったのでござるよ。魔神になれば……嫉妬せずに済む。そう神様に教えられたのでござる』


「くそ!離れない!なんで手から離れないんだ!」


『怯える事は無いでござる。きっと今頃、エスカロンもカルボウに喰われてるでござるよ。では、おさらばでござる』


「あ、ああああ!か、母さん!助け――」


「レ、レイー!!!」


 断末魔の声をあげる間もなく。


 村正宗を中心に黒い球体が現れレイさんを包んだ。


 周りではまだ戦闘が行われている中、院長先生の悲痛な叫び声だけが不思議な程に響いていた。

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