第348話 原因でした
〜〜レイ〜〜
以前、駄剣はこんな事を言っていた。
『何故、拙者が殺人に拘るか、解るでござるか?』
「……お前の性格が終わってるからだろ」
『性格が悪いと言いたいなら否定はしないでござるが。真面目な話でござる』
真面目ね……それはそれでどうかと思う。
真面目に殺人について語るなんてな。
「……ノワール侯爵を殺す時に殺人の経験が必要だと言いたいんだろ」
『概ね正解でござる。もっと言えば拙者が必要だと考えるのは対人戦の経験でござる』
……模擬戦とかじゃなく、本気の殺し合いって意味の経験か。
『主殿は経験においてノワール侯爵に劣っている筈。護衛の騎士や冒険者は言わずもがなでござる。魔王の力があるとは言え、本気で使えないなら宝の持ち腐れでござる』
「……言いたい事はわかる。だけど……」
『……やれやれ。困った主でござる。痛い目を見てからでは遅いのでござるが』
と、殺人の経験について話していた。
一理はあると認める。だけど、何の恨みも理由も無い人間を殺す事にどうしても忌避感が出てしまって、どうしても出来なかった。
でも、今は……
『後悔してるでござろう。拙者の言う通りにすれば良かったと』
「……少しだけな」
やはり僕には経験が致命的に足りないらしい。
多勢に無勢だとは言っても此処まで劣勢に立たされるなんてな。
「レイ……もうやめましょう?貴方に戦いなんて向いてないのよ」
「……あんたに言われると何もかも否定したくなる!ノワール侯爵より先に殺してやろうか!」
「レイ……!」
何度も何度も……そのムカつく眼を止め……う!
「……!」
「良いぞ、ドミニー!休ませるな!」
「このっ……ぐっ!」
「ほらほら!後ろにも眼をつけるんだ!」
「ぐぅ……出来るか!」
「まぁ、これはどっちかというとレイさんが言うべきセリフなんだけどね。名前的に」
「何の話だ!何の!」
僕には対人戦の経験もほぼ無ければ多対一の経験も無い。
つい、眼の前の相手に集中してしまう僕の隙を上手く突かれてしまう。
憤怒の魔王の力で身体能力を上げているからなんとかなっているようなもの。
それと駄剣が魔王の力で防いでくれているから致命傷は受けていない……
「……意味不明な事を言って僕を困惑させるの、止めてもらえませんか、アイシャ殿下」
「え〜?結構真面目なアドバイスなんだけど。ね、ジュン」
「は……がはっ!」
「後ろ、がら空きですよ!」
この……!僕を休ませる事なく攻撃され続けてる……対してこちらは何も出来ていない。
一撃でも当たれば確実に殺せるのに……確実に……
『……やはり駄目でござるな、主殿は』
「……うるさい。お前こそ、何とか出来ないのか、駄剣!」
『拙者の能力は知っているでござろう。振動と波動。それだけでござる。どちらも当たらねば意味無いでござる。もう一つの能力も今は無意味でござるし』
「振動と波動……?」
……敵に聞こえるように言うな!
魔王の力で何かやれよ!
『魔王の力には期待しないで欲しいでござる。攻撃を防ぐので精一杯でござるよ。何せ、拙者は駄剣でござるから。あ、刀でござった』
「やかましい!」
チッ……憤怒の魔王の力は怒りのエネルギーを使って爆発させるか、怒りのエネルギーを使って自身の身体能力を上げるか。
大きく分けて、この二つ。特に身体能力を上げる方を磨いて来た。
理由としては素人の僕が手っ取り早く強くなるには、それが一番だから。
その方針は間違ってなかったと思う。魔獣は圧倒出来たし、刀術を覚えれた。
「だけど足りない!力を貸せ駄剣!」
『やれやれ……ならばもっと頭を使うでござるよ。何を馬鹿正直に真正面から戦ってるでござる?数の不利は最初からわかっていたと言うのに』
頭を使えったってなぁ!どうしろって……いや!
「あっ!逃げるのか!」
「ステラ、違う!周りの熊に紛れるつもりよ!」
そう、熊は一応は味方!まだまだ数は残ってる。熊に紛れて死角から攻撃すれば!
「勝て、ぶべら!……こ、これは?」
「俺が張った結界です。その村正宗で攻撃すれば簡単に壊せるでしょうけど。足止めにはなるでしょう?」
「結界……このっ、ごはっ!」
「戻ってもらいますよ、レイさん!」
ぐっ……くそっ!こうも思い通りに行かないなんて!
「レイ……お願い、もう止めて。勝ち目が無いのはわかるでしょう?」
「……チッ!チッ、チッ!本当にムカつく女だ!その眼を止めろと何度言えばわかる!」
「……どうして?私の何が気に入らなくて貴方はこんな事を……」
「お前が僕の人生を不幸にしたんだろうが!」
「……ごめんなさい。あの時、貴方を守れなくて。貴方を誘拐なんて——」
「違う!僕は自分を不幸だなんて思っちゃいない!だけどお前が!僕の過去を聞いたお前は!僕を哀れんだ!僕を不憫に思ったろう!」
僕はそれなりに幸せに生きて来た!成り行きで神子になったし、そこに自分の意思が無かった事は否定出来ないが、それでも不幸だと思って生きて来たわけじゃない!
「それを……お前は勝手な思い込みで僕の人生は不幸な物だと決めつけた!神子として大事に育てられて来たし、同じ神子には友人だって居た!それなのに!」
「レイ……」
「……それなら俺を殺すのは?嫉妬ですか」
「嫉妬?まさか自分の母に育てられた男だからと?何をバカな!」
何度も言うように僕はその女を母と認めてなど……あ、れ……?
「なら何故です。ミトラスでも聞きましたが神様に言われたのは理由の一つに過ぎず、許せないのはあの人。あの人とは院長先生なんでしょう。院長先生を恨んでいるから、院長先生に育てられた俺を殺す事で復讐する。そんな考えで俺を殺すと?」
「いや……僕は、そんな……」
あ、れ……?いや、その通りだ。僕は確かに、そう考えて……しかし、始まりはなんだった?
あの女が赦せないからって、ノワール侯爵を殺す?彼に嫉妬してるわけでもなく、恨んでるわけでもないのに?
『……主殿、何を悠長に敵と話しているでござる。ノワール侯爵を殺すのでござろう』
「あ、ああ……」
そ、うだな……今は敵を!敵が多すぎるんだよ、クソが!
「エスカロンめ!予定じゃもっと少ない筈だろうが!」
「……情緒不安定、と言うのとは、ちょっと違う気がする。ジュンは?」
「同意見。で、その原因は」
「「あの刀」」
来る!
ノワール侯……ノワールも厄介だがアイシャ殿下もかなり強い!
だが!
「武器を持って無いだけ他より怖くない!」
「相打ち覚悟?甘くみないでよね!」
「ごっ!」
かふっ……顎に一撃……以前の僕なら簡単に倒れてた……けど!
「えっ、しまっ!」
魔王の力で強化し防御してる今!これだけじゃ止まらない!
「もらった!やれ村正宗!」
『わかってるでござるよ!』
この駄剣の能力はかすり傷でもつけられたら……あ?
「あっれ?……ゴーレム?」
「アイ!離れろ!」
……咄嗟にゴーレムを出して壁にしたか。
「チッ!邪魔だ!消えろ!」
チッ……一人も殺せずに能力を明かす事になるなんて。
「アイアンゴーレムをああまで綺麗に切断するか。私やジーニでは避ける以外に無いな」
「切れ味が凄いとか技術がどうとか、そういう次元の話じゃないわね……ステラ、斬られたゴーレムを見て」
「……砂になってる?」
……この駄剣、村正宗の能力は振動と波動。斬る瞬間にのみ刀身を高速で振動する事で何でも斬れる……らしい。
波動は、その斬撃を波紋のように広げ、対象の全体に行き渡らせる能力。そうする事で腕を斬っても足を斬っても。全身が塵になって消える。
正直、よくわからない。
「だが!斬れば確実に死ぬ!それだけわかってれば充分!」
「……やっぱり、あの刀を先になんとかする!アイ!」
「オッケー!院長先生達もそれでお願い!かすり傷でもヤバそうだから注意してね!」
……クソが!




