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第346話 ガキでした

「レイ……」


「チッ……鬱陶しい。その憐れみを誘おうとする眼をやめろ。声も出すな」


 院長先生の姿を見て、苛立ちを隠そうともせず悪態をつくレイさん。


 やはり、戦うしかない……のか。


「……お姉ちゃん、お兄ちゃん」


「ベル?どしたの」


「私が救わなきゃいけないの、あの人……」


「あの人って……レイさん?」


「え……それはつまり」


 ベルナデッタ殿下がレイさんから魔王の力を消すと?


『それは無理やろ。神様でも不可能な事を出来るとは思えんわ』


 じゃあ……救うってどういう?


「レイさんを救うって、どういう事なの?ベル」


「わかんない……まだ、わかんない……」


 同じ疑問を持ったのか、アイが質問してくれるがベルナデッタ殿下にも解らないらしい。


 しかし、確かな事が一つ。


 レイさんを救う方法は俺には無い。だがベルナデッタ殿下には可能性がある。


 微かな光明が見えたな……ならば!


「貴方を無力化するのが俺の役目だな」


「無力化?随分と甘い事を。僕は貴方を殺すと宣言したのに」


『主殿は人のこと言えないでござろう。しかし、確かに甘い男でござる』


「……ん?」


 さっきから知らない声が聞こえるな。それも、ござる口調。


 もしかしなくても……嫉妬の魔王か?


「……レイさん、この場に嫉妬の魔王が居るんですか」


「やっと気付きましたか。式典の最中もずっと僕と一緒だったんですけどね」


『それだけ拙者の隠形術が完璧という事でござる』


 そう言いながらレイさんは手に持った長い得物に巻いた布を外す。


 出てきたのは……確かに情報にあった通りに変わった形の剣だ。


 だが俺はアレは刀だと知っている。しかもアレは二本の刀の柄と柄が合わさって一本の刀になっている。


 所謂、刀のツインブレードだ。


 そして、ござる口調の声の主があの刀だと?


 メーティスと同種の存在じゃないだろうな。


『あんなんと一緒にせんといて欲しいわぁ。多分、アレは悪霊とか、怨念とか。そんな類やで多分。少なくとも神様の祝福で現れた人格やないわ』


 それなら良いが……悪霊とか怨念ねぇ。ござる口調のキャラって敵だとしても良い奴だってのが相場だよな。

 

 悪霊や怨念なんて悪役の代名詞的な存在のイメージは全く無いなぁ、俺には。


「で。その刀が嫉妬の魔王だと?」


「へぇ?刀を御存知なんですか」


『やはり主殿が物を知らないだけなのではござらんかな』


「……うるさいよ。ほら、自己紹介するんだろ。サッサとやれよ」

 

『やれやれ……拙者の銘は村正宗。かつては妖刀―—』


「妖刀村正と正宗という二本の刀だったが後に一本の刀として今の形になり村正宗という名前になった。なんて言うんじゃないだろうな」


「え~まっさか~。そんな単純な――」


『な、何故それを知っているでござる?!』


「「正解なんかい!」」


 思わずアイとシンクロツッコミしてしまう。


 異世界に村正と正宗が存在した事には驚きだが。もうちょっと何とかならなかったのかネーミングセンス。


『くっ……エロースの使徒は伊達ではないという事でござるな。油断は禁物でござるぞ、主殿!』


「ああ……うん。お前がそこまで動揺するのは初めてだな。……油断なんてしない。最初から全力で行く」


 村正宗を鞘から抜き、腰を落として構えるレイさん。


 だが、こちらとしてはまだ会話を試みたい。


「レイさん。戦いは避けられないのはもうわかってます。ですが……やるなら先ず、俺と―—」


「待ってジュン。レイは私に任せて。私が必ず何とかするから……」


「無理だよ、院長先生。院長先生一人でレイさんは何とも出来ない。あの刀も魔王なんだから」


 レイさん単独でも厳しいはず。


 ソフィアさん達も居るが、先ずは俺が一人で……


「ジュンが一人でやるのもダメ。ウチもやるよ」


「なら私達もだな。レーンベルク団長達は周りの熊を頼む。アム達もな」


「……仕方ないわね。ジュン君、気をつけて」


「……チッ。ジュンだけじゃなく院長先生の為なら、やるしかねぇな」


 魔王の相手は俺とアイ、院長先生達。熊狩は団長達とアム達。


 となると……


「カタリナ、イーナ。二人はブルーリンク団長に代わってベルナデッタ殿下をお護りして欲しい」


「う、うん」


「う、承りましたわ」


「ピオラお姉ちゃんも。ベルナデッタ殿下と一緒に後ろに居て」


「ん~~……仕方ないかな。わかったわ。後ろで応援する。危ない時は必ずお姉ちゃんが助けてあげるからね!」


 取り敢えずはこれでいいか。

 

 ベルナデッタ殿下にレイさんを救う術があるなら必ず護り抜いて……いや、違うな。


 此処に居る全員、ガリアに居る全員、誰一人死なせるつもりは無い。


 必ず全員で生きて帰る。


『かっこええやんマスター!わいも全力でやったんでぇ!』


 ついでに俺Tueeeee出来れば尚良し!


『台無しやでマスター……』


 それが俺の使命だからな。


「別れの挨拶は済みましたか。最期なんです、もう少し待ってもかまいませんよ。どうせならママのおっぱいでも吸わせてもらったらどうです?」


「……下手な挑発ですね。おっぱいを吸うのは貴方の方がお似合いでは?仕事で何回もやってる事でしょう」


「……チッ」


『慣れない事をするからでござる。それとも憤怒の魔王だからわざと煽り返されたでござるか?』


「……うるさい、黙れ」


 憤怒の魔王だけあって煽り耐性が低いのかね。それともアレが地なのか。


「ところでママって誰の事です」


「決まってるでしょう。そこで僕の母親面してる面倒な女ですよ」


「レイ……」


 ……ま、そうだよな。俺の母親と言えば、この世界では院長先生かジェーン先生くらいだ。


 だけど、だ。


「俺は一度も院長先生をお母さんと呼んだ事は無い」


「……は?だからなんです」


「俺だけじゃない。そこに居るアムも、カウラも、ファウも呼んだ事は無いと思う。孤児院の子供達は皆、院長先生と呼ぶんだ。貴方のお母さんの事をね」


「僕はその女を母親と認めてない……!」


「ああ、はいはい。……勿論、小さな子なんかはお母さんと間違えて呼ぶ事はある。でも、その度に院長先生は訂正していた。お母さんと呼ばないように、と。きっと、何処で生きている本当の息子にお母さんと呼んで欲しかったから」


「ジュン……」


 俺の勝手な推測だけどな。でも毎回、院長先生は寂しそうに、哀しそうに微笑みながら訂正していた。


 レイさんの事を想って。


「……だからなんなんです。同情しろとでも?知る由もない行動を知ってに感激して涙を流せとでも?どうせ孤児院を開いたのだって自分の子供を失った悲しみを紛らわす為の物でしょうに。代替品の子供で満足してれば良かったでしょう。お母さんと呼ばせて可愛がれば良いでしょう。血が繋がって無い家族なんてザラに居ますよ。所詮は自己満足、自己陶酔に浸る為の行動でしょう。好きにすれば良い。僕には何の関係も無い」


「……よく喋るじゃないですか。動揺を隠すのが下手ですね」


「……チッ!あーあー!やっぱりムカつく人間に育てられたらムカつく人間になるんですねー!」


 なんつーか、この人……本当に俺より年上なのかね。神子はマイケルみたいな例外は居るものの、殆どの人はまともな人ばかり。


 でもレイさんは……最初こそ穏やかで物腰柔らかな人だったけど今は……憤怒の魔王になった影響があるにしても反抗期の子供のようだ。


 院長先生を頑なに母親と認めず、悪態をつく姿なんてそのまんま……いや、ようだ、じゃなく子供なんだな。ガキなんだ。遅れてやって来た反抗期。反抗期を怒りで上塗りして悪態をついてるガキ。三十年以上の空白があった事を考慮しても、彼がやってる事はガキだ。


 それが今のレイという人だ。


「チッ!チッチッ!もういいでしょう!我慢の限界です!始めましょうかノワール侯爵!やるぞ駄剣!」


『やれやれでござる……感情のコントロールを忘れてないでござるか』


 来るか。相手はガキ。しかし凶器を持ってるガキ。


 大人としては危ない物は子供からは取り上げなきゃな!

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