第345話 到着しました
「しゃあ!んなろぉ!今のあたいは無敵だぜ!」
「熊なんて何匹居ようが全て潰してやろう!」
「わたくしだってやってやりますわー!」
……気合い入りまくりでんな。アムもカタリナもイーナもスキルを獲得して五大騎士団員に負けない強さになっとる。
アムが獲得したスキルは『チャージ』。武器を問わず手に持った武器に魔力を溜め、任意のタイミングで放つ技。溜めた魔力が多いほどに攻撃力が増すという……ゲームではありがちなスキルだ。
ゲームでは溜めてる間は別の行動が出来ない等の制約があったりするが、アムの『チャージ』には特に無い。使い勝手の良いスキルだと言える。
カタリナが得たスキルは『見えない手』。前代未聞のスキルらしく俺が命名した。
読んで字の如くスキルを使用すると透明で長く伸びる手が二本使えるようになる。
見えない手の握力と腕力はカタリナ自身の手と同等。握力が強いというギフト持ちのカタリナには相性抜群のスキルだ。
そしてイーナも同じスキルをゲットしてたりする。
それを知った時のカタリナは凄い渋面をしていたが何だかんだで仲良しだし、問題無いだろう。
実際、今も大活躍だしな。
まぁ……他にも気合い入りまくりで大活躍な人は居るわけだが。
「はぁぁぁ!せゃあああ!とぅりやぁぁぁ!」
「……あまり飛ばし過ぎるなよ、イエローレイダー団長」
「だいじょーぶです!力がどんどん湧いて来ます!今なら何でも出来そうな気がしてます!ブルーリンク団長はどうぞ休んでてください!」
ポラセク団長とレッドフィールド団長はいつも通りに戦ってる感じだが。
イエローレイダー団長がハイテンション過ぎる。それが狙いだし、狙い通りではあるんだが。
『他の場所で戦ってる面々も似たようなもんやろな。男冥利に尽きるやろ、マスター』
そう思えたらどんなに良かったか……これ、反故にしたらどうなるんだろ。
『……絶対に止めといた方がええな。悲惨な結末しか想像出来んわ。特にピオラが怖いなぁ』
だよなぁ……何なのあの人。
「うっふふ〜!ジュンと結婚〜!子供は〜二人は欲しいかなぁ〜出来れば男の子も一人欲しいなぁ〜」
脳内ピンクなお花畑になってそうな独り言を呟きつつ。襲って来る……いや近付いて来ただけの熊を殴る蹴る。
ただそれだけでピオラは熊を仕留めとる。
あの人、武術なんて基礎すら修めて無い筈だし、実際動きそのものは素人同然なんだが。
ただただ素早くパワフル。身体能力だけで熊を圧倒しとる。普段はそんな動き見せないのに。
謎能力、此処に極まれり。
「やー、何なのアレ。動きは素人なのにやたら強いじゃん」
「……アイは平常運転だな」
「そりゃあウチは既に婚約者だし。意図もわかるから怒れないし。ねぇ、御義母様」
「その……ジュンの、誰にも死んで欲しく無いという気持ちはわかるし、私だって同じだけれど……本当に良いの?」
まぁ……遅かれ早かれな事ではあったし。子作りが使命な以上、避けては通れないわけで。
踏ん切りをつける良い機会だったと思う事にしよう、うん。
「そんな、貞操の切り売りみたいな真似しなくても……」
「そこまで深刻に考えなくても。命より重いものなんて無いしさ」
「でも……ステラだけじゃなくジーニまでその気よ?ほら、アレ」
「え」
院長先生が指差した先では。
ステラさんが音も無く消えては現れ。次々と熊の額にナイフを突き立ててる。
ジーニさんは笑いながらメイスで熊を撲殺。あの人、肉弾戦もいけたのか。
「ハッハッハッー!遂に私も結婚かー!ドレスを急いで用意しなきゃなー!」
「うっふっふ!ジュン君ファンクラブ会長として!ジュン君に性の手解きしなきゃね〜!」
……ステラさんは良いとして。ジーニさんは想定外なんですが?
「わかってないなジーニ!不慣れで初心な感じもまたそそるんだろ!」
「売れ残り処女が何を通ぶってるのよ〜」
「アッハッハッ!お前は後で泣かす!あっ、ドミニー!お前もやる気だせ!お前も処女を捨てるチャンスだぞ!」
「……」
「なんだ、その汚物を見るような眼は!だが赦す!今の私は最高に機嫌が良いからな!」
「私も赦しちゃう!」
ダメだ、本気だ。ジーニさんは……53歳くらいだっけ。子供、産めるの?
「アムー!一人で先行しないで、わたし達と連携してよ~!あ、ファウ、ハティ!次はアッチ!あの青い屋根の家の横道から出て来るよ!数は三!」
「ん。早く全滅させる。そしてジュンとの幸せ結婚生活を送る」
「がうがう!」
カウラ、ファウ、ハティも漲ってらっしゃる。アム達は既にAランク冒険者、いやSランク冒険者に匹敵するし、ハティも相当な強さだ。
ファウとハティは二つ目の新しい力をゲットする事は無かったが成長は続けてる。ファウは既に王国でトップクラスの魔法使いだし、ハティはAランクの中でも最上位、Sランクに近い魔獣と言えるだろう。
そしてカウラが得た力は『ボム』。爆弾魔とでも言うべきスキルだ。手に持った物を爆発物に変える能力で、矢じりを爆弾に変えて敵に刺さった瞬間に爆発、内部から破壊する、なんて使い方も可能。
そこら辺に落ちてる石を爆弾に変えて投げるなんて事も可能。剣や槍も爆弾に出来るが、使い捨てになるし至近距離での爆発は自分もダメージを受けるので実質不可能。
弓使いのカウラにうってつけの能力。敵軍に向かって矢の雨を浴びせる事で絨毯爆撃も出来るという、恐ろしい能力だ。
カウラの二つ名は『爆弾魔』とか『破壊神』とかになりそうだ。
爆発は芸術だ、とか言い出さなきゃいいけど。
「この辺りは片付いたようだな。行くぞ、アウレリア」
「うん。あなた達、後はお願い。誰も死ななければノワール侯爵が御褒美くれるらしいから。頑張って」
「わーかってます!」「死なないし、死なせません!」「ノワール侯爵様!シルヴァン君との結婚ってどうにか出来ますか!?」
この辺りは赤薔薇騎士団の担当なのでお任せして先に進む。
……シルヴァン君との結婚、どうにかできるかなぁ。
「っと、ファフニール様とリヴァさん、まだカルボウを破壊出来てないみたいね」
「そう、みたいですね……」
俺達が熊と戦ってる間も、ずっと遠くから響く戦闘音が聞こえていた。偶に上空に居るのが遠目に見えたし、無事ではあるようだが。
「今のリヴァなら魔王相手でもそう簡単に負けはしないでしょうが、不安はあります。出来るだけ早く援護に行かないと」
「そうね……それにしても多いわね熊!邪魔よ!」
『グオ!』
家屋から出て来た熊の首を一閃。アッサリと仕留めるソフィアさん。アインハルト王国で最強の呼び声高いだけある。
「本当に、多いわね。御蔭で直ぐに足を止めなきゃいけないし。あ、コイツはウチがやるね」
軽い口調で飛び回し蹴り。アイも一撃で熊を仕留める。神様に貰った新装備の御蔭もあるのだろうけど、アイもアンラ・マンユ戦の時より遥かに強くなったようだ。
「っと、ようやく城が見えて来た……けども」
「出迎えが居るな……予想通りではあるが」
「熊で門が殆ど見えませんね……どうしますか、ノワール侯」
城門前は開けた広場になっていたが、そこに熊が隊列を組んで並んでいる為に城門がほぼ見えない。五十はいるだろうか。
「私達で突撃して蹴散らせばいいだろう。行くぞ、アウレリア、レーンベルク団長」
「ああ、待った待った。俺がやるよ、レオナちゃん」
「だからレオナちゃん言うな!」
折角、あんな狙いやすい場所に固まってくれてるんだ。魔法で仕留めてくれと言ってるようなもんだろう。
四大の勇者の力を見せてやろうじゃないか。
「というわけで。火と風の複合魔法!ファイアストーム!」
『『『『『グオォォォォ!?』』』』』
元は人間だった、それを考えると心が痛むが……せめて苦しまないよう、一撃で仕留めさせてもらう。
お墓は……作れそうにないな。
「あの距離からAランク相当の魔獣の群れを一撃、か。凄まじいな、ノワール侯爵」
「しかも熊以外に被害は出てない……城はおろか街路樹でさえも。素晴らしい技術です、ノワール侯。感服しました」
「……火魔法はお前も得意だろう、アウレリア。同じ事、出来るか?」
「……無理。私は風魔法が使えないから複合出来ないし、此処まで器用な真似も出来ない」
そして熊の死骸は残らない。魔王の眷族の熊は死ぬと黒い液体。コールタールのような物に変わり、蒸発するように消える。だから死体も残らないし、遺留品も無い。
だから墓は作れない……作っても墓碑に祈りを捧げる遺族も居なくなってしまった者が殆どだろうが。
「門は一緒に破壊してしまった方が手間が省けたかな。でも、これは……」
「ああ。最初に見た時に気付いていたが……この門はアダマンタイト製だな」
つまり、そう簡単に破壊出来ないわけね。無理やりこじ開けようと思ったら相当なパワー……それこそファフニール様のドラゴンブレスくらいじゃないと無理かも。
当然、俺も出来るっちゃ出来るが……
『マスターは止めといた方がええな。デウス・エクス・マキナが使えへん今、やるなら魔法になるけども。さっきのファイアストームと大量のアイアンゴーレムでかなり魔力を消費したからな。魔法薬である程度回復出来ても、魔王戦を考えるとな。温存した方がええ』
だな。となると、此処は……
「カタリナ、イーナ。出番だ。あの門を開けてくれ」
「……へ?あ、わ、私か?」
「もしかして……わたくし達、この為にこちらに配属されたんですの?」
「多分ね。ユウなら予測してそうだし。この事態」
カタリナとイーナは『見えない手』だけでなくそれぞれのギフトも成長している。
カタリナは握力だけでなく腕力と器用さが。イーナは腕力だけでなく握力と器用さが。つまりは二人共全く同じギフトになったと言っても過言ではない。
これを知った時、カタリナはこれまた渋い顔をしていたが。
「でも……どうやって開けるんだ?」
「一番簡単なのは仕掛けを動かして開ける、だけど。それは無理だから」
「仕掛け……壊されてますわね」
城門の内と外にある仕掛けを動かして門を開けるのが正規の手段。しかし、その仕掛けを動かす為の外側にあるレバーが壊されていた。
となると後は無理やりこじ開けるか破壊するしかないわけで。
「門の向こうでは熊が待ち構えてるっぽいし。少し離れた場所から開ける事が出来る二人が適任なわけ。というわけで、頼んだ」
「あ、ああ……帰ったら私も望みを叶えてもらうからな!忘れるんじゃないぞ!」
「わたくしもですわ!素晴らしい結婚式にしましょう!」
「……ああ、うん。はい」
わかってますよ、はい。念押ししなくても、もう逃げませんて…………多分。
「……で、どう開ける、イーナ」
「それは……やはりコレかしら?」
「そうだな……やるぞ!」
カタリナとイーナの『見えない手』は凡そ五メートルまで伸びる。そして厚みも無いので僅かな隙間にも差し込む事が出来る。
ギフトで人間離れした握力と腕力を持つ二人なら、アダマンタイト製の門であっても――
「おお。本当に開きそうだぞ」
「……あの二人、武器は巨大ハンマーとかがいいんじゃない?貴族のお嬢様が持つにはちょっとアレな気もするけどさ」
ああ、何となくわかるぞ、アイ。力こそパワー!な人が持ってそうなハンマーな。『見えない手』も使えばハンマーの重さに負ける事なく振り回せそう。
『破壊神』の二つ名はカウラよりカタリナとイーナの方が相応しいかな。
「よし、開いたな。もういいぞ!二人共下がれ!」
「熊が出て来る前に――来ないわね?」
城門の内側には熊が待ち構えてると思っていたのだが。予想に反して敵影無し。
罠……も無さそう。
「……全員、油断するなよ。何も居ない、なんて事は有りはしないからな」
……ええ、まぁ、はい。居ますね、内門の向こうに。
「ついでだ。あの門も私達で開けるぞ、イーナ」
「ええ、よくってよ、カタリナ」
そして開いた門の向こう。
居たのはやはり多数の熊。そして……
「レイ……」
「チッ…………思ったより遅かったですね、ノワール侯爵」
『そして思ったより数が多いでござるなぁ。選り取り見取りでござる』
レイさん……やっぱり此処でやる事になるのか……




