第334話 御揃いでした
〜〜院長先生〜〜
「……」
「あ〜……あのな、マチルダ」
「……何かしら」
「うん……いや、なんでもない……」
私はマチルダ。アインハルト王国王都ノイスで孤児院の院長をしてる。
私には息子のレイが居てレイが二歳の時に誘拐された。
私はレイを探す為、冒険者として各地に行き、稼いだお金を使い、手を尽くして来た。
それこそ最高峰の冒険者、Sランク冒険者になるほどに。
仲間にも才能にも恵まれた私はお金を稼ぐ事は出来た。
仲間達も協力してくれた。
それでも三十年以上レイは見つからなかった。
もうダメかもしれない、もう二度と会えないかもしれない。
いえ、出会えたとしてもお互いの事がわからないかも。そもそも生きているのかさえわからない。
もう諦めるしかないのかも。いえ、やっぱり諦めきれない。
孤児院にジュンが来てからもそんな事を繰り返し考えていた。
でも突然、レイは帰って来た。エロース教の神子として。
三十年以上会ってなくても私にはわかった。彼がレイ、息子だと。
でもレイは私が母親だとはわからない……いえ、思えないようで。
無理もない話だとは思う。でも、だからって諦めきれない。諦めるわけにはいかない。
だって、今は手の届く場所に居るんだもの。
だからレイとは会話を重ねていた。でも、また突然居なくなり、そしてまた突然会えた。
二度目の再会は神子のレイではなく、魔王のレイとして。
「おい、ジーニ、ドミニー。お前達も黙ってないで何かないのか。特にジーニは大司祭だろう。聖職者だろう。悩める友人を救ってやれよ」
「……ごめんなさい、ステラ。私にはもう魔法で記憶を消すくらいしか思いつかないの」
「……」
「お前ら……ジーニ、絶対やるなよ。ドミニー、ハンマーで殴っても記憶が飛ぶとは限らんからな。絶対やるなよ。火に油だぞ、それ」
……うるさいわね。私を気遣ってくれてるのはわかるけれど。
……レイが魔王だと、アンラ・マンユとかいう化け物と同種の存在になったのだと。
昨夜、ジュンから聞いた。そしてジュンを殺すつもりだと。
ジュンを拾ったあの日、私はジュンを護ると決めた。
何があっても、誰が相手でも。必ず護り抜いて、ジュンが望むように生きられるようにしてみせると誓った。
でも、まさか……自分の息子がジュンの命を狙うなんて。しかも魔王は殺さなければならない存在だなんて。
どうしてこんな事に……
「私が……」
「あ?マチルダ、何か言ったか」
「私が悪いのかしら……私が何かを間違えて、こうなってしまったのかしら……」
私がジュンを拾って孤児院で育てたから?私がジュンを護ると決めたから?私がジュンの傍に居たから?私がジュンにレイの名を与えたから?
いえ、それ以前に……レイを護れず誘拐されてしまったから?
それともレイを失った悲しみを孤児を育てる事で紛らわせようとしたから?
ジュンをレイの代わりのように想ってしまったから?
「全ては天罰……かもしれないわね……」
全ては至らぬ私に与えられた神からの天罰……いえ、神罰かもしれない。
「……フン。だとしたら随分と不公平な神だ。やる気のない神だ。無能神だ、駄神だ。即刻消えるべきだ。なぁ、ジーニ」
「……それは絶対エロース様じゃないと断言させてもらうけれど。そうね。確実に悪いのは誘拐犯で、マチルダじゃない。ジュン君でもレイさんでもない。そうよね、ドミニー」
「……そうだね。マチルダは被害者。悪いのはレイを誘拐した奴。そして魔王にした存在だよ」
「「「……」」」
「……何」
ドミニーの声……久しぶりに聞いたわ。鉱山でやらかしたドミニーに会いに行った時以来?いえ、まともに喋ったのはもっと前……
「ドミニー、お前な。いつもそれくらいの声を出せ」
「……」
「目を逸らすな。全く……兎に角な、マチルダ。希望を捨てるな」
「今、冒険者ギルドとエロース教の各支部に情報を集めてもらってるわ。間に合うといいのだけど」
「情報?一体何の?」
「ギフト、スキル、アーティファクトに関してだ」
「魔王の力を何とか出来る能力を持った何か……最高なのは魔王の力……いえ、資格?レイさんを魔王でなくす、そんな能力を持った何かを探してもらってるの」
……ああ!レイが魔王でなくなれば、少なくともレイを殺す必要はなくなる!ジュンを殺す事だって諦めるかも!
「魔王の事は拡めるわけにいかないから、魔王を封じる何かを探させてるわけじゃないし、そんな物が存在するかもわからん。あったとしても可能かどうかも……実は結構前から探してるんだが、今のところ何も……」
「だけど、諦めちゃ駄目よ。魔獣を封印するアーティファクトなんかはあるらしいし。なら人間を封印する何かもきっとあるわ。封印出来れば、時間が出来る。なら、その時間で何か別の手段を探せばいい。ね?」
「……」
ドミニー、そのポーズの意味は……無ければ造ってやるって事かしら。
え……造れるの?
「……ありがとう」
「……気にするな。私だって友人の息子を殺したくなんかない。ジュンも悲しむしな」
「ステラ……」
「それにジュンと結婚したらマチルダは義母になるんだし。未来の義母にデカい貸しを作っておくのは悪い事じゃない」
「私の感情をどうしたいのかしら、あなたは」
年上のステラに義母扱いされるのだけは嫌ね。
でも……ふふっ
「ありがとう、少し元気が出たわ」
「……そうか」
「なら良かったわ。マチルダ、何とかしたいのは皆同じよ。ジュン君だってアムさん達だってローエングリーン伯爵様や団長達だって。皆考えてくれてる。だから貴女も諦めないで」
「ええ」
そうね、諦めないわ。三十年以上諦めなかったんだもの。今更諦める必要なんて、私にはない。
今度こそ、レイを取り戻してみせる。
「しかし……憤怒の魔王、か。偶然なのかね」
「……何がかしら」
「わかってる癖に。マチルダ、お前のギフトに名前をつけるなら、怒りに関するワードが入るだろ」
「あぁ…確かに。私もステラに同意ね。憤怒って名付けても違和感は無いわ。むしろピッタリかも」
「……」
「ドミニーも同意だとさ」
「おかしな形で親子感が出たわねぇ」
……あまり嬉しくはないわね、それは。




