第322話 不安になりました
「これですか」
「これです。ツヴァイドルフ皇家自慢の魔法船です」
大精霊達の襲来…は呼んでおいてアレか。大精霊達の来訪から約二ヶ月。
思いつく限りの準備を済ませ、ドライデンへ向かうべく。
ブルーリンク辺境伯領にて皇帝陛下と合流。魔法船に便乗させてもらう。
「魔法船を三隻も…凄いですね」
「本当は五隻あったのですが…戦争で王国に二隻、沈められたのです」
「私の指揮でな。フフン」
「私だって戦争では活躍したんだぞ、ノワール侯爵。今度詳しく話してあげよう」
ジェノバ様に胸を張って言うアニエスさん…そりゃ凄いとは思いますけど帝国の船に乗せてもらうんだから、自重してください。あと対抗心を出さなくていいです、ブルーリンク辺境伯。
「でも魔法船を三隻も出して大丈夫ですか?」
「…経費は王国が負担してくださるそうなので」
「大半は王国の人間だからな。かなりの大人数だし、食料なんかも考えると陸路よりも日程が短縮出来る分、安上がりかもしれん」
「我が領地からの陸路だと王都ガリアとの間に大きな山が並んでいてね。迂回するとそれなりの距離になる」
「アイシャ殿下は兎も角、ベルナデッタ殿下に山越えはお辛いだろう」
今回の式典に王国から参加するのはアイを代表にベルナデッタ殿下とブルーリンク辺境伯、そして俺。
護衛として五大騎士団の精鋭が各団二百名ずつ。
アニエスさんは指揮官役だ。ノワール家とブルーリンク辺境伯家からの護衛と使用人も来ている。
それから…
「ピオラお姉ちゃんは本当に行くの?今からでも帰った方が…」
「大丈夫!ジュンはお姉ちゃんが必ず守ってあげるからね!」
「いや、危ないのは俺じゃなくてピオラ…」
「大丈夫!お姉ちゃんに任せなさい!」
…道中も説得しようとしたが、やはり駄目か。
今回、ピオラは頑なに付いて行くと言って聞かなかった。メイド服を着てまで。
そして時折伝書鳩で誰かとやりとりしてる…この世界にも伝書鳩なんてあったんやね。
ちょっと可愛い…くるっぽー。
「で、ユウ。ユウも帰った方が…」
「やだ。私の直感が言ってるの。行かないと後悔するって」
…それが本当ならいいけどさ。王都ガリアには入らず船で待機になるだろうし。
「…で。一応聞くけどクリスチーナは?」
「当然行くとも。私も招待客だしね」
「心配すんな。ジュンもクリスチーナも、あたいらが守ってやんよ!」
「わたし達も強くなったもんね!」
「もはやSランク冒険者並」
元は商人の国だからか式典にはいくつかの商会にも声をかけているらしい。
クリスチーナだけでなく、ユーバー商会のゼニータ会長にも招待状が来たらしいが、そちらは参加を見送っている。
因みにアムとカウラもスキルを獲得している。ランクこそBのままだが実力はSランクに踏み込んでいると、ギルドマスターステラさんのお墨付きだ。
「今、私の事を考えてたろ、ん?」
「…ほんの少し。だから尻を揉むのは止めた方がいいですよ」
「正式に婚約者になったんだ。堅いこと言うな」
正式になったのは俺を守る会の入会…同じ事?そっスか…
「…院長先生の様子はどうです」
「気合い十分、殺る気で溢れてるな…今のマチルダが居れば魔獣に襲われる心配はなさそうだぞ」
ドライデンに行くとなれば当然、院長先生も一緒だ。本当ならもっと早くに行きたかったのを何とか抑えてもらい、今日まで耐えてもらった。
「息子を迎えに行くにしては物騒な物を持ってるわよね…」
「そういうお前も現役時代の完全装備じゃないか」
「貴女もでしょ。ドミニーは…新作ね。自信作?」
「……」
院長先生が暴走しないように御目付役として司祭様、ステラさん、ドミニーさんも参加。ドミニーさんはノワール家の家臣としての立場もあるが。
「司祭様はまだお疲れのようですけど。大丈夫ですか?」
「エロース教本部の移転か…本当にやるのか?」
「もうやるしかないとこまで来てるのよ…教皇様はジュン君に本気だし…今回の事を相談したら後回しにしてジュン君を護るように言われたけれど」
「…アイツが居るのも相談の結果か?」
ステラさんの視線の先に居るのは人化したファフニール様。
ドライデンに行くならと教皇が送り出してくれたらしい。
魔王が四体も居るとわかっている中、魔王に単独で対抗出来る味方は有り難い。
有り難いが…ドラゴンと魔王の戦いって被害が凄そう。
「ん〜?なにか用かの、お嬢ちゃん」
「うん。後でさぁ、あーしと力比べしてよ。今のあーしは世界を獲れる!気がする!」
「気がするってなんじゃ…」
リヴァも強くなったんだよなぁ、確かに。『海の勇者』の能力はドラゴンにも作用するらしい。
ただしギリギリだったのでまだ新しい力に慣れていない。ファフニール様相手に是非慣れて欲しい。
……殺さないように気を付けながら。
「ジュン君〜!物資搬入作業は終わったわ〜!いつでも出発出来るわよ〜!」
「ノワール侯爵はこっちよ〜!御茶をご馳走するわ〜!」
「サーラには手出しさせないから安心しなさい!あたしが守ってあげるから!」
喋ってる間に準備は終わったようだ。三隻ある魔法船のうち二隻が王国に割り振られた船だから、てっきりそっちに乗る事になると思ったのだが。
ノワール家の人間とアイ達代表格は皇帝陛下と同じ船らしい。
今後についての話し合いもあるので、それはいいのだが。
フィーアレーン公子一行は別にした方がいいんじゃ?
『納得するわけないやん。マスター狙いやねんし』
…尚の事、別にして欲しい。
「ご無沙汰ですな、アイシャ殿下、ノワール侯爵」
「あら宰相。貴女も行くの?」
「ええ。陛下だけでは些か不安ですからな」
「聞こえてるわよ!あと陛下って呼びなさい!」
乗船し甲板まで行くと帝国宰相の姿が。皇帝と宰相、二人揃って中央を空けていいのだろうか。問題無いようにしてるんだろうけども。
ああ、皇女の誰かが残って……あれ。
「ノワール侯爵様!こちらへどうぞ!」「お飲み物を御用意してます!」
…皇女様も全員揃っとる。何してんの。ドライデンの状況は帝国だって掴んでるだろうに。
『皇女らもマスター狙いやろ。そうでなくてもマスターは他人の事言えんやん。しっかり連れて来とるんやから』
……ああまで泣きじゃくられたら仕方ないだろ。
「あら、ドロテア、コンチェッタ。貴女達まで来たの」
「はい!ノワールこうしゃくさまにおねがいしました!」
「ぶきをつかったらかんたんでした!」
武器って。まさか五歳にして女の武器を自在に使えると?どういう教育してるんだツヴァイドルフ皇家。
「……な、なんですか、ノワール侯爵様…」
「どういう教育をしてるのかな、と。もしかしてカサンドラ様も自在に涙を出せるとか?」
「……そ、そんな事ないですよ?」
で、ドロテア様とコンチェッタ様が行くとなれば当然カサンドラ様も一緒なわけで。
そして更には。
「美しい船ですね!僕が乗るに相応しい!」
「ウフフ……黒なのがイイわ…」
シルヴァンとレティシアのコンビ。更に更に。
「ああ、パメラ!此処で遊ぶのはダメだよ!」
「ええ~つまんない~」
『アハハー……僕としては助かったかなー…』
『ウンディーネも助かったし。せっかく居心地の良い水場に来たのに疲れたくないし』
『逆に此処はイフリートには居心地が悪い。最悪だ。疲れる事はしたくねー……お前も同じだろ、ノーム』
『やっほい』
大精霊達とパメラも来てもらった。大精霊達が言う事を聞いてくれるならパメラはお留守番でよかったんだが。俺の言う事はいまいち聞いてくれないんだよな。
今でも。
因みにユーグのおっさんはパメラのオマケだ。正直いらないと思ったんだが…ベビーシッター役で来てもらった。
「うう…おぎゃあああ!」
「ああっ!またぐずり始めた!おお、よしよしっ、どうしたんでちゅか~」
「オムツじゃないんですの?ミルクは先ほど飲みましたし」
此処は河だが水難事故に遭わなくなる加護がある『海の勇者』エルリックの加護は是非欲しいわけで。
それにしてもカタリナとイーナも慣れて来たな。手早くオムツを替えてるし。手慣れたもんだ。
『いつ妊娠しても大丈夫やな。予行演習はバッチリや。もしかしてそれが狙いやったりする?』
んなわきゃあない。
「(御主人様、船内及び周辺の調査は終わりました。不審な物はありません。襲撃の心配も無さそうです)」
「御苦労様。暫く休んでてくれ」
「はっ」
ドライデンに行くと決まって一番気合いが入ってるのがカミラ達元暗殺者組だ。
顔見知りとやり合う可能性もあるのだから残ってもいいと言ったんだが、絶対に行くと言って聞かなかった。
しっかし、こうも大勢集まってると総力戦って感じだな。一部事情も知らずに集まってる者もいるが。これならよっぽどの相手じゃなきゃなんとかなる―――
「しかし、錚々たる面子ですな。見知らぬ顔もいくつかありますが。ところで、あの方は大丈夫なので?」
「え?」
宰相の視線を追うと。ソフィアさん達五大騎士団の団長らが。その一人、ポラセク団長の顔色が悪い。離れた位置からでも解るほどに。
「ポラセク団長、大丈夫?」
「まだ船に乗っただけで、船は動いてないぞ。なのにもう船酔いしてるのか?」
「…動いてなくても、河の流れで揺れ、うぷっ」
「私には揺れなんて殆ど感じられませんが…」
「此処で吐かないでね、レオナちゃん」
…あの人が王国最高戦力の一人の筈なんだけどなぁ。不安になって来た…




