第320話 嫌な奴でした
〜〜レイ〜〜
「ふっ!…これで終わりかな?」
『そのようでござるな。お疲れ様でござる主殿』
僕はレイ。元神子現魔王のレイだ。今は訓練がてら森で狩りをしてる。
…ある日突然、僕は女神によって勇者にされ、エロースの使徒を殺すように命じられた。
なんで僕が、と思わなくもない。力をくれたからって何故命令に従わなきゃいけないのか、と思わなくもない。
しかし今は良い、納得している。
エロースの使徒が彼…ジュンだと、エスカロンから聞いた今は。
『主殿も上達したでござるな。それでも某のかつての主には遠く及ばぬでござるが』
「仕方ないだろう。僕は三十八の中年だ。この年になって初めて訓練してるんだから」
幼子の頃にエロース教に拾われて…ずっと神子として生きて来た。
神子は様々な教育が施されるが戦闘技術は学ばない。
だから僕も武器を握った事すら無かった。
だが…
『落ち込む事は無いでござる。僅かな期間で此処まで腕を上げたとなれば間違いなく主殿には才能かある。腐らずに励むでござるよ』
「…そうか」
そう、僕には武人としての才能があったらしい。
勇者になってすぐにエロース教の宝物庫に行ったのは戦闘技術なんて無かったから。
宝物庫から使えそうな物を奪い…今思えば無茶な事してるなぁ僕。
勇者の…いや魔王の力に呑まれて半分暴走気味だったとはいえ。
エロース教お抱えの騎士団はともかく、あそこにファフニール様が居たら終わってた。
…まぁ、最後の理性を振り絞り、逃げた先でコイツと出会ったんだ。
『まぁ、主殿が強くなれたのも拙者の力でござるが』
「…お前、性格悪いよね」
わざと僕を怒らせようとしてるな。
今はその時じゃないんだ。止めて欲しいね。
『力は使ってこそ、でござるよ主殿。使いこなす事が出来なければ意味が無いでござる』
「…だから偶に使ってるよ」
『また例の使徒に向けてでござるか?』
「いいや。最近はエスカロン殿が指定する場所にね」
憤怒の魔王の力の一つに、他人の怒りをエネルギーにして爆発させるというのがある。
怒りが大きいほど大きな爆発になる。
「お前はどうなんだ?嫉妬の力は上手く使えてるのか」
『勿論でござる。拙者は刀、武器でござる。嫉妬の魔王の力も言ってしまえば武器。ならば拙者に使えない道理は無いでござる』
「…そんなもの?」
そもそも刀…武器が嫉妬なんて理解出来るのか。無機物なのに。
『主殿が一番妬ましいでござるよ』
「…なんで」
『理由は…伏せておくでござる』
…わからん奴。刀が喋る事事態がおかしいんだから、理解出来るわけもないか。
「理解出来ないと言えば…エスカロン殿も理解出来ない。一体何が狙いなのか」
『確かに。不気味でござる』
「不気味?」
『理解出来無い存在は不気味でござろう?』
なるほど。お前も不気味な存在だしね。
…ドライデンはエスカロンが王になってからと言うもの、荒れる一方だ。
上手く行っているのは王都とエスカロンの側近が治める領地くらい。
王都から離れた場所ほど酷いもので街全体がスラムのようになってる街も少なくない。
殺人が日常、スリや空き巣なんて可愛いもの。そんな街すらある。
戦争をしてるわけでも、大災害があったわけでもないのに難民が出る始末。
それなのに他国から招待客を招いて式典を開くのだから尚更理解出来ない。
『しかし例の男も来るのでござろう?』
「…好都合な事にね」
普通ならこんな荒れた国に行きたくないだろうに。
まぁ…彼の目的は理解出来る。僕を連れ戻すつもりなんだろう。
彼は随分と優しいそうだから。僕の母らしい人を慕ってるらしいし。
『妬ましいでござるか?自分は母に育てられなかったのに母に育てられた他人が』
「……」
『それが普通でござるよ。自分は誘拐され母と引き離され、生きる道を決められた。なのに、何故あの男は――』
「黙れ。ぶっ壊すぞ」
『……』
…僕が彼を妬んでる?ああ、そうかもな。
だけど同時により大きな怒りも感じるんだよ。
「…お前、僕を怒らせようとするの、やめろよ」
『先も言ったでござろう。使いこなせなければ意味が無いと。怒りを、感情を支配するでござるよ。感情のままに動くのは獣でござる』
「感情に身を任せるのは実に人間らしいと、僕は思うけどね。お前にはわからないか」
『……』
最初こそ、顔がないからわからなかったが…今では何となくわかる。今のはカチンと来たらしい。
何となくなく、手から伝わって来る。こいつの感情、不満が。
『…さ、そろそろ次へ行くでござるよ』
「…ああ。次は何処に向かえばいい」
『左前方、遠くに見える山を目指すでござる。途中で出くわす筈でござるよ』
「わかった」
…こいつは嫌な奴だが使える。知識は豊富だし、気配を探る事も得意だ。
更には過去の所有者の技術を新たな所有者…主に伝える事も出来る。
そうやって歴代の所有者を超えて行かせる事が出来る刀。それがこいつ、嫉妬の魔王だ。
他にも鉄を軽く切り裂く斬れ味、斬った物を塵に変える能力など。恐ろしく高性能な武器なのは間違いない。
これで性格も良ければ文句なしなんだけど。
『そろそろ主殿には人間を狩って欲しいのでござるが。丁度良いのはこんな森の中には居ないでござるな』
「…突然なに」
『主殿は人を殺した事が無いでござろう。使徒を殺す前に経験しておくべきでござる。いざという時に躊躇せずに済むように』
…これだ。こいつは命を奪うという事に躊躇いがなさすぎる。
武器なんだから当然かもしれないけど。
「…理由も無く人間を殺す気はない。そういう考えは捨てな」
『何故でござる。魔獣は散々斬り捨てたではござらぬか。人間を斬るのも魔獣を斬るのも大して違わぬでござるよ』
「…僕とお前の考えは違う。僕に人殺しをさせようとするな」
『…怖いのでござるか?』
「……」
こいつは本当に…
「…怖いんじゃない。ただ人間を殺すと色々面倒な事になるんだ。作らなくても良い敵を作る事になる」
『拙者の力を忘れたでござるか?髪の毛一本すら残さないでござるよ』
「…バレなきゃ良いって話でもない」
『なら罪悪感でござるか?それとも体裁を気にしてるでござるか?ならエスカロンが付けてる護衛ならどうでござる。この森なら目撃者も証拠も気にしなくて済むでござるよ』
「だから…」
『駄目でござるか。ならばエスカロンに言って罪人を用意させ』
「黙れ。本当にぶっ壊すぞ」
『…壊せるでござるか?刀の造りなど知らないでござろう?拙者を折るのは無理でござるし』
…本当に嫌な奴だ。




