第319話 不可解でした
〜〜サーラ〜〜
はじめましてな人は、はじめまして。御久しぶりな人は御久しぶり。
ツヴァイドルフ帝国皇帝サーラ・テルニ・ツヴァイドルフよ。
例の御茶会で大勢の貴族に貸しを作る事が出来た私の治世は平穏そのもの。
暗殺や毒殺、クーデターに怯える日々とはさよならバイバイ。
ノワール侯爵を口説き落とす為の御茶会で、そんな副次効果は考えてなかったのだけど。
嬉しい誤算ってヤツね。
「代わりにとばっちりを一身に受ける不幸な辺境伯が居るわけですが…姫様、報告書です」
「…だからベッカー辺境伯には最大限の便宜を図ってるじゃない。あと、陛下と呼びなさい」
私じゃ埒が明かないと思ったのかしつこくし過ぎて不興を買うのを避けたのか。
ノワール侯爵との橋渡しをベッカー辺境伯に頼む馬鹿が増えたらしい。
平身低頭にする馬鹿はまだましで中には脅迫紛いの手段を取る大馬鹿までいるから何とかしろとベッカー辺境伯からの陳情書が毎週のように届く。
でも受け皿が無くなればどうなるか。想像の範囲内なら未然に防ぐ事は出来るけれど、大馬鹿は想像を超えて来るから困る。
同じ帝国貴族に迷惑を掛けるだけならどうとでも処理出来る。
でもアインハルト王国の貴族に飛び火したら厄介だ。
従ってベッカー辺境伯には受け皿であり続けてもらうしかない。
「気の毒な事ですなぁ…難民問題もありますのに」
「…だから難民の方はほぼ解決してあげたじゃない」
帝国南部を守護するベッカー辺境伯の領地はドライデンとも国境を接している。
ここ最近ではドライデンの情勢は不安定で多くの難民…いえ移民希望者が周辺国に押し寄せていた。
帝国も例外ではなく人道的観念から受け入れていた。
しかし増え続ける難民を前に、危機感を覚えた帝国以外の国は国境を封鎖。
当然、難民は帝国に集中する。
「そこで資材と資金、食料を提供する代わりに難民達に新たな街を作らせる…リスクはありますがうまく行けば大きなリターンになりますな」
「失敗しても帝国にはそれほどダメージはないわ。うまく行けばベッカー辺境伯領に新たな街が一つ増えてドライデンに対する防波堤になる」
「ドライデンと戦争になれば真っ先に裏切るかもしれませんな」
「その時は切り捨てるだけよ。監視の眼は置くし、そうそう出し抜かれはしないわ」
報告書の内容を信じるなら、上手く行っているようだし。
しかし、ドライデン…あの国はどうなってるのかしら。
「内乱前も大概な国だったけれど。内乱終結後安定していたのは、ほんの数ヶ月。帝国に流れて来た難民は既に二千人を超えてる。このままじゃ遠からず破綻するか再び内乱よ。何を考えてるのかしら。エスカロンは」
ドライデンでは虐げられていた男達を保護し、人権を与える、までは良い。
でもいきなり街の代官や軍の司令官に据えたって上手く行くはずがないじゃない。
現に殆どの男が今までの腹いせに好き勝手にやって治安悪化、財政悪化、国民流出。
比較的上手く行ってるのは王都とその周辺のみ。王都から離れた土地ほど酷いことになってる。
ドライデンについて挙がってくる報告は酷い内容ばかり。
エスカロンは商人としては有能でも王としては無能と言わざるをえないわね。
私とは大違いね。フッ…
「何を勝ち誇っているのかわかりませんが。足元をすくわれないよう注意ですな。それよりも姫様、気になる事が」
「陛下と呼びなさい。何よ、気になる事って」
「エスカロンが難民…国民流出に対する施策を特にうってない、というのも気になりますが…報告によると難民に被害がほぼ出ていないというのが、どうにも…」
……難民を狙っての人攫い、詐欺、殺人などの犯罪行為。そういった報告は確かに挙がってない。
事故や病気等により死亡した難民は極僅か。
つまりほぼ全ての難民が他国まで辿り着く事が出来ているという事。
そういえば帝国に来た難民は自分達で街を作れと言われて直ぐ様働けるほど元気だったとか。
普通、難民と言えばもっと余裕の無い、明日に希望を持てないって暗い顔した人間ばかりだと思っていたのだけど…
「魔獣による被害も殆ど無いようですな。治安の悪化が影響して魔獣狩りも滞っている筈なのですが」
治安悪化で冒険者や傭兵はあちこちにたらい回しにされてるらしい。
兵士も当然同じ。となれば魔獣の間引きなんてやる余裕は無い。必然、魔獣被害は増える筈だけれど…
「何か秘策でもあるのかしらね。また新しい魔法道具とか」
「さあ、わかりませんな。色々不可解な事も多いですし、見に行く、というのも一つの手かと」
「はあ?私が直接ドライデンに?馬鹿言わないでよ」
誰が好き好んで危険地帯に……何よ、それ。
「招待状ですな。エスカロンからの。新生国家樹立と内乱終結を記念した式典を開くそうで」
「先に詫び状よこしなさいよ…」
周辺国に難民を出して迷惑をかけてる癖に。そもそもそんな状態で式典を開く余裕なんてあるとは……
「私は行くべきだと考えますな」
「はああ?なんでよ」
「魔王の件、お忘れではないでしょうな」
ああ…エロース様が言ってたアレね。確かに魔王が絡んでるなら今の不可解なドライデンの状況に説明がつくかもしれないけど。
それでも私が直接行かなきゃいけない理由は……今度は何よ。
「ジェノバ様からの御手紙ですな。ドライデンの式典に行くなら船に乗せて欲しいとありますな」
「あんた先の招待状といい…私宛の手紙を勝手に読んでんじゃないわよ」
でもって船?確かにドライデンの王都ガリアの近くまでは船で行けるし、皇家専用の大型魔法船もあるけれど。
ジェノバを拾うには王国に寄る必要があって必然遠回りになるじゃない。
魔法船は金食い虫なのよ…甘えないで陸路で行きなさい……おかしいわね?
「何故王国に居るジェノバがドライデンの式典に参加しようとするのよ。それに何故船を指定してるの」
「船と指定してる理由はわかりかねますな。で…王国にも招待状が行ってるからでしょうな。ノワール侯爵も式典に参加するならば、と。ジェノバ様も誘われたのでは?」
「つまり…」
式典にはノワール侯爵も来る?!
「つまり、です。諸々調べるべきなのではないですかな。ついでに姫様とノワール侯爵との仲が進展すれぱ言う事無しというわけですな」
「宰相の言う通りね!早速予定を組み直すわよ!後、魔法船をいつでも出せるようにしておきなさい!」
「…了解ですな。ついでに妹君様達にもお伝えしておきましょう。どーせついて行くと言い出すのですから」
「いいわ!でも秘密厳守よ!御茶会の時みたいな事態は避けないと!」
「ですな」
そうと決まれば色々準備しないと!勝負下着に秘薬に…精がつく食材も用意しなきゃ。
あとは…
「姫様。魔王が居る可能性も忘れないで欲しいですな」
「…わ、わかってるわよ」
魔王か…強いのよね?戦いたくはないけれど…備えは必要よね。
ツヴァイドルフ帝国皇帝を侮るなかれ、よ。




