第311話 衝撃でした
『いらっしゃい。欲しい物があったら値札にある代金をカウンターに置けば持って帰れるわ。代金を置かずに持ち帰ろうとした場合、命の保障はしないわ。それじゃごゆっくり』
……これ、まだ使ってたんか。店は繁盛してなさそうだな。
伝言を受け取った翌日。エリザベスさんの店に来たわけだが。
呼び出しておいて本人の姿はない。呼んでも返事は無し。
また倒れてるんじゃないだろうな。
「なんなんだ、この店は。無人の魔法道具店とは…不用心が過ぎる」
「本当に。やる気が感じられませんね」
今回、護衛に付いてきたのはブルーリンク団長とイエローレイダー団長。そして赤薔薇騎士団、黒薔薇騎士団、白薔薇騎士団から一名ずつ。
どうも俺が外出時には団長格が最低二名。各団から一名ずつの合計五人が傍で護衛する事になったらしい。
あくまで傍で護衛するのが五名なだけで付近で待機、怪しい人物がいないか警戒してる団員もいるわけだが。
「どうする、ノワール侯爵」
「ここの店主に呼ばれたそうですが、居ないなら帰りますか」
「いえ中に入ってしまいましょう」
数分待ってみたが返事無し。これはやはり前回と同じパターンか。
『どやろな。前回は地下やったけど今回は二階っぽいで』
二階は行った事ないな。手早く済ませて帰るように言われてるし、あがらせてもらおう。
「失礼しますよ〜」
「いいのか、ノワール侯爵」
「いいんです。二回目ですし」
「それはそれでどうなんだ…」
このまま帰ったら来なかったのと同じだし。俺が来ないと死ぬらしいからなぁ。エリザベスさんが。
普通の人ならそんな事あるかと切って捨てる話だがエリザベスさんの場合はあり得る話ーー
「て、寝てる?」
「寝てるな」
「寝てますね」
二階上がって最初の部屋をノックしてから開けたらベッドの上で寝てるエリザベスさんが。
夏だからか掛布団はなくネグリジェ姿でだが…それが薄紫のスケスケでノーパンノーブラだからすげぇエロい!
褐色肌のダークエルフが着てるから更にドン!て感じ!
「…こういうのが好きらしいな、ノワール侯爵。同じ格好をしたらどうだ、イエローレイダー団長」
「えぇ!?……か、考えておきます」
考えなくてよろし………帰りに服飾店に寄りましょう。
「って、そんな事よりも。エリザベスさん、起きてください」
「スゥ……………………………………スゥ……………………………………スゥ……………」
起きねぇし。てか、なんか呼吸弱くねぇ?
「あの、ノワール侯。サイドテーブルにこんな物が」
「なんだ、手紙か?」
手紙というよりメモ書きのようだが。どれどれ…
『私は今、呪いで眠ってるから。呪いを解くには男の唾液を口に注ぐしかないわ。よろしくね』
「「「「「「……」」」」」」
あー…うん、なるほど。俺が来ないと死ぬって、そういう…まーた自分で自分に呪いを掛けたのか。
「ノワール侯。この女、殺しても?」
「放置でいいだろう。世界一マヌケな自殺だな」
「殺すのも見殺しも無しにしましょう。借りがあるんで…」
しかし、男の唾液を注ぐってつまりは…
『キスやな。それもディープキス。ええやん、したったら。舌が火傷するくらい熱いキッスをしたったらええやん』
…まぁね、いいけどね。既に千人以上とキスしてるし、今更だからさ。
しかしダークエルフが眠り姫役ね…新しいんじゃないかね。なんとなく。
「それじゃ失礼し…後ろ向いててくれます?」
「え。ちょ、ノワール侯?まさか…スるんですか?!」
「ノワール侯爵は奥手だと聞いていたが…」
誰から聞いた話やねん。…陛下から?ベルムバッハ伯爵らの事件の話?…いや、アレとコレは大分話が違うと言いますか…
「だ、駄目です!そんな…はしたない!」
「はしたない…」
まさかそんな事言われようとは。この世界の女性にはしたないなんて概念……そういえば陛下にも言われたか。
「まあノワール侯爵がしたいならすればいいが…唾液を注げばいいんだろう?ならば…」
ブルーリンク団長の提案により。俺の唾液をグラスに注いでエリザベスさんに飲ませるという。なんともアレな方法で起こす事に。
「これで良いはずだろう。メモの内容を信じるならな…おい、イエローレイダー団長。そのグラスをどうする気だ」
「…ハッ!いえ、何も!?」
…声が裏返ってますがな。と、起きたか?
「……おはよう。私の唇はどうだった?」
「…感想は控えさせてもらいます。また呪いの実験ですか」
「うん。睡眠不足を解消するのも兼ねて」
普通に寝りゃいいじゃん…何故命懸けなのか。
「それで、呼び出した用件は終わりでいいですよね。帰りますね」
「あ、待って。まだ話があるの。貴方、最近おかしな事起きてない?」
「おかしな事?」
「ええっと…はっきり言っちゃえば命を狙われてたり、はひゃ!?」
「貴様、何を知っている」
「全て話してもらいます」
エリザベスさんが気になる事を口にした瞬間。護衛全員が武器を構えた。
それが予想外だったのか、エリザベスさんは怯えている。
この人から恨みを買うと呪われちゃいますよ?
「皆さん、武器を下ろして。少なくともエリザベスさんに俺をどうこうする気はないですから。ですよね?」
「無い無い!無いから物騒な物は引っ込めて!私はただ警戒した方がいいって忠告したかっただけなの!」
「警戒だと?何をだ」
「多分、呪い…」
詳しく聞くと。エリザベスさんはここ最近、何か不気味な力の流れを感じていたらしい。
その力の流れは王都の高級住宅街…つまりはノワール侯爵邸に流れ着いてる事がわかった。
「多分、貴方が帝国から帰ってすぐよ。見たところ呪われてはいなさそうだけど…」
不気味な力の流れ…それってアレか。ベッカー辺境伯が爆発したアレか。
『アレやろな。マスターを狙ってマスターの周囲にいる人間を爆弾にしよって魂胆やろ。対策はしといたから問題無い…けどおかしいな。わいに感知出来んかったのにエリザベスには出来たんか?』
そこは呪いのプロだからか?それともベッカー辺境伯の時とは何かが違うのか。
てか、そもそもな話、呪いとは?今更だけど呪いについて詳しく聞いてなかったな。
魔法とは別なのはわかるけど。
「呪いとは悪意よ」
…はあ。え?説明終わり?
「呪いもお呪いも呪術と呼ばれるモノ。魔法とは別物だけど全く違うわけでもない。だから私は魔法を使えるし魔法道具を作れる」
そして呪いとお呪いの違いは。悪意を持ってかけるのが呪い。善意でかけるのがお呪い、になるらしい。
「悪意も色々あるわ。恨み憎しみ妬み嫉み怒り。向けられる悪意が強いほど強力な呪いになる。そして悪意には独特の…波動というか匂いというか。兎に角、呪い師の私だから感じられる悪意が貴方に向けられてるのがわかったの」
そこで俺を呼び出すついでに新作の呪いの実験もしていた、と。
そういう事らしい。
「なら屋敷に直接来ればいいだろう。呪いの実験も知らせておけば安全にやれただろうに」
「何らかのアクシデントでノワール侯が来れない時はどうするつもりだったのですか」
「…………大丈夫よ。寝る前に沢山食べたし飲んだから。一週間くらいは死ななかったはずよ」
多分それ、何も大丈夫じゃねぇな。ちゃんと翌日に来たのに呼吸が弱かった事から察するに。眠り続けると同時に衰弱する呪いもかかってたんじゃ?
「え。嘘。じゃあこの呪いは失敗かぁ。残念」
それはそれで有りとか言い出さなくてよかった。自分で自分に呪いをかける辺り、かなりマッドだもんな。
衰弱死させるような呪いを開発して喜ぶ人じゃなくてよかった。
「それで店主よ。ノワール侯爵は呪われてはなさそうだと言う事だが。誰が呪おうとしたのかはわかるか」
「呪おうとしたと決まったわけじゃないわよ?悪意を運んで来た力は私の知らない何かとしかわからなかったし」
つまり…エリザベスさんが感知したのはあくまで何者かの悪意。
その悪意が向かった先がノワール侯爵邸だった。だから俺、或いは俺の身近な人物が呪われたんじゃないかと。
一応は心配してくれたらしい。
「ありがとうございます、エリザベスさん」
「いいわよ、これくらい。あとこれ、呪い避けの護符。一度だけなら呪いを防いでくれるはずよ。それでも呪われたら此処に来なさい。解呪に必要な物は大抵あるから」
おお…有り難い。有り難いが…何でここまでしてくれる?
始まりは冒険者と依頼主という関係に過ぎず。そりゃ確かに危ないところを助けはしたが。
「だって貴方とは親戚になるみたいだし。なら助けるわよ」
「はい?親戚?」
「違うの?今時の貴族は家臣や従者に自分の夫の子種を提供するんでしょ?」
んん?それはつまり…
「俺の婚約者の家臣にエリザベスさんの親戚が居ると?」
「ええ。姪がお城でメイドをしてるの。クオンていう子よ」
「あんたら親戚だったんかい!」
今日一番の衝撃だった。




