第309話 なんだかんだで特訓に決まりました
「おおう!」
ゾワっと来たぁ!なんだ今の!?
「ど、どうしたジュン」
「いや、なんかものすんごい悪寒が…」
「なんだ風邪か?」
「旅の疲れが出たのかもしれませんわ。今日は早くお休みになった方が…」
「そういうんじゃないんだけど…」
病気知らずの身体だからな…文字通りの。近い感覚で言えばピオラが無言で背後に立ってた時の――
「そう言えばピオラ…お姉ちゃんは?孤児院は休みだって聞いたけど」
「ピオラ様はお出掛けになられています。護衛を付けていますので御安心を」
俺の疑問に答えたのはカミラ。ピオラが休みなのに俺の近くに居ないというのは珍しい…てか何故護衛なんて?
「当然です。御主人様を狙う過程で別の人物…身近な人間を人質にするという事もあり得るのですから」
「そう…だな。ジュンの護衛だけでなく、我々の護衛も考えなければならないか」
「特に戦闘能力を持たない者への護衛は必須ですね」
ユウ、クリスチーナ、ピオラ辺りか…ピオラは自分でなんとかしてしまいそうな気もするが。
「その辺りの事は後でいいだろう。話を戻そうじゃないか」
「そう…ですね。ドライデンとの国境を封鎖、ですか…陛下も仰ってましたがドライデンは危険な状態らしいですが、詳しい情報はありますか」
「私もヒルダから聞いただけに過ぎんがな。内乱が終わって一時期は安定していたものの、性急な改革を推し進めている影響が随所で見られる。アルカ派の残党を徹底的に潰してるだけでなく新体制に反発するものも厳しく弾圧している。まるで恐怖政治だとな」
アルカ派の残党狩りというのもジビラを捕えた事でほぼ終わっている話。それでもまだ続けているのは何故なのか。理由はわからないがその徹底ぶりはさながら魔女狩りのようだと思った。
新体制というのはこれまで要職に就く事が出来なかった男性を就け、男性主導の下に各街を運営していく…ことらしい。
国の中枢…エスカロン直属の部下にも男性が何人か働いているらしいし、エスカロン派が掲げていた理想が建前では無かった事がわかる。
だがしかし、だ。
「ドライデンでは男は虐げられていた。だから要職に就けるというのは大出世と言えるだろうが…そんな教育を受けている男など世界中探してもそうはいない。種馬の如き扱いだったドライデンの男にやらせて上手く行くわけがない。国民から反発が起きるのは当然だな」
「男性も困惑するでしょう。やれと言われて出来る物でもありませんし。そもそも他国の男は働いてないのに自分達が働かなくてはならないのは何故だと。従わない男性も居るのでは?」
「その通りだ、イエローレイダー団長。尤も、男からの反発は極少数だそうだがな。むしろ問題は要職に就いた男の方だ」
今まで散々に虐げられていた反動か、それとも復讐のつもりなのか。権力を手にした男達は最初こそ大人しくしてたものの徐々に横柄になりエスカレートしていき…今では好き勝手にやっているものばかりだとか。
「男性保護法、なんて物を制定したのも良くなかった。如何なる理由があろうとも男を傷付けると厳罰に処す。という法のようだが…これが中々に極端でな」
爪が掠った、肩がぶつかった程度でも厳罰。殴りでもしたら確実に死刑。重症、もしくは死なせでもしたら一族郎党関係者まとめて全財産没収の上公開処刑。
逆に男性が罪を犯しても10:0で男性側が悪くない限りは罰せられる事は無く、精々が注意で終わる程度。罰せられたとしても罰金で終わるらしい。その罰金も雀の涙程度だと言うのだから恐ろしい。やりたい放題になるのもわかる。
この世界の男は過保護と言ってもいいくらいに優遇されているのが普通だが…それでも此処まで極端ではない。
今までの反動だとしても、それはやり過ぎだろうと思う。
「そう思うのが普通だろう。難民が増えるのも当然だ」
「難民を受け入れる事はしないんですか?」
「人道的に見ればするべきだがな。実際、ヒルダも嫌々ながらも最初の内はしていたんだが…これからも増え続ける難民を全て受け入れるなど不可能だ。王国はドライデンには散々嫌がらせを受けているしな。国民からの反発も大きい。それはノワール侯爵も良く知っているだろう」
「ああ、はい。まぁ、そうですね…」
俺が叙爵する為に挙げた功績はドライデン絡みの事件だからな。それ以外にも昔から何かとやってくれていたらしいし。
「しかし、という事は王国以外にも難民が…」
「他国はとっくに国境閉鎖済みだ。王国は散々嫌がらせを受けていたからな。受け入れられる可能性は低い事はドライデンの人間もわかっているんだろう。ドライデンと隣接する国で国境を閉鎖していないのはツヴァイドルフ帝国だけだ」
流石は前ブルーリンク辺境伯。娘に当主を譲ってもドライデンに関する事は頭に入れているらしい。
で、国境を閉じていないのは帝国だけ…つまりは帝国から入るしかない、と。
『正規の手順で行くならな。関所とかガン無視で行くならいくらでも手段はあるわ。それこそ教皇らがやったみたいに』
…リヴァに乗せてもらうとかして、か。俺だけで行くならその必要も無いが…後から問題が出て来るわな。
『そら密入国になるわけやし。身分を隠して行くとしてもすぐバレそうやしなぁ。マスターはもう有名人やねんし、女装しても無理ちゃうか。各国のスパイがドライデンにおるみたいやし、すぐマスターに気付くやろ』
…つまり最終手段ってわけね。密入国がバレたら確実にヤバい事になるからな。
『それもマスターやのうてアニエスらがヤバい事になるな。マスターにも何らかの罰はあっても大した事ない内容やろ。でも、それだけで終わらんわけや』
まーた俺を狙ってなんちゃら伯爵やら侯爵やらその他大勢の貴族が騒ぎ立てて俺を手に入れようって動くって話だろ。わーってるよ…流石に慣れたわ。
『なら、ドライデンに行くんは諦め。今はまだ時期が悪いってこっちゃ』
大人しく修行に努めろって事ね。しかしだな相棒。院長先生が待つとは思えないんだが…事情を全て説明出来ないとなれば尚更。
『そこは説得するしかあらへんがな。ちょうど適任者もおる事やし』
適任者……ああ。
「ジュン君?どうかした?」
「ああ、いえ。ドライデンに行く事を院長先生にどう諦めてもらおうかと」
「あ~…院長先生は行きたいだろうけどよ…諦めてもらうしかないんじゃねぇ?」
「御世話になった院長先生の為だし…わたしだって協力はしたいけど~」
「でも説得は怖い」
「だよな。というわけで、ステラさん、ドミニーさん。出番です」
「……ん!?は?!」
「………」
「院長先生にドライデン行きは諦めるように説得して来てください。少なくとも今は無理、時期を待てと」
「いや……待て待て!それは死刑宣告とほぼ同義だぞ!アイツが息子の事で我慢するとは思えん!何十年と探し続けた息子だぞ!一度失って見つけてまた失った息子の事を諦めろなんて言われたらどうなるか!」
「………」コクコク
あーうん、それはそう。院長先生がキレると怖いのは俺ももう知ってます。
「しかしそうは言ってもだなギルドマスター。院長先生が暴走するとジュンも確実に暴走する。それは我々としても避けたい。どうにか説得して欲しいのだが」
「ならあんたがやれローエングリーン伯爵!マチルダは引退して長いとはいえ元Sランク冒険者!しかも私達のパーティーでは最強の戦士だったんだぞ!まともにやり合えば私だって勝てるかどうか!というかキレたマチルダ相手なら確実に負ける!いや死ぬ!殺される!具体的に言うと首を落とされるか踏み潰される!嘘じゃないぞ!」
「へぇ…元Sランク冒険者…」
「ほおぅ……」
そこで眼をギラつかせるのは何故ですかね、レッドフィールド団長。興味を持つのはいいですけど触れてはならないモノが世の中にはあるんですよ、ポラセク団長。
しかし、そんなに怖いか…いや、わかるけど。前に見たアレはまだ序の口だったんだろうけど。でもステラさんとドミニーさんに説得してもらうしかないわけで。
二人が無理なら同じ孤児院育ちの仲間…クリスチーナ達かユウ。ジェーン先生は……期待すまい。
『ぶっちゃけマスターが一番確実やと思うけど?』
何か報酬を出してやる気を出してもらうか。うん、それがいい。
『スルーすんなや!……まぁ、報酬出すんならステラとドミニーに出すべき物はわかっとるやろ』
ですよね。
「というわけで。説得に成功したら俺を護る会の入会を正式に認めましょう」
「ぬぐ!う、うぅぅ……わ、わかった…やってやろうじゃないか!ドミニー、行くぞ!」
「………」
「何だその軽蔑と拒絶をないまぜにしたような濁った眼は!私もマチルダも親友だろう!お前も動け!」
「………」
「だから眼だけで全てを語るな!せめて口に出して言え!」
「死ぬならお前だけ死ね。私を巻き込むな。というか親友というならマチルダだってそうだしマチルダの気持ちもくんでやれ。諦めるように言うんじゃなくドライデンに行けるように考えてやるのが本当の親友じゃないのか。って言ってるわよ」
「正論だが!間違ってはいないが!本当にそんな長文喋ってるのかコイツ!」
久しぶりの通訳リヴァ。確かにドミニーさんの言う事もわかるし、そうしたい気持ちも過分にあるが。今回はそうも行かないわけで。
「ドミニーさんには成功報酬としてノワール家で貯めてある鉱石と俺が今保有してる魔獣素材と今後狩った魔獣素材の全てを扱う権利を――」
「!!!」
「何してるステラ!サッサと行くぞ!って言ってるわよ」
「…お前と言うヤツは。本当に親友なのか?」
というわけで此処でステラさんとドミニーさんは退場。院長先生の説得に孤児院へ向かった。
……無事に帰って来るといいけど。
「えっと、話はまとまったと思って良い?ドライデンには行かず暫くは王都で大人しくしておくって事でOK?」
「そうなります殿下先生」
「細かい護衛計画は団長である私達とローエングリーン伯爵とで決めますので」
「そ。ならウチの希望を言わせてもらうね」
「は?殿下先生の…希望?」
「ウチは強くなる必要がある。アンラ・マンユと戦ってそう思ったの。だから特訓する。あなた達には特訓に付き合って欲しいの。勿論ジュンも」
突然何を言い出すかと思えば。それは願ったり叶ったりで諸手を挙げて賛成しますが?
「(何か考えでもあるのか?)」
「(フレイヤ様にお願いしてみる。なんか力頂戴って。連絡が取れるかはわかんないけど)」
ああ、そうか……アイはフレイヤ様によってこの世界に転生したんだったな。で、植物を操る力以外にも何かもらおうってか。
何となく、そういうチートなの欲しがらないと思ってたけどな、アイは。
「(今はそんな事言ってられないしね。他にも当てがあるし)」
「(というと?)」
「(ほらエルリック。海の勇者が傍にいる状態で修行すれば、さ。ウチらだけでなく新しい力を得る人がいっぱいになって大幅に戦力UPになると思わない?)」
「ああ…」
俺が超能力に目覚めたように、か。確かにソフィアさん達団長クラスが新しい力を得る事が出来たなら…五人掛かりなら魔王を相手に出来るかも。
俺だって超能力以外の、何か新しい力を手に入れ――
『それはどうやろな。前にも言うたけど容量過多の問題を解決せん限り、新しい力を手に入れても使う事が出来へんやろ』
そうだったな…でもメーティスならどうだ。
『うん?わい?』
メーティスだって一人の人格、一人の魂を持った存在と言えるだろ。なら何か新しい力を手に入れる事が出来るじゃないか?
『それは………どうやろな。わいは確かに一人の乙女やけど同時にマスターと一心同体の道具や。マスターと同様に何かに目覚めるとは思えんなぁ』
そうか……まぁ試してみればいいじゃないか。最近はマテリアルボディの出番も無かったしな。
「それじゃウチらはこれから特訓!誰がジュンを狙っていようとも撃退出来る力を手に入れるわよ!」
「ふむ…まぁ問題無いでしょう」
「ただノワール侯爵を護衛するだけというのも退屈だと思っていたのです。部下達を鍛え直すいい機会でしょう」
「うふふ……手合わせいっぱいしましょう」
「訓練ならいくらでもお付き合いしますよ、ノワール侯!」
団長達も特訓には賛成らしい。俺も望んだ事だから問題ナシ。アイが言いだしてくれて助かった。
「そりゃいいけどよ」
「ジュン、エリザベスさんの事、忘れてな~い?」
「忘れようとしてる?」
……覚えてるけどね。もうこの流れがね。嫌な予感しかしないんだよ……はふん。




