第307話 気合い入ってました
「ノワール侯爵様!これ、私の気持ち――」
「それ以上侯爵様に近付くな!許可なく近づく者は容赦なく排除する!」
「ノワール侯爵様。どうかこの手紙を――」
「手紙なら私が預かろう。だから下がりたまえ」
「侯爵様!これは我が主からの――」
「貴様!何を取り出すつもりだ!手をゆっくりと上へあげろ!」
…………やりすぎじゃね?
ベルナデッタ殿下に会って安心させた後、ガウル様とお茶を飲んで部屋を出たら…護衛が待機していた。
その数、元から一緒だったソフィアさんを除いて十名…ガウル様やパオロさんの護衛を含む十名ではなく、俺の護衛のみで十名だ。その内二名は顔見知り、白薔薇騎士団の二名だけだ。あとの八名は他の五大騎士団から各二名ずつ派遣された護衛…なのだが。
「さ、ノワール侯爵。進みましょう」
「馬車は既に用意されています。お早く」
俺はてっきり護衛は建前で俺の監視がメインだと思っていたんだが…城内だと言うのに近付いて来る令嬢、文官、騎士、平民、貴族問わず威圧してる。
正しい護衛の姿ではある……のだろうけども。いくらなんでも王城内でそこまでせんでも。
あんた達、俺が死ぬって予知は聞かされてないよね?なのに何でそこまで気合い入ってんの。あの女の子なんか怯えて泣いちゃってますがな。
「前にも言ったけれど、ジュン君が例え世界最強だとしても。男を命を懸けて護るのが騎士であり女なの。更に陛下の御命令もあるとなれば全力で臨むのは当然よ」
「どこのどいつがジュン君を狙ってるのかは知らないっスっけど。ジュン君が狙われていると知った以上、これまで以上に気合入れて行くっスよ」
「……ん?俺が狙われているって知っているんですか?」
「ええ、陛下から御命令があった際に聞いています。何者かがノワール侯爵の命を狙っているという情報を掴んだ、と」
…ベルナデッタ殿下の予知能力は伏せて情報だけを伝えたか。実際、マイケルが俺を狙っていた事もあって信憑性もある、か。
しかし………
「第一斑より伝令。城内及び馬車周辺に怪しい人影は無し」
「了解。こちらも今のところ大きな問題は無い」
「第四斑より伝令――」
どう考えても各五大騎士団全員が動いてますよね。俺を直接護衛する人だけじゃなく、王城内や街にまで範囲を広げて人員を配置してますよね。
いくらなんでも大袈裟すぎやおまへんか。
『マスターからすればそう感じるやろな。でも彼女らからしたら大真面目で大袈裟でもなんでもないんやろ。見てみ、あの真剣な眼。あと、チラチラとマスターを見ては頬を赤くしとるし。アピールも含めてるんやろ』
ああ、うん……そうっスか。
「ウチの事はアウトオブ眼中なのね…いいけどさ」
「勿論、殿下先生の事も御守りしますが………なんですか、それ」
「アウト…なんスか?」
アイよ…それは死語だ。古いにも程があるだろ………一体前世では何歳だったんだ。
そんなこんなで馬車でアニエスさんと合流後、屋敷へ。本当はエリザベスさんに会いに行ってから帰るつもりだったんだがもう夕方だし皆待ってるからとアニエスさんが言うので明日にする事に。
「で、何故貴女方まで此処に?」
「フン。私とて不本意だ。だが陛下の御命令となれば仕方ないだろう」
「……不本意とまでは言わないけど、命令だから仕方ない」
「何、我らとノワール侯爵は既に戦友だ。気にする事はない」
「私は陛下の御命令がなくてもノワール侯爵の為なら何でもします!」
五大騎士団の団長と副団長が全員集まっていた。
陛下……手練れを貸すって言ってましたけど、まさか全団長を俺の護衛に回すつもりだったのか。王都で襲われると決まってるわけでもないというのに。
『アンラ・マンユ戦の事は陛下も聞いとるし、マスターの強さは知っとるやろ。更にマスターは救世主。そのマスターの死が予知されたとなれば王国の最強戦力を回すんは当然やろ。そうでなくてもマスターは娘の婚約者で息子の恋人やし。そりゃ陛下も本気出す――』
誰が息子の恋人か!ジーク殿下の性癖を何とかしろとお達しがあったばかりじゃろがい!何スルーしてそのまま突っ走らせようとしてんじゃ!認めん!俺は認めんからなそんな未来!
『えー…可哀想なジーク。一度くらい想いを遂げさせたったらええのに。ま、今やマスターは陛下…いやアインハルト王国にとって失うわけにはいかん存在なんは確かや。家臣からも国民からの人気も高いし他国の人間からの人気も高い、エロース教教皇からの関心も高い。となれば予知が変わるまでこの状態は続くと思うとった方がええ』
ええ~………早く何とかせねば。
「で、何があったんだい。帰って来て早々城に呼ばれて行ったと思ったら帰って来てすぐさま会議…それも部外者を交えてなんて。ジュンを護る会以外の人間の協力すら必要な事態が起きたと?」
今、この会議室には俺を護る会のメンバーと団長ら以外にカミラとノワール家騎士団代表としてコズミ。それからステラさんとドミニーさんも集められていた。院長先生とジーニさん、ピオラの姿は無い。ジェノバ様ら帝国の皇女とフィーアレーン大公国公子一行も不参加だ。
「ちょっと待て。私はまだジュンを護る会のメンバーになってないのか?」
「ジュンが認めてないし、当然じゃね?」
「ジュン君が認めてないなら仕方ないですね」
「おいいい!今まで散々尽くして来たろう!なんだ!利用するだけ利用して後はポイか!お前はそんな男だったのか!」
「人聞きの悪い事を。話を進めたいので騒ぐようならドミニーさんに押さえつけてもらいますよ」
「ぐぬぬ……」
「………」
いいんだけどね、別に。今更ステラさんだけ除け者にするつもりは無い。無いが…今、此処で認めるとややこしい事になるから諦めて。
「ギルドマスター、その件は後にさせてもらおう。今は陛下からの御話を皆と共有し、対策を考えるのが先だ」
「それは良いがローエングリーン伯爵。何故、この場に子供や商人、冒険者なんかがいる。戦えない素人や規律を守らない冒険者など邪魔なだけだ」
「ああん?そりゃあたいらの事か!」
「そっちだって、こど、もががが!」
「はい、二人共そこまでーどうどう、お座り」
ポラセク団長を子供扱いすると面倒な事になるのはもう知ってるからな。此処で暴れられても困るし。
「ポラセク団長、彼女達は確かに冒険者で平民です。ですが家族同然に育った信頼出来る仲間です。高い能力もある。どうか認めてもらいたい」
「む…侯爵がそこまで言うなら仕方ない」
「ふ~ん…やっぱり強いんだ…」
「家族……羨ましい」
「私は能力があるなら子供だろうと平民だろうと問題ないぞ」
ポラセク団長以外も納得したようだし、本題へ。
ソフィアさんとアニエスさんが話を進めるにつれ、皆の表情が真剣味を帯び硬くなっていく。
「――以上だ。陛下がジュンに護衛を出した理由はわかってもらえたと思う」
「まぁ、理解はしたけどよ…」
「随分と大袈裟だね。ジュンが狙われているとなれば警戒するのはわかるよ。でも五大騎士団全ての協力が必要な程とは思えないね」
「それに関しては私も同意見だ」
「私もだ。陛下の御命令とあれば従う。だが何か私達に隠しているのだろう?陛下も、ローエングリーン伯爵も。レーンベルク団長もかな」
「それは…」
「すまないがそれは言えない、ブルーリンク団長。私に言えるのは『言えない』という事だけだ」
「…なるほど。十分だ」
「それほど重大な秘密が関わっている、という事か…」
今ので一応は納得したらしい。ブルーリンク団長だけじゃなく、この場にいる全員が。
納得してもらえなかった場合はどうしようかと。俺が救世主云々ベルナデッタ殿下の能力云々は説明出来ないからなぁ。
「では護衛に関しての話を詰めていくが…ジュン、陛下も仰っていたがドライデン行きは諦めて――」
「あ、それは俺も相談したくて。院長先生がどうしても行くようなら俺も行きます、ドライデンへ」
「ジュン、それは…」
陛下もドライデンに行くのはやめておけ、とは言ってたがやめろとは言ってない。つまり絶対に行くなとは言われていないわけで。命令無視とはなるまい。
『詭弁やな。王都から出るなって言われてるんやからドライデンに行くなって言われとるんと同義やで』
……ま、最悪の場合は爵位を返上したっていいし。最優先すべきは院長先生とレイさんだからな。それでペナルティがあるって言うなら甘んじて受け入れるよ。
「……ノワール侯爵はドライデンに行きたいのか?」
「ええ。院長先生が行くなら、俺も必ず」
「……どういった事情かは知らんが暫くは無理になったぞ。陛下が何も言ってなかったとしても、だ」
「…というと?何か御存知なんですか、ブルーリンク団長」
「ヒルダから連絡があった。最近、ドライデンからの移民…いや難民か。難民が急増しているらしい。近々、ドライデンとの国境を一時封鎖するとの事だ。陛下も許可されていたからな。ドライデンから来る事もドライデンへ行く事も不可能になる。今から向かったとしても国境に着く頃には封鎖されてる筈だぞ」
……………Oh。それは………どうしよう?




