第306話 ままならないようでした
前回のあらすじ。
俺は死ぬらしい。
……俺は簡単には死なないんだよな、メーティス。
『……そやねんけどな。アンラ・マンユ戦は結構ヤバかったからなぁ。切札はまだあったけど、状況によっちゃ更にヤバい状況に陥る事は考えられるわな。それにベルナデッタが見た予知がどんなんやったか詳しく聞かんと。首ちょんぱ程度で済んでたら死んでない筈やし』
ああ、俺って首ちょんぱされても死なないんだったか……………なんで死なねぇの?
『マスターに死なれたら困るエロース様が施した安全装置……一言で言ってまえば特別製ボディやからや。わての存在も一役買ってるけどな』
ん?メーティスも俺の命綱の一つだと?
『アンラ・マンユ戦で経験したやろ。マスターが戦闘中に気絶してもわてが代わりに身体動かして戦えるし魔法で癒す事も可能なんや。首が飛ぼうが胴体が二つに別れようがわてがおる限り何とかしたる。心臓が破壊されへん限りな』
…………なんか吸血鬼みたいだな、俺。
「――い、おい!聞こえないのかノワール侯爵」
「あ、ああ……し、失礼しました」
メーティスとの脳内会話に集中しすぎたらしい。周りの声が全然聞こえてなかった。
「ふむ。流石に自分の死を予言されてショックだったようで。ハーブティーでも用意させようかノワール侯爵」
「お気遣い感謝します、宰相閣下。ですが大丈夫です。それよりもベルナデッタ殿下の予知の内容を詳しく教えてもらえますか」
「うむ。ローエングリーン伯爵」
「はっ。ベルナデッタ殿下は自分の能力を自覚された事でより予知をしやすくなったようだ。ジュンが死ぬ複数のパターンを見たそうだ」
俺が無数の刃に貫かれるシーン。俺が縦に切り裂かれるシーン。俺が四肢を斬り飛ばされ瓦礫に圧し潰されるシーン。などなど……etcetc。
「連日お前の死を予知したベルは憔悴していてな。後で顔を見せて安心させてやれ」
「はい……」
まだ十歳やそこらの子供が知人が死ぬシーンを何度も見る……トラウマになってもおかしくないな。
「……あれ?そう言えばジーク殿下は?」
「あ、ジークもベルの予知能力は知ってるんだからジュンが死ぬって予知も聞いてるんだよね。何で此処に呼んでないの?」
「あー………そうだな。いつか言おう、今日言おう、明日言おうと思ってずっと先延ばしにしていたがな…ノワール侯爵」
「……な、なんでしょう」
「お前、ジークをこれ以上おかしな方向に歪めるなよ」
「――――!!!!」
「ジュン、どうどう」
「お、落ち付いてジュン君!」
「気持ちは!気持ちはわかるが落ち着いてくれ!」
なんじゃその言い方はぁぁぁぁぁぁ!まるでジークの性癖を歪めたんは俺みたいに!どう考えても元凶はあんたの娘じゃろがい!
「最初に歪めたのはアイなのはわかっているがな。だが決定的に歪めたのはお前だ。だからお前とアイでなんとかしろ。これは命令だ」
「ぬがっ…ぐぐぐ…」
納得いかん…!俺がナニしたっちゅうねん!むしろこれ以上歪まんように距離を取って来たやろがい!
「それと今回の予知はジークには報せていない。ジークが知ったら暴走するだろうからな…ベルにも言い聞かせてあるからお前達も喋るなよ」
「ジーク殿下は今日、珍しく何処かに出かけておいでだから今日の所は心配しなくていいぞ」
それは良かった………正直、ジーク殿下の事はもう俺にはどうしたらいいかわからん。可能ならこのまま会う事無くお互いの存在を忘れてしまう方向で…
『なんかそれ、遠距離恋愛になって自然消滅する恋人関係みたいやな』
やめい!俺もチラッと思ったから言語化するでない!
「で、話の続きだが…実はお前が死ぬ、という未来以外も予知されている、という事だ」
「あ、な~んだ……そっか……ならそっちの未来に行くように動けばいいって事ね。どんな予知があったの?」
俺の生存ルートもあるそうだがこちらは1パターンだけらしい。誰かを抱きしめて泣いているシーンだそうだが……それって考えられるのは……
「お前の代わりに誰かが死ぬ、という事なんじゃないか」
…俺にとってはどちらも最悪のパターンとしか言いようがないな。だがしかし、未来は変えられるんだよな、メーティス。
『そうや。今回の予知はマスターの死に方に何パターンかあるものの大まかに分けて二つになるやろ』
1,俺が死ぬ、つまり負けるパターン。 2、誰かが犠牲になるが俺が勝つパターン。
誰と戦うのか、誰が犠牲になるのかはわからない……ってとこか。
『外野から見れば、そうやな。さっきも言うたけど、首ちょんぱとか真っ二つにされるとかはマスターの死が確定した未来やないからな?』
…そうだったな。一見、負けた未来に見えてもそこから大逆転があるかもしれない、と。
つまり………………………………どーしろと?
『現時点で言える事はどっちの未来も出来るなら避けるべきってこっちゃ。大逆転出来るにしてもピンチになるんは間違い無いし犠牲者が出るんは論外やろ。そしていつ、どこで、かはわからん。となると、や。アレしかあらへんがな』
アレ…とは?
『マスターは好きなんちゃう?ずばり………特訓や!』
お……おお!異世界転生モノにある王道展開の!修行編に突入か!
『王道とかは知らんけど。ぶっちゃけ相手は魔王か魔王から魔神になった誰かで。場所はドライデンやろ、十中八九。ドライデンに行くまでにどれだけ修行出来るかはわからんけど、念動力を多少なりとも扱えるようになればかなり違って来るやろ。後は情報収集も同時並行で進めるとしよか』
よし!それで行こう!考えてみれば本格的な訓練は久しぶりだしな!それでは早速――
「ま、そういうわけで、だ。しばらく国から……いや王都から出るな。幸いにしてフィーアレーン大公国使節団は実質中止。お前は王都から離れる必要も無いだろう。護衛に白薔薇騎士団だけじゃなく五大騎士団の手練れも貸してやる。予知が変わるまで大人しくしておけ。余計な事はするなよ」
……………………でっかい釘を刺された気がする。白薔薇騎士団以外の手練れって、つまりは護衛兼監視ですよね?
「さて、話は終わりだ。ローエングリーン伯爵は残れ、護衛に関しての話を詰める。ノワール侯爵はアイを連れてベルの所へ行け。レーンベルク、お前も行け」
「「はっ」」
「陛下、ガウル様もノワール侯爵に会いたがっておいででは」
「ああ、そうだった。ベルの後はガウルの所へ行け。ガウルには伝えておく」
「ちょうど私の夫もガウル様と一緒に居るはずだ。必ず行くように」
……………………修行すら思うように出来ないのだろうか、俺は。
『そういやエリザベスんとこにも行かなあかんかったんとちゃう?』
……………………忘れたままでいたかったよ。
「ああ、残りの五大騎士団とのパーティー、日程が決まったからな。必ず予定を空けておくように」
……………………それも忘れたままでいたかった。




