第303話 借りがありました
「……どうです?」
「大丈夫ですね、問題無く行けます」
「なら…私達は行きます」
「ええ。次のお茶会は場所を変えましょう。また手紙を送りますから」
……次のお茶会は無しがいいんですけどね。
お茶会を終え、エロース様との対話を終えた俺達は当然王国に帰る事に。
当初は普通に朝食を終えてから、午前中に街を出る予定…だったのだが。何処からか俺達が今日帰るという情報が漏れ……いや普通に考えればお茶会が終われば翌日には帰るとわかるか。
兎に角、街の出入り口付近には大勢の女性らが待ち伏せしていたので出発急遽延期。苦肉の策として真夜中に出発する事に。
そうでないと王国まで着いて来そうな人もいそうでやむなしだった。
これ以上厄介事の種を持ち帰るわけにはいかんのだ。なんせ…
「それではジェノバ様方をお願いしますぞ、ノワール侯爵」
「ドロテア、コンチェッタ。ジェノバとカサンドラの言う事をよく聞いて、ノワール侯爵に迷惑を掛けないようにね」
「「は~い」」
…折角、ミネルヴァ様を送り返したのに。うちで預かる皇女が三人に増えてもうた。実質カサンドラ様もうちで預かってるようなものだから四人になるか。
「魔王に関しては帝国と王国…いえ皇家とノワール侯爵との合同で、と言った方が正しいですかな。兎に角、情報の共有は大切ですからな。お互いの窓口としてジェノバ様に白羽の矢が立ったわけでしてな」
とかなんとか言ってたがジェノバ様が王国に来るのは既定路線だったに違いない。何故なら彼女、近衛騎士団を辞めていたのだから。
「ライバルに勝つ為に、これ以上傷を増やすわけにもいきませんし」
そりゃ王国に長期滞在するのなら近衛騎士を続けるのも難しいだろうけども。もうちょい建前を気にして欲しい。ライバルってクリスチーナでしょ?またあの勝負やんの?子供に悪影響与えそうだし、控えていただけませんかね。
…ドロテア様とコンチェッタ様の二人は俺の所に行きたいと、ミネルヴァお姉様だけズルいと駄々をこねた結果だ。
その言動は五歳児らしいと言えばらしいのだが何者かの入れ知恵な気がしてならない。
「そうは思いませんか、何者さん」
「はて。何の御話ですかな」
小首を傾げてとぼける宰相だが間違いなく関わってる。駄々を捏ねる二人を真っ先にフォローしてたし、皇帝陛下も援護してたからな。
「あ、ならあたしも王国に帰っ――」
「あんたはダメよ。王国に行ってる間に溜めた分とジェノバが抜ける分の仕事があるから。当分は昼寝なんて出来ないと思いなさい」
「………ノワール侯爵。物語のようにあたしを連れ去って――」
「拒否しまーす」
「あたしの身体を好きにしていいから!」
「遠慮しまーす」
と、ツヴァイドルフ皇家とはこんなやり取りが。他の皇女達もエジェオ様も羨ましそうにしてたがなんとか自重してくれた。
皇女達の世話役と護衛の騎士も増員されたので行きよりも帰りの方が帝国の人間は人数が増えてしまった。
更にフィーアレーン大公国の公子一行だが…
「あたしも王国に行くわ!夫が居るんだもの当然よね!」
「マルちゃんはいつ結婚したの~?」
「マルレーネは未だ未婚、未通の女」
「未通は関係ないじゃない!将来の夫だからいいのよ!」
そんな予定は無いので何にも良くないが。国に無断で大丈夫なのかとか、公子としての責務があるんじゃないかとか色々説得を重ねたがジェノバも行くなら尚更行かないわけにはいかないと、頑として聞かなかったし、これが原因で大公国との関係を悪化させてもマズいとクライネさんとも相談した結果、渋々受け入れる事に。
「ところで予定してたフィーアレーン大公国からの使節団の話が延期になった理由ってなんなんです?」
「あ、それは…その…」
「大公様と大喧嘩して出奔したからですよ~」
「結果的に逆効果…」
「そうよねぇ~使節団として王国に行っていればノワール侯爵との結婚も国と国との話に持って行けたものね~」
「うっ、ぐっ…」
ああ…王国と大公国の友好の証としてってなれば普通に結婚を申し込むよりも可能性があるって?それはそうかもしれんが、そういう時の為の俺を護る会であって。
その可能性は無かっただろうな…それを教えるつもりも無いが。
まぁ、そんなこんなで本当に渋々と公子一行の同行も認める事になったわけで。
『最終的に泣き落としも入った結果やって言うてええんやで?』
…それだと泣かれたらなんでも受け入れちゃう男になっちゃいそうじゃん。
『間違ってへんのんとちゃう?てか、何を今更』
…それは横に置いておくとして。
同行者は増えたが居なくなった同行者も居る……なんかおかしな日本語になってるな。
一足先に帰ったのは教皇一行だ。アーティファクトの使用権に対する対価についての詳細を詰めたらドラゴンの姿に戻ったファフニール様の背に乗って帰って行った。
勿論、王国にではなくエロース教本部に。その理由は――
「エロース様直々に本部の移転を勧められたからな。神託も頂けるそうだし、大きな問題もなく進められる筈だ」
「移転が為されればエロース教の歴史に刻まれる大きな出来事となるでしょう。愛の為にも必ず成し遂げてみせます!」
『魔王との闘いには儂も協力するからの。また会おう、御同輩』
「忙しくなりますね」
と、各々が気合いたっぷりに。エロース教本部移転を実現すべく帰って行った。
そして…その為のとばっちり…いや恩恵?たなぼた?を受けて出世した人が一人。
「――というわけで、司祭ジーニ。貴女を大司祭に任じます」
「エロース教本部を王国に移転するにあたっての事前交渉を主にやってもらう事になる。懸命に励んでくれ。ではな」
「………はい?…え?…はいいぃぃぃ?!ちょ、ちょっと待ってください!」
「正式な辞令と指示書は本部に戻り次第出しますからー!」
出発直前に言いたい事言って去っていく教皇一行。後に残された司祭様は茫然としていた。その様子からして司祭様にとっても寝耳に水な話だったらしく。司祭様の再起動に暫く時間を要した。
何しろエロース教において大司祭とは枢機卿に次ぐ地位であって、エロース教全体でも百人といないのが大司祭。枢機卿とは歴代教皇の一族しかなれないので一般信徒が辿り着ける最高位になる。
大司祭より上の地位で枢機卿よりも下、というのは無くは無いが大司祭長という大司祭を纏める役職的な物なので実質司祭様は…ジーニさんはこれ以上の出世は望めない事にはなる。
が、出世には間違いない。出世するような功績は挙げてないし想定外の出世なので相当に困惑してるようだが。
世界最大宗教エロース教の大司祭となれば発言力も大いに増す。交渉がしたいと言えば王国政府も無視は出来ない…というのが狙いではあるんだろう。
「良かったわね、ジーニ」
「その権力で私とジュンの幸せな結婚生活を実現させてくれ」
「………」
「あなた達ね…」
そんなジーニさんに院長先生らは塩対応だったが。特にドミニーさんは心底どうでも良さそうだ。
とまぁ、出発前のそんなこんながあって。俺達は真夜中に王国に帰るべく出発。ベッカー辺境伯の根回しもあってスムーズに街を出る事が出来た。
「なんか夜逃げみたいだね。ウチらな~んも悪い事してないのに」
「すみません…帝国の民が御迷惑を…」
「ああ、ジェノバを責めたいわけじゃないから気にしないで」
アイとジェノバ様ってなんか仲良くなってるな…コミュ力高いなアイは。アム達やソフィアさん達ともあっと言う間に打ち解けていたし…ん?
「停まった?」
「ドミニー、どうした」
「………」
馬車の前方に何か…灯りを持ってるとこを見ると人間、待ち伏せか。
盗賊…或いは何処かの貴族からの差し金か。どっちにしろ真夜中に出たのに見つけられるとは…運の無い。返り討ちにあうんだから真に運が無いのは向こうかもしれないが。
『どれどれ……ああ~大丈夫や。敵やないで。てか、なんで居るんやろな」
へ?敵じゃないって……待ち伏せしてるのに、って、アレは――
「おー本当に来たぞ」
「ユウ、すごーい」
「その智謀に脱帽」
アム達やんけ。リヴァにハティも見える。それにあの馬車はクリスチーナの馬車とローエングリーン家の馬車だな。
で、馬車から降りて来たのは……まぁ予想通りの面子ではある。
「クリスチーナ、ユウ、カタリナとイーナも一緒か…どうしてこんな所に」
「いやなに。最近、私達はジュンと一緒の時間が無かっただろう?」
「本当ならわたくし達もお茶会に参加したかったのですが…」
「私達は招待されていなかったからな。色々雑務もあったし。だがせめて帰りの旅路くらい一緒したいとクリスチーナと相談してたんだ」
なら何故街に入らず外で待ち伏せなんて真似をしたのかと問えば。ユウの発案でそうなったらしい。
「お兄ちゃんの事だから帝国の平民貴族問わずたぶらか…人気者になって街を出るのも一苦労な状態になってると思って」
「今、誑かしたって言ったか」
「言ってないよ?で、私達がベッカー辺境伯邸に行っても入れてもらえないだろうし。招待もされてないし予定外の客が多すぎて余計に。だったら帰り道で待ってた方が得策かなって」
相変わらずユウが賢すぎる件について。
しかし何か企んでると思ってたが此処で合流する為だったとは。可愛いもんだからいいけどさ。
「それだけの為ってわけじゃないさ。レッドフィールド公爵領で商談があったしね。ちょっと足を延ばしただけさ」
国境を越えるのをちょっとと言っていいんですかね。
「あたいらも依頼を受けたんだよ」
「こっちの方に魔獣討伐の依頼があったんだよ~」
「ジュンの為の情報もある」
「公爵領に出たAランクの魔獣の情報を集めておいた。少し遠回りになるが久しぶりに皆で冒険と行こうじゃないか」
「それはグッジョブ!」
「……グッジョブってなんだい?」
確かにここ最近は冒険者としての活動が出来てなかったしな!パーティーやら何やらで息抜き出来てなかったし凄くありがたい!
『まぁ、ええんちゃうか。レイの居場所もわかった事やし。ドライデンに向かうには準備も必要やからな。女王の許可とか』
……陛下の許可が必要なのか?
『そりゃいるやろ。ついこないだまで内乱してた国やし。今は落ち着いとるとしても安全面を考えたら他国の貴族がそうホイホイと入れるとも思えんし。侯爵なんて大物が他国に行くなら行くで名目も必要やろ。まさか馬鹿正直にレイを迎えに来たって言うわけにもいかんしやな。レイの周りには他の魔王も居るって考えるんが自然なんやから』
……うん、そうか。そうだな。よし!
「帰ってから考えよう!」
「「「「「何を?」」」」」
『マスター…現実から目を逸らしたいだけやろ?』
だって…それだけで超面倒臭い事になりそうじゃん!少し帰るのが憂鬱になって来たな……
「あ、そうだ、伝言があったんだった。忘れねーうちに伝えとくぜ」
「伝言?誰から」
「エリザベスさんだよ~」
「貸しを返して欲しい、だって」
「近々店に来いってよ」
……………………ああ。
エリザベスさんに借り、確かにあったなぁ…すっかりポックリ忘れてた。
…嫌な予感がする。増々帰りたくなくなって来たなぁ……
8/28 ルー達が来てた事を修正しました。




