第298話 救えました
突然だがメーティス。愛は世界を救えると思うか。
『え。ほんまに突然やな…救えるんちゃう?知らんけど』
なら愛が世界を救えない時は、何が世界を救うと思う?
『……なんとなく言いたい事はわかって来たけど。エロとちゃう?』
俺もそう思う。
少なくともこの世界では愛よりもエロが適任だと思う。
「ノワール侯爵様……エロい」「美しい……あとエロい」「神々しい…あとエロい」「輝いてる…あとエロい」
「「「「「エロい…」」」」」」
俺の前に跪いてる女達を見る限り。
……どうしてこんな光景を見る羽目になったかと言うと。ベッカー辺境伯を護る為だ。
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ベッカー辺境伯が爆発した後、お茶会は中止。彼女を寝室に運び、診察する事に。
付いて来たのは皇帝陛下と宰相、ジェノバ様にカサンドラ様。教皇一行と公子一行。
俺の側からはアイと院長先生達。それからクライネさんだ。
「で。ベッカー辺境伯の身にナニが起きたのか、これから調べるわけですけど…本当に俺がやるんですか」
「ノワール侯爵が適任ですからな。経験があるのでしょう。王国会議で」
ベルムバッハ伯爵達の事か………なんであんたが知ってんだ。
…また無許可で脱がすのか。しかも今度は他国の貴族を。今度こそ問題になるんじゃね?
『ならへんて。現実を見ようやマスター』
わかったよ……で、今回は何処が本丸なんだ。
『今回は何処にも何にも無さそうやで。干渉はもう無いしスキャンで見る限り異常なし。つまり…』
……つまり?
『全裸にしてもな~んも出てこうへん。だから触り放題見放題。好きなだけイジってええで』
ええわけあるかい!
何にもないってわかってるのに全裸にするとか罪悪感が凄いわ!
『大義名分があるんやからええやん。異常が無いか確認するんも大切やねんし。医者が診察で裸見るんを咎めるヤツはおらんやろ?それと同じや同じ。もしかしたらデウス・エクス・マキナで発見出来へん異常があるかもしれへんし。ほれほれ』
ぐっ…だから正論パンチでエロい事させようとするのは止めろ。
「仕方ない…すみません、ベッカー辺境伯。宰相がやれって言ったので文句は宰相に言ってくださいね」
「それで構いませんが気絶中の人間に言っても聞こえないでしょうな。聞こえてても文句は言わないでしょうがな。それにしても…本当に初心なのですな」
「意外よね…もしかして婚約者なのに何もさせてもらえてないのかしら、アイシャ殿下?」
「…え!?そ、そういうのはまだ早いかなって……ウチはまだ未成年だし、子供がデキちゃったら……その、ええと……」
「…?私が言ってるのはアイシャ殿下がノワール侯爵に何もさせてもらえてないのかって事よ。婚約者なら普通何かあるでしょ。ノワール侯爵の反応ってまるで…童貞の男そのものじゃない?孤児院育ちで女として育てられたって話は聞いているわ。でも、それにしては女に慣れてないって言うか…チグハグよね」
「あ、ああ……そういう意味ではジュンのガードは緩いと思うわ。最後の一線だけは護ってるけれど」
「屋敷内ではラフな格好で居ますしね。夏場なんて特に…目の保養です」
「私が尻を揉んでもそんなに怒らないしな。偶に誘ってるんじゃないかと思うぞ」
「うるさいですよ外野!」
一喝してもまだヒソヒソボソボソと…「童貞なんだ…」とか「緩いんだ…」とか言ってる。
ガードが緩いのはむしろこの世界の女性達でしょ、間違いなく。
『だーかーらー。それがこの世界では普通で、おかしいのはマスターになるんやって』
…不毛な議論は止めにしよう。とっとと終わらせよ…
「…妙に手慣れてますな。童貞なのに女の服を脱がすのが得意な美少年とは…何というか、背徳感が凄いですな」
「……ジュンは孤児院では年下の…いえ、他の子の世話を良くしてくれてましたから……」
「なるほど。調教は既に済んでいる、と。良い趣味をされてますな院長先生」
「何してもエロ方面に話を持って行くのはやめい!」
誰が調教済みやねん!服脱がすのだけでそんな判断されてたまるか!
「…で、どう?何かわかった?」
「回復魔法なら私もミネアも心得があります。必要ならお手伝いしますが」
「爆発する前に感じた気配が無いから、もう大丈夫だとは思うがのう」
ファフニールも感じてたのか。色欲や暴食の紋と同種の気配を。
その見立ての通り、異常は何も……あ。
「う、ううん……」
「あ、気が付いたかしらベッカー辺境伯」
「……陛下?私は一体……ノワール侯爵?」
ベッカー辺境伯が目を覚ましてしまった。全裸で。
「……ええと」
「……………どうぞ」
「どうぞじゃねぇ。顔を隠すな、股を開くな」
こんな衆人環視の下おっぱじめるわけあるかい!そこまで性癖歪んでないわ!
『多少は歪んでるって自覚してるんや?』
……歪んでねぇし!
「そうじゃなくてですね。これはカクカクシカジカ」
「そういう事だから。何かおかしな所は無い?」
「いえ、特には。でも…妙にスッキリしてます。心が軽くなって身体も軽くなったような。肌艶も心無かいいような」
言われて見れば確かに?去年見た自信無さげな顔も今日見たストレスが溜まった不満顔も今は無い。
妙にスッキリして憑き物が落ちた良い表情をしてらっしゃる。
「他には何かないの。貴女が爆発する前…誰かに何かされたとか何か渡されたとか」
「いいえ。会話以上の事は…精々握手くらいで」
「……貴女、魔法は得意だったかしら」
「いいえ。私に魔法適正は無く、魔法はおろか武芸全般不得手です。一般兵にも劣ります」
ベッカー辺境伯の魔力量は少ない。あるにはあるがとても魔法使いと呼べるような量ではないのは確かだ。
つまり、あの爆発は自力で起こしたモノではなく、やはり外的要因で起きた爆発と見るべきなんだが。
此処までの話で何かわかったか、メーティス。
『データが少なすぎて確証も確信も無いけども。勇者の…いや、魔王の能力なんは間違いないやろ』
それはわかってる。問題はどういう能力なのか、だ。何故、ベッカー辺境伯が選ばれた?今回は事前に接触する等したわけじゃなさそうだぞ。
『ん~…多分やけど感情がキーなんちゃうか』
……感情?
『レイに浮かんだ痣。どんなんやったか覚えてる?』
確か…怒りの形相のような痣だったとか何とか。司祭様が言ってたな。
『せや。多分、それぞれの魔王の紋は表情で特性を表現しとるんやろ。暴食は涎をたらした顔、色欲はいやらしく嗤った顔。怒りの形相は憤怒やろな』
…つまり?
『憤怒の魔王の能力の一つは感情の爆発があるんちゃうかって事や。怒り、不満、ストレス……それらが積もり積もったもんを燃料にして爆発する。普通ならプッツンするだけやけど、実際に爆発するとこが性質悪いなぁ』
負の感情が溜まった人物が標的になるってわけか。確かに、ベッカー辺境伯は溜まりに溜まってただろうけど…何故、彼女が標的に?
ベッカー辺境伯がレイさんと関わりがあったとは思えないが…
『そら勿論、ターゲットはマスターやろな。ベッカー辺境伯は爆発しても無傷、むしろストレスが無くなってツヤツヤお肌になっとる。ターゲットを巻き込んで爆発させるんが狙いやろ』
それは俺を爆発させない理由にはなるけどベッカー辺境伯を狙う理由にはならんだろ。普段身近にいない人物なんだから。
『マスターの身近…身内には色々対策を施したからなぁ。爆発させる事が出来んねやろ。マスターを狙って能力を発動させてはいるものの条件に合う人間が居らず…ようやく合致したんがベッカー辺境伯やったってとこちゃうか』
………………完全なとばっちりというわけか。爆発させられたベッカー辺境伯も、爆発で負傷した人達も。
無差別テロみたいな真似しやがって。
でも、これは………この場では説明出来ないな。
『現段階では全部憶測に過ぎへんもんな。証拠も何も無いし。仮に証拠があってもレイが犯罪者になってまうもんな』
悪い事したんだから罪を償うのは当然だが……院長先生の前で皇帝陛下や教皇の前でそんな事言うのはなぁ……流石に憚られる。
王国に帰れば帝国の人間は標的にされないだろう。この場はなぁなぁで済ますとして、王国に帰ったら………お?
「姉さん。いい?」
「ザビーネ、どうしたの?」
「貴族達が騒いでるの。今回の事件の説明と責任の所在を求めて。特に怪我をした貴族が」
お茶会は中止になってもその場で即解散となったわけではない。
負傷した貴族には何らかの賠償は必要だろうとは思っていたけど……目を覚ましてすぐに騒ぎ始めたらしい。
残ってる貴族の応対を皇帝陛下の妹君達がしていたのだが、抑えきれなくなって救けを求めて来たようだ。
「面倒ね…こちらもまだ殆ど何もわかってないのに」
「状況から考えるに何者かがベッカー辺境伯に何かした結果起きた事件なのは間違いないと思われますが……何分証拠も何もありませんからな。傍から見ればベッカー辺境伯が起こした爆発事件。ベッカー辺境伯が何かしらの補償をしなければならないでしょうが…流石に酷ですな」
「コクコクコクコク」
宰相の言葉に激しく頷くベッカー辺境伯。
お茶会からして巻き込まれただけのベッカー辺境伯にこれ以上重荷を背負わせるのは心が痛み過ぎる……裏事情を知ってる分、余計に申し訳なさで一杯になる。
というわけで、なんとか出来ないか相棒。
『せやなぁ…ベッカー辺境伯自身はピンピンしてる上に肌艶よくてスッキリしてるから余計に反感買うやろし。殴られるだけで済まんやろなぁ』
他人を巻き込んで爆発したくせに本人はツヤツヤテカテカ、気分スッキリ爽快って顔してたら確かに腹立つだろうな。
本当に性質の悪い能力…で、何かないのか。
『ん~…ようはベッカー辺境伯に責任が及ばんように、貴族らを納得させればええんやろ。あるっちゃあるけど…マスターの出番になるんやけど』
俺?ベッカー辺境伯には負い目があるから何か出来るならやるが…
「私がベッカー辺境伯に責任は無いと言っても何にもならないわよね。何か案は無いの、宰相」
「姫様が言っても火に油でしょうな。で、あるにはありますが…協力して頂けますかな、ノワール侯爵」
宰相も何か案があって俺にやって欲しい事があるらしい。もしかしてメーティスと同じ案か?
『マスターに一肌脱いでもらおうかなって』
「ノワール侯爵に一肌脱いでもらいたいと」
「はぁ…具体的に何を?」
何故かメーティスと宰相のセリフが一部シンクロしとる。どうやら本当にメーティスと宰相の案は同じらしい。
『お茶会に集まった貴族らの元々の目的はマスターやん?』
「お茶会に集まった貴族達の元々の目的はノワール侯爵でしょう?」
『せやから』
「ですから」
『マスターを差し出せば誰もが溜飲を下げるやろなって』
「ノワール侯爵を差し出せば誰もが溜飲を下げるでしょうな」
「「「「「ちょっと待て~い!!」」」」」
Oh…俺より先に反応してる方々が。差し出すって…文字通り俺を差し出すって事じゃないでしょ?
「なんでベッカー辺境伯をたすける為にあたしのノワール侯爵を差し出さなきゃいけないのよ!」
「いつマルちゃんのものになったの~ターニャちゃん」
「……今、マルレーネの中で」
まだ妄想世界から帰って来てないのか。早く目を覚ませ。
「散々つくして来た私だってまだ尻しか揉んでないんだぞ!奴らに差し出すくらいなら私が先に喰うわ!」
「ステラ…首、置いてく?」
ギルドマスター…あーたは何か仕事する度に対価を求めて来てたでしょうが。
『まぁ、反対されるやろな思うた』
「まぁ、反対されると思いましたが」
何故かシンクロしてる二人が話す案。それは俺がベッカー辺境伯を赦すように言えば誰もが納得するだろう、と。
「勿論、ただ赦すように言うだけではダメでしょうな。そこでノワール侯爵には何かして欲しいのですが」
「何か、とは?」
「そうですな例えばキスとか」
『ハグするとか』
「「「「「絶対にダメー!」」」」」
具体的に何人いるか知らんが一人一人にキスしてハグしたり出来るか!陽がくれる…のは別にいいけども!時間掛かり過ぎるわ。
『え~…ほな、アレや。文字通り、脱げば?』
は?脱げ?
『マスターがお詫びに裸になるって言えば望む結果は得られるんとちゃう?』
いやいや……いやいやいやいやいやいや。俺が脱いだからってどうなるっちゅうねん。
『どうなるって…これまでのことから予想出来るやろ。何も全裸になれってわけでもなし。上半身だけでええんやって』
上半身って…そんな事で納得するか?大怪我した人だっているんだぞ。俺が治したけど。
『ええからやってみいや。ベッカー辺境伯を全裸にしといて自分は脱ぐの嫌なんて通らんで』
いや、お前、それは…ええい、やればいいんだろやれば!
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と、言うような事があって冒頭に戻る訳だが。
言われた通り、文句を言ってる貴族らの前でお詫びにと脱いでみたら。
「おお、神よ…」「後光が、後光が見える…」「神は此処に居た…」
なんか全員が跪いて涙ながらに語っていらっしゃる。
何か宗教画にこんなシーンあったような気がするな…裸だったのは男じゃなく女で、跪いてるのは女だけじゃなかったと思うが。
「いやはや…物凄いサービス精神ですなノワール侯爵。パシャっとな」
「何故写真を撮ってるんです…」
「姫様にそろそろ新しいオカズを提供しようと思いましてな」
「陛下と呼びなさい……色んなアングルで撮りなさい」
鼻血出てますよ、皇帝陛下…
「ジュン…ウチが言うのもなんだけど、他に無かったの?」
「言ってくれるな…」
俺だって他に何かあったんじゃないかって思ってるよ…
「マチルダ……お前の教育が悪かったんじゃないか?」
「…女として振る舞うようには言って来たけど、男だとバレないようにも注意して来たわ。でも、どうしてか無防備なのよ」
「確かにジュン君て昔から無防備だったわよね…有難い事に」
「……………」
俺としては髪型以外は女として振る舞って来た感覚は乏しいですからね……あとゴミを見る眼はやめてくださいドミニーさん。
「「「「「ノワール侯爵……エロい……」」」」」
…………はぁ。
取り敢えず、愛が世界を救えるかどうかはわからんが。
エロがベッカー辺境伯を、人を救える事は実証されてしまいました、とさ。




