第294話 同じでした
「………さて、まだまだ言いたい事は山積みですが。このまま此処で立ち話もなんです。お茶会までまだ少し時間がありますので部屋まで御案内しましょう。皇帝陛下も昨日の内に到着されてますので、後程御案内しましょう」
「あ、はい…」
多少は文句を言えてスッキリしたのか、素の表情でベッカー辺境伯自身が案内を始めた。
「サーラ姉さん、もう来てるのか…って、ドロテアとコンチェッタが居るなら当然か。じゃ、アタシも着替えるか。おい、ミネルヴァ!いい加減起きろ!お前も着替えるんだよ!」
「ん~…このまま部屋まで連れてって~…」
「ああ、カサンドラ様にミネルヴァ様。御二人共いらしたのですね。気付きませんでした」
「最初っから居たよ…なんでそんなにとげとげしいのさ……いや、なんとなくわかるけど」
ああ…うん。居たな、この二人も。俺も忘れてたわ。
しかし、皇帝陛下が来てるなら先に挨拶に向かう方がいいか?
アイも…同感みたいだな。
今回はアニエスさんもソフィアさんも来てない。代わりにクライネさんが白薔薇騎士団からの護衛を率いて来てる。
本当は二人も付いて来ようとしたのだが二人の仕事が山積していて今、王都を離れるのが出来なく。泣く泣く諦めていた。
まぁ、二人はお茶会に招待されてないしな。
代わりに何故かレティシアがシルヴァンと共に参加しようとしたが面倒事が増える気がして…いや、確実に増えるから却下。
イエローレイダー団長やグリージィ侯爵も付いて来ようと画策してたようだが未然に防げた。
クリスチーナとアム達は仕事があぅて来れなかったが.何やら企んでいる顔してたのが気になる……が、まぁ兎に角、今回は相談役になってくれる人が少ないというわけだ。
「ベッカー辺境伯、先に皇帝陛下に挨拶をしたいのですが」
「……そうですか。嫌な事は早く終わらせるに限りますしね。ノワール侯爵とは気が合いそうだ」
「いえ、別に嫌な事では…」
…思った以上にベッカー辺境伯は腹に据えかねているらしい。あれだけの貴族が押しかけて来る事は想定外で何の対応策も用意してなかったんだろうな。当然、心構えも出来てなかったわけで。
しかも、このお茶会自体、ベッカー辺境伯の与り知らぬ所で決まった話。費用は皇帝陛下持ちで、他にも何らかの配慮がされてるだろうけど。それらを差し引いてもベッカー辺境伯がキレるに不足ない事態なんだろうな、これは。
「それでは先に陛下が居る御部屋に。ああ、そうそう。陛下は今、応接室で客人と御話しをされています。宰相とジェノバ様も御一緒に」
「客人?お茶会に飛び入り参加しに来た貴族か?姉さんが直接応対する相手となると…ヒッターマイヤー公爵とか?」
「いいえ。年増の色ボケヒッターマイアー公爵も若作りのあばずれアーレスマイアー辺境伯も来てます…というか、帝国貴族のトップからどこぞの底辺木っ端貴族、果ては聞いた事もないゴミクズ商会会長まで来てますが。公爵や辺境伯といった大物はお茶会の参加を認める代わりにその他大勢の者共の対応をさせています。あとはガブリエラ様達姫様方も対応を。皇帝陛下が対応しているのは一番の厄介者。招かれざる客でして。全く…どいつもこいつも私にかかる迷惑ってもんを考えて欲しいものですよ!そうは思いませんかノワール侯爵!」
「…………ほんと、すみません。巻き込んですみません」
「ウチも謝る…ごめんね」
「アタシも謝る、悪かったよ…だから落ち着きなよ…アタシとミネルヴァも手伝うからさ」
「え~…やだ~めんどくさ~いぃ~」
多少スッキリした程度では抑えが効かないらしい。状況を口にする事で隠しきれない不満が口から漏れ出している。
……御土産、もっと豪華なの用意するべきだったかな。いつものようにエチゴヤ商会の商品だから人気の品ではあるんだが。
「……で、厄介者って誰さ。姉さんに宰相、ジェノバが揃って相手しなきゃいけない相手なんて帝国内にいる?」
「居ません。実際、国外からの客です。フィーアレーン大公国公子マルレーネ殿ですよ」
「「「え」」」
…マルレーネ?フィーアレーン大公国のマルレーネ・カーヤ・フィーアレーン?なんで?
陛下がフィーアレーン大公国からの使節団の来訪は延期と連絡が来たって言ってたから何の用意もしてませんが?いや、延期にならなくても忘れてたから何にも用意してませんでしたけどね!?
『覚えとったとしてもマスターは何にもさせてもらえんやろ。実際、アニエスらが準備は進めとったし。まぁ延期の話がなかったとしても、今来たら関係ないわ。そもそも此処は帝国やし』
そりゃそうなんだが…土産すら用意してないぞ。
つうか…なんだよ、もー…延期になったって聞いてホッとしてたのに。なんで此処にいるわけ?しかもお茶会の日に………まさか狙って来たんじゃないだろうな。
『間違いなく狙って来たんやろ。使節団の話もマスター狙いやったし。それが偶然、お茶会の日に他国でのお茶会に来てる、なんて話あらへんわ』
ですよねー…ああ、やだやだ…
「フィーアレーン大公国の公子、ですか…でしたら私達も同席させていただきましょう。牽制にはなるでしょう」
「だな。マルレーネとやらの目的はわからないが、向こうにとってもわたし達の存在は予想外だろうからな」
「でしょうね。私にとっても司祭様方の参加は驚天動地。いい加減にしろと叫んだものですよ」
「「ご、ごめんなさい…」」
…さっきから教皇一行を司祭様方と呼んでいるのは教皇一行が来たのは秘密にしているからだ。知っているのは俺達王国組と皇帝陛下らとベッカー辺境伯だけ。
何故、秘密にしているかと言えば、先の戦争でエロース教とツヴァイドルフ帝国の関係が悪化して、今も関係の修復はなされていない。
教皇が代替わりしたのを機に関係修復が始まってはいるが、まだまだの段階。そんな状況で教皇がアインハルト王国からの客人と共に来た…となれば要らぬ誤解を招きかねない。
特にベッカー辺境伯にとっては。
「先の戦争でアインハルト王国の侵攻を防げなかった家として辺境伯としての家格に見合ってないとの評価は未だ覆せていません。そんな中で貴女方と秘密裏に会っていた事が広まれば…しかも帝国でも人気のノワール侯爵と皇帝陛下とのお茶会の日に。そりゃーもう滑稽極まりない憶測が飛び交い、しかし真実となって糾弾されるでしょうね!ほんともういい加減にしてくれませんかね!なんで誰も彼も私を巻き込むんですかね!人の心ってもんがないんですかね!貴方方の血は何色ですか!」
「「「「「すみません、本当にすみません」」」」」
もう謝るしかありませんわ。俺も大勢の女性から狙われて理不尽に巻き込まれてる身だからベッカー辺境伯の怒りはよくわかる。
ほんと申し訳ない。
『マスターの場合は自業自得な部分が大半やしな。その点、ベッカー辺境伯は完全なとばっちりやもんな。戦争に負けたんも先代らしいし。同情しかないわ』
お黙り!………反論は出来ない!
「………ハァ。この部屋です。御話が終わり次第、使用人が皆様を御部屋に御案内しますので。それでは私はこれで。まだまだ対応しなければならない非常識人共の相手が残ってますので!」
「「「「「あ、はい。御苦労様です」」」」」」
………ドスドスと音を立てて去るベッカー辺境伯。帰ったら侘びの品をお送りしますね。
さて、気を取り直して………入ったらまた嫌~な気分になりそうだが。
入らないで帰る事は『あかんな』許されませんね、はい。
「失礼しま……す?」
「ああ、ノワール侯爵!よく来てくださいましたな。ささ、こちらへ……おや?」
「ノワール侯爵様私の隣へ……え?」
「ちょっと。何するつもりマルレーネ……なんか見覚えのある顔してるわね」
……この赤毛のポニーテールの女性がマルレーネ?確かジェノバ様の異母姉妹か。見た目はあまり似てないな。
でも皇帝陛下が言うように見覚えのある顔…ってか、よく見る顔だわ、これ。
「………結婚しましょう」
「ほら来た!」
「ちょっ、姉さ…マルレーネ様!?」
「ちょっと~マルちゃ~ん?」
「…予定と違う」
今まで何度も見たシーンだよ!もうそろそろマンネリだよ!そろそろ別パターンいこうよ!
「あたしはフィーアレーン大公国の公子だから贅沢出来るよ帝国よりは小さい国だけど裕福な国だから心配ないよ貴方が望むなら帝国だって手に入れるしなんなら世界だって手に入れてみせるよ欲しい物はなんだって用意してあげるよあたしと結婚すれば全ての望みは叶えてあげるから結婚しようそうしよう」
「あ、そこは姉妹なんですね」
妹のジェノバ様と同じだわ。つまりマルレーネ様はてんぱってらっしゃるのね。
「ジェノバと姉妹扱いで似てると言われるのは心外ですが貴方であれば全て許しますだから結婚しましょうそうしましょうなんだったら今から教会にいって――痛~い!何すんのよ!」
「落ち着きなさいよバカ娘!いきなり求婚するなんてバカな真似するんじゃないわよ公子ともあろう者が!ちょいちょい聞き捨てならないセリフも聞こえたわよ!」
…ああ、うん。おたくの妹もしてましたけどね。見た目は似てないけど、中身はよく似た異母姉妹なんじゃ?
「ねぇ、ターニャちゃん。こういうのなんて言うんだったっけ~……『エロの伝道師』先生の作品であったじゃない?」
「即オチ2コマ……マルレーネは1コマ」
「そうそう、即オチ2コマ。初動で求婚してるから、確かにマルちゃんは即オチ1コマね~」
「うっ、うっさいわね!あたしはあんなにチョロくない!」
チョロいかどうかは置いておくとして。非常に聞き捨てならない会話が聞こえてきたぞ。
なに、まさかアイの著書って他国でも販売されてんの?あんな有害図書を?許しちゃいかんだろ!
「というわけでアイ。今夜は寝かせないぜ?」
「……わ、わーい……優しくしてね?」
「ハッハッハッ……それじゃ意味がないだろう?」
今宵のお仕置きはハードに行くぜ!




