第293話 熱烈でした
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「……………」
「これは……凄いね」
「凄いのは間違いないですが……どうしてこのような事に?」
俺達は五日間の旅を終え、メールスに到着。街に入った…のだが。
まるで帝国との戦争に勝った戦勝記念の凱旋パレードのよう…いや、あの時の俺は迎える側だったけども。
俺達の道を塞ぐ事なくメールスの住民達が街路の左右に集まり手を振っている。街路傍の建物にも人は溢れ、二階以上上の全ての窓からは身を乗り出してこちらを見ている。
前回来た時も熱烈歓迎ムードだったが…今回はそれ以上だ。
今回は王女であるアイは居るしエロース教教皇も…いや教皇が居るのは一般市民には広まってない筈だ…多分。女王陛下も宰相やその他重鎮貴族も居ないのに、何故此処までの騒ぎになるのか。
『そらマスターがお目当てなんやろ。間違いなく』
ナンデヤネン。前回メールスに来た時は街中に出なかったし、行きも帰りも一泊しただけだぞ。メールスでは特に騒ぎも起こさなかったし…こんな熱烈歓迎される覚えは無いぞ。
『ん~…まぁ大半がメールスの住民なんやろうけどな。よぉく見てみ。チラホラと見覚えのある顔があるやろ』
んん?見覚えのある顔……確かに居るな。名前は…思い出せないが。
『アレやアレ。前回帝国に行った時に出たパーティーで挨拶して来た令嬢らや。あのピンク色のドレス着た金髪巻き毛縦ロールがラッハー伯爵家の令嬢カチヤで。あっちの水色のドレス着たんが――』
もういいOKだ。個別に話す機会があれば表示してくれればいいから。そういや一応デウス・エクス・マキナにデータ登録してたんだったな…それはいいとして、何故此処に居る。
確か今回のお茶会には俺達とツヴァイドルフ皇家以外には宰相とベッカー辺境伯家とその係累だけの筈だが。
彼女達がそのベッカー辺境伯の係累だと言うならこんな所じゃなくベッカー辺境伯の屋敷で待っていればいいだろうに。
『そら多分、お茶会に飛び入り参加しようとして弾かれたんやろ。で、仕方なしに平民に混じってこんな所で出迎えてるわけや。せめて一目でもマスターを見たいってな。健気やん。ちょっと外に出て手くらいフッてやったら?』
ええ…マジでか。どこから来たのか知らんが招待されてもいないお茶会の為にわざわざ…そういうのって貴族的にどうなん。
常識知らずとか悪評が立って不味い事になるんちゃいますん。
『此処に来るまでの旅費とかもあるやろしな。仮にお茶会に参加出来てもベッカー辺境伯と皇家に大きな借り…政治的な取引もあるやろし。そういう諸々のデメリットがあってもマスターに会いたかったんやろ。ちょっとくらいサービスサービスゥ!』
サービス…手を振るくらいいいけど。やれやれ…
「あっ、ジュン?」
「おい、外に出るのか?危ないぞ」
「馬車からは降りませんよ。むしろ登ります。よっ!」
というわけで馬車の上へ。そしてボリュームが上がる大歓声……よかった、メーティスの言う通りみたいで。
これで勘違いだったら自意識過剰のただの痛い奴になってしまう所だった。
「だからドミニーさん。その痛い奴を見る眼はやめて馬車を進めてください」
「……………」
街に入ってすぐの大歓声で馬車と護衛の足は止まっていたのが行進を再開。本当にパレードのようだ。
幸いにして行進を邪魔するような存在も出来事もなく進んでいる…のだが。
「はぅぅ……ノワール侯爵様ぁ…」「あっ、目があった!今、私を見て下さったわ!」「ああ…今すぐ抱きしめたい…抱きしめられたい…」
手を振り返したら感動のあまり泣き崩れるなんちゃら令嬢。目が合っただけで大喜びするホニャララ令嬢。俺を見て終始陶酔したように蕩けた表情を浮かべるどこぞの令嬢。
精々、二言三言会話しただけの存在に、どうしてそこまで御執心なのやら。よほど退屈な日々を送ってるのかね。
『それもあるかもしれんけどな。あの令嬢…いや、此処に居る女共にとってマスターはアイドルなんやろ。スーパースターなんやろ。神なんやろ』
…神はやめい。
アイドル、スーパースター…ねぇ。俺、帝国じゃそんな存在になるような活動してないだろ。誘拐された皇女らを救った事は公表されてない筈だし、闘技大会には身分を隠して出てた。そもそも途中棄権で敗退してるし。
人気になる要素なくない?
『人の口に戸は立てられんってやつやろ。マスターが闘技大会に出てた事は貴族連中は勿論知ってるやろうし、皇女らを助けたんも知ってるやろ。それに帝国ではなんだかんだでわいと離れてる時間があったからなぁ』
うん?メーティスと離れてる時間は確かにあったし普段よりも長かったが…それがなんだよ。
『わいと離れ離れになってるっちゅうことはフェロモンが垂れ流しってわけや。普段抑えてる分、開放された時は一気にブワッとな。効果は絶大、濡れ濡れ大洪水ってわけや。内股になってモジモジしてるん多いやろ?』
………知りたくなかった、そんな事実。
いや、しかしだ。メーティスと離れてる間に接触した令嬢なんてそんなにいないだろう。此処に居るのは大半が平民の筈だぞ。
『それは闘技大会で……ギーメイやった時に周りにいた平民も混じっとるんやろ。ちょっと考えればマスター=ギーメイってわかりそうなもんやし。実況の宰相が色々ヒントだしてたしなぁ』
Oh………あんのおちゃらけ宰相め。お仕置きが必要なようだな。
『半分はマスターやし他国の宰相をお仕置きなんて出来んやろ。なんか喜びそうやし、諦め。それより屋敷が見えて来た……けれども。これはまた凄い事になってるやん』
凄い事って何………うわぉ。
「ノワール侯爵様ぁ1どうか、どうか私をお茶会に!」「ノワール侯爵様!どうかわたくしを!」「ノワール侯爵!」
……俺を呼んでいる事以外は声が重なり過ぎて何言ってるかわからん。
ベッカー辺境伯邸、その外壁の周りには明らかに貴族と思しき一団が。お茶会に飛び入り参加しようとして弾かれた連中……まだこんなに居たのか。
『しかもこれ、弾かれた連中だけやしな。屋敷の中にはまだ居るやろ』
飛び入り参加が認められた連中が居るわけね……それも多分、大物貴族ばかりが。
『皇帝でもベッカー辺境伯でも無下に出来ん貴族ばっかりやろな。流石に弾かれた連中より多いって事はないやろうけど。帝国の大物貴族ばかりって事はノワール侯爵としても無下に出来んってわけで』
それなりに応対しなきゃいけないってわけね………やだやだ。
これから待ち受けているだろう事態に辟易しながらもベッカー辺境伯邸に到着。
屋敷に入ると予想した通りの事態に遭遇……したのだが。さっきまでのパレードよりも距離が近い近い。
「「「「「ようこそおいで下さいました!」」」」」
貴族、使用人、騎士と身分問わず。玄関ホールに集まっての全力お出迎え……理性が残っているのか俺の護衛が放つ殺気にビビったのか。飛び込んで来る存在は居な……いや、居たわ。
「ノワ~ルこうしゃくしゃまぁ!」「ノワールこうしゃくさま!だっこ!」
「ご無沙汰しております、コンチェッタ様、ドロテア様。大きくなられましたね」
去年の闘技大会の時に四歳だったから、もう五歳になったか?やはり子供というのは成長が速い。孤児院の子供達もそうだったが、皇家はやはり栄養満点の食事ばかりで発育がいいんだろうな。
それに裏表の無い無邪気な子供から受ける歓迎が一番嬉し――
「うふふ………みんなうらやましそうに見てる……」「おねえさまたちもうらやましそう。あたしたちのかちだねっ」
「ちょっと御二人の教育係の方、居ましたら前に出て正座してもらえますか」
四、五歳児がなんちゅう事を。どういう教育しとるんじゃツヴァイドルフ皇家は。
『隣見てみ?大差ない王家の長女がおるで』
うわぁ…そうだった。
い、いや同じ日本人としての価値観が残ってるアイはまだマシだし、ベルナデッタ殿下は不思議ちゃんと思われてただけで普通だろ。長男がかなりマズい方向に舵を切ってるだけで。
『一度くらいジークの熱い想いを受け入れたってもええんちゃう?舵を戻すんはその後でも遅うないって』
今でも手遅れ気味なんだよ!恐ろしい事言ってんじゃない!
「………ようこそ、ノワール侯爵、アイシャ殿下」
「あっ…お、御久しぶりです、ベッカー辺境伯」
「久しぶり。ねぇ、なんだかやつれてるように見えるけど、大丈夫?」
「………ええ、なんとか。それと…エロース教の司祭様御一行、ですね。ようこそ我が屋敷へ」
「……本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「急な参加の申し入れに関わらず受け入れてもらえた事、改めて感謝する」
「ええ、ええ。それはもう苦労しましたとも。此処に来るまでの道中で大変だったのは御分りだろうと思いますがね!」
「「「………」」」
ああ、うん……あの押しかけ貴族達の大半を相手したのは皇帝でも宰相でもなく、此処に居を構えるベッカー辺境伯なわけね。それは……うん、疲れるしやつれるわな。以前会った時は気弱そうに見えたベッカー辺境伯がやつれた顔で御怒りになる様は…ちょっと怖い。
俺のせいじゃないと思うけど………なんか、ごめん。




