第292話 奪いに来ました
~~サーラ~~
フィーアレーン大公国公子マルレーネが此処に来ている…?どういう事よ。私は聞いてないわよ。
「……宰相」
「私の方にもそのような情報は挙がってませんなぁ。恐らくは身分を隠してのお忍びかと」
そうよね。
マルレーネが代表の使節団がアインハルト王国に赴く際に帝国を通過するという打診はあった。でも、その予定は延期になったと聞いていた。
それにマルレーネがフィーアレーン大公国との国境にある関所を通過したなんて報告は無かった。
つまり、此処にマルレーネが居る事はおかしい。そもそも何の為に此処にいるのか。
「十中八九、ノワール侯爵が目当てなのでしょうな」
「……でしょうね」
ノワール侯爵が来るタイミングで此処に居るって事はそうなんでしょうね。
「スパイを送り込んだ目的…何を知りたいのか、泳がせて確たる証拠を得て大公国と有利な条件で政治交渉…などと考えて放置していたのが裏目に出ましたかな」
「……そうかもね」
エルケ、だったかしら。一向に動きが無く普通に真面目に働いているだけだと聞いていたから油断していたわ。
まさかノワール侯爵とのお茶会について情報を流していたなんて。
「決めつけるのはまだ早計ですな。ベッカー辺境伯は先に会って話をしているのでしょう、何か聞いておりますかな」
「いえ…ですが今日、陛下が来る事はわかっていたようです。その…ジェノバ殿下と共に来る事も」
…マルレーネの狙いはジェノバ?直接的な行動は出ないでしょうけど…う~ん…
「…いいわ。兎に角マルレーネと会うわよ。宰相、ジェノバも一緒にね」
「よろしいのですかな。ジェノバ様に危険が及ぶ事は無いとは思いますが」
「構わないわ。それよりも問題を表面化させた方がいいわ。今後の為にもね」
相手の目的がなんなのか。それがわからないと対策も取り辛い。ま、相手が何の目的で、どんな手段を用いたとしても。私には通用しない…と、言いたいところだけど既に後手になってる感は否めないわね。気を引き締めて行きましょう。
というわけで。
マルレーネが居る部屋に来たわけだけれど。
「御久しぶりですね、サーラ皇帝陛下」
「……そうね。前に会ったのは二年程前だったかしら」
マルレーネ・カーヤ・フィーアレーン……ジェノバの腹違いの姉。ジェノバは銀髪だけどマルレーネはミネルヴァと同じ赤髪。ジェノバの銀髪は父親譲りでマルレーネの赤髪は母親譲り。
そこも気に入らない要素なのよね、マルレーネにとっては。
「それから……久しぶりね、ジェノバ」
「……ええ。御久しぶりです、マルレーネ姉さん」
「姉さんなんて呼ばないで!あたしは貴女と姉妹になんてなった覚えはないんだから!」
「…っ」
…自分から会いに来ておいてこれだ。ジェノバほどじゃないけど私達にも…いえ、ツヴァイドルフ皇家に敵意を持ってるのは相変わらずなのね。
流石に皇帝の私には面と向かって罵倒したりはしないけれど。でも私を見る眼にも確かに敵意がある。
そんなに嫌いなら来なきゃいいのに…
「……んんっ。御無沙汰しております、マルレーネ様」
「ああ、宰相。久しぶり。ごめんね、嫌な物見せちゃって」
「…いえいえ。相変わらずのようで」
で、宰相にはこの態度。皇家以外には物腰柔らかい穏やかな公子として接するのよね、こいつ。それはもうあからさまに。
きっとベッカー辺境伯にもそうしてるはず。
「……それで?貴女は何故此処にいるのかしら。公子が国境を越えたなんて話は聞いていないのだけれど」
「そうでしょうね。公務ではなく個人で旅行をしてるだけですから」
「身分を隠して、かしら」
「いけません?」
「褒められたことではないわね」
カサンドラも同じような事してるから強く言えないのだけれど。
それにしたって随分な少人数ね。この部屋にはフィーアレーン大公国の人間はマルレーネ含めて三人だけ。たった三人で此処まで来たって言うの?それはまた随分と危機管理のなってないことね。
「ご心配なく。あたし達、それなりに強いので。ジェノバ、あんたにだって負けないんだから」
「………」
以前、ジェノバに模擬戦で負けた事をまだ気にしてるのね。それで鍛えていた、と。次期大公として鍛えるのは他にもあると思うけど。
で、マルレーネの御供の二人。
一人はターニャ・デラ・ベーア。ベーア子爵家の次女で三属性の魔法を扱える一流の魔法使い。フィーアレーン大公国で一番の魔法使いとも噂される。でも小柄で口数が少なく根暗…だったかしら。
二人目はカトリーヌ・レーナ・クラインベック。クラインベック男爵家の次期当主。回復魔法が得意の医療系魔法使い。だけど彼女の一番の武器は……おっぱいね。
なによ、そのデカさ…前よりデカくなってんじゃないの。メーター越えしてるんじゃない?
ターニャも小柄な割に巨乳なのよね…私よりデカい。チッ…なんかムカつくわね。
それに比べ…
「……」
「……サーラ陛下、何か?」
「いえ、別に」
うん、ちっちゃい。私よりもずっと。
フッ、勝ったわ。
「虚しい勝利に浸ってないで。話を進めたら如何です、姫様」
「陛下と呼びなさい…虚しい勝利って何よ。私が何に勝ったって言うのよ」
「最下位争いに勝ってギリギリ最下位を免れただけの勝利でしょう。ちなみに私は二位です。メイド達含め」
「うっさいわね!最下位のマルレーネとは大きな開きのある勝利なんだから虚しくなんてないわよ!」
「あたしの何が最下位だって!?まさか胸か!胸のこと言ってるんじゃないでしょうね!あんたと大きな差なんてないわよ!」
あるわよ!あんたがイチゴだとしたら私はメロンよ!
「いえ、そこまでの差は無いでしょう。どちらかと言えばメロンは私。姫様はオレンジかと」
「自分をいいように言ってんじゃないわよ!」
「あんたもよ!誰がイチゴよ誰が!もっとあるわよ!見くびってんじゃないわよ!」
「そうね~その例えならマルちゃんはイチゴじゃなくてタマゴじゃないかしら~」
「……小さめの」
「そうね~小さめの鶏のタマゴね~」
「小さくない!もっと…ロールパンくらいあるわよ!大きめのロールパン!」
「マルちゃん、自分をいいように言っちゃダメよ~」
「ええ、ええ。マルレーネ様がロールパンなら姫様はリンゴになってしまいますからなぁ」
「「あんたどっちの味方なのよ!」」
ハァーハァー…なんでマルレーネと同調しなきゃなんないのよ…おかしくないかしら。
「……話を戻しましょ。マルレーネ、貴女の目的はなに?何故此処に来たのかしら。ベッカー辺境伯には言わなかったようだけど、私達には話してもらえる?」
「………ふん。別に隠すつもりはありません。直接宣言したかっただけです」
「宣言?」
「ええ。…ジェノバ!」
「……はい」
「貴女、アインハルト王国のノワール侯爵に求婚したそうね。そしてフラれた。そうでしょ?」
「……まだ、はっきりとフラれたわけでは…」
マルレーネの狙いはやっぱりノワール侯爵ね。つまりマルレーネもノワール侯爵に惚れたと?でも面識はまだない筈だけれど.…写真が大公国まで出回ってるのかしら。
「ふふん。どちらでも同じだけれど。いい?ノワール侯爵はあたしが貰うわ!あんた達ツヴァイドルフ皇家が父様を奪ったように…あんたの想い人を奪ってあげる!このあたしがね!」
「なっ…」
…へぇ~ほぉ~…なるほどねぇ。そう来るのね。
いいわよ、戦争ね!




