第289話 忘れてました
「やはりジュン様がエロース様の使徒だったのです!」
「実際に勇者が狙っていたわけだしな!もう言い逃れは出来ないぞ!」
「まさか勇者が複数人存在するとは思いませんでしたが。これで私達の望みも叶えられます」
「見事な戦いじゃったぞ、御同輩」
「……………」
あの戦いから三日が経った…らしい。なぜ、らしいかと言えば俺はマイケルを見送った後、その場で眠った…いや気絶したらしい。
マイケルとの会話中も頭痛は続いていたから超能力を使った影響…いや後遺症か。アンラ・マンユの自爆攻撃で大ダメージを受けはしたがベルナデッタ殿下の力で全て元に戻っていたのにも関わらず、神様の御手製特別ボディを持つ俺が気絶した。
目を覚ましてからメーティスと検証しようと超能力を使おうとしたが…全く使えなくなっていた。
超能力使用中の頭痛、気絶、使用不能になった超能力。以上の事からメーティスが出した仮説は――
『恐らく容量過多やな。マスターの身体は神様お手製の特別ボディ。普通の人間には無い能力が盛沢山やけど、それでも一応は人間の枠に納まっとる…一応?…多分。半面、新しい能力を追加する容量が残って無かったんや。超能力を使えるようになるって想定も無かった。『海の勇者』の能力で超能力に目覚めはしたけど、肉体の容量を超えたから頭痛という形で警告が出てたんや。『これ以上は危険』ってな。対策を講じん限り超能力は半永久的に封印って形にするしかないな』
俺の身体に盛り込まれた能力…抱いた女は必ず妊娠させる、子供は高確率で男児が生まれる、不老不死、首ちょんぱしても死なない、だったか?
『他にも最初の子供は男女の双子とか常人よりも高い身体能力とか色々あるけどな。兎に角、マスターの身体にはこれ以上の能力の追加は不可って事や。情報不足で確定したわけやないけど…間違いないやろ、多分。前回みたいに危機的状況になれば使えるかもしれんけど長時間使えばどうなるかわからんで』
との事だった。
自分や仲間の危機的状況においてのみ使える能力とか…超かっこいいから不満はなし。
で、目覚めてからは皆に回復を祝われたり説教されたり泣かれたり揉みくちゃにされたりして。御礼を言ったり謝ったり宥めたりされるがままになってたりしてる時に王城から呼び出しの使者が来た。
いつものようにアニエスさんとソフィアさんと登城し。呼び出された先では女王陛下とアイ、宰相。そして教皇一行が待っていた。そこで冒頭に戻るわけだ。
どうやらジーク殿下が教皇らを含む全員の前でマイケルを勇者だと言ったらしい。なにしてくれてんねんと思わなくもないが…突然の五大騎士団全軍出撃の理由もろくに説明出来てなかったから、あえて全員の前で発言する事で情報を回す必要があったとかなんとか。
それにしたって勇者と言う必要は無かったと思わなくもないが…五大騎士団を出撃させるに足る理由なんてそうはないもんなと思い直した。
それに、だ。まだ否定出来るしな。
「俺は使徒じゃありませんよ」
「まだ否定なさるのですか!」
「それはもう無理があるぞ。神託の通り、勇者が君を狙っていたのだから」
「ええ。確かに元神子のマイケルは俺を狙ってました」
「うっ…も、元とは言え神子がジュン様を狙った事に関してはエロース教教皇として誠に――」
「ですが。マイケルは個人的な恨みで俺を狙っていただけ。エロース様の使徒を狙っていたわけじゃありませんよ」
「ぬっ…」
「それは…」
幸い、マイケルは俺を使徒だと言ってなかったし、アンラ・マンユも疑いこそしてたものの他の人間は聞いてないし俺は否定してる。
偶々俺に恨みを持つマイケルが勇者になっただけで俺が使徒だと決まったわけではない…という理論で押そうと思う。
マイケルとアンラ・マンユが勇者ではなく魔王だった、というのは…今は言わなくていいか。
「もういいだろう、教皇よ。前にも言ったがノワール侯爵は女神エロースから直接断言でもされぬ限り、自分が使徒だとは認めぬと。それに納得したからこそ、帝国行きに同行する事に納得したのだろう」
「……そう、ですね。全ては帝国ではっきりします」
「貴女の言う事が本当なら、だがな。女王陛下」
「我は嘘はついておらん。だが皇帝が使わせてくれるかは別問題だぞ」
アニエスさんとソフィアさんの顔に?が浮かんでいる。やはり教皇にはツヴァイドルフ帝国皇家が持つアーティファクトの事を言ったんだな。
で、アニエスさん達は聞かされていない、と。アイは…聞いたっぽいな。
しかし、気のせいか陛下はご機嫌に見える。何か良い事あったんですかね。
「それでは教皇猊下。外していただけますでしょうか。我らはこれから重要な事を話し合いますので」
「此処から先は遠慮してもらう。ノワール侯爵を呼んだのは教皇の為ではないのでな」
「……承知しました」
「私達は決してあきらめないぞ、ノワール侯爵」
「またの、御同輩」
諦めが悪い割にあっさりと引き下がったな。しかし…前にも思ったが何故そこまで俺に拘るのか。
「困った物ですな。教皇様方には」
「全くだ。ま、わからなくはないがな」
「陛下は教皇猊下がジュンに拘る理由を聞いておられるので?」
「うむ。それは帝国に行く際の道中で語るであろうよ。さて、それでは本題に入るぞ」
ああ、そうか。教皇らが俺に会いたがってるから呼んだわけじゃないんスね。
しかし…はて?なんか緊急に話合わないといけない事なんて…あったっけか?
『何言うてるんや、ようけあるがな。マイケルとアンラ・マンユについての報告とか。何より今回は遠慮なく全力で戦ったしなぁ。デウス・エクス・マキナも見せたし。エロース様の使徒じゃないならなんやってなるわな。あとは…ベルナデッタが聖女に覚醒したっぽい件とか?』
………そう言えばそうでした。仕方ないとは言えデウス・エクス・マキナをあんな大勢の前で使って見せたのはまずかったかなあ。今更だし、後悔はしてないが。
ベルナデッタ殿下が聖女に覚醒した…というのは俺は何もしてないし助けられただけだから何とも。感謝はしてるし詳細は気になるが。
「先ずはよくやったなノワール侯爵。大体の事はアイから聞いている。元神子のマイケルが化け物と共謀してアインハルト王国の支配を策謀。ベルムバッハ伯爵らは利用されただけだったとな。ベルムバッハらに追加の罰は必要ない…いや、お前達が保護した女達の世話を命じるか」
ああ…先に目を覚ましてたアイが報告してくれていたのな。で、俺達が保護した女達というと…赤ん坊を連れてアンラ・マンユから逃げて来た人達の事か。そう言えばあの人達の事はすっかり忘れてたな。
「次にベルナデッタだ。ノワール侯爵、お前はベルの力で回復したらしいな。どう思った」
「どう、と申されますと」
「ベルの力は…聖女の力とは何だと思う。既にレティシアから聞いてはいるが直に力を受けたお前の意見を聞きたい」
…レティシアから?いや大精霊ルナの知識か。つまり…聖女の力も精霊由来か?
「…ただの回復魔法ではないと感じました。傷だけでなく衣服や防具までも元に戻りましたので。アレが聖女の力なのだとしたら…凄まじいの一言です」
実際には体力や魔力までも元に戻っていたように……そう、戻っていたんだ。まるで時間が逆行したかのように。
「そうか……フッフッフッ……ハーハッハッハッ!」
「へ、陛下?」
「流石は我の子だな!まさか三人共に歴史に名を遺す程の才覚を持っているとはな!アイは多才な上に闘技大会で優勝する程の猛者!ジークは傾国の美男子で勇者!ベルは歴史上数人しか確認されていない聖女!王国の未来は明るいな!」
ああ…だから機嫌が良さそうだったんですね。確かに三人子供が居て三人共に変人…ゲフンゲフン。偉人として歴史に名を残しそうな才覚を見せれば親としては嬉しいわな。
「…んんっ。ノワール侯爵についての報告も多数挙がっていた。教皇猊下でなくともノワール侯爵を使徒だと断じてしまいそうな内容が。私としても使徒でないなら何者なんだと問わずにいられない内容ばかりだった。光の翼が生えたとか武具が緑色に輝いたとか光の剣を出したとか」
………そう言えばそんな事もやりましたなぁ。俺Tueeeeも出来たし、後悔はしてない。
「ええと……宰相閣下。あのですね……」
「いや何も言わなくていい。アイシャ殿下からジュンが自分から言い出すまでは何も聞かないでやって欲しいと言われているし」
「お前が我ら王家、引いてはアインハルト王国に害をなさない限りは聞かないでおいてやる。お前が居なくなるような事態になれば暴動が起きそうだしな」
…居なくなるってのは、まぁ…ありえる話だが暴動は大袈裟じゃなかろうか。俺にそんな影響力は――
『あるがな。マスターを守る会の連中が確実に暴走するやろ。白薔薇騎士団にローエングリーン家にレッドフィールド家にレンドン家…オマケにエチゴヤ商会。それら全てがクーデターでも起こしてみいや。大規模な内乱に発展やで』
………クーデターまでいかんだろう、流石に、多分、きっと。まぁ、何も聞かないでくれるってぇならありがたい。
「ママ、それよりもベルの事。ジュンにまだ話してないよ」
「そうだったな。レティシアの話ではベルの中に時の大精霊が宿っている…いや生まれたらしい」
「…………………はい?」
「我も全ては理解しきれていないのだがな。特に人間の中に精霊が生まれたとかな」
陛下から聞いた話をまとめると。
この世界には時間を司る精霊が生まれる事がある。時の大精霊は人間の体内で生まれ、宿主…今代ではベルナデッタ殿下に時間を操る力を与える。
つまり俺の傷を治したのは回復魔法ではなく時間の逆行。未来予知が出来たのは時の大精霊の卵…とでも呼ぶべきものが既に存在していたから、なんだとか。
「そしてベルが寿命を迎えて死んだ時に時の大精霊は肉体から離れ世界を旅する…らしい」
「その世界ってのは別世界っぽいのよね~。だから時の大精霊は生まれても一体だけ。別世界に旅立てばまた生まれるまで不在のまま。なんで人間の体内に生まれるのかとか、わかんない事も多いみたい。ベルはおろか他の精霊とも会話出来ないみたいだし」
つまり意思の疎通が難しい、と。だからベルナデッタ殿下自身も、自分の力について無知だったと。そういうわけか。
「此処にいる人間はベルの予知能力について知っていたから伝えたが無論他言無用だ、ベルが聖女として覚醒した事は公表するが詳細は秘匿する。当面は特殊な回復魔法を使えるのみだとな」
じゃあ聖女だって事も秘密にした方がいいんじゃ…って我が子を自慢したいんスね、わかりました。
それに五大騎士団がベルナデッタ殿下の力を目撃してるし、隠せるものでもないか。
「ベルの…聖女の力については判明次第共有しよう。ベルはお前に懐いているようだし、協力を頼む事もあるだろう。その時は頼むぞ」
「…わかりました」
協力…つってもなぁ。意思の疎通が出来ないじゃな。俺に出来る事ってなさそ。
「さて、次だ。お前達にもだが今回、ジークの指揮の下で活躍した五大騎士団に何か褒美を与えねばならん。我は金銭で良いかと思ったんだが……」
「白薔薇騎士団やローエングリーン家を除いてノワール侯爵との縁を結んで欲しいという声が大多数でしたな。一部はジーク殿下の婚約者候補にして欲しいという声やシルヴァン殿の婚約者になりたいという声もありましたが」
oh…ここ最近ようやく俺と縁を結びたいと言う手紙やら何やらが減って来たと聞いていたのに。此処に来て再燃してしまうのか……宰相の言葉を聞いてアニエスさんとソフィアさんの顔がゲッソリとしてらっしゃる。
なんか、すんません。
「縁を結ぶ…つまりはお前と結婚したいという話だな。前にもあったあの書状の山と内容は同じだ。しかし今回は我が出す褒美の希望だ。無下には出来ん。だが結婚を強制も………出来なくはないが流石に数千人と結婚しろというのはな。我の娘の夫にもなるのだし、お前だって嫌だろう」
「そんな事命令されたら確実にランナウェイします」
既に千人も嫁を抱える事になりそうなのに。数千人とか……一年を通して子作りしかしない生活になりそうだわ。
『ええんちゃう。マスターの使命的には。五大騎士団全員を嫁にするとして…約五千人の嫁かいな。一日十人相手にするとして…凡そ一年と半年で全員を妊娠させられるで。ピンク色に染まった生活やなぁ。パライソ~』
な~にがパライソか!そこまで行けば地獄も同然じゃろがい!しかも一年と半年って事は全員が終わる頃には出産も終わって二人目に挑戦!てな人も出て来るやろ確実に!
身体はもっても精神がもたんわ!
「で、あろうな。だからお前と接する機会を用意する事で妥協案としたのだ。で、どのような形が良いか意見を募ったわけだがな……アレを見ろ」
「あの書類の山全てがノワール侯爵とどのような形で接したいか。その意見書だ」
………中々に痛い事を書かせたのね。だってアレでしょ?意中の相手とどんなシチュエーションでお近づきになりたいか言えって事でしょ?なにその羞恥プレイ。
「全部を読む必要はないが……中々に酷い内容ばかりだったぞ」
「ですな。観光地へ旅行などは可愛いものです」
「酷い物だと大浴場で混浴……は、まだマシか。身体の相性を先ず確かめたいなどもあぅたな」
「頭沸いてるんじゃ?」
身体の相性ってあーた…それもうゴールしちゃってますやん。
「おっと。失礼しました」
「構わん。我も似たような事を言った」
「まぁ他の意見書も似たり寄ったり。もうこちらで決めてしまおうとなったのだ」
決まった内容は陛下主催のパーティーを開くからそこでアピールしろってとこらしい。パーティーにかかる費用や場所の提供はしてやるから、と。
以前、俺にお茶会を開け、と言ったのと同じだな。落し処としては無難なとこだろう……俺の参加が強制で俺の意見が反映されてない事にはモノ申したいが。
「我慢しろ。お前の行動が原因だ」
「流石に一日で五大騎士団全員を招くのは無理がある。そこで五回にわけて開く事となった。各騎士団事に分けて招く事になる」
「あれ?白薔薇騎士団も同じ褒美になるんですか?」
「うむ。同じ任務に就いたのに白薔薇騎士団だけ別の褒賞にするわけにもいかんのでな。構わんのだよな、レーンベルク団長」
「はい。白薔薇騎士団総員、納得済です」
ええ…既に一緒に暮らしてる人もいるのに、今更そんなんが褒美になるのかね。納得してるならいいけどさ。
「日取りが決まれば連絡する。で、次だが」
「まだ何か?」
「重要な事だ。フィーアレーン大公国使節団の歓待、お前の仕切りだったろう。計画はどの程度進んでいる」
………………………………………………oh。




