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第288話 それが最期の言葉でした

「殺してやる…殺してやる…!」


 色欲の勇者…いや魔王か。


 色欲の魔王の正体はマイケル。もう二度と会う事は無いと思っていたが…まさかまさかの再会だな。嬉しくはないが。


 だがベルムバッハ伯爵らに俺を狙わせた理由はわかった。十年前の事を根に持って俺に復讐したいって事な、


 俺に言わせれば逆恨みもいいとこなんだがな。


「……無理に動かない方がいいぞ。少しでも長生きしたいならな。僅かな違いでしかないだろうけどな」


「殺っ…な、なんだこれは!俺の身体が…ど、どうなっている!貴様、俺に何をした!サキュバス…俺の女共はどうした!何故奴らは助けに来ない!アンラ・マンユは!?」


 …記憶が混濁してるのか、喰われる前の記憶が無いのか。どちらかわからんが…なんでも俺のせいにするんじゃない。


 いやそれ以前に。何故、こいつは生きている?アンラ・マンユに喰われて…それにこの状態で生きているのもおかしい。


『推測やけど…こいつは喰われたって言うより吸収されたって表現の方が正しいんかもな。完全に吸収される前にアンラ・マンユが死んだから吸収されなかった部分が残って出て来た。アンラ・マンユの不死身っぷりを残した状態で。そんなとこやろ。それでも、や』


 …それでも死ぬ運命には変わらないって事か。哀れだな…アンラ・マンユに、いや神に利用されて化け物に喰われて終わり。それがマイケルの終わり…こいつがやった事を考えると全く同情は出来ないが。


「くそっくそぉ!おい!何を黙っている!何とか言え!いや、それよりも先に俺を治療しろ!早くしろ!このままだと死んでしまう!」


「…うるさい」


「なに!」


「うるさいと言った。サキュバスウォリアーズだったか。彼女達は全滅した。お前を喰ったアンラ・マンユも俺が倒した。お前を助けに来る奴はもういない。諦めろ」


「なっ…馬鹿を言うな!俺を喰っただと?アンラ・マンユは………あっ」


 …思い出したらしいな。指の無い手で顔を覆うと動かそうとしてるが、指も無くなった事に気付いてまた驚愕している。


 マイケルは指の無い手を見てわなわなと震えた後、憑き物が落ちたような顔になり空を見つめ始めた。そして意外な程に落ち着いた声で話始めた。


「……そうか。俺は此処で死ぬのか。そうか……」


「……遺言があるなら聞いてやる。誰かに何か伝えたい事はあるか」


「………無い。俺の子供は何人か居るだろうが家族では無いし、ママは……母は俺を捨てた。友人もいないし俺に残った物は何も無い。何も、な」


「……なぁ、お前は何がしたかったんだ?俺に復讐するだけならもっと上手いやり方があったろうに」


 神子として不適格として送還されたとはいえ犯罪者になって指名手配されたわけじゃない。俺に復讐したいだけなら秘密裏に王都に入って俺の周りの人間を洗脳して行けばいい。そして洗脳した人物を使って俺を暗殺…まぁ俺はそれじゃ死なないわけだが、普通の人間なら高確率で殺せたはず。


「……………お、俺だってその程度は思いついていたし実際それに近い事をするつもりだった。だが何故か王都に入る前に俺の目的と能力がバレていた。なら後は逃げるか力尽くで行くしかないだろう…」


 ………そうかなぁ。ベルムバッハ伯爵達の一件で一部能力をばらした事といい、やはりマイケルは阿呆だと思う。


「それに…お前を殺す事も目的の一つだったが、俺のもう一つの目的の為にアインハルト王国を支配する必要があった。その為にも手駒は必要だったし、いざという時の為にアンラ・マンユの力も必要だった。全て無駄だったがな」


「…もう一つ?」


「………ママに俺と同じ想いを味合わせてやるつもりだった。俺を捨てたママを……多くの国を攻め滅ぼし偉大な王になって俺の価値を再度認めさせた後にママを捨てる…それが俺の復讐だった」


 ……ママも恨んでたのか、お前。何をされたのか知らないが自分の子供をアンラ・マンユに差し出し、逆恨みで俺を殺そうとするマイケルの事だ。大した事されて無いんだろうな、きっと。


「……なぁ。俺は何処で間違ったんだろうな」


「………は?」


「俺は生まれてすぐにエロース教に入信させられた。物心ついた時には神子の教育施設に居て神子になる事は強制されて。自分でやりたい事は選べず住む場所すら選べない。俺を利用して出世したママは俺を顧みない。だったら神子として好き放題やってやる……そう思うのがそんなに悪い事なのか?男に生まれたからって自由に生きる事が許されないなんて余りに理不尽じゃないか」


「……………」


 ……確かにな。俺も転生した時に拾ってくれたのが院長先生じゃなかったら神子にされたかもしれない。そう思えば同情出来る余地はある。


 だけど……


「だからお前が憎かった。俺をどん底に落とした癖に、男の癖に、冒険者になって。功績を挙げて、侯爵になって、王女と婚約?俺は盗賊の慰み者なのに?ふざけるな!同じ男なのにこの差は何だ!そう思った……憎くて憎くて仕方なかった……そう思うのがそんなに悪い事なのか?」


「……………」


「悪い筈が無い。その証拠に神は俺に力を与えてくれた。復讐の為の力を。女を支配する力を。神は言った。望みを果たせと。なのに……こんな……なぁ、俺は何処で間違えた?俺が何もかも悪いのか?神が俺を認めてくれたのに?教えてくれ……俺は、どうすればよかったんだ?」


 涙を流し教えてくれと言うマイケルの身体はもう胸の辺りまで崩れている。もう間もなくマイケルは死ぬ…そんなマイケルに神に利用されただけだろうと告げて意味はあるだろうか。


 エロース様に恨みを持つ神に利用された、と。神の復讐の為に利用されたのだと。教えたところで何にもならないかもしれない。全てを話せるほどの時間も、マイケルには残っていない。


 だけど…


「…どこで間違えたのか、どうすればよかったのか。明確な答えなんて無い。だけど間違いなく言えるのは…お前が悪い」


「…俺が、悪い?」


「俺を憎むのはいい。母親を…ママを憎く想うのもいい。復讐するのも…いいだろう。だが無関係な他人を巻き込んで支配し、赤ん坊を化け物に差し出し、国をも巻き込もうとした。そんな事が許される筈がない。そんな事をする奴を、人は悪と言うんだ」


「俺が……悪……」


 同情の余地はある。自分の意思に関係無く神子にされた事、母親に大事にされなかった事、盗賊の慰み者にされた事、神に利用された事…それらは可哀想だと、マイケルは悪くないと言ってやってもいい。


 だけど、他の全ては……


「お前が悪い。お前が此処で死ぬのは……お前が悪い。俺でも、ママでも、神でも、アンラ・マンユでも、他の誰でもない。お前が悪い」


『マスター………』


 酷な事を言ってるとは思う。死を目前にした人間に言う事ではないかもしれない。だけど殺された女性や赤ん坊の事を考えれば…此処で優しい事を言うのも違う。


 だから……


「だから…精々悔め。自分がした事を、罪を、深く反省しながら、後悔しながら…死ね。そして来世では…善人と言われるように生きるんだな。今世の分まで」


「来世………ああ、そう…だ…な…」


 マイケルの身体でもう残っているのは首から上だけ。…眼はもう見えていないようだ。だけど何かを見つめるようにマイケルは最期の言葉を発した。


「来……世……で、は……ママ、と………な、か…よ…く……ふ、つう……に……かぞ……い…き…」


「……………」


 来世ではママと仲良く、普通の家族になって生きたい。マイケルは最期にそう言ったのだと、マイケルの母親に伝えようと思う。


 遺言は無いと言ったマイケルだが…赦されない悪人だとしても…せめてそれくらいはしてもいいだろうと思ったから。

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[一言] 復讐は加害者だけにしろ ただそれだけの話
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