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第283話 おっきくなりました

~~レオナ~~



「うっぷ……………うっ……………オロロロロロロロォ……………」


「やっぱりダメなのね……ハァ」


 わ、わたしはレオナ・サン・ポラセク……由緒正しい、歴史あるポラセク侯爵家の長女……うっぷ……オロロロロ………


「ポラセク家は代々海軍の重鎮……嫡子の貴女も海軍に所属してもらおうと思っていたのだけど……どうしたものかしら」


「す、すみません、母様………うぷっ………」


 ポ、ポラセク家の人間として、船に乗れないなんて許されない………でも、無理っ……オロロロロロォォォォ………


「ハァ……貴女は父親に似たのね。馬にも乗れない、馬車にも乗れない。あの人も乗り物酔いが酷くて移動に苦労してるものね……どうしたものかしら」


「うぅ……」


「……まぁ、貴女はまだ七歳。幸いにして武人としての才はあるし他に類を見ないギフトもある。乗り物酔いも克服できるかもしれないし。今すぐ結論を出す必要は無いわ。今日はもう戻りましょう」


「はい……………うっぷ」


 この時は母様はそう言ってくれたものの。


 わたしの乗り物酔いは克服出来ず。わたしが成人する歳になっても克服出来ずにいた。


 五つ下の妹のマルグリットは母に似て馬にも船にも強く乗り物酔いなど全くしない。武術や勉学はわたしに劣るものの一般的には十分に優秀……らしい。


 性格は父に似て我儘で傲慢な所があるが手が付けられない程でもない。故に船に乗れないわたしよりマルグリットの方が次期当主に相応しいという家臣が増え始めた。


 勿論、長女のわたしが当主になるべきだという家臣も居て、その勢力は半々……世に言う家督争いによる御家騒動に発展しつつあるのがポラセク家の現状。


 母様は何も言わないけれど悩んでいるのは明らか。家臣達の声が大きくなるにつれ母様の苦しそうな顔を見る機会が増えて行った。


 わたしは……それがたまらなく嫌だった。


 わたしが不甲斐ないばっかりに、船に乗れないばっかりに母様に心労が絶えない日々を送らせているのが嫌だった。


「だからマルグリット。次期当主はお前がなるんだ」


「え…姉様、いきなりなに?どうしたの」


「わた……私は船に乗れない。代々海軍の重鎮として役職に就いてきたポラセク家の当主には相応しくない」


「そりゃ…わたしだって姉様よりわたしの方が相応しいと思わなくもないけど…わたしの方が背も高いし」


 こ、このガキャ……実妹じゃなかったらこの場で頭を叩き割ってるとこだぞ。


「でも、そうなると姉様は?姉様はどうするの?」


「私の事は心配要らない。私は黒薔薇騎士団に入団が決まっている。何も問題は無い」


「姉様が……騎士?わたしよりちっちゃいのに…痛い痛い!姉様!いたあああああい!」


「本当に一言多いなお前は!このまま頭かち割ってやろうか!ああん!?」


「ぶわああああん!ごめんなさああああい!」


 ……妹を納得させた後は母様にも話し。正式に次期当主はマルグリットになった。性格の悪さに少々不安があるが母様が上手くやってくれるだろう。


 これでポラセク家の御家騒動の危機は回避できた。私はなんの憂いもなく黒薔薇騎士団に入団。


 ツヴァイドルフ帝国との戦争中での入団ではあったが新人の為、王都で訓練となった。


 何故か他の騎士団の新人と一緒に。


「なぁ、私は青薔薇騎士団に入団した新人なんだが貴女は黄薔薇騎士団の新人だろう。他の団の新人も居るし…何故一ヵ所に集められたんだ。何か聞いているか」


「なんでも五大騎士団の新人は此処に居る者だけだそうですよ。それで本来新人は各騎士団で訓練する新人期間を設けるのですが今年は合同で行うのだとか」


 そうなのか。ま、戦争中に最前線にいる騎士団に入団したい物好きはそうそういる筈もないか。


 ……ん?


「……zzz」


 ……寝てる?これから新人訓練が始まるというのに、なんだこいつ。


 赤い鎧を見るに赤薔薇騎士団の新人か。あの赤い髪…もしかしてレッドフィールド家縁の者か。しかしボサボサの髪だな。


「ところで……あ~、お嬢ちゃん?どうして此処に居るのかな。お母さんの付き添いかい?」


 しかし見た目でもかなり鍛えているのがわかる。中々強そうだな。しかし所持武器が多いな…右腰に長剣。左腰にレイピア。背中に戦斧。壁に立てかけている長槍もこいつのだろうし。どれがメイン武器なんだ。全て使いこなせるとでも言うのか?


「ねぇ。ねぇってば!」


「あ?私に話かけてるのか?」


「やっと気付いてくれた…どうして子供がこんな所に?迷子ならお姉ちゃんが――ぶほぅ!?」


「だれが子供だ!私は黒薔薇騎士団の新人!レオナ・サン・ポラセクだ!私を子供扱いするな!」


「ず、ずみまぜん…」


 チッ…私は他より少しばかり背が低いだけだ。それも多分、ギフトの影響で背が伸びてないだけ…お?


「な、なんだ、私に何か用か」


「……貴女、強そう。いい拳だった」


「あ、ああ…そ、そうか…」


 これがアウレリアとの出会いだった。この時はお互い団長になるなんて思ってなく。特にアウレリアは腕前こそ確かだがやる気のなさそうな雰囲気通りに訓練と戦闘以外はサボりがち。


 不真面目な奴だが妙に気が合うので別々の騎士団ではあるが行動を共にする事が多かった。


 アウレリアの尻を叩いて仕事をさせる役割も振られたのは不本意極まりないが。


 しかし、だ。私もアウレリアに迷惑をかけているのも事実…不甲斐ない事に。


「す、すまん、アウレリア…………うっぷ」


「………軽いからいいけど。背中で吐いたら怒るからね」


 新人訓練の中には乗馬訓練や馬車を使っての行軍訓練もあり。馬に乗っての移動ですぐ弱ってしまう私はアウレリアに背負ってもらっていた……情けない。


「でも馬に乗れないって………騎士としては致命的じゃない。私が居ない時とかどうするの」


「…馬に乗れないわけじゃないんだ、すぐに酔うだけで。なんとか気合いで耐える……しかない」


「……馬に吐かないであげてね」


 ……馬に乗れないのはなんとか気合いで乗り切り、アウレリアにも助けてもらってなんとかやって来た。


 そして新人期間も終わって戦争にも参加。終盤に参戦したので僅かな期間ではあったが我が国の勝利で終わり。


 私もアウレリアも無事に生き延びることが出来た。残念ながら同期の全員が生き残る事は出来なかったが。


 そして数年後、私もアウレリアも団長になった。お互い騎士団史上最年少での団長となる。


 団長になってからもアウレリアとセットに見られるのは変わらずで。


「――というわけで。赤薔薇騎士団と共にセルドア公国に遠征だ」


「また赤薔薇騎士団と一緒にですか?」


「団長、どんだけレッドフィールド団長が好きなんですか」


 ……私が立候補したわけじゃない。ブルーリンク団長が決めたんだ。「赤薔薇騎士団が行くならもう片方は黒薔薇騎士団がいいだろう。な、ポラセク団長」とな。


 レーンベルク団長もイエローレイダー団長も賛同したし…有無を言わさずな雰囲気だった。嫌というわけではないが少々不本意だ。


「ま、世の中には色んな愛のカタチがあるもんね。団長が誰を愛しててもいいですけど」


「エロース教徒にはバレない方が良いですよ。同性愛は認められてないですからね、エロース教は」


「何の話をしてるか!」


 何故か私とアウレリアが付き合ってると勘違いしてる団員が多い……全く不本意だ。


「だあって団長とレッドフィールド団長、お互いに世話しあってるじゃないですか」


「団長が馬酔いしてへばってたらレッドフィールド団長が背負って走ったり」


「レッドフィールド団長が溜めた書類仕事を団長が手伝ったり」


「正に二人三脚。恋人に見られるのも不思議じゃないですよ」


「………もういいから。各自準備を怠るな」


「「「「「はあ~い」」」」」」


 ま、まぁ不本意ではあるが、それはまあ良い。兎に角、仕事だ、仕事。



 そして約一年の遠征から帰って来た私は母様と妹から気になる話を聞かされる。


「うん?ノワール侯爵家が再興?」


「そう!そうなのです姉様!ジュン・レイ・ノワール様!とても素敵な殿方なのです!」


「確かに素敵な方だったわ。ノワール侯爵はツヴァイドルフ帝国の闘技大会にも参戦されたのだけどね。試合を観戦したけれど、とても素晴らしい腕前だったわ」


「…ほほう。詳しく教えてください、母様」


「ノワール侯爵の事なら私が!あの方はペラペラワヤワヤ!」


 ほおう…なるほど、興味深い。それが本当なら確かに興味深い。


「ああ…愛しのジュン様…」


「……あん?愛しの?」


「フフ。この子ったらノワール侯爵に夢中でね。なんとか婚約者になろうと色々動いてるの。まぁ空回りして嫌われそうになった時は酷く落ち込みもしたけれど。御蔭で素行が以前よりマシになったのよ」


「お、お母様!私は別に…」


 ほおう…それほどまでに傾倒してるのか。


 そして実際に会って見れば――


「誰です、あの女の子は」


 私を子供扱いする無礼者だった。確かに私を見て子供扱いした、間違いなくした。


 絶対にゆるさん!必ず報いを受けさせてやる!


 と、思っていたのだが。王国会議中に起きた事件の影響でノワール侯爵と接触する機会が失われ。


 なんだかんだと忙しく過ごして居る内にジーク殿下の指揮による五大騎士団全軍出撃の令。


 神子のような男が率いる百人規模の盗賊団が相手かと思えばサキュバスウォリアーズとかいう奴らが相手になり。


 そしてアンラ・マンユ…アレは危険だ。五大騎士団全軍で戦っても勝てるかどうか。


 そんな化け物を相手に奴は……


「ちょっとアッチまで付き合えやぁぁぁぁ!」


 臆することなく飛び蹴りを放ち、戦いを挑んだ。男のくせに。私を子供扱いする無礼者のくせに。


 だが…ただ強いだけの男ではない、というのは認めてもいい。だが無謀だ。あの化け物を相手に一人で戦おうというのは。


 まぁ…私もそれを認めたのだが。


「だから、一刻も早く合流してやらんとな。サッサと来い」


「フン。生意気な小娘だね」


 私の愛用武器は戦斧。戦斧の二刀流だ。そして眼の前のサキュバスも同じく戦斧。ただし相手は一本の戦斧を両手で持つオーソドックスなスタイルだが。


「知ってるよ。お嬢ちゃんは黒薔薇騎士団の団長だろう。『小さな巨人(リトルジャイアント)』とかいう小さいんだか大きいんだかわからない異名を持つ………大きなお世話だろうけど、その戦斧はちゃんと扱えるのかい?そんな小さな身体で」


「フン…本当に大きなお世話だな」


 だが慣れている。そのセリフはよっく聞くからな。確かに私の身体には似つかわしくない大きさの武器だろう。


 それも二本も持っていれば尚更。だが問題ない。


「アイシャ殿下も戦っておられる。貴様如きに時間をかけるわけにはいかん。サッサと終わらせてもらうぞ」


「ハン!ちっちゃいナリして言う事はでっかいねぇ!そういうの大言壮語…って…言う……………ハァ?!な、なんだいそりゃ!」


 私のギフトは肉体操作。ギフトの力で肉体を操作し限界以上の力を引き出す事が出来る。


「フシュウウゥゥゥ………だからこんな風に巨体になる事も可能だ」


「いやいやいやいや!おかしいから!鎧が壊れない事とかシャツが破れない事とか!幼児サイズからゴーレムよりデカいサイズに変わって何で壊れないんだいその鎧!あと顔だけはサイズが変わってなくてすっごい気持ち悪い!アンバランスにもほどがあるよ!どうせなら顔もサイズ変更しなよ!そのふっとい首に乗っかってるにしては小さすぎるんだよ!」


「うるさいぞ!」


 …言われなくても知ってる!だがどうしてか顔のサイズだけは変えられんのだ!


「兎に角!掛かって来い化け物が!」


「今のあんたにだけは言われたくないよ!アンタの方がよっぽど化け物だよ!」


 ………うるさい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 声質は喉よりもその先の口腔の影響が大きいとされる つまり巨大化してもロリ声(゜д゜)
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