第282話 楽しんでました
~~アウレリア~~
私が五歳の頃、
「ようこそレッドフィールド家へ、アウレリア。今日から此処がお前の家だ」
「…うん」
私はアウレリア・ブリジット・アレクサンド…だった。
お母さんが魔獣災害で死んじゃって…お母さんの姉に引き取られた。
だから、今日から私はアウレリア・ブリジット・レッドフィールド…になる。
「イザベラ達の事は覚えているか?昨日までは従妹だったが今日からは妹だ。…まぁ父親は同じだし元から妹でもあるのだが」
「「「ようこそアウレリアおねえしゃま」」」
「…うん」
それがもう17年も前の話。
私の方が年上だから手続き上は私が長女だけどレッドフィールド家は本当の長女イザベラが継ぐ事になる…と、思う。
だから、私はそう遠くない未来にレッドフィールド家を出なきゃいけない。
「…お母さん。私、騎士になるね」
「……………お前が?武の才は申し分ないが…勤まるのか?」
「………………………………………多分」
「多分ってお前……」
幸い?私には騎士になるのに十分な才能があった。ギフトもあった。
何より私は戦う事が好きだった。
戦いの中でこそ生を実感出来る…そういうタイプの人間だったみたいだ、私は。
だから鍛えて鍛えて…戦って戦って。
成人してすぐに戦争にも参加した…すぐに終わっちゃったけど。
そして二年前…私は団長になった。
「いやぁ、ハッハッハッ、遂に!ようやく!やっっっっと!私も結婚だよ。なぁんで戦功褒賞に結婚を願ったのに何年も待たされなきゃならんのか。ま、兎に角アウレリア、赤薔薇騎士団を任せたぞ」
「……嫌です」
「ハッハッハッ。団長が居なくなるなんて嫌です~って?心配するな、王都には居るんだからいつでも会える。相談くらいいつでも乗ってやるから、先ずは気軽にやってみろ」
「……嫌です」
「ハッハッハッ。何だ不安なのか?大丈夫だ、お前は強い。間違いなく赤薔薇騎士団で最強だ。副団長も他の団員も支えてくれる。心配いらん」
「……嫌です」
「ハッハッハッ。確かにお前はまだ若い。歴代団長の中でも最も若くして団長に選ばれる事になるが名誉な事であって重荷と感じる事じゃない。胸を張れ胸を!」
「書類仕事とか面倒臭いから嫌です」
「ハッハッハッ。其処に座れ。説教だ、説教」
抵抗してもダメだった。無理やり団長にさせられるなんてひどいと思う。
団長になっても良い事なんて無い。書類仕事は増えるし会議は増えるし。
まぁ…任務を積極的に受ける事が出来るのは良い事かもしれないけど。
「というわけで。同盟国であるセルドア公国に発生したダンジョンを潰しに行く。出発は来週、黒薔薇騎士団と一緒に――」
「「「「「ブーブー!」」」」」
……何よ、その不満そうな声。任務よ、任務。陛下頂いた勅命よ。大喜びしなさいよ、騎士でしょ。
……私が立候補したから拝命出来たんだけど。
「だってあたしら先週も魔獣退治の為に東部に遠征に行って帰って来たばかりじゃないですか!」
「…国内なんだから大した距離でも無かったでしょ。期間も数日だったし」
「その前にも北部の盗賊団殲滅作戦に参加してるし!いい加減に纏まったお休みくださいよ!」
「…仕方ないでしょ。北部はレッドフィールド家がまとめ役なんだし。それに五日間もお休みもらったじゃない。私は書類仕事で休めなかったけど」
「「「「「それは団長が貯めてたからでしょ!」」」」」
……仕方ないでしょ、嫌いなんだもの。嫌いなものは後回しになっちゃうものなのよ。皆、同じでしょ。
「……兎に角。ダンジョンを潰す為にセルドア公国に行く。出発は一週間後。黒薔薇騎士団も行くけど私達が先行して道中の安全も確保する事になる。各自、準備をしっかりとね」
「はぁ~い……ほんとに団長は戦うの大好きなんだから……」
「私らが先行するってのも団長が提案したんだぜ、絶対」
「間違いないね…あ~あ短いお休みだったなぁ」
……何がそんなに不満なの。ダンジョンを潰しに行くのなんて楽しみしかないじゃない。
・
・
・
そんな楽しい遠征も終わり。王国会議に参加する為に王国へ帰って来た。
「ああ~……懐かしの我が故郷……」
「見ろ、あれがノイスの灯だ…」
「何言ってんのあんた……でも、ようやく帰って来れたね~…」
「暫く家に引きこもりたい……ぜっっっったいに休暇もらってくださいね、団長!」
「一ヵ月は要求します!」
「……心配しなくても王国会議まではお休みになる………………………………………………………………………………多分」
「「「「「いや間が長いし多分て!本当にお願いしますよ!」」」」」
……わかったわよ。どうせ私は溜まってる書類の処理があるから暫く引きこもりになるし。屋敷から出る事も殆どないわよ…………………………多分。
そして王都のレッドフィールド家の屋敷に帰って来た私を待っていたのはお母さん。何やら話があるらしい。
「アウレリア、お前ジーク殿下の事はどう思う」
「……意味がわからない。どうって?」
「夫にするつもりはあるか、という事だ」
「…………………………………………………………………なんで?」
ジーク殿下にはイザベラ達三人の内の誰か…若しくは三人共が嫁ぐ事になっていたはず。なのに遠征から帰って来たら私が結婚しろとか。
意味が分からない。
「イザベラ達はノワール侯爵に惚れた。上手く婚約者になれたし、となればお前しかいないのだ」
「……………誰?」
「ん?…………ああ、お前は遠征中だったから知らないか。昔、断絶したノワール侯爵家が再興されたんだ。ノワール家は国父ガウル様の縁戚にあたる家でな。現在、アインハルト王国で唯一の男性当主となる。かなりの美形だぞ。私ももう二十年若ければ口説いてたかもしれん」
………お父さん、可哀想。
でもイザベラ達がねぇ…ふ~ん。
「もしかして……正解した?」
「わかるか。その通りだ。しかも一発正解。あれには私も驚いたぞ。詳細はわからんがギフトも持っている筈だ」
「へぇ……何をして再興が認められたの?」
「少し前に国内で起きた大きな事件の解決。二件あるがどちらもドライデンが関与した大きな事件だった。それから公爵になってからだが天災級の魔獣ドラゴンゾンビを単独討伐。Sランクの魔獣タイラントバジリスクも討伐したそうだ。ドラゴンゾンビの魔石は私も見たが……あれほど巨大な魔石は初めて見た。さぞかし巨大だったろう。しかも我が領地の『赤の楽園』に居たんだぞ。驚いたか」
へぇ…それが本当ならかなりの腕前……手合わせしてもらおうっと。それにしても赤の楽園にそんなのが居たなんて………無念。
「……お前の事だからノワール侯爵と戦おうとか考えているんだろうが、やめておけ。アイシャ殿下が降嫁してノワール侯爵の妻に成る事が決まっているからな。何かあったらお前の首が飛ぶぞ。物理的に」
…………………………残念。
で、アイシャ殿下が降嫁して、ねぇ………つまりジーク殿下が王になるのね。だから余計に私に結婚しろ、と。
「察したようだな。陛下に御話して構わないな」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………騎士を続けてもいいなら」
「随分考え込んだな……そんなに戦うのが好きか」
私の生き甲斐だもの。当然でしょ。
本当は王妃になんてなりたくないけど……私も貴族の娘。養子だし、育ててもらった恩もある。当主であるお母さんの決定に逆らうつもりは無い…………………………意見くらいは言うけど。
そして王国会議の日。登城したら部下達も騒いでいた。どうやらノワール侯爵の噂を聞いたらしい。
「聞きましたか団長。ノワール侯爵の事」
「何でも飛び切りの美形だそうですよ」
「ノワール侯爵が街を歩けば行列が出来るとか。微笑みかけられたら喜びのあまり失神するとか。握手されただけで大洪水になるとか。王国中の未婚の女が毎日のように手紙を出して結婚を迫ってるとかなんとか」
「…………………………行列とか失神とか手紙とかはいいとして。大洪水って何」
ノワール侯爵は水神か何かなの……握手しただけで大洪水とか、意味わかんない。
「アウレリア、付いて来なさい。ノワール侯爵に紹介してやろう」
「「「「「ええ~!団長ズルい!!!」」」」」
部下達と話してたらお母さんが迎えに来た……ズルくはないわよ。ただ紹介されるだけだし。
「あそこ、ローエングリーン伯爵の隣に居る男性がノワール侯爵だ。今はブルーリンク団長らと話してるようだな」
「………へぇ」
………美形、なのかな。それはよくわかんないけど、でも………………強いのはわかる。
ドラゴンゾンビやタイラントバジリスクを倒したって話は嘘じゃなさそう………やっぱり戦わせてくれないかな。
そして始まった王国会議。
私は五大騎士団の団長として最前列に。隣には黒薔薇騎士団の団長、レオナ。
「チッ………男のくせに私を子供扱いしやがって……」
「……………何か言った?レオナちゃん」
「お前まで子供扱いするかアウレリア!お前は私より年下だろうが!頭を撫でるな!ちゃん付けするな!今はポラセク団長と呼べ!」
………ええ~いいじゃない、別に。
で、途中でよくわかんない事件が起きたけど退屈な王国会議も終了。
遠征を終えた赤薔薇騎士団は休暇を頂いちゃったし暫くは退屈しそう…………だと思ってたんだけど。
「レッドフィールド団長に伝令です!ジーク殿下指揮の下、五大騎士団は全軍出撃!急ぎ東門へ終結せよとの―――」
「承知!赤薔薇騎士団総員を招集せよ!」
「………あの、まだ伝令の途中……」
暇でしょうがなかったから赤薔薇騎士団本部で待機してて本当に良かった。何が起きたか知らないしジーク殿下が指揮を執る事に違和感があるけど、戦えるなら何でもいい。
そして集結した五大騎士団。相対するのは百人規模の…………盗賊団?。
一人一人がそこそこ強そうだけど……人数差があり過ぎる。距離もあるし魔法と弓での先制攻撃であっけなく終わっちゃいそう。
よくわからないジーク殿下と頭目の男とのやり取りのあと戦いが始まった。
盗賊団が逃げ出した時は少し焦ったけど、予想通りに遠距離攻撃だけでケリがつきそう………そう危惧してる時にアレは来た。化け物が来た。
ついでにノワール侯爵とアイシャ殿下も来た。空から。
で、なんだかんだと――
「こうやって一対一で戦う事になったわけ。私としては助かったかな…遠距離戦だけで終わっちゃうかもってヒヤヒヤした」
「………敵を前にして、随分と長々と。余裕たっぷり過ぎて腹が立つわね」
サキュバス……ウォリアーズだっけ?残り六人になって焦ったけど一対一で戦う事になって本当によかった。
このまままともに戦えないまま終わりかと本当にヒヤヒヤしたもの。
それに最後まで残った六人はかなり強そうだし。出番が抗議して無理やりにで獲物をもらうとこだった。
……あの化け物は無理だけど。一対一じゃ絶対に負ける。アレには負ける。
いくら戦うのが好きでも負けるとわかってる戦いはするつもりは無い。生を実感したいというのは生きたいという事だから。
「弱い相手としか戦わないわけじゃないけど………始めていい?」
「……あんたが会話を始めたんだろうが。こっちは会話するつもりなんて無かったんだ。とっととやるよ!」
私は戦うのが好き。戦いに関する事なら全部好きだ。大勢でやる遠距離戦はイマイチだけど。
だから会話で相手の情報や性格を知るのも好き。相手の性格がわかれば戦法や攻撃手段もある程度読めるもの。
これだけ力量に差が無い相手なら尚更重要だし。
「じゃ、先ずは小手調べ……………フッ!」
「ッ!速いね!」
私愛用の武器はレイピア……だけじゃないけど今はレイピア。戦いが好きな私は色んな武器に手を出した。
剣も槍も弓も斧も使える。素手でもそこそこ戦える。今回は一番近くにあったレイピアを持って来た。
目の前のサキュバスもレイピアだ。
「へぇ…今のを避けるんだ。Aランク魔獣を想定したスピードを出したんだけど」
「ハッ!なら次はSランク――」
「じゃ、次はSランクの魔獣を想定したスピードで行くね」
「……はっ?」
スピードを上げていく……限界の八割程度まで。
私が持っているギフトは人並外れた脚力。脚の速さなら馬にだって負けない。だから私が持つ最強の武器は自分の脚だったりする。
スピードを活かしたヒット&アウェイ。それが私の必勝法。
「ぐっ!」
「うん、これならギリギリ対処出来るみたいね。じゃ…このスピードで行く。精々………………楽しませてね?」
「このっ………戦闘狂が!噂通りだよ、あんたは!」
噂…ね。
五大騎士団の団長は全員二つ名が付いてる。
私には二つあって一つが『戦狂い』。これは二つ名というより悪口のようだけど否定のしようがないから仕方ない。
もう一つの二つ名は――
「ぐっ!…『赤い閃光…赤い髪と赤い鎧が残す残光から付いた二つ名……だったよな、ええおい」
「正解。あとは火属性の魔法も得意だから、かな。……まだスピードはあげれるから、早くこのスピードに慣れてね」
でないと……
「…命のやり取りをしてるのに笑うのかい」
アッサリ終わっちゃうよ……フフ…




