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第281話 最初の勝者でした

~~ブルーリンク団長~~



「ちょっとアッチまで付き合えやぁぁぁぁ!」



 ほう…いい蹴りだ。それに速い。


 ノワール侯爵…どうやら噂以上の実力の持ち主らしい。しかし派手だな。


 あの武具が緑色に発光するのや光の翼は何か意味があるのかね…美しいが。


 夫と娘にいい土産話が出来…


「おっと。いきなりだな」


「ちっ…」


 盗賊…いやサキュバスが名乗りも無しに斬り掛かって来た。ふむ…そこそこ重い剣戟だが技は未熟、その一言に尽きる。


 せいぜいが見習い騎士程度。ノワール侯爵の方が――いや彼と比べるのは彼に対する侮辱になるな。それほどに隔絶した差がある。


「何より…これから一騎打ちをするのに名乗りも挙げないとはな。人の姿をしていたも所詮は化け物か」


「ハッ!あたしゃ極貧の村の出でね!お貴族様の礼儀作法なんて知らないのさ!そういうのは元騎士のお頭が詳しかったんだけどね!」


「ほう、元騎士。どいつだ?どこの家に仕えていた」


「もう死んじまったよ!あの馬鹿をかばってアンラ・マンユ様に殺されちまった。結局、その馬鹿も殺されたんだから、お頭も馬鹿さ」


「…ああ、アイツか」


 確かに、あの化け物に殺された女が一人居たな。黄色の攻撃を防いだ腕前の…そうか元騎士。主を庇って死ぬとは。多少は騎士の矜持というものが残って――


「言っとくけど。あたしらはあの馬鹿に洗脳されてたからね。忠義の心なんてありはしなかったよ」


「……そうか」


 そう言えば女を支配する能力だとかジーク殿下も仰っていたな。そして女達も盗賊団だったようだし同情の必要はないな、うむ。


「ま、団長はあの男に同情的だったからねぇ、拾った時から。洗脳とか関係無しに助けたかもしんないけど」


「……印象を固定させてくれないか」


 これから殺す相手の事など本来なら聞かない方がいいのだがな。この戦いには色々と不可解な事が多すぎる。


 故に緘口令が敷かれているのだろうローエングリーン伯爵やレーンベルク団長からではなく敵から情報を聞き出そうとしたのだが…どうも余計な情報しか入って来ないな。


「それにしても貴様。随分とお喋りだな」


「仲間の情報を洩らし過ぎだって?構やしないさ。あの男もお頭ももういないんだからさ。それに洗脳されてた時はあの馬鹿に絶対服従でね。無駄口をたたくなって命令されて以来、殆ど会話らしい会話をしてこなかったんだ。これでもアンタとの会話、楽しんでるんだよ、あたしは」


「……そうか」


 どうやら相当に強力な洗脳だったようだな。だが、それならそれであの化け物…アンラ・マンユとやらに従ってるのが解せん。


「あたしらの支配権はアンラ・マンユ様に移ったのさ。その時にあの馬鹿から受けてた命令は無かったことにされたってわけ。おわかり?お偉い騎士様」


 確かに未知の能力を持っている敵のようだな、レーンベルク団長よ。女だけという制限はあるものの強力な支配能力と人間を別種の存在に変えてしまう能力。そして喰らった存在が持っていた能力を自分の物にする能力。


「さぁ、もういいだろ。そろそろお喋りは止めて真剣に戦おうじゃないのさ」


「同意だ。だが私は真剣だったぞ。ずっとな」


 話ながらではあったが私達は戦っている。私は大剣。相手も大剣。偶然…ではない。同じ武器を持った相手を各々が選んだのだから。


 で…まぁ…傍から見れば私の劣勢…だろうな。


 うむ。掠り傷とはいえ全身数か所に傷。対して相手は無傷。確かに技量は未熟だが身体能力が人間とはかけ離れている。


 本人もそれに振り回されてる感があるが…このままだと負けるな。


「ハッハァツ!それで真剣?!本気だってぇの?!だったら五大騎士団の一つ!青薔薇騎士団団長も大した事無いねぇ!なぁにが『破壊の旋律(バイブレーション)』だい!あたし一人破壊出来ないじゃないか!それともぉ?あたしが強くなりすぎたのかねぇ?アーハッハッハッ!」


「ほぉ。私の事を知っているのか」


「まぁねぇ。帝国との戦争が終わってまだほんの数年。あたしゃそん時は余所の国に居たけど噂くらいは聞いてたさ。アインハルト王国を勝利に導いた五大騎士団。その五人の団長の一人。一対一の戦いにおいて勝てる者無し。相手の死に様から付いた二つ名は『破壊の旋律(バイブレーション)』…噂ってのは当てにならないねぇ」


「…そうだな。だが全くの間違いでもない。少なくとも二つ名はあっているぞ」


 間違ってるのは由来…相手の死に様から付いたのではなく私の能力から付いたんだ。


 さて…このままでは負ける事だし。この後にはさらに大物が控えている。そろそろ終わらせる事にしよう。


「へぇ。じゃあ何が間違ってるってんだい。まさか一対一の戦いで負けた事があるとかぁ?アハハハ」


「そう慌てるな。答え合わせなら今からしてやる。……ところで、だ。私の噂は他に何か無かったか。例えば声が良い、とかな


「…はぁ?何、あんた自分の声が良いとでも思ってんの?ハッ!だったら吟遊詩人にでもなればぁ?」


「それは魅力的な転職先だな。考えておこう……で、私の声についてだが」


「それ続けんのかい…あんたの声になんて興味ないんじゃない?誰もさ。あたしは聞いた事無いねぇ、あんたの声についての噂なんて」


「それは残念だ」


 結構自信があったのだがな…夫もベッドで良く褒めて――んんっ!


「声は音。そして音とは何か知っているか」


「また突然だね…何が言いたいんだい。あたしは学が無いんだ。わかりやすく話して欲しいね」


「音とは振動だ。空気を震わせ鼓膜が捉え、音として聞こえる。それを理解し訓練すれば声でガラスを割る…なんて事も可能だ」


「……はぁ。へぇ。ふ~ん。流石は学のある貴族様。博識なこって。で、それがなに?」


「私はギフト持ちだ」


「……へぇ」


 警戒を強めたな。きっと頭の中では今の話がギフトとどうつながるのか、推測を立てているのだろう。


 だが無意味だ。


「私のギフト。それは声がとても大きい、だ」


「……プッ!アハ、アハハハハ!御大層に長々と話すからどんなギフトかと思えば!くっだらないギフト!ああ、戦場で指揮するにはいいギフトかもねぇ!アハハハ!」


「と、思っていた。だが違った」


「……は?」


「私のギフトは声を操る…いや音を操るというのが正しいな。今、お前が言ったように戦場で広範囲に声を飛ばす事も出来るし、逆に極小範囲にだけ響かせる事も可能だ」


 大勢居る中で一人にだけ声を飛ばす事も出来るし、その逆…大勢居る中で一人にだけ声を聞かせない…のはかなり難しいが出来なくもない。


「最初は本当にただ声を大きくするだけのギフトだと思っていたんだ。だが、訓練して使いこなせば、な。色々出来るようになったのさ。苦労したんだぞ?」


「『破壊の旋律(バイブレーション)』…旋律…まさか!?」


 気付いたか。だが無意味だ!


「そう。私のギフトは攻撃にも防御にも使える!このようにな!」


「くっ!」


 耳を塞いでも無駄だ!くらえ!


「ラァァァァァァァァァァァ!!!!」


「ゴッ!?ゴハァ!!!」


 極大にまで増幅した音…振動を相手にぶつけ内部から破壊する!これを受けた人間は重装甲の鎧を着た騎士だろうが巨体の魔獣だろうが。内部から破壊され死に至る。


「まっ、一点に集中しなければならないから実は案外簡単に避けられるんだがな…もう聞こえてないか」


「ご……あっ…………………………」


 …死んだか。人間を辞めても不死身の化け物というわけではないらしい。


「死に様は戦場で散々見た死体と変わらないな…さて」


 他の団長、それにアイシャ殿下は御無事かな。


 レーンベルク団長は大丈夫だろうが黄色の奴は不安だな。泣いてなきゃいいが。

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