第278話 勇者じゃありませんでした
「そうだといいな。……ラストバトル、開始だ!」
先ずはアイ達から距離を取る!行くぞメーティス!
『はいな!折角や、派手に行こかぁ!』
デウス・エクス・マキナのプロテクターが緑の粒子を放ち、勢いを増し推進力に変わる。
『さらにオマケや!光魔法で神秘性を追加や!』
お、おう?光の翼が生えちゃったよ、俺。目立ち過ぎな気もするが、ナイスだ!
それじゃいっくぞぉぉぉぉ!
「んなっ!速っ!」
「ちょっとアッチまで付き合えやぁぁぁぁ!」
アンラ・マンユにプロテクターで加速したジャンピングキックをかまし、ぶっ飛ばす。
咄嗟に防御していたからか、思ったより距離が稼げなかったが。取り合えずこれくらいの距離があれば問題ないだろう。
後は逃がさないように結界で囲めばOKだ。
『結界魔法だけやと不安やない?デウス・エクス・マキナのエネルギースクリーンで囲った方が確実やと思うけど』
確かにな。だけどアンラ・マンユの能力は未知数だ。デウス・エクス・マキナは出来るだけ十全にしておきたい。
だがいざという時には使うぞ。周りへの被害を抑えたい時とかな。
『了解や。ドローン、出すで』
ああ。魔法とドローンの操作は任せた。
「アタタ…ひっどいなぁ。場所を変えたいなら言ってくれればいいのに。いきなり蹴る事なくない?服だって破けちゃったし」
「そりゃ悪かったな。だがどうせ、今の姿は仮の姿なんだろ。サッサと人間の真似事はやめたらどうだ」
「フン…人間の姿なら少しくらい手加減してくれるかと思ったんだけどな。お前、少し冷酷過ぎなんじゃない?」
「化け物が人間のフリをしても不愉快なだけだ。特にお前の場合はな。お前が真似してる人間の仕草はお前が喰った人間から得た物なんだろう」
「……ま、殆どがそうだね。僕に対して人間は戦うか逃げるか怯えるか、くらいしかしなかったからね」
そりゃそうだろうよ。
さっきの蹴り…岩くらいなら簡単に砕き、アダマンタイト製の盾だって無事じゃすまない破壊力がある筈。
それを受けて服が破れ、ガードした腕が千切れただけですんでいる。その腕ももう再生している。
やはり見た目だけだな、人間なのは。
「じゃ、御望み通りに。戦闘形態になっちゃおうかな」
アンラ・マンユが黒い球体に包まれた。と、同時に黒い輝きを放ち…割れた。
中から出て来たのはさっきまで周りに居たサキュバスと似ている姿。
露出の多い黒い水着を着てるかのように見えるがアレは黒い体毛で覆ってるだけ。頭からは山羊か羊のような角が生え、背中からはハエのような薄羽。身長も伸びて2mは超えてそう。
人間から悪魔と呼ばれるような姿になった…なのに何処か妖艶さを持つ。色欲の悪魔…に相応しいと言える姿かもしれない。
だが、こいつが持っていたのは暴食の紋。色欲は奪った能力だろうに、そっちに寄せるのか。
「…なるほどねぇ」
「?…何を一人で納得している」
「いやぁ、僕の暴食の紋や色欲の紋ってさ。勇者っぽくないと思ってたんだよ。勇者って、僕の知る限り正義の味方の代名詞みたいな存在でしょ。少なくとも僕が居た世界じゃそうだったんだけど」
それにはまぁ…同意出来るな。力は使いようだとは思うが、少なくとも色欲の支配や洗脳、女をサキュバスに変える能力なんかは勇者に相応しくはない。
「この姿になった事で漸く合点がいったよ。アイツは勇者じゃなかった。勿論、僕も。僕は『暴食の魔王』でアイツは『色欲の魔王』だった。そして今の僕は『暴食の魔神』さ」
魔王…魔神?
魔王の能力を魔王が取り込んだ事で魔神に進化したとでも?この世界の魔王や魔神とはそういう者なのか?
『いいや、違うで。この世界にも大昔は魔王は存在したみたいやけどな。少なくともこの世界の魔王は現在は不在や。暴食、色欲の魔王なんちゅうんは恐らく…別世界のシステムを持ち込んだんやろ。犬神やアンラ・マンユをこの世界に送ったようにな』
別世界のシステムを持ち込んだ?どういう事だ。
『神様はそれぞれが管理する世界があるんはマスターも知っての通りや。で、エロース様に恨みを持つ神様も管理する世界があるわけや。その管理する世界には『色欲の魔王』やら『暴食の魔王』とかがおるわけで。多分『傲慢の魔王』とか『怠惰の魔王』なんかもおるんやろ、本来なら』
つまり…別世界の魔王をこの世界で強引に誕生させた、と。
…そんなんありか。
『本来、この世界にないシステムを持ち込むわけやからな。『暴食の紋』とやらが上手く機能せん場合も勿論考えられたわけやけど…残念ながら上手い事行ったみたいやな』
…上手く行かなかった場合はどうなるんだ?
『さぁなぁ。そもそもアンラ・マンユの存在自体、この世界に無いシステムの産物やし。犬神かてそうやし。何とでもなる問題なんかもしれん。仮に大きな問題が出てたとしても、それは神様が何とかしなあかん問題やわ』
…さよか。ほな戦闘再開と行くか、相棒。
『はいな!…って、アイツは何しとんや?』
脳内会話してる間も勿論アンラ・マンユから目を離してはいなかったが、何やら準備体操のように身体を動かしている。
他にも自分の身体を見まわしたり手の平を眺めたり。
別物になった自分の身体を確認してるのか?
肉塊の化け物だった時とは別種の攻撃が――
「ふんふん…よし、大体わかった。それじゃ、今度はこっちから行くぞぉ!」
「って、結局同じかい!」
アンラ・マンユの指…いや、爪か。手足の黒い爪が触手と同じように襲って来る。触手より細く…いや、薄くなっているが堅く鋭利な刃物のようになっているようだ。
生身の人間なら掠っただけで腕や脚は軽く切断されそう…だが!
デウス・エクス・マキナのプロテクターには傷も付けられん!特に腕から出てるビームシールドは絶対に貫通出来ん!
…だというのに!
「なにそれ!光の剣に盾?!それも魔法って奴?!あと飛んでるのは何!?火の玉とかも飛んで来るし!ズルい!」
「お前こそ!何だこの爪!何で焼ききれない!」
魔王だか魔神だか知らんが所詮は生物から生えてる爪だろう!なのになーぜビームシールドに触れてるのに消し飛ばない!なーぜビームサーベルで斬れない!普通に剣と剣で打ち合ってるかのように弾いてるだけになってるのはなんでじゃい!
『…どうやら何らかの力で爪の…いや身体全体を覆ってるようやな。魔力…に近い?』
魔力で身体を覆ってる?身体強化の要領か。もしくは身体の表面に合わせて結界魔法で覆ってるようなものか。
『そんなとこやな。大丈夫や、貫く方法はあるでマスター』
ほう!どんな方法だ!って、ドローンと魔法はお前担当だぞ!ちゃんと使え!
『わぁっとるわい!…んで、例えばビームキャノンの最大出力なら問答無用で消し飛ばせる筈やで!』
……………………アレか。アレはやめとこう。
他のはどうだ。ミョルニルとかどうよ。
『ひいじい様を倒したトールハンマーやな。アレでもイケるとは思うけどや…待った!アイツ、何かしよるで!』
「爪じゃダメみたいだから、これならどう?フゥッ~」
…爪を引っ込めたと思ったら口から桃色の吐息を吐き出したぞ。
なんだ、これ。毒か?
『毒っちゃ毒やな。催淫効果のある煙…要は媚薬や』
ああ…色欲の能力か。催淫されたら支配されちゃうわけね。
「ウフフ…さぁ坊や。私の胸の中で――」
「俺に毒は効かんわ!あと、お前に甘い声で坊やとか言われても全く嬉しくない!」
「なんでー!ああ、もう!」
今度は爪を触手のように使うのではなく刃渡り1mほどの剣のようにして両手両足で斬り掛かって来た。
化け物だけあってその動きは人間離れしている。かなりトリッキーだ。
「だが対応出来る!」
「ああ、もう!僕の事は散々化け物呼ばわりしてるけど、お前だって人間離れしてるじゃないか!使徒じゃないなら一体何なんだよ!たった一人で僕と対等に戦える人間なんてラスボス時代にも居なかったんだぞ!それなのに…今の僕は魔神ななのに!」
「俺は人間だ!ちょっと普通じゃないだけのな!」
「絶対嘘だー!やっぱりお前が使徒なんだろそうなんだろ!」
「断固否定する!」
「ううう!もううう!消し飛んじゃえー!」
左右から伸びてる角を片方引き抜いて…転がした?何のつもりだ?
『これは……離れるんやマスター!』
「ダーメ!逃がさないよーだ!」
角が赤くなって…爆発か!
「一緒に爆発しよっかー!アハハハ!」




