第276話 道半ばで終わりました
~~マイケル~~
最近よく考える。いや考えていた。俺の人生はなんなのだろうと。
物心つく前からエロース教の施設に居て神子になる事が決まっていて。
最初は何の疑問も持たなかった。だが他の…神子以外の男の普通の生活を知った時、俺は我慢ならなかった。
何故、他の男は自由に生きてるのに俺だけが神子として生きる事を強制されなければならない。
何故、俺は我慢しなければならない。
ママは俺を自分勝手に利用して自分勝手に俺を見限った。
自分勝手に俺を利用するママ。近くに居るのにろくに会おうともしないママ。だから俺も自分の好きなように生きようとしただけ。それなのにママは俺を見限った、捨てた。
だから…俺もママを捨ててやる。
アインハルト王国を支配したらエロース教本部に、俺は…
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「お、お前…アンラ・マンユか?」
「見レバワカル… アア コノ姿ハ 初メテダッタ? ソウダヨ」
少し離れてる間に何があった。
血管が浮き出た肉塊に眼と口がついただけの醜い化け物だったくせに…いや醜い化け物には変わりないが。少しだけ人間に近付いてだけより化け物らしさが際立ってるというか…おぞましい。
「と、兎に角、戻って来たなら契約通りに力を貸してもらうぞ。アイツらを蹴散らせ!後々を考えれば王国の戦力は残しておきたかったが、こうなれば仕方ない!やれ!お前なら出来るだろう!」
「イヤァ 無理」
「そう!お前なら出来………なんだと?」
「ダッテ アイツ 強インダモン 騎士ダケナラ ドウトデモナルケドォ」
「…アイツ?誰の事だ。王国にお前が勝てないような猛者が居るのか」
「アイツダヨ アイツ ホラ 下リテ来タ イツノ間ニ 追イ抜カレタンダロ」
…下りてって…アレは落ちてると言わないか?しかし、アイツはまさか…
「間違いない!ジュンだ!おい!アイツを殺す事が俺の復讐!だからアイツを殺せ!」
「アア アイツガソウナンダ デモ 無理 アイツ 強イシ 怖イシ」
「はぁ!?」
馬鹿な…アイツは男だぞ。男が…この化け物より強いとでも言うのか。いくら幼少時代は女のフリをしてたとはいえ、この化け物より強いだと。化け物が怯えるくらいに?
「ふ…ふざけるな!アイツを、アイツらを!殺さないと俺様も!お前も!殺されて此処で終わりだぞ!なんとかしろ!」
「ダイジョーブ 手ハアルヨ 僕ガ強クナル為ノ トッテオキノヲ 食ベレバ 僕ハ 今ヨリ モット 強クナル」
「ならサッサと喰え!そしてアイツを――」
「ウン ソウスル」
「殺…なっ!?」
「御主人様!――カハァ!」
サ、サキュバスを…Sランクの魔獣にも匹敵する力を持ったサキュバスウォリアーを一瞬で殺っ……うあ!
「き、貴様!なんのつもりだ!離せ!」
「ジャ イタダキマス ダイジョーブ 君ノ復讐ハ 僕ガ ヤッテアゲルヨ 約束ドーリニ ネ」
「ヒッ!や、やめろ!離せ!離せー!」
俺が最後に見たのは二つに割れたアンラ・マンユの肉体、その内側。
「俺様は!俺は!こんな、何も、まだ!……あっ」
それは何故か…昏く深い深淵の穴のようで。でも見慣れた淫靡な穴のようにも見えた。
~~ジュン~~
変身が終わったアンラ・マンユ。その見た目は人間の女。しかも全裸。
中途半端に皮のある状態では無く、十代後半くらいの女性の姿にまで成長。遠目だからよく見えないが、恐らくは美人と言える容姿。
だが離れていても感じる異様な気配…犬神よりも。
「アレは…」
「アレはマズいのう、御同輩」
「うあ!?ビックリしたぁ!」
「教皇の傍に居た竜人族の男か。何をしに来た」
「危ないからノワール侯爵と一緒に下がっていろ」
「わしの事は気にせんでくれ。わし、強いから。それよりの御同輩。ありゃマズいんじゃないかのう。かなりの化け物じゃぞ」
居たのかファフニール様…言われなくてもわかってますよ。勇者の力を取り込んでパワーアップとか…化け物らしいっちゃらしいが厄介な。
『そういや暴食の紋の能力やっけ、それが。喰えば喰うほど強くなるとかなんとか。まさか味方まで喰らうとは思わんかったわ。化け物に常識とか倫理とか通用するはずないのに。迂闊やったで』
…だな。
勇者を倒す手間を省いてくれたと考えられなくもないが…結局勇者の正体はわからないままだったな。
「聞いておるか、御同輩。必要なら手を貸すぞ。あれはもう世界の脅威じゃろ。確実に滅ぼさなくてはならん敵じゃろ」
「ですね。でもファフニール様は皆を護ってくれますか。アレは俺がなんとかしますから」
「ちょ、ちょっとジュン君!」
「ノワール侯!アレは一人で何とか出来るような存在とは思えません!アインハルト王国の全戦力をもってあたるべき相手です!」
「大勢無駄死にするだけですよ」
「ふむ……わしはそれでもいいがの」
アレはもう俺にしか倒せない。アイも…無理だろうな。
当然、ソフィアさんも白薔薇騎士団も。足手纏いでしかない。残念だが。
「だから全員、下がっていてください。アイも一緒に。アレは俺が何とかする」
「ダメ。ウチもやる。でも騎士団は下がりなさい。命令よ」
「殿下!死ぬおつもりですか!」
「そんなわけないじゃない。ウチとジュンにかかればどんな奴も敵じゃない。そしてアレはウチらしか倒せる人間はいない。だから下がりなさい。これは第一王女としての命令よ」
「うっ……」
「悪いわね。ほら行くよ、ジュン」
これで話は終わりだとばかりに俺の手を引いて歩きだすアイ。その手は少し冷たくて震えてるように見える。
…怖いなら無理せずに下がってればいいのに。
「そんなわけにいかないでしょ。ウチの使命はジュンを護る事なんだし。恋人が戦うのに黙って見てるとかウチが廃るし!」
「いや、ほんと無理すんなって。俺なら大丈夫――」
「それに。相手はアンラ・マンユだけじゃないっぽいし、さ」
「え?」
…生き残りのサキュバスがアンラ・マンユを囲ってる?まるで護るように…何故だ。
サキュバスは勇者の配下だったんだろ。元は能力で無理やり配下に置いた人間の女性だったとしても、勇者を喰い殺したアンラ・マンユを護る理由なんて………まさか支配権までアンラ・マンユに取り込まれたか?
『そうみたいやな。勇者が持ってた能力はアンラ・マンユに継承されてると見てええやろ。他にも受け継がれたもんがありそうやな。あの様子を見ると』
……なんか服を着てるな。サキュバスがどこからか用意した服を恥ずかしそうに着てる。そういう常識とか羞恥心とか。化け物らしく欠落してると思ってたが。
『記憶とか感情とかも取り込んだ……いや、記憶から学習とかしたんかもな。もしくは変身して……いや進化?兎に角、人間に近付いて感情豊かになったとかか。何にせよ、ただ強くなっただけやのうて人間らしく策を弄する事もしてくるかもしれん。注意するんやで』
人間に近付いて化け物らしさが薄れた、か。化け物らしさが付け入るスキでもあったんだな。
「ジュンが一対一でアンラ・マンユと戦える状況を作る必要があるでしょ。サキュバスはウチが引き受ける。ジュンはアンラ・マンユを――」
「では丁度いいですな。我々とアイシャ殿下でサキュバスの相手をするという事で」
「残ってるサキュバスは六人。アイシャ殿下含め私達も六人。確かに丁度いい」
「サキュバスを早急に始末して全員でノワール侯を援護。アンラ・マンユとかいう化け物を始末しましょう」
「じゃ、そういう事で。サッサと終わらよう~…」
「レッドフィールド団長…もう少しやる気を出して。ジュン君、怪我しないでね」
……何で付いて来てるんですかね、団長様方。五大騎士団の団長が再び勢揃いですやん。
「あんた達…ウチは下がるように命令した筈よ。騎士の癖に王族の命令に逆らうつもり?」
「御言葉ですがアイシャ殿下。今回の出陣、指揮官はジーク殿下です。アイシャ殿下に命令権はありません。そうだな、黄色の」
「…黄色はやめてくださいと言ってるでしょう。しかし、ブルーリンク団長の仰る通りです。私達にはアイシャ殿下の命令に従う必要はありません」
「……そう言うの屁理屈って言うんだと思うんだけど、ウチは。五大騎士団は王家直轄の騎士団でしょ」
そう言う割にアイは嬉しそうに笑っている。団長達も部下を連れて来てない辺り、わかってはいるんだろう。
アンラ・マンユと戦えば死ぬ可能性が高い事は。
それでも王女殿下の命令に逆らってでも前に出て来た、俺達に付いて来た。俺達の為に。国の為に。
それが嬉しいんだろうな。そういうの好きそうだもんな、アイは。
「まぁ良いではないですか。向こうもこちらの意図を汲んでくれるようですし」
「……そうみたいね。仕方ないなぁ、もう」
サキュバス達はアンラ・マンユを中心に左右に三人ずつに分かれて横一列に並んでいる。そして一人一人の間隔が広い…集団戦ではなく一対一の個人戦をやろうってか。
さっきまで見た目も化け物だったのに、人間の考えを読むのが上手いじゃないか。
「じゃ、ジュンは中央ね」
「私が代わってやってもいいぞ、ノワール侯爵」
「いやぁ、譲れませんよポラセク団長。こんな大一番で大役を譲るなんて。男が廃るってやつですよ」
「……普通の男はこういう時出張らないよな、黄色の」
「ですから黄色はやめてください。ノワール侯ならいいじゃないですか。素敵だと思います。レッドフィールド団長もそう思うでしょう?」
「…よくわかんない」
そんなとこまで男女逆転…いや、男とか女とか関係ないな、そこは。
やるしかないのなら、やる。そこに男女の違いなんてない。そしてアンラ・マンユは俺が倒すしかない。
なら、やるだけだ。
『カッコええこと言うやん、マスター。よっしゃ!わいが全力でサポートするから安心してぇや!」
そして俺Tueeeeも出来たら最高、文句無し。だよな、相棒。
『……なんで台無しにするかなぁ。最後までカッコつけようや』
俺Tueeeeは俺の使命なんだし、いいじゃん。




