第272話 逃げてもダメでした
~~ソフィア~~
「あの男は王国を乗っ取ろうと画策する賊だ!全軍!攻撃開始!」
始まったわね。でも、いきなり全軍で攻撃は無いわね。相手は百人足らず。対してこちらは五千人以上。
ならばここは少数精鋭で行くべき。
「ナヴィ隊とハエッタ隊は私と共に突撃!残りの隊は後方から援護!クライネ、後の指揮は任せるわ!」
「了解です!」
「それじゃ行くっスよ!」
「ジュン君は私達が護るのです!」
そう、その通り!ジュン君は私達が護る!だからあの男を速攻でっ…あ、あれ?
「フハハハハハハ!バーカめ!これだけの人数差があるのにまともにやり合ってたまるか!サキュバスウォリアーズ!撤退だ!アンラ・マンユと合流するぞ!」
バ…馬鹿にバカにされた!む、む・か・つ・くぅぅぅぅ!
でも、なんて逃げ足の速い!
「ぐぐっ…ブルーリンク団長!」
「ああ。各騎士団から少数精鋭を前面に出して追うぞ!いいな、ポラセク団長!レッドフィールド団長!黄色の!」
「了解だ!」
「は~い…」
「了解ですが私を黄色と呼ばないでください!」
ああ、もう!もう馬車に乗って転進してる!反対に私達は下馬してるし緊急出撃だった事もあって連れて来てる馬の数も少ない…でも、追うしかない!
「行きましょう!」
「アズゥ!青薔薇騎士団の残り半数を率いてジーク殿下とベルナデッタ殿下を御守りしろ!一応教皇らも気に留めておけ!」
どこまで逃げようともジュン君を狙う限り必ず仕留めてみせる!
と、思って追いかけていたのだけど…
「停まっ…た?」
「停まってるっスね」
「停まってますね」
連中が逃げ出してから約三十分。どういう訳か賊の全員が停まっている…ように見える。
なんのつもりかしら…こんな見晴らしのいい場所で停まるなんて。
「罠…かしらね」
「違うっぽいっスよ。どうも馬がへばったみたいっス」
「私にもそう見えます。流石に馬は演技出来ないでしょうから、罠ではないと思っていいのでは」
…此処に来るまでに何かあったのかしらね。でも、こちらにとっては好都合だわ。
「ここで仕留めるわよ。皆、行く――」
「待て、レーンベルク団長。ブルーリンク団長らもまだ動かないように」
「…ローエングリーン伯爵」
例えお飾りだとしても貴女はジーク殿下の補佐役。それが最前線に来るなんて。何を考えて…あれ?
「そう言えばジーク殿下は?」
「中央にて待機されている。シルヴァンとエルリックもな」
…赤ちゃんを戦場に連れて来るのはやはりどうかと思うのだけど。それは置いておくとして。
「何故子供を、それも男を連れて来てるのかは問い質したい所だが今はいい。だが攻撃を止めるのは何故だ」
「説明しますよ、ブルーリンク団長。やつらの会話が少し聞こえたのだが奴らはアンラ・マンユとかいう者と合流するつもりらしい」
「アンラ・マンユ?」
何かしら、それ…化粧品か何かに似たような名前があったような気がするけれど…
「そしてファフニール…エロース教の守護神からの情報だが。奴らが逃げている先に強者の気配を感じるそうだ。非常に邪悪な気配のな」
…そいつこそがあの男の真の切札という事ね。なら、あの男を早く始末して合流を防がないと…………ちょっと待って。
「ローエングリーン伯爵。あっちの方角ってベルムバッハ伯爵領の方ですよね。で、その邪悪な気配の強者というのがそっちに居るって事は…」
「………………あ!ジュン!」
「え?まさかノワール侯がこの道の先に居るのですか?!」
そう。今、ジュン君は王国東部ベルムバッハ伯爵領に行ってる。そもそもが東部に居るという例の犯人を探しに行った。つまりはあの男を探しに…なら、そのアンラ・マンユとかいう邪悪な気配の強者と鉢合わせになってる可能性が高い。
なら、今まさにジュン君は戦っているのかも殿下先生も一緒に!
「ローエングリーン伯爵!」
「ああ!折角開けた場所で停まってくれてるんだ!遠慮なく魔法と弓を撃ちまくれ!」
「おい黄色の!この状況で突撃しようとする馬鹿が居るか!」
「ぬぐぐ…黄薔薇騎士団!全力射撃開始!」
ジュン君…無事でいてね…
~~マイケル~~
「おい!何をしている!何故停まる!」
「馬が限界のようです。これ以上は走れません」
「何を言っている!奴らが…五大騎士団が追って来てるんだぞ!無理やりにでも走らせろ!」
「無理です。王都に着くまでにも相当な無理をさせています。それでも此処まで走れた事が奇跡に近いのです」
ぬぐっ…アンラ・マンユが騒ぎを起こす前に王都に入ろうと急がせたのが完全に裏目に出た…くそ!化け物が!勝手な事しやがって!
「御主人様。騎士団の攻撃が始まります。如何されますか」
「ぐ、ぐぐ…馬車と馬を捨てる!俺様を護りつつアンラ・マンユと合流を目指せ!」
流石に馬よりは遅いが俺様が走るよりはこいつらに運ばせた方が速…うおおおお!?
「くそ!あいつら遠慮なく攻撃…って、俺様を集中的に狙ってるのか!?けっ、結界を張れ!急げ!」
俺様が死ねば女共が解放されると思っての事か!くそが!
「兎に角俺様を護れ!遠距離からの魔法と弓ならそう簡単に結界を抜け、ぐわわわわあ!」
「駄目です。我々の結界魔法ではあの数の攻撃は防ぎきれません」
くそ!俺様の力は洗脳して支配するだけじゃない!支配した女共を強化する力だってある!サキュバスに変わった奴らは冒険者で言えばAランク以上なんだぞ!あの七人に至ってはSランクな筈!幾ら人数差があるとはいえこうも簡単に!
「と、兎に角俺様を護れ!結界も随時張り直して防ぎきれないのはお前達が盾になれ!」
「はい、御主人様」
しかし、このままではいずれ…ぐぅぅぬぅぅぅ!くそ!くそくそくそ!こんなところで切札を使う事になるとは!
「ふ、ふおおおおお!」「あはああああああ!」「ひああああああ!」
俺様の力でサキュバスに変わってない女共も強制的に変化!全員の力を限界まで引き上げる!これでアンラ・マンユと合流するまで逃げ切るくらいは――
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「御主人様。何かがこちらに向かって来ます。恐らくアンラ・マンユ様です」
「何!」
よおし!風向きが変わって来た!あいつがいれば五大騎士団とて蹂躙出来る!
あいつは正真正銘の化け物だからな!仮に倒されたとしても五大騎士団も壊滅的なダメージを受ける筈!そうなればサキュバスウォリアーズで突破出来る!!
フハハ、フアハハハ…ハハ、ハ…は?
はあああ???アレは…ど、どうなっている!?どういう事だ一体!?




