第267話 餌にされてました
晩餐会を終えた翌朝。
出発前にベルムバッハ伯爵と取り巻き…王国会議でやらかした周辺領主達が集まって謝罪を受けた。
「ノワール侯爵、改めて会議では御迷惑を――」
「失礼。急ぎ王都に帰りたいのでこれにて。ああ、皆さんは赤ん坊を殺害した件とは無関係なようだし、これ以上の罰はないでしょうから御安心を。それでは」
「え?あ、え?」「ノ、ノワール侯爵?」「あ、赤ん坊?」
何が何だかわかってなさそうだが急いでいるのでこれにて。
見失ってないよな、メーティス。
『とーぜん。こいつらダケは逃がさへんでぇ。どこまでも追いかけて裁いたるねん!』
晩餐会が終わって後は寝るだけとなった夜。
人目を避けるようにコッソリと移動する盗賊団をメーティスが偵察機で発見。進行方向から王都を目指しているらしいとわかったので俺達は帰る事になった。
奴らの方が王都に近い位置に居るが隠れるように進んでいるので進行速度はゆっくり。監視もしているし今から出ても十二分に追いつけるだろう。
もっとも…
「なー、こっちにはジュンを狙ってる奴…伯爵らを操った犯人を捜しに来たんだろ?」
「犯人見つかってないけど帰るのぉ?」
「赤ちゃんを殺した奴も見つけてない」
偵察機の事はアム達には話せないので盗賊団を見つけた事はまだ話してない。
道中で適当に説明する予定だ。
てか、一晩明けてある程度落ち着いたけど皆の怒りはまだ収まってないな…俺含めて。
「……」
「王都に戻ればいいのかって聞いてるわよ~」
今日もいつものようにドミニーさんが御者をしてくれるらしい。リヴァはすっかり専属通訳だな。
「王都に戻ってください、ドミニーさん。奴らには途中で追いつく」
「…奴ら?ジュン、奴らってもしかして犯人の事かしら」
そう質問してくる院長先生の眼力が強くなる。俺達の中で一番怒っているのは間違いなく院長先生だろうな。
いや、こんな事に一番も何も無いか…聞けば誰もが怒る内容の事件なのだから。
「…今朝早くに情報が入りました。王都に向かって隠れるように進んでいる集団があるそうです。どうも百人規模の盗賊団らしいと」
「マジか。百人規模ってこたぁ…」
「あの森でキャンプしてた集団ね。急いで追いかけようよ。何人居ようとウチが仕留めてあげる」
…一応は王女様なのに拳をゴキゴキ鳴らすのが絵になってるのはどうなんだろう。
いや、殺気立ってるのは全員だけども。
「で、ジュン。その中に男はいるか確認出来てるの?」
「それは確認出来てない。けど盗賊には似つかわしくない豪華な装飾の馬車があるらしい。それに乗ってるんじゃないかな」
偵察機じゃ馬車の中までは確認出来ないからな。しかし、恐らくはその馬車に乗っているんだろう。俺を狙っている勇者の男が。
一体どんな奴で何故あんな事をしたのか。必ず吐かせて罪を償わせてやる。
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『んん?マスター、何かこっちに向かって来よるで』
王都にも盗賊団にもかなり近づいたって時にメーティスがそんな事を言いだした。
…何かってなんだよ。魔獣か?それとも俺達が追ってるのとは別枠の盗賊とかか?
『いや周辺を警戒させてる偵察機が捉えたんやけどな。なんちゅうたらいいんかなぁ…盗賊に追われる盗賊?』
なんじゃそら。盗賊が盗賊相手に襲い掛かったってか?
『見ただけじゃ何とも言えんわ。逃げてる方は馬車で追ってるのは馬…ちょい待ち!逃げてる方には赤ちゃんが居るっぽいで!追われてるんは例の盗賊団から逃げ出したんとちゃうか!?』
…赤ちゃんが居るだと!生まれた子を殺される前に逃げ出したのか!
確保して情報を取り出す!案内しろメーティス!
『はいな!右手側にある森を挟んで反対側から街道に向かって来るで!』
「ドミニーさん!街道を外れて右手にある森の方へ!」
「は?どうしたんだよ、突然」
「……」
「いきなり何言ってるんだって言ってるわよ」
「いいから向えっての!」
「……!」
怒鳴って言う俺の剣幕を見て只事じゃないと感じとったのかドミニーさんは言う事聞いてくれる。
整備された街道を外れて進む馬車の乗り心地は最悪だが…
「森には入らず森の周囲を…見えた!アレだ!」
「アレって…誰か追われてるじゃない!」
「追ってるのは…盗賊かよ!」
「ドミニー!急いで!」
馬車には見える限りでは御者台に二人。中に何人居るかは見えないが御者台の二人は負傷してるっぽいな。
追手は…五人、いや六人か。槍や弓矢で武装してる。だがアレくらいなら制圧するのは容易い!
「助ける!先に行く!」
「ウチも行く!」
「あ、おいジュン!」
「ジュン君!此処は私達に任せて…って、速い!」
護衛の白薔薇騎士団員が任せろと言っているがそれじゃ遅い。馬車は今にも追いつかれそうだ。
馬より速く走れる俺なら間に合う!
「ウチは左!ジュンは右!」
「わかった!」
追手の方は進行方向から来たのに俺達に気が付いてないようだが関係ない。
「あっ!たっ、助けて!」
「捕まったら殺される!赤ちゃんも居るの!お願いよぉ!助けて!」
御者台に居る女性二人が叫んでいる。遠目で見たらわからないが近くで見れば盗賊というよりは冒険者か?
「わかった、助ける!そのまま進め!」
追手の方もよく見れば盗賊っぽくない奴が混じっている。何にせよ、今は制圧するしかないが。
「うっ!?」「ご、ごふっ」「がっ!?」
俺とアイを無視して馬車を追おうとしたようだがそうはいかない。全員、すれ違いざまに馬から叩き落してやった。
即座に首筋に手刀を入れて意識を断つ。これで制圧完了だ。
「おつかれ、ジュン。殺してない?」
「当たり前。そっちは?」
「こっちも生きてるよ。…人殺しなんて、出来ないよ。どれだけ怒り心頭でも、さ」
だよな。
前世ではよく異世界転生モノのラノベを読んではいたが、いくつかは共感出来ない部分があった。
日本人が転生した先でいとも簡単に殺人を経験する描写があった時はおかしいと思ったものだ。
ごく普通の日本人が異世界だからって簡単に殺して、それに慣れてしまうのはどう考えてもおかしいと当時も思ったものだ。
『そんな事よりマスター。せっかくの情報源やで。早う話聞こうや』
おっとそうだった。
追われてた方は…無事だな。白薔薇騎士団員が停めた馬車の中を検めてるようだ。
「あの…助けてくれて、ありがとうございます…」
「ですが…その、もしかして貴方達って貴族様、ですか?」
「白薔薇騎士団の護衛が付いてるって事は大物貴族なんじゃ…」
さて、彼女達から有益な情報は得られるかな。
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「つまり、貴女方は元々盗賊ではなく冒険者だったと?」
「はい…帝国北西部で活動する冒険者パーティーでした」
「冒険に出てた所を襲われて捕まって…それで無理やり一団に入れられたんです」
盗賊ではないどころか冒険者で、しかもツヴァイドルフ帝国の人間か。
それが何故こんな所で盗賊に追われるような事態に?
「私達だけじゃないんです。似たような境遇の女性は…」
「追手の中にも捕まって洗脳された元冒険者が居ます」
「洗脳された?」
…例の力か。ベルムバッハ伯爵らを操った能力。
「追手の人達だけじゃない。アイツに洗脳されたのは私達も同じ…ううん、アイツの支配下にある女性は全員同じなんです」
「…そのアイツとは何者ですか。それと貴女達はどうやって洗脳を解いたので?」
「あの男に関しては何も…洗脳が解けた理由もわかりません…産気づいてすぐにアイツに従ってるのが疑問に思えて…それで」
産気づいてすぐに…痛みで正気に戻ったパターンか?
「正気に戻った私が同じ冒険者パーティーだった仲間をなんとか正気に戻して…すぐに馬車を奪って逃げだしたんです」
「そうじゃないと赤ちゃんはアイツに喰われてしまうから…」
「…喰われる?」
喰われるって…赤ん坊の心臓がえぐられてたのって、まさか!?
「喰われたんです、皆…あの化け物に」
「あんなの見た事も聞いた事も無い…醜い肉の塊に眼と口をくっつけただけのような化け物…」
肉の塊に眼と口をくっつけただけのような化け物?…そんな魔獣知らない。いや魔獣以外にもそんなものは存在しない筈だ。
この世界では。
「…その男の目的などはわかりませんか」
「わかりません…洗脳されてる間の記憶はどこか曖昧で」
「でもこの子を化け物の餌にさせるわけにはいかないから…兎に角逃げるしかないって。この子は捕まる前に身籠った…神子様との子供でアイツの子供じゃないし」
…自分の子供を化け物の餌にしたって言うのか、その男は。
下衆が!
「まとめると、こういう事ね。その男は他人を洗脳し操る力を持っていて女を従え、子供を産ませてる。産まれた子供は化け物の餌にされる。正気に戻った貴女達は子供が殺される前に逃げ出した。これで合ってる?」
「は、はい…そうです…」
…赤ん坊の心臓を食べる化け物。俺を狙う勇者と行動を共にしてる…となれば考えられる答えは一つ。
『犬神と同じような存在やろな。例の神様が放ったマスターを見つける為に放った釣り針の餌』
だよな。恐らくは犬神と同等の強さを持った存在…化け物。
勇者と同時に相手にしなきゃいけないかもしれないのか…




