第266話 復讐でした
~~ジュン~~
「ノ、ノノ、ノワ、ノワール侯爵。王、王国会議ではたた、大変な御迷惑を」
「…落ち着いてください、ベルムバッハ伯爵。貴女に対し思うところはありませんよ」
森での事件…赤ん坊の死体を発見した後はベルムバッハ伯爵領の街、領都ゲルゼンに戻った俺達は直ぐにベルムバッハ伯爵領騎士団に通報。
同行していた白薔薇騎士団の主導で調査が行われ…複数体の死体を発見、周辺諸侯にも連絡が行き大捜査が行われる事になった。
「で、でで、ですが…その…怒ってらっしゃいます…よね?アイシャ殿下も…御連れの方々も」
「…不機嫌ではありますが貴女に対してではありません」
「ま、無関係かどうかはこれからの調査次第だけどね」
赤ん坊の死体は腐乱が始まっているものの、へその緒がついた生後間もない生まれたての赤ん坊ばかりだと判別出来る十分な状態であり。
皆、例外なく心臓がくりぬかれていた。それも男児の死体まであるのだから、この世界に於いても常軌を逸しているのは間違いない。どうかしてる。
そんな状態の赤ん坊の死体を見てしまった俺達は当然、普通の精神状態とは言い難く。
当然のように怒っている。当たり前だが。
あんなもの目の当たりにして平然としていられる奴がいたとしたら、そいつもまともじゃない。
「そ、そんな調査次第とは…私は、いえ我々は赤子を殺すなど、決して!」
「でも一時期の記憶が残ってないんでしょう。貴女に何かした奴がこの件に関わっていたら貴女も何かやらされているかもしれない。もし貴女も関わっているという証拠が出たら…今度は穏便にはすまないわよ。祈っておきなさい」
「そ、そんな…」
それは厳しい…と、思わなくもないが。王国会議でのやらかしも俺が口添えして穏便…罰金刑で済ませたばかり。
立て続けに不祥事の発覚となればいくら俺が庇い立てしようとも…厳罰は免れないだろうな。内容によっては爵位剥奪…一族郎党全員処刑も有りうるかも。
「……ア、アイシャ殿下、私は…」
「そこで震えてる暇があるなら事件解決に全面協力しなさい。その協力姿勢と貢献度によっては…明らかになった罪の内容次第だけど減刑するようママに進言してあげる」
「はっ、ははっー!おい、緊急会議を開くぞ!!皆を集めよ!」
「はっ!」
って、今から?俺は兎も角、アイも居るのにほったらかしにしていいのかね。
自分の命処か御家断絶の危機となれば慌てるのもわかるが。
「一気に静かになっちまったな」
「いいけどぉ。もてなす側としてはどうなのぉ?」
「失格」
メイドや執事達は残ってるから完全なほったらかしじゃないけど。ただでさえ俺達の怒気に当てられてビクビクしてるのに。
当主が居なくなって更に怯えてる。ちょっと可哀想。
「……ふぅ。俺含めて、皆少し冷静になろうか。特に院長先生。殺気が漏れてますよ」
「……そうね、ごめんなさい」
あんなもの見れば当然の反応ですから、謝らなくていいですよ、本当に。
生まれたての赤ん坊を殺すだけでも正気の沙汰じゃないが心臓をえぐり取って殺すなんて。何処のどいつが犯人か知らんが必ず見つけ出してやる。
というわけでメーティス。何か見つけたか。
『まだや。でも必ず見つけたる。わいも今回ばかりは怒髪天やからな。絶対に敵討ちしたるんや!』
敵討ちか…そうだな。あの子達の敵は俺が――
『ああ、でもやなマスター。赤ちゃんを殺した件にはベルムバッハ伯爵らは関わってへんと思うで』
――ほう?何故わかる。
『死体の状況からしてここ数日の出来事みたいやからな。その時にはもうベルムバッハ伯爵らは元通りになってたわけやし、ギリギリ洗脳中の出来事やったとしても、その頃には王都におったんとちゃうか。可能性としては低いやろ』
それはベルムバッハ伯爵にとっては朗報だな。早速伝えて――
『黙っててええやろ。自分がヤバいと思ってもらってた方が全力で捜査するやろし。今は利用出来るもんはなんでも利用せな』
…そうだな。
…メーティスは今回の件、勇者の仕業だと思うか。
『どうやろなぁ。レイが勇者になった件を考えると、ここらへんにおるっちゅう勇者も人間やろ。この世界で生まれた、な。勇者になった事で人格に変化が現れたやんとしても此処まで残酷な真似出来るとは思えんなぁ。普通やったら。でも…』
でも、なんだ?
『母親はどこ行ったんやろな。生まれたての赤ちゃん…へその緒がついたままの赤ちゃんを殺したって事は母親も直ぐ傍におったやろ。誘拐したんやとしたらアレだけの人数を誘拐したんなら大騒ぎになっとるはずやし、それも無い。なら、あの森の中で人知れず産んだ可能性が高いわけやけど、母親は何処の誰で何処に行ったんやろな』
…確かに。赤ん坊の死体だけで母親らしい死体は無かった。勿論、父親らしい死体も。
『それも死体の数からして一人や二人やない。十何人かは母親が居た筈や。貴族は勿論、平民でもそんな人数が行方不明になってれば騒ぎになるやろ。それも無いみたいやし。つまり、や。あの森で赤ちゃんを産んだのは――』
盗賊か。少なくとも街や村で暮らせない、陽の当たる場所で生きて行けない者達…
『そうなるやろな。あんな森でキャンプするような集団やねんから盗賊の可能性は元から高かったわけやけども。でも、それはそれで謎が出て来るわな』
あの時にも言ってた盗賊なら百人以上の規模。そんな規模の盗賊団なら冒険者ギルドに情報があがってないのはおかしい、か。
『せや。それと男やな。殺された赤ちゃんらの父親も盗賊団と一緒って考えるのが自然やろ。でも、そうなるとやな盗賊団に攫われた男…それも最低でも一年近く前に。そんなんマスターが解決した事件以外にあったか?』
フランの父親が誘拐された一件か…それ以外となると俺は知らないな。
男が誘拐されるってのは大事件になる世界だし………もしかして、その男が勇者だって考えてるのか?
『可能性としてはあるわな。勇者になった男がベルムバッハ伯爵らにしたように盗賊団の女を手駒にして手籠めにしたんとちゃうかってな。でも、さっきも言うたようにこの世界の男にあんな残酷な真似出来るかっちゅうたら疑問なわけで』
デコピンで気絶するような男が居る世界だからな…グロ耐性も無いだろうしな。
結論として現時点では判断しかねるわけか。
『そうなるわ。あの森でキャンプしてたんが盗賊団の女っちゅうのはほぼ確定やろうけど。それ以外はまだ何ともやな』
そうか…盗賊団ってのは間違いないだろうな。だが盗賊団だったとしても、だ。
『なんの罪も無い赤ちゃんを殺すなんて赦されへん。絶対に探し出したるねん!』
頼んだぞ、相棒。
~~???~~~
「御主人様、産まれました。女です」
「…前にも言ったろうが。一々報告して来るな。生まれた端からアイツにくれてやれ。そういう契約だ。残った死体はちゃんと処理しろよ」
「はい」
ちっ…所詮は盗賊か、出来の悪い。頭の女は少しだけマシだから傍に置いてるが、こいつもいずれは破棄だな。
それにしても乗り心地の悪い馬車だ。もっとマシなものを調達出来なかったのか。
「おい、王都はまだか。いつになったら着く」
「まだ暫くは掛かるかと。見つからないように秘密裏になりますと、どうしても時間が掛かりますので」
「そんな事はわかっている!急げという事だ!それぐらい察しろ!バカが!」
「申し訳ありません」
チッ…凡愚共が。何故俺様がこのような盗賊共と行動を共にせねばならんのだ。
いや原因はわかっている。全てアイツのせいだ。全てアイツの……アイツのせいで俺様はこんな生活を強いられる事になったんだ。
だが、それももうすぐ終わる。王都に着けばアイツの全てを奪ってやる。
俺様が手に入れた、この力と俺様の聡明な頭脳があれば容易い事だ。
フッフッフッ…ん?
「御主人様。脱走者が出ました」
「…はぁ?脱走者だぁ?」
「子供を産んだ女が数名の協力者と共に脱走しました。如何されますか」
チッ…何かが切っ掛けで洗脳が解けたか。盗賊団を吸収して大きなって来たが百人を超えた辺りから効果が弱くなったようだしな。
「追いかけて殺せ。絶対に逃がすなよ」
「はい」
あと少しだというのに…カス共が。
「ジュン…必ず貴様に復讐してやる。待っていろよ」




