第255話 理由がありました
前回のあらすじ。
シルヴァンも勇者らしい。
「あー…シルヴァン、それが本当だと証明出来るか?」
「勿論!これを御覧ください!」
そう言って服を脱ぎ去り…はしなかった。服を捲ってお腹を見せるシルヴァン。
その腹部には三日月のような痣が。
「…お前、そんな痣は無かったろう」
「はい!つい最近ですからね。僕が勇者になったのは」
「出来るだけ正確に言え。その痣が出たのはいつだ」
「はい?ええと…一月前くらいですね」
一月…なら例の神様に見つかるよりも前か。ならシルヴァンは刺客ではない、か?
『そうとも限らんやろ。刺客の勇者の用意だけは先にしてただけかもしれんし。何よりや、シルヴァンはマスターをライバル視してるしな。現時点では一番の要注意人物やろ』
それもそうか…でもシルヴァンの例を見るに勇者は生まれ付きの勇者というわけじゃなさそう。
後付で勇者になれるなら、誰もが勇者に成りうると考えるべきなのか。
『この世界における勇者になる資格とか法則とかが不明やからな。それを知るためにも今はシルヴァンや』
…だな。パメラから聞き出すよりもシルヴァンの方が容易だろう…多分。
素直に答えてくれるかは別として。
「シルヴァン君、勇者にはどうやってなるのかな。条件とかあるの?」
「それはですねノワール侯爵様!僕が貴方より美しいからです!」
「…真面目に言ってる?」
「大真面目ですとも!」
そうかぁ…真面目に言ってるかぁ。
…とてもそうは見えんがなぁ。さっきから気になってたが、いちいち言葉を発する毎にポージングを変えるのはなんなんだ。
胸元を大きく開けたり、髪をかきあげたり。
…バラでも咥えてみる?
「…質問を変えるよ。シルヴァン君、君を勇者だと言ったのは誰」
「僕ですよ!さっき言ったじゃないですか!」
…テンションたけぇな。なんでそんなにハイなの。
「そうでなくて。その痣が勇者の証だと君は知らなかったろう。何せ勇者に関する情報はかなり少ない。君が知っていたとは思えないんだ」
「ああ!それは姉さんですね!」
「ウフフ…」
…レティシアかぁ。彼女と会話…出来るのかな。
「あー…レティシアさん。何故、シルヴァン君が勇者だと?あの痣の意味を知っていたのですか?」
「ウフフ…シルヴァンを勇者に選んだのは私だもの…」
…ん?どういう意味だ?
「勇者に…選んだ?」
「そう、選んだの。シルヴァンは『月夜の勇者』…月と夜の大精霊に選ばれ加護を与えられた者…」
大精霊に選ばれた?それが勇者になる条件…なのか?
「ちょっと待て、レティシア。お前、さっきは私が選んだと言ったじゃないか」
「なのに大精霊に選ばれたとは…それではまるでレティシアさん、貴女が精霊だと言っているように聞こえますわよ」
そうだ、そうなるよな。この世界に精霊が存在するのは知ってたが人間が精霊になる筈もなし。
「そう、私は大精霊ルナ。同時にレティシアでもあるの。ウフフ…」
「「「「………」」」」
あー…この場に居るレティシア以外の人間の心中は「何言ってんの?」で統一されてるんじゃなかろうか。
いや、シルヴァンはそうでもない?レティシアの話を理解している?いや、俺達も理解はしているのだが。
あーた、どー見ても人間ですやん。それとも大精霊って人間に近しい姿をしてるものなん?
『それは精霊によるなぁ。ほんでやなマスター。レティシアの状態を詳しく調べてみたんやけどな。レティシアの言うとる事はほんまやで。レティシアは人間であり精霊であると言える状態みたいやわ』
…つまり?半人間半精霊だとでも?
『いや人間と精霊のハーフってわけやのうてな。精霊が人間…レティシアに憑依しとるんや。精霊は物や生物に一時的に宿る事が可能やからな』
…精霊が自分の中に居るから、精霊の意思を代弁してるって事か。んで、その大精霊のルナとやらがシルヴァンに加護を与えて勇者にした、と。
って、ことは例の神様からの刺客とは完全な別口と考えて良さそうだな。
『それはまだ結論付けるんは早いわ。精霊がなんでレティシアに憑依したんかもわからんし、精霊が神様の息が掛かった存在かもしれんしやな』
あー…そうか。神様なら精霊を操るくらい出来そうだもんな。
って、事は…他に聞くべきは、だ。
「…いつからだ?」
「ウフフ…何がかしら」
「レティシアさんはいつから精霊を身に宿している?今、話しているのは精霊なのか?レティシアさんなのか、どっちだ」
「ウフフ…私はつい最近。一月くらい前」
一月前…憑依してすぐにシルヴァンを勇者にしたのか。
「…私は、だと?まるで他にも居たような言い方だな」
「ウフフ…ええ、そう。私は三番目だから」
三番目って…他にも二人、いや二体?…の精霊がレティシアに憑依してた事がある、と?
「ウフフ…最初に宿ったのは風の大精霊シルフィード。あの子は兎に角明るい子…ちょっとした事でも何が楽しいのか良く笑っているわ…」
…んん?何か、引っ掛かるな。どっかで聞いたような?
「ウフフ…次は雷の大精霊ヴォルト。あの子はやんちゃで短気で…けんかっ早くて困った子。でも情には熱いのよ…」
まただ。なんか最近似たような事を前にも聞いたような…何だっけか?
『アレや、アレ。レティシアの性格が数年毎に変わってるっちゅう話。最初は本が好きな大人しい子で次が活発的なよく笑う子で、次はチンピラみたいなって話やったやん』
ああ~…それだ!その話から推測するに本来のレティシアの性格は本が好きな大人しい子だったんだろうな。
で、宿る精霊が代わる度に性格も変わって。つまりレティシアは精霊の影響を受けて性格が変わって…いや待て。
「つまりはレティシアの性格…いや人格、精神は表に出てないのか?この十年近くはお前達精霊がレティシアの身体を使って生活していたと?」
「ウフフ…そうではないわ。憑依してる間は私達は一心同体…性格に関してはお互いに影響が出るの…大精霊の私の方が強く影響を与えてはいるけれど」
憑依を解けばちゃんと元に戻るし、憑依してる間の記憶もちゃんとあるのよ、と。彼女は付け加えた。
しかし、それならそれで新たな疑問が。
「シルヴァン君。君達、ノール子爵家の人達はこの事を知っているの?」
「勿論。母も知ってますし姉さんも承知の上での契約です。御祖母様と大伯母様には話してませんが、その恩恵は受けれてるので問題無いでしょう」
「我が母と伯母上は知らぬ話か。それで契約とはなんだ」
「ウフフ…私達精霊は本来、人間に宿っても一時的に力を貸す事だけ。その対価に魔力をもらって終わり…こうやって人と同じように生活する事は出来ない…でもレティシアとなら可能…レティシアはそういうギフトを持っているから」
精霊を身に宿す事に特化したギフト?それで代わる代わる精霊を身に宿して、結果性格が変わっていったと。
その対価として精霊達はノール家を護って来たらしい。
「アンナめ…通りで学院を初日に退学なんて不名誉な歴を残した娘を未だに廃嫡せずに傍に置いているわけだ。精霊の加護がある娘など手放すわけがない」
ああ…そう言えばそんな話もあったな。確かに、それなら納得が行く。
「それじゃ次に…何故シルヴァン君を勇者に?」
「ウフフ…言ったでしょう?貴方に闇が迫っている。だから光となるシルヴァンを連れて来たの…貴方を護ってくれるわ…」
「え…でもシルヴァン君は『月夜の勇者』でルナは月と夜の精霊なんでしょ?どっちかと言うと二人が闇っぽいというか…」
「細かい事はいいの」
…ツッコまれたら饒舌になるのか?精霊もキャラ作りとかしてるんだろうか…
「…じゃあ、その闇とは?あと俺を護ってくれるって、どうもシルヴァン君は俺を敵視してるように見えるんだけど…」
「敵視とはまた大袈裟な。僕はただ僕の方がノワール侯爵様より美しいと証明したいだけ!その為にアイシャ殿下には僕を選んで欲しい!それだけです!」
「……そろそろウチ、怒っていい?」
「どうどう、スマイルスマイル」
無理かな?無理っぽいな…普通は怒るよな、うん。自分のステータスの為だけに婚約しろなんて。そりゃ怒る。
でも落ち着きなさい。拳を光らせるんじゃない。てかそれ、かっこいいな。
「駄目なんですか?アイシャ殿下は勇者を探していると聞きました。その勇者が僕で、目の前に居るというのに」
「ウチは恋人にするのが目的で勇者を探してたわけじゃ――ん?」
「ジュン君は居るかしら!」
今度は司祭様が慌てた様子でやって来た。今度は一体何……まさか院長先生とレイさんの間に何かあったのか?
「どうしたんです、司祭様」
「ああ、ジュン君!神子レイ様が大変なのよ!突然身体に妙な痣が浮かんで来て!それが聖痕かもしれないのよ!」
………なんて?




