第253話 想像以上でした
「すまないな。本当ならゆっくりと休みたいだろうに」
「それはいいんですけど」
王城でのアレコレが終わった後。
屋敷に帰って一休み、皆に帰った事を伝えてからもう一度院長先生に会いに行こうと考えていたら。
ユーグがうるさいから会ってやってくれと、アニエスさんに言われ。
ローエングリン邸に行く事に。おっさんの事はすっかり頭から抜けてた…ルー達と院長先生の事で頭一杯ですよ。
「なんでしたっけ。娘のパメラがレアなギフト持ちだからノワール家で息子のエルリック共々保護して欲しい、でしたっけ。前に聞いた時にも思いましたけど、何故俺に頼むんです。アニエスさんに…主家であるローエングリン家に保護してもらうって考えるのが普通じゃ?」
「それがな…私とは血が繋がってないからだと」
…つまり?アニエスさんにとっては他人の子供だから、世話をさせるのは悪いと気を使ったと?
………バカな?!
「あのおっさんに配慮なんて出来たんですか?!」
『あ~…うん、わかるけれどもやな。そこまで驚く事でもないんちゃう?』
いやいや…驚く事だろ。アレか、自分で子育てをしてようやく考える力が身に付いたのか。
それか鉱山という過酷な環境で働いた経験が活きているのか。
何にせよ、環境が人間を育てるというのは本当だな、うんうん。
「…あれ?でも俺とも血は繋がってませんが?」
「カタリナと結婚するなら義妹と義弟になるからだろう。それとアイシャ殿下と婚約した事を何処かで知ったらしいな」
なら俺に保護させれば必然王家もローエングリーン家もバックに付くって?
……おっさんが頭を使ってるだとぅ?!
『そっちはわいもビックリやわ。女絡み以外で頭使え…いや一応女は絡んでるか』
いやいやぁ…どちらにせよ、おっさんは成長したらしい。
多少マシになった程度だとしても良きかな良きかな。
「で、ローエングリン邸に着いたわけですけど。おっさんは此処に居るんですか?」
「うむ。ジュンが帰って来たら即会いたいからとな。アンナ達も居るぞ」
……ノール子爵家の方々の事も忘れてーた。
いや、でもノール家はもう放っておいてよくない?
レティシアが問題児で注意が必要って話だったけど、今のキャラなら大丈夫でしょ。
わけわからん事言うだけで。
「あー…まぁ、レティシアは確かにそうなんだが…シルヴァンがちょっとな…」
「シルヴァン君がどうしたんです?」
「いや…先ずはユーグの方から片付けよう」
なんか問題があるんスね、シルヴァン君にも。
やだやだ…そろそろ俺Tueeeeeがしたいんですけど。さっさと色々片付けてさぁ…犬神の一件は俺Tueeeeeと言えなくもないけど、二の次三の次だったからな。
帝国行きも決まって更に予定が埋まったし、早いとこ冒険者活動をしたいんたが。
とか考えながらローエングリン邸に入って客室で待っていると。
廊下からバタバタと走る音が。
「ジュン君!パメラとエルリックをお願い!カタリナとの結婚を認めるから!」
前回とほぼ同じセリフでノックもせずに入って来たのはおっさんだ。
多少マシになっても、やっぱりおっさんだな。
「…ユーグ、いきなり本題に入るな。挨拶くらいしたらどうだ」
「あ、ああ…ごめん。えっと、ひ、久しぶり、ジュン君」
「…ええ、御久しぶりです」
おっさんも席に着いて、メイドさんにお茶を淹れてもらってから改めて本題に。
お茶を淹れてもらってる間もソワソワしっぱなしのおっさん。何をそんなに焦っているのやら。
「…で、娘さんと息子さんを俺に面倒見て欲しい、でしたか」
「う、うん。頼めないかな」
「娘さん…パメラちゃんでしたか。ギフトを持ってるそうですが、どんなギフトを?」
「そ、それは…言わなきゃダメかな?」
「秘密にしたいんでしょうけど、無理です。知らなければ、こちらとしても注意のしようが無いですし」
「ジュンの言う通りだ。ギフトは能力によっては隠しようのない物もある。知っていれば対策のとりようがあるが知らねばそれも無理だ」
「う、うぅ…わかったよ。でも…」
チラッと傍に控えているメイドさんに眼をやるおっさん。…可能な限り娘のギフトについて知る人間を減らしたいって?
…本当に頭を使ってるじゃないか。
「…はぁ。わかったわかった」
アニエスさんの指示で部屋から出て行くメイドさん。それを見届けて、ようやくおっさんは話す気になったようだ。
「では、話してもらうぞ。パメラのギフトとはなんだ。お前がそこまで警戒するギフトとは」
「うん…パメラはね、神様と会話が出来るんだ」
………うん?
神様と会話…それって神託の事か?歴代のエロース教教皇と同じギフト…
「…なるほど。それは確かに他人に知られればパメラは連れ去られるかもな。次代の教皇候補となる者は見つかってないそうだし、次代の教皇候補をエロース教に紹介・入信させたらエロース教と繋がりが出来る。欲しがる貴族は多いだろう」
世界最大宗教の次代教皇に身内を送り込めるとなればな。なるほど、それは確かに手駒として欲しがる権力者は多いだろう。
「そうだけど、そうじゃないんだ」
「うん?何が違う。お前はパメラがエロース教に連れて行かれる事を恐れているんだろう」
「エロース教だけじゃないよ、パメラを欲しがるのは」
「それはわかってる。だから権力者がパメラをエロース教に――」
「エロース教の教皇は神託を受けるってギフトでしょ?パメラは違うよ。会話が出来るんだもの」
「……なんだと?」
会話が出来るって……神様の声を聞くだけじゃなく、自分の声を神様に聞かせる事が出来るって事か?
『それは…確かにやばいギフトやな。そんなギフト持ちが居たって記録は無いし、この世界やとマスター以外にそんなん出来るんはパメラだけやろな』
え。俺も神様と会話出来んの?
『出来るで。デウス・エクス・マキナを通して、になるけどな。まぁ、それに神様が応えるかはまた別の話やねんけど』
電話みたいなもんって事か。その点はパメラのギフトも同じか?
『どうやろな。それは確認せんと何とも言えんわ。兎に角、ギフトの話が事実なら保護する一択やで。下手すれば暗殺対象になりかねんしな』
暗殺って…なんでだよ。そんな希少で有用なギフト持ちのパメラを殺す理由なんてないだろ。
『アインハルト王国にそんなギフト持ちが居るってのが面白くない国はあるやろ。可能なら奪う、不可能なら殺す。そう考える輩はおると思うでぇ』
それって保護者がアインハルト王国からノワール家に代わるだけで外部に漏れたら暗殺対象になるのは避けられないんじゃ…いや、だからこそ俺が保護すべきか。
「…パメラはまだ二歳だろう。神様とまともに会話出来たのか?今までにどんな会話をしたんだ。それと神様の名は?」
「神様の名前はわからないよ。ただ、パメラはよく誰も居ない場所で誰かと会話してるんだ。神様の言ってる事はよくわかってないみたいだけど」
「よく会話してる、だと?だが此処に来てからは一度もそんな様子は無かったぞ」
「それが良くわからないんだけど僕以外の人間が傍に居る時は会話出来ないみたいなんだ。それと自然がいっぱいの場所…森とか花畑とかだと良く声が聞こえるみたい。だから今は大丈夫だよ」
…環境で相手の神様の声が良く聞こえるようになる、と?周りに他人が居ると聞こえないってのは神様が配慮してくれている、とか?
「…話はわかった。それが事実ならば放ってはおけない。ジュン」
「ええ、ノワール家で保護しましょう。ですが――」
「おお!ありがとうジュン君!」
「話はまだ途中です。パメラちゃんのギフトが本当に神様と会話出来る物なのか、確信が欲しい。どんな会話をしてたか覚えてませんか。他には何か証拠になるような物とか」
これで全ておっさんの勘違いだったらとんだ肩透かしだし。
いやパメラの事を考えれば、その方が良いのかもしれな――
「えっと…あ、うん。あるよ、あるある!パメラがね、言ったんだ。『えるりっく、ゆーしゃ!』ってね。どうも神様にエルリックは勇者だって教えられたらしいんだよ」
……なんて?




