第217話 確保しました
『勢いよく飛び出したのはリヒャルダ選手!しかし得物が何時ものハルバードじゃあないそぉ?イメチェンか!』
得物はハルバードじゃなくナイフ。刀身が少し長いしダガーと呼ぶのが正しいのか。
そして今回は俺の得物もダガー…短剣だ。
『両者共に短剣による激しい斬り合い!リヒャルダ選手は短剣一本に対しギーメイ選手は短剣二本!両手で二本の短剣を操りリヒャルダ選手の猛攻を必死に捌く!』
いや、別に必死では。余裕を持って対処させてもらってますが?なんなら開始位置から一歩も動いてませんがな。
それにしても、こいつ…左手を使う様子を全く見せないな。
それにこの短剣…見覚えがあるぞ。
『おっとギーメイ選手…短剣を納めたぞ?素手で戦うつもりなのか!?リヒャルダ選手を舐めているのでしょうか!』
そんなつもりはない。ただ少し動きを止めたいだけだ。確認したい事が出来たからな。
「だから…ほっ、と」
「!」
『おっとギーメイ選手!リヒャルダ選手の両腕を掴み動きを止めた!何をするつもりなのか!』
何って、会話だよ、会話。
「この短剣…間違い無いな。お前、あの時の暗殺者か」
「!…離せ!」
「いいぞ。離してやる」
確信出来たからな。間違いなくあの時の暗殺者だ。
暗殺者の正体がリヒャルダ…なのでは無く。こいつもリヒャルダと入れ替わったのだろう。
となると、だ。アイには偽グレーテの捕縛を依頼したが…俺が偽リヒャルダを捕まえてしまおう。
『んんん?リヒャルダ選手を捕まえたと思ったら離して今度は睨み合い!一体何がしたいのかー!』
偽リヒャルダは動かない。しかし、何もしてないわけではない。
騎士を縛ったアレを再び御披露していただけるらしい。
「だが、それは一度見た。初見で通用しなかった技が二度目なら通用する…なんてあると思うか?」
「うっ!…」
偽リヒャルダは糸を操る。その仕組みメーティスによって解析済みだ。
こいつが使う糸は魔獣の毛を編んだ物や魔獣の蜘蛛や芋虫が吐く糸を使った特殊な物だ。
故に魔力が通りやすく魔力で操作出来る。無論、十全に扱うには訓練が必要だが。
そして魔力で操るという事は魔力を探知すれば見えない糸を見つける事も容易い。
ま、俺には見えていたし、魔力の探知も出来ていた。
斬るなんて簡単――
「おっと!危ない危ない」
「……」
斬ってバラバラにした糸を魔力で瞬時に繋ぎ、搦め捕ろうとして来た。
こいつはどうやら糸の扱いに相当に長けているらしい。
「やっぱり面白いな」
「…面白い」
糸を使った戦いも悪くないな。なんていうか、こう…知らぬ間に糸で複数の敵を捕まえたり。暗殺は…趣味じゃないからやんないけど。
俺Tueeeeeに使えるんじゃないだろうか。うん…悪くないと思う。
「という訳で。お前は捕まえる。色々と聞きたい事があるしな」
「……」
「ああ、先に言っておくが。既に結界を張ってある。霧になっても逃げる事は出来ないぞ」
『あのー!何か会話してるようですがー!戦ってくださいー!』
おっと宰相からクレームが。それだけじゃなく観客からもブーイングが。
傍から見てたら何もしてないように見えただろうしな。
でも、そんな長時間ジッとしてたわけじゃないのに。沸点低くない?
「ま、お怒りだし…決着を付けよう…か!」
「…!見えな――」
「遅い」
瞬時に偽リヒャルダの背後に周り、雷魔法を纏った手を背中に押し付ける。
「ぎゃん!」
魔法版スタンガンだ。気絶…したな。気絶せずとも身体は麻痺してるから霧になる事も出来ないと思うが。
『…決着ですかね?何かよくわかりませんでしたがギーメイ選手の勝利です!って、あれ?ギーメイ選手?リヒャルダ選手をどうするんです?もしかしてお持ち帰りですか!?』
んなわけあるかい。
尋問して聞き出すには…アム達が居る部屋しかないかなぁ。
帝国に引き渡すと下手すれば処刑だし。俺に処分を任せてくれたりはしないだろうしな。
「お疲れ。それ、どうすんの?」
「拷問するんか?」
「尋問な、尋問」
アイとメーティス、ジェノバ様が移動して近くまで来ていた。
偽リヒャルダを抱える俺を見てもしかしてと思ったんだろう。
「ウチより先に暗殺者をお姫様抱っことか、おかしくない?」
「わいかてまだやのに」
あ、そっち?…後でやってあげるから我慢なさい。
ジェノバ様はお姫様抱っこが何かわかってないらしい。
この世界の場合、王子様抱っこになるんだろうか。
「ところでさ、ジュン。気付いてる?」
「ああ」
「尾行されてます」
「二人やな。内一人は例のグレーテやな」
一応は仲間意識があるのか?助けるつもり…いや、情報が洩れる前に口封じするつもりか。
どちらにせよ、此処は人が多い。警備の騎士は勿論、白薔薇騎士団だって黄薔薇騎士団だって居る。
此処で仕掛けて来る事は無いだろう。
「でもウチらから襲っちゃうのは有りだよね~」
「お?やってまうか?手伝うで」
「…止めとけ」
偽リヒャルダが捕まっただけでも連中にとっては計算外なはず。
更に二人も捕まったとなれば自棄になって回収前の爆弾を起爆させるかもしれん。
「でもこのまま尾行させるのもマズいでしょ?」
「最低でも偽リヒャルダが何処に運び込まれるか確かめたいやろしな。どうするん?」
「…三人共、先に階段を登って。振り向かないように」
三人が階段を登って行くのを見届けて…
「フラッシュ!」
「うわぁ!」「目が、目がぁぁぁぁ!」「なんだよ一体!?」
尾行者だけでなく無関係な一般人まで巻き込んでしまったが光魔法での目眩ましだ。
その隙にアイ達に追いつき、隠匿結界を張れば…尾行者は俺達を見失うって寸法よ。
俺達に注目した状態で隠匿結界を張っても効果は薄いからな。一度は視界を遮る必要があるんだ。
「上手く行った?」
「…ぽいな」
「大丈夫やろ。んで、結局何処に連れて行くん?」
「尋問なら帝国に引き渡してくだされば…」
それは無い。
尋問の経験なんて無いが…俺がやるしかないだろう。
他人に任せたら拷問になっちゃうからな…




