第212話 嫌な予感がしました
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『さぁさぁ!いよいよ始まります闘技大会決勝トーナメント!賭札は買いましたか?トイレは済ませましたか?血が飛び散っても泣き叫ばない心の準備はOK?』
…へーじょーうんてーん。
昼と夜に事件が起こっても宰相は変わった様子もない。
狙われてるのは俺とエスカロンかもしれないが、帝国の要人も狙われる可能性がある事…伝わってる筈なんだがなぁ。
警備は増員された様子は…無いな。精神操作の対策とか大丈夫なのか?王国の人間にはマインドプロテクトをかけたが…帝国の人間にもかけておくか?せめて皇族だけでも…
「大丈夫ちゃうか。帝国は精神操作対策として魔法道具や武具で対策してるみたいやし」
「……だから死角から現れて声かけるのやめーい」
お前…俺を驚かせる事に喜びを見出してない?ええ、相棒?
「まぁまぁ、ええやんええやん。それより、わいと離れてる間はなんもなかった?」
「…ない。そっちはどうだ?偵察機で何かつかめたか?」
「いんにゃ。エスカロン、エルケ、共に動き無し。身内周辺にも怪しい動きはないで」
まだ動きはない、か。ユウの予想じゃ再び闘技大会の最中に何か仕掛けて来るって事だけど…居始まって直ぐってわけでもないか。
「ほな、わては行くわ。わての出番は早いからな。ちゃんと応援しててや~」
「はいはい」
決勝トーナメントの対戦表は今朝になっての発表だった。不正や八百長なんかをやりにくくする為の処置だろう。
決勝トーナメントは4つのブロックに分かれていてメーティスはAブロック。アイとジェノバ様はBブロック。俺はDブロックだ。各ブロック22~24人に分かれている。
準決勝は各ブロックを勝ち抜いた者で戦う事になり俺はCブロックの勝者と戦う事になってる。
故に俺はメーティス、アイとは決勝まで行かないと当たらない位置にある。ジェノバ様は勝ち進めば準々決勝でアイと当たるので…そこで敗退するだろう。
ジェノバ様も間違いなく強いし、アイの武器は拳でジェノバ様は剣というリーチの差という不利もある。
それでもアイが勝つだろうというのが俺の予想。アイとメーティスの勝負は…どうなるだろうな。
アイの体術…いや武術か。武術の腕前は神憑ってるし女神様からもらった力というのも謎のまま。
デウス・エクス・マキナを使えるメーティスが有利だとは思うが…はてさて。
『さぁ、それではお次です!続きましてはエルケVSブラック!エルケ選手は此処まで勇猛に戦い抜いてきたAランク冒険者!対するブラックは帝都のお騒がせ者!昨日は不用意に立ち入り禁止場所に近付き過ぎてお説教されてます!自分の見た目が怪しいって事は理解した方がいいですよ!』
「うっさいわ!それに関しては昨日散々怒られたからもうええやんか!」
主に俺にな…しかしメーティスとエルケの対戦か。この組み合わせには作為的な物を感じるなぁ。
「どうなんです?ジェノバ様」
「…お気付きでしたか。流石です」
「アイも居るんだろ。出て来いよ」
「おっと。ウチもバレてたか。やるねぇ」
現在、俺は隠匿結界や認識阻害の結界を張っていない。狙われているとわかっているんだから隠れてればいいと思うが、俺が本気で隠れると護衛も出来ないし誘拐された時には気付けもしないから姿は見せておけと言われた。
従ってアイとジェノバ様に簡単に見つかるし、周辺にいる選手達からは――
「なんか…やっばい…」「あの白仮面…やっばい…」「何がやばいのか、わかんないけど…兎に角やっばい」
御覧の通り注目を浴びるわけだが…語彙力が仕事してませんな。
昨日に比べれば選手は減っているので幾分かマシだが…いつ話しかけて来るかと考えると落ち着かないな。
「で、どうなんです?ブラックにエルケをぶつけたのはわざとですか?」
「それは…わかりません。宰相の事ですから何か仕込んだかもしれませんが…」
「じゃ、帝国はエルケをどうするつもりなの?ウチはてっきり失格処分にするつもりなのかと思ったけど」
「そうですね。エルケが予選で強者と当たらないように根回し…不正を行った証拠は掴んでいます。それでも失格にしないという事は…エルケを利用するつもりかと」
利用…エルケが間者なのを逆手にとって偽情報をフィーアレーン大公国に流す、って事か。
「フィーアレーン大公国とはそんなに仲が良くないのですか?大昔に帝国から分裂して出来た国だとしか知らなくて」
「そうですね…フィーアレーン大公とツヴァイドルフ家は親戚筋にあたるのです。その時の皇帝の弟が自分が皇帝の座に相応しいと主張したものの聞き入れられず公爵の地位を与えられたのを不満に思い、自分に従う家臣、領主を率いて独立。フィーアレーン大公を名乗り国を興した…というのが帝国側の歴史書に記されている歴史です。六百年以上も前の話なのでフィーアレーン大公国側とは食い違いがあるかもしれませんね」
と、顔を赤らめてモジモジしながらジェノバ様は語ってくれた。
そんな経緯で興された国故に六百年の間ずっと険悪な仲…かと言えばそうでもないらしい。
「その時の皇帝からすればフィーアレーン大公は弟ですから。積極的に潰そうとはせず対話による解決を望んだそうです。その甲斐あって正面衝突は避けられ一応は友好国という扱いになり、小競り合いはあったものの戦争になる事はなく上手くやってこれました。これまでは」
しかし、先のアインハルト王国とツヴァイドルフ帝国との戦争では帝国に協力する事は無く、逆に帝国に圧力をかけ領土を切り取ろうという動きも見せた。
なんでも次代のフィーアレーン大公が大の帝国嫌いなんだとか。
「実は…フィーアレーン大公の夫が自分の父でして…次代フィーアレーン大公のマルレーネは自分の姉に当たります」
「それって…」
先代皇帝が無理やり奪い、寝取った結果生まれたのがジェノバ様って事か。で、次代大公のマルレーネにしてみれば父を奪った帝国が憎い、と。
そりゃま、そうなるだろうな…むしろよく戦争にならなかったな。
「現大公は穏健派で…帝国と正面からぶつかっても勝ち目が無い事はよくわかっているはずですから。それでも夫を奪われた事で帝国を憎んでいる筈ですから。間者を送りこむくらいはするでしょう。昨日と夜の件の黒幕とフィーアレーン大公が繋がっていたとしても、驚きませんね」
そういやフィーアレーン大公国からは大公家の人間は来てないな、記憶にある限り。
アルカ派の残党と繋がってるなんて事は無いと思うが…
『決まったぁ!死角に回り込んでの後ろ回し蹴り!ブラック選手の勝利です!』
おっと。話し込んでる間に終わってたか。
エルケは…悔しそうにしてはいるが演技なのか素なのか。
「決勝トーナメントに出れれば一回戦で負けても騎士になれるんだっけ」
「ええ、まぁ。素性調査をして問題なければどこかの貴族家が雇うでしょうね。彼女の場合は帝都の騎士団を狙うのでしょうが」
帝国とフィーアレーン大公国の問題はこれ以上は様子見…か。
ま、元々俺とは何の関係も無い話…なんだけどなぁ。巻き込まれそうな気がするのは何故だろうか。




