第209話 好印象でした
〜〜サーラ〜〜
「…手掛かりは無し。そう判断して良いのね?」
「はい。近衛騎士を狂わせた手法、目的、犯人、黒幕。全てが不明です」
闘技大会初日は無事に終わったけれど…想定外の事件ね。
何か仕掛けてくるにしても、こんな直接的な手段で来るなんて。
「現時点で怪しいのはブラックですが…ノワール侯爵が身元を保証してしまいましたな」
「…まあ、アレは違うでしょ。見た目は確かに怪しいけれど、だからこそ容疑者からは外していいわ」
もしアレが犯人なら間抜けにもほどがあるでしょ。
ノワール侯爵が身元引受人になったなら尚更。
「そうですな。今回の事件とブラックは無関係…ではないかもしれませんが、犯人ではないでしょう。むしろ気になるのはノワール侯爵との関係性ですな」
ノワール侯爵の幼馴染みねぇ…嘘じゃないけど本当でもないって感じかしら。
「アインハルト王国の方からブラックについての情報は集めてましたが…確かにノワール侯爵の周囲にのみ現れていたようで。ただ正体は誰も知らないようですが」
「頑なに素顔を見せようとしなかったものね」
謎のヒーローは正体がバレたらあかんのやー、とか。
女は謎が多い方がミステリアスで魅力的なんやー、とか。
よくわからない事ばかり言って…独特の訛りだったし。
何処の方言よ、アレ。
「しかし、ブラックを容疑者から外すとなると、です。次に怪しいのは…」
「エスカロン、ね」
今、帝国に対しておかしな事しそうなのはエスカロン・ガリア・ドライデンくらい。
他にも居るには居るけれど…その他は此処まで大胆な事は出来ない。
精々が間者を送り込むくらい。
「では仮に。今回の騒ぎがエスカロンの仕業だとして、です。目的は何だと考えますか」
「…実験、じゃないかしら」
あの国…例の魔獣を従える魔法道具といい…どうやら魔法道具の開発に力を入れているらしい。
それを踏まえると、今回は新作魔法道具の実験。そんなとこじゃないかしら。
「…ノワール侯爵が解毒魔法を使ったので毒物、或いは薬物の可能性もあるとの事ですが」
「気絶したから、効果時間が切れたから正気に戻った可能性もあるんでしょ?」
「それはまぁ。人命を最優先にして、全員に回復魔法を施したそうですから」
結果、六人全員が目を覚ました時には正気に戻っていた。
何人か別パターンで処置してくれれば、原因を絞れたのだけど。
「そこまでノワール侯爵に求めるのは間違いでしょう。直ぐ様処置しなければ死んでいた可能性もありますし」
「…そんなに危険な状態だったの?」
「いえ。口封じに死ぬように仕掛けをしていた可能性もある、という事です」
…そう事もある、か。いや、でも…
「手掛かりになりそうな証言は何も無かったのよね」
「はい。正気を失ってから目を覚ますまでの記憶は何も。正確には正気を失うニ時間ほど前からの記憶が無いようです。昼食は普通に食べていて、本人はそれを覚えていません」
ふうん…午後1時から午後3時までの間に何かされた、と。
「他に様子がおかしい者や、行方不明になってる者はいないわね?」
「はい、全員確認済みです。招待客も、全員」
「城に侵入者は?」
「そちらもありません。もっとも…古く広い城ですからな。隠し部屋などがあるならわかりませんが。確認した限りでは侵入者の痕跡はありません」
…陽動の線も考えたけれど、無さそうね。
一応、アーティファクトは確認しておこう。
「どう対処されますか」
「…正気を失っていたのだとしても彼女達は適当に暴れ回るのではなく、貴賓席を目指していた。これは確かよね?」
「はい」
「ならばある程度は行動を操作出来るという事。なら精神操作系の何かだと思うわ。精神操作に耐性のある装備や魔法道具を用意しなさい。念の為に解毒魔法が使える者も集めておきなさい」
「御意」
全く…ただでさえ余計な事をしてくる連中がいるっていうのに。
そうでなくても忙しいのよ、私は。少しは私の苦労も考えて欲しいものだわ。
「もう一つ、報告があったわね」
「エルケがフィーアレーン大公国の間者かもしれないという話ですな」
これもノワール侯爵からの情報ね。
流石、私の見込んだ男。伊達に実力で侯爵になってないわ。
でも…
「貴女の事だから事前に情報は掴んでたんでしょ?その上で泳がせていた」
「ええ、まぁ。ですがフィーアレーンからの出場者は他にも居ますから。絞りきれて無かったのも確かです。ノワール侯爵には助けられましたな」
まぁ…そうね。でもアインハルト王国の貴族としては失態ね。この情報と引き換えに何らかの取引を持ちかけるくらいしなきゃ。
でも、そんなとこも…しゅき。
「って、いたぁ!何するのよ!」
「いえ。何やらムカつくメス顔してましたので、つい」
「ついで皇帝にデコピンなんかするんじゃないわよ!」
こいつ…やっぱり処刑してやろうか。
「そのノワール侯爵ですが。如何なされるので?闘技大会は明日で終わり。明後日には帰ってしまわれますが」
「大丈夫よ、彼は既に私の術中よ」
「それは…契約書ですか」
「そ。私の推薦枠に彼を入れる代わりに私主催の御茶会に参加するって契約の、ね」
これさえ有れば…後はじっくりと時間をかけるだけ。
「ところで妹達はノワール侯爵について何か言ってた?」
「好感触でしたよ。年長のガブリエラ様やザビーネ様などは完全にほの字ですし。意外なのはコンチェッタ様やドロテア様、エジェオ様ら年少組が懐いている事ですか」
「懐いている?ノワール侯爵に?」
「ええ。特にエジェオ様がノワール侯爵を兄のように慕っているご様子。ドロテア様とコンチェッタ様もお兄ちゃんと呼んでいましたよ、先程の晩餐会で」
そう言えばノワール侯爵がドロテアとコンチェッタの世話をしていたような…周りにカサンドラとジェノバも居たから止めなかったけれど。
「何でも孤児院時代から周りの子供の世話をよくしていたそうで。慣れているのでしょうな」
そうなのね。ま、今から慕ってるならドロテア達も結婚を受け入れるでしょ。
「ドロテア様とコンチェッタ様はノワール侯爵に添い寝してもらうそうですよ。いやはや…血は争えませんなぁ。あの歳で男を誘うとは」
「止めなさいよ!」
男性、それも他国の侯爵に添い寝させるなんて!また良くない噂が立つじゃない!
「大丈夫でしょう。流石に四歳の御二人に手は出さないでしょうし。エジェオ様も御一緒するそうですし」
エジェオも…まぁ、それなら確かに…いや、でも…
「何を悩んでいるので?姫様は参加出来ませんよ?」
「わ、わかってるわよ!あと陛下と呼びなさい!」
で、でも…ドロテア達が一緒ならカサンドラとジェノバも参加するって言い出しそうだし…それなら私だって…
「駄目です。同衾するのはドロテア様とコンチェッタ様、エジェオ様だけです。カサンドラ様とジェノバ様も諦めてましたよ」
チッ…そこはもう少し粘りなさいよ。私相手には粘るくせに。
「まあいいわ。妹達もノワール侯爵の結婚に賛成なら問題は何も無いわね」
「あ、いえ…ミネルヴァ様は賛成というか反対ではない、というのが正しいかと」
「ミネルヴァ?」
ああ…『どう〜でもいい〜』とか言いそうね。どうせノワール侯爵の顔も良く見てないんでしょうし。
もう一度ノワール侯爵と接触させた方がいいかしら。
「他に何かあるかしら」
「いえ何も…ああ、一つだけ。大した事では無いのですが」
「何よ、そのニヤニヤした顔は。腹立つわね」
「実況で私が姫様を七十点と言ったのをノワール侯爵
否定されてましたよ。最低でも八十点はあるだろうって」
「…え」
そ、それって…つまり…私、結構好印象!?
や、ややや、やったぁぁぁ!!!
「まぁ、それでも妹君達の中では下の方なのですが……聞いてませんな」
「ドゥフフ、ドゥフフフフフ」
「はぁ。ま、今夜くらい良い夢を見ても罰はあたらないでしょう。おやすみなさいませ」
ウフ、ウフフフフフフフフフフフフフフフフ。
あー!良い夢見れそ―!




