第204話 成長してました
『決まったぁぁぁぁ!予選一回戦最終試合を突破したのはリヒャルダ!遠い異国ワイアン王国から来た流れ者!冒険者ランクこそCランクですが実際はSランクに匹敵するとの噂あり!今後も注目だぁ!』
ようやく一回戦が全て終わったか。
結局、午前中は一回戦だけで消費されてしまったな。
これなら貴賓席に混じって皆と観戦―――は、出来なかったろうな。
ギラギラした眼で朝から絡んでくる令嬢達を避ける為に、この姿で選手達に混ざってたんだった。
『それでは予選二回戦は一時間後に開始予定です。観客席の皆さんは、それまでにお食事をお済ませください』
そうだ、食事はどうしよう。
貴賓席に居れば考える必要も無かったが…試合前だし、軽くで済ませるか。
闘技場前に屋台が出てたな。何があるのか知らないが、屋台飯でいいか。
屋台が集まってる場所まで行くと同じ考えの出場選手達が多く見える。
観客もたまたま寄っただけの人も居たりで賑わっている。
こういうお祭りでは屋台が人気なのは世界共通らしい。
屋台の内容は日本の物とは違うが。日本では定番のたこ焼き、唐揚げ、焼きそば、綿菓子なんて物はなく。
何の肉かわからないが丸焼きにした肉を削ってパンに挟んだドネルケバブのような物。
野菜と何かの肉団子のスープ。容器は返却。
エチゴヤ商会から仕入れたのかマヨネーズと野菜スティックのセット…此処まではまぁ日本の祭りで見かけても不思議じゃなかったろう。
しかし…屋台でブタの丸焼きなんてやるかね。…ブタだよな、アレ。
他には鳥の丸焼き…大きさからして鶏じゃなさそうだ。
小鳥サイズの鳥を首だけ落として丸焼き…脚が残ってるのがよりグロく感じさせる。
ヘビの串焼きやトカゲの丸焼きなんてもんもあるし…ちょっとしたゲテモノ市だな。
しかし、そんな中で強く俺を惹きつける屋台が!
そう…アレは俗に言う漫画肉!何の肉かわからないが!
人の頭サイズの漫画肉が売ってる…めっちゃいい匂い!香辛料もふんだんに使ってる事が匂いからわかる。
一本銀貨一枚…ソコソコのお値段だし、軽く済ませるつもりだったのにガッツリ食う事になるが!
アレは食わねばなるまい!見つけたからには!
「マスター、あれ食うん?」
「……だから死角から気配を消して話かけるな。心臓に悪い」
「今回は気付いとったやん」
さっきやられたばかりだからな。流石に学習はする。
「で。あれ食べるんやったら、わいの分もお願いな」
「…わかった」
今のメーティスはパワードスーツを着ていない。普通の町娘のような服装だ。
「ところでアレは何の肉か、わかるか」
「わからんのに食う気やったんかいな。ちゅうても、わいにもわからんなぁ…ほな御金頂戴。わいが買って来るついでに聞いて来るわ」
「じゃ、頼む」
俺は仮面を着けたままだが声を聞けば男だとバレかねない。
そこを察しての提案だろう。流石相棒。気が利くな。
「お待たせ。ほい、マスターの分」
「サンキュ。で、何の肉?」
「タイラントディアーちゅうデカい鹿の魔獣の肉やって」
ほう、鹿肉。日本で食べた鹿肉は淡白な脂の少ない赤身だったが…これはどうだろうか。
見た限り脂はのってそうだが。
「マスター、あっちで座って食べようや。あと、ついでになんか飲み物も買ってや」
メーティスがそう言うので飲み物…柑橘系のフレッシュジュースを買ってからベンチに。
何が楽しいのかニコニコと笑うメーティス。ま、久しぶりの生身…でもないか。闘技大会登録に先行させた時にも生身だったし。
それよりも、だ。仮面を外して…実食だ!
「漫画肉…いざ!」
う、美味ぁぁぁ…表面は焦げてないのに中までしっかりと火が通って…柔らかく簡単に噛み千切れる。霜降り肉並に口の中で溶けるよう…脂っこく無い。
「んん〜!美味いなぁ!」
隣で俺よりもワイルドにがぶりつくメーティス…口周り、汚れてるぞ。
「ほら、このハンカチはやるから。口周りを拭きな」
「ん?ありがと、マスター。でもマスターが拭いてぇや」
「アム達みたいな事を…はぁ、ほら」
「んっ…ニヘヘ」
いいけどさ、これくらい。
しかし、美味いな、これ。調理法とか聞けないかな。
「ふぅん。そんなに美味しい?」
「うん。試合前だけどもう一本食べちゃおうかなって……アレ?」
「じゃあ、お姉ちゃんも食べよっかなぁ。ジュンを探して走り回ってお腹すいたし」
「げっ…いつの間に…」
……いつの間にかピオラが隣に居る。そして感じる怒気…いや殺気?
「えっと…ピオラお姉ちゃん?どうして此処に?」
「昼食時間になってもジュン来ないし。探し周ったに決まってるじゃない」
いや、俺が聞きたいのはどうやって俺の隠匿・認識阻害の結界を破ったのか、なんだが…
「普通にわかったけど?」
…普通にわかるってなんだ。結界があろうとなかろうと俺の居場所がわかるってか?増々謎能力に磨きがかかってんな。
「そんな事より。お姉ちゃんは隣の人が誰なのか気になるなぁ」
「あ、わい…じゃなくて…わ、ワタァシィデェスカァ?」
カタコトの外国人みたいになってんじゃん。ブラックってバレるとマズいからの対応だろうが。関西弁じゃすぐにバレるからな。
「貴女…名前は?」
「ワタシィ、メーティストイイマスゥ。ヨロシクネェ」
「私はピオラ。で、貴女はブラックの関係者?それか本人かしら」
「…ファ!?」
おおう?!な、何故わかった?ピオラはブラックの姿のメーティスと接触した事はあっても、この姿のメーティスとは初対面の筈だが。
「…ピオラお姉ちゃん?何言ってんの?メーティスとは古い知り合いで、此処で偶然再会しただけの―――」
「その髪」
「か、髪ガ、ナァンデスカァ?」
「それ、ジュンの髪の毛だよね」
「…ファ?!」
そ、そう言えばそうだった。メーティスのマテリアルボディの髪の毛は散髪して切った俺の髪の毛を利用したんだった。
だ、だが何故それがわかる?確かに帝国でも珍しい黒髪ではあるけれど、それで俺の髪の毛だなんて断ずるのは無理が―――
「私にはわかるの。その髪の艶、匂い…そして僅かに感じるジュンの気配。全てがジュンの髪の毛だと物語ってる!」
……この際、髪の毛の艶や匂いで判別出来るというのは信じてもいい。
いや、それも十分に怖いし気持ち悪いけど。けれど詳しく調べれば解りそうな気がするし、許容出来なくもない。ギリギリで。
だけど髪の毛から気配って?!何言ってんのかサッパリわからない!
「「こ、怖っー!」」
「何が!闘技大会に出てる事には驚いたけど、これはチャンス!ジュンの髪の毛を返してもらうから!」
何処から取り出したのか。ピオラの両手には鋏が握られている。髪の毛を切るような鋏では無く、布切り鋏よりもゴツくて大きい…ピオラが握ると最早凶器。
まさかそれでメーティスの髪を根こそぎ切ろうって?
「ち、ちょい待った!ピオラお姉ちゃん、メーティスは―――」
「さぁ!今日こそは負けない!ジュンを返してもらうから!」
「ア、アノ!ワタシィノ、ハナシヲキイテクダサーイ!ワタシハ、ブラックジャアーリマセン!」
「騙されるもんですか!フゥン!」
「ヒ、ヒイエェェェ!!」
「ちょ!ピオラお姉ちゃん!此処街中!しかも他国!そんなデカい鋏振り回すとか駄目!絶対!」
「離してジュン!お姉ちゃんに甘えたいなら後にして!今はジュンを取り戻さないと!」
いや俺此処!此処に居るから!取り戻したいのは髪の毛だったんじゃないのか!?
「ヨ、ヨクワカリマソーンケド!ワタシハシツレイシマァスネ!バッハハーイ!」
「あっ!こらぁ!ジュンを置いてけー!」
「いや俺は此処に居るから!落ち着いて!」
その後。
メーティスを逃がした事に憤慨するピオラをなんとか宥め。落ち着いた後にはメーティスの関係を説明しろと言われたが二回戦が始まる時間が迫ってる事を理由に撤退。
なんとか撒いて闘技場に戻れたけど…まさか結界を突破して来るとか。
ピオラの能力、成長してるよな。…謎過ぎる。




