第198話 質問に答えました
「エ、エスカロン…陛下」
「…ジェノバ、ミネルヴァはアタシが連れて来る。此処は任せるよ」
エスカロンが近付いて来た事で警戒する二人。エスカロンを警戒するように言われてるのか、この場にはジェノバ様が残るらしい。
…でもそれなら二人共残ればよくない?ミネルヴァ様を連れて来る事はそこまで重要じゃないと思うよ?
「おや、カサンドラ殿は御退席されるのですか?」
「ええ、少し用事が出来ましたので。それでは失礼します。…御注意を、ノワール侯爵様」
後半部分のみ小声で話してからカサンドラ様は退席。さてさて…俺に何の用かな、エスカロンよ。
ドライデンに行くつもりは無いぞ、あの時と変わらずな。
「…騒がしいですね、此処は」
「パーティーですからね。静かなパーティーなんて悲しい気持ちになりますよ、きっと」
「そうですね、きっとそうです。…御挨拶が遅れました。ドライデン連合王国国王エスカロン・ガリア・ドライデンです。初めましてノワール侯爵様。御高名はかねがね」
「…アインハルト王国侯爵ジュン・レイ・ノワールです。エスカロン陛下は国王なのですから、私を様付けで呼ぶ必要はありませんよ」
「いえいえ。ご存知の通り、少し前までは一都市を代表する商人に過ぎませんでしたから、私は。成り行きで王になりましたが、国王に相応しい人物が現れるまでの代理に過ぎません。相応しい人物が現れるまでの、ね」
それが俺だって言いたいんでしょ?でも絶対に俺じゃないから。国王なんてやらないから。だって俺Tueeeee出来なくなるから!
「ウチは挨拶は要らないよね」
「ええ、アイシャ様とは先程御話しさせていただきましたし。そちらの御方はジェノバ様ですね。貴女様のお噂も聞き及んでいますよ。『姫騎士』と呼ばれ民に愛されていると」
「…ありがとうございます。ジェノバ・アリーチェ・ツヴァイドルフです、エスカロン陛下」
…?。なんだか妙に硬いな、ジェノバ様。何故、そこまで警戒する?エスカロンに護衛はいないし、武器も携帯していない。流石にこの場で何かするとは思えないんだが。
「先程はサーラ様と宰相様が大暴れだったようですね。私も近くで見学したかった。遠目にしか見れなかったので」
「中々見れるものじゃないですよね。皇帝と宰相のじゃれ合いなんて」
「面白かったよね。ウチはあのコンビ好きだよ」
「…そう言っていただけると幸いです」
アイの言葉に笑みを浮かべながらもエスカロンから視線を外さないジェノバ様。それに周りをよく見れば会場警備の騎士達も俺達を中心に距離を詰めてる。
帝国はエスカロンをかなり警戒してるようだ。ドライデンは帝国にも何かちょっかいをかけていたのか?
「…正直、エスカロン陛下は、というよりドライデン連合王国からは誰も来ないと予想してましたよ、私は」
「ええ、ええ。ノワール侯爵様のお考えはわかります。家臣達…いえ内乱を勝ち抜いた仲間からも今回は見送ろうと止められたのですが、どうしてもと私が譲らなかったのですよ。無理をしてでも来る価値があると判断したのです」
それが俺だって言うんでしょー?意味深な眼をして見つめられながら言われても響かないんだからねっ!
…てか、エスカロンって何か違和感があるんだよな。白髪に白い肌、細身の体躯。長身で長い手足。何処か蛇を思わせる黄色の瞳。年の頃は二十代半ばか。
そして…そう、美人だと思えない。そう、美人だと思えないんだ。
女性は皆美人が当たり前、とまでは言わないが今まで出会った女性は殆どが美人。前世の日本人感覚では皆、美人と呼んで差し支えない人ばかりだったのだが…目が肥えただけだろうか。
………こんな事女性に言えば総スカン間違いなしだな。
『いや、わての感覚でもエスカロンは美人やないで。女装したマスターの方がよっぽど美人やわ』
…あんまり嬉しくない誉め言葉をありがとう。
「その価値ってもしかしてジュンの事?ジュンを王配に迎えようって魂胆?そんなのウチが許さないけど?」
「いえいえ、まさか。私如きがノワール侯爵様を夫に迎えるなど。あってはならない事です。私は自分の事をよく知っているというのが強みでして」
「ふうん。じゃあ貴女の言う価値って何?この闘技大会に何があるっていうの?」
「私共が掲げた理想について、アイシャ殿下はご存知で?」
「これからは男の時代だー、でしょ」
「ま、まぁ、大雑把に言えばそうなります。…お恥ずかしい話、我が国では男性の立場が著しく低い。酷い場合は家畜の如き扱いです。私達はその現状を憂い、男性を保護し立場の向上を図っています。仕事を望む者には仕事を与え、活躍の場も用意するつもりです。まだ始めたばかりで実績もないのですがね」
…実績の部分で俺を見たな。既に功績を挙げて侯爵になってる俺を広告塔…プロパガンダも使おうってか?
「だからジュンを使おうって?隣国では既に男性貴族が誕生してる、貴方達も頑張れば彼のようになれるって?」
「それも効果的で良さそうですね。ですが、そのお誘いをする前に一つ、ノワール侯爵様にお聞きしたい事が」
「…なんでしょうか」
「貴方は現状に不満を抱いてはいませんか?窮屈だと感じた事は?もっと自由に生きたいと願った事は?周りの人間を疎ましく感じた事はありませんか?」
「…一つじゃないですね」
最初の質問が全てなんだろうけど。はっきりと言わないだけで、アレだろ?俺が周りの人間に不当に搾取されてないか、利用されてないかを聞きたいんだろ。国境警備の際に捕らえた傭兵の証言から察するに。
「…エスカロン陛下。貴女が今仰った事は誰もが一度は感じた事のある事です。どんなに素晴らしい環境に身を置いても、いずれは慣れて不満を感じ、変化を求めるようになる。人はその不満と向き合い、上手く付き合って行くしかないのです。平民だろうと貴族だろうと王族だろうと、それは変わりませんよ、きっと」
「………達観されてるのですね。とても十代の少年の言葉とは思えません」
前世と併せれば三十代後半になるからなぁ。そりゃ多少は大人になるってもんよ。
『俺Tueeeee願望は決して大人の願望とは思えんけどな』
お黙り!
「…質問の答えですが。私の現状に不満は勿論あります。やりたい事がやれてないですし、面倒なな事もやらねばならない。ですが周りの人間に不満はありません。トータルで見て私を取り巻く環境は恵まれていると自覚していますしね」
「…そうですか」
いや、ほんと。偶に頭を悩ませる事をして来るし、とんでもないやらかしをしてくれたりもするが。人間関係に大きな不満は……………………あるな。
ジーク殿下とか『紳士会』の面々やら。まだ解決してないんだよなぁ…
「…やはり無理をして来てよかった。ノワール侯爵様と御話し出来て、本当に良かった」
「…そうですか。それは良かったです」
「ええ、ええ。本当に……それでは私はこれで。他国の方にも御挨拶しなければ。何せ国王としては新顔なもので。顔を売っておかなくてはならないのですよ」
そう言って、笑顔でエスカロンは立ち去った。
それを見てジェノバ様や警備の騎士達の緊張が解けた。何人かの騎士はエスカロンに付いて行ったようだ。
どうやらエスカロンが俺に接触する事に最大限の警戒をしていたみたいだが…何故、帝国が俺を護るように動く?そりゃ招待客ではあるがそれは他の客も同じだろうに。
『知ってるんやろ、帝国も。エスカロンの狙いがマスターやって』
…なるほど。
皇帝と皇妹達の夫候補を渡す訳に行かないってか。帝国もそれだけ本気で―――
「お待たせしましたノワール侯爵様!ミネルヴァを連れて来ました!」
ああ…そう言えばそんな事言ってたな。本当に連れて来たのか。
しかし…
「ほらミネルヴァ!しっかりしろ!自分の足で立て!」
「……え~や~だ~。めんどくさ~い~」
カサンドラ様の背中に居る赤毛の少女がミネルヴァ…様。
な~んか、この子も一癖ありそう…




