第151話 やりすぎでした
~~ソフィア~~
「行っちゃったわね…」
「行っちゃったっスね…」
「「「行ってしまわれましたね…」」」
ジュン君が殿下先生とイーナ殿、従魔のハティだけを連れて『赤の楽園』に入っていく。ドラゴンを探して。
ハァ…いくらベルナデッタ殿下の予言があったとはいえ…護衛無で未開領域に行かせないとならないなんて…ま、指を咥えてただ待つのみなんて、考えていないのだけれど。
「ナヴィ」
「りょーかいっス。行くっスよ、皆」
ナヴィ達、斥候班にジュン君達を追跡させる。要は予言が実現出来るように、邪魔にならないように影から護衛すればいいだけ。ナヴィ達ならそれが可能………ちょっと?
「ナヴィ?何故戻って来るの?」
「…あ、あれ?おかしいっスね…真っ直ぐ進んでた筈なんっスっけど」
「「「やはり、森の奥に進む事が出来ないようですね。記録の通りです」」」
…くっ!ナヴィでもその法則に抗えないのね。
でも、それならそれでジュン君達も直ぐに戻って来る筈……
・
・
・
「………戻ってこないわね」
「っスね…奥に進めてるみたいっスね、ジュン君達は」
「「「流石ジュン様です」」」
ああ、もう!ジュン君が優秀なのはわかっていたけれど、今回ばかりはそれが恨めしい!
いえ、そうでなきゃ此処に来た意味が無いし、予言が実現しないのだけれど!
「くっ…一体どうすれば…!」
「心配なのはあたしも同じっスっけど、そこまで心配ならどうしてジュン君達だけで行かせたんスか」
「そうですよ。いい加減理由を話してくれませんか」
「理由は話せないとしか仰ってくれませんでしたが、今なら構わないのでは?」
「ジュン様とアイシャ殿下も理由は御存知のようでしたが、御二人も何も仰ってはくれませんでしたし」
「「「今なら私達と白薔薇騎士団の方々しかいません。秘密は守られるでしょう。さぁ、話してください」」」
…身内の白薔薇騎士団員になって教えられないのにレッドフィールド家の人間に教えられるわけないじゃない。
ましてやこの三つ子はジュン君に取り入ろうとする小娘共…教えられるわけがない。
「何度聞かれても同じよ。これはナヴィにも白薔薇騎士団員にも、ジュン君を護る会のメンバーにも話せない。これは国家最重要機密に関わる事よ。これ以上探ろうとすれば反逆罪に問われる可能性も出て来る。自重しなさい」
「まじっスか…」
「「「……わかりました」」」
国家最重要機密だと教えるのも本来ならマズいのだけど。これぐらい脅しておかないと延々と聞いてくるだろうし、仕方ない。
後で、念押しで口止めしておこう。
それにしても、この三つ子…息ぴったりね。どうしてそうも声を合わせられるのかしら。
「…では別の御話しをしませんか」
「…別の御話し?」
「はい。ただこうして此処で待っているのも退屈ですし」
来たわね…いずれ切り出して来ると思ってたけれど。
どうせ話の内容はジュン君を護る会に入れて欲しい、でしょ。
わかってるのよ、こっちは。
「「「皆様はジュン様のどんな所がお好きなのでしょう?」」」
「…え?」
「な、なんスか、いきなり…」
ジュン君のどんな所が好きって…全部よ?顔もスタイルも性格も、声も匂いも、何もかもよ!
「そんなの決まってるじゃないっスか。全部っスよ、全部。あのエロい胸、エロい尻、エロい指先、エロい腹筋、エロい太腿、エロい背中、エロい眼、エロい耳、エロい鼻、エロい唇、エロい顎」
「「「全部エロいんですね…」」」
ナヴィ…貴女ッて…いえ、否定は出来ないのだけれど。もう少し隠す努力をしてくれないかしら。それだとジュン君の身体だけが目当てのように聞こえ――
「それに何より顔に似合わぬ凶悪な一物!アレは間違いなく女泣かせな極上の代物っスよ!他の男のなんて見た事無いっスっけど!」
「「「な!ななな!い、一物!?」」」
「ナヴィ!?」
それは秘密の中の秘密だって乙女の誓いを立てたじゃない!どーして言っちゃうの!?
「ナヴィ!それどーいう事!?」
「ジュン君の一物を見た事あるの!?」
「あっ。しまったっス。まぁもう言っちゃったし仕方ないっスね。実はジュン君の冒険者活動に付き合って野営した日、朝になって目覚めるとジュン君のジュン君がズボンがはちきれんばかりの主張を――」
「ストップストーップ!」
それを言っちゃったら私も秘密にしてたのバレちゃうじゃない!
ああ、やっぱり周りで聞いてた団員達が集まりだしたし!
「だんちょ~?ど~いう事ですか~?」
「それって団長も付いて行った時の話ですよね~?」
「ジュン君に関する事で私達に隠し事は無しって話じゃなかったですか~?」
「うっ、うぅ…もうナヴィ!」
あの時はカタリナ殿にゼフラ先輩、ファリダさんも居たけれど彼女達は眠ったままだった。だからナヴィと二人でコッソリと…ちょっとアレな事して楽しんでた事がバレないように秘密にしてたのに!
「なのにどうして言っちゃうの!?」
「まぁまぁ、いいじゃないっスか。やっぱり仲間に隠し事は良くないっスよ。というわけで国家最重要機密とやらを教えてくれたりは…」
「それとこれとは話が別よ。さっきも言ったけど、本当に罪に問われる可能性があるから。下手すれば極刑よ。本当に自重なさい」
ナヴィもしつこいわね…ベルナデッタ殿下の秘密は本当に話せないというのに。知りたがる気持ちもわかるけれど。
「「「いえ、そんな事はもはやどうでもいいです。ジュン様のジュン様について、もっと詳しく!詳細な説明を求めます!」」」
「お、おおう?物凄い食いつきっスね」
「お恥ずかしながら…」
「これまでこういう話をする機会も相手も居なかったもので…」
「アウレリア姉様がその手の話が好きで仕入れた話をしてくれましたが…所詮は又聞きですし」
「「「知っている人の話となれば尚更違いますもの。ですので是非、詳細に語ってくださいませ!」」」
…アウレリア姉様って赤薔薇騎士団のアウレリア団長の事よね。あの人、そういう人だったのね。
この三つ子もマゾヒストだって話だし…それでいいのかしら、レッドフィールド家。
・
・
・
「ふぅ…なんだかんだで白熱しちゃったっスね…結構な時間が経ったんじゃないっスか?」
「そうね、楽しそうだったわね」
もういいけれど…いい時間つぶしにはなったし。それにしてもジュン君達はまだ戻らない所を見ると…森のかなり奥まで進んでるみたいね。無事だと良いのだけれど。
「団長。観測班から連絡です。ファイアーボールが三発、上がったそうです」
「そう…わかったわ」
ファイアーボールが三発。それは事前に決めたジュン君とのやり取り。
一発なら救援要請。二発なら帰還。三発なら探索は順調。今日は森で野営する、という決まり。
まだ明るい時間だけど、野営に向いた場所を見つけて、早めに休むと決めたみたいね。
「私達も交代で休む…前に食事の準備をしましょうか」
「了解っス。三つ子ちゃん達も手伝ってもらうっスよ」
「「「三つ子ちゃん…わかりました」」」
そこで今日の所は恋バナ…恋バナ?じゃないわね、途中から完全に猥談になってたわね、うん。
…猥談は終わり。観測班と警戒班を交代で立てて休息をとった。
・
・
・
「だんちょー、起きてくださーい」
「んっ…おはよう」
朝……途中で起こされなかったという事は夜中には何も起こらなかったみたいね。
「何か報告事項はあるかしら」
「何も無いですよ。魔獣が棲む森だって話なのに、出て来る気配が一切ない、不気味なほどに静かな森だって皆言ってます」
…それも記録にあったわね。外部からの侵入は拒み、森の生物は外に出ない。どういう理屈でそうなってるのかしら…もしかしたら、その辺りの事もジュン君が解明したりして…って、それは流石にないかしらね。
「「「おはようございます、レーンベルク団長」」」
「…お、おはようございます」
朝から完璧に揃ってるわね、この三つ子は…相変わらず誰が誰なのかわからないし。本当にジュン君はよくわかったわね…
「「「朝食の御用意は出来てますよ。どうぞ、召し上がってください」」」
「あ、ありがとうございます…イザベラ殿達が料理を?」
「はい。これでも一通りの事は出来るつもりです」
「家の教育方針もありますが、ジーク殿下の教育係でもありますので」
「どの分野もそれなりに習得しているつもりです」
「「「ですので、ジュン様と結婚した暁には、必ずお役に立てると自負してますよ」」」
はいはい…そうだと良いわね。もう大体の事は現在の婚約者達で何とかなるのだけどね。
……でも、美味しいわね、この朝食。
「今戻ったっスよ。あ、美味しそうな朝食っスね。あたしの分はあるっスか?」
「「「はい、どうぞ」」」
ナヴィ?今戻ったって…何処に行ってたの?私は指示を出してないけれど。
「ちょっと再挑戦して来たんスよ。森の奥に行けないかって。まぁダメだったんスっけど」
「そう…」
やはりダメ、か…これじゃジュン君から救援要請が出たとしても、真っ当な手段じゃ救けに行けないわね。
一応、最終手段として考えている事はあるけれど…
「「「何です?」」」
イザベラ殿達の前でやるのは気が引けるのよね…後々問題にされかねない。
今日は別の手段を模索しながらジュン君達を待つ事にしましょうか。
だから今日は恋バナ…いえ猥談なんてしないわよ。
「「「では、皆さん。今日も恋バナをしましょう」」」
だからしないってば…
・
・
・
数時間、森の奥に進む為の方法を模索したけれど、成果なし。
さて次は何を試すかと悩んでいた時、慌てた様子のナヴィが走って来た。
「だんちょー!空!空見るっスよ!」
「空?何かあった……アレは!?」
遠目で大きさはよくわからないけど、かなり大きいアンデットのドラゴンが居る!
それにその近くに四つの何かが空を飛んでる…もしかしなくてもアレもドラゴン!?
「間違いなくアンデットのドラゴンっスね。その周りに居るのもドラゴンッぽいっス」
ならもしかして…その四匹のドラゴンのいずれかにジュン君達が乗っている?つまりは…あんな得体の知れないドラゴンと戦っている!?
「総員に告ぐ!これより白薔薇騎士団は『赤の楽園』に突撃!ジュン君達を救援する!私に続け!」
「「「「「はっ!」」」」」
「「「え?と、突撃ですか?」」」
この手は使いたくなかったけれど、仕方ない!やるしかないわ!
「ハァァァァ!」
「団長!どうやって進むんスかって…なるほどっス!」
「「「ええええ!?」」」
どういう原理かはわからないけれど、要は森に入ったら外に出るように何らかの謎の力が作用する!ならば森を破壊しながら進めば謎の力は効果を失う筈!
「だ・か・ら!この破壊には正当性がある!ハァァァァァ!」
「あたしらも進行方向にある森をぶっ壊しながら進むッスよ!」
「「「………仕方ありませんね!ジュン様の為です!」」」
どうやらイザベラ殿達の承認を得られたみたいね!遠慮なく行くわよ!
「ハァァァァァ!!」
よし!進めてる!進めてるわ!少し時間が掛かるけれど、待っててジュン君!
「あ、団長!見るっスよ!ジュン君が!」
「ジュン君がどうしたの?!私は貴女ほど遠くは見えないのよ!」
「ジュン君が空飛んでるっス!」
「………ええ!?」
ジュン君って空が飛べるの!?飛行魔法の使い手なんて世界中探しても極僅かしかいないのに!そんな希少な魔法使いだって広まったら増々厄介な事に!
「って、それどころじゃないわ!まさかあのドラゴンと戦う気なの、ジュン君は!?」
「それ以外ないっスよ!って、なんスかアレは!」
「今度は何…ジュン君!?」
アレは雷属性の魔法で出来たハンマー?!この距離で見える…なんて大きいの…いえ、まさかそれであのドラゴンを!?
「いけない!ドラゴンは総じて魔法に対して高い防御力を持っているわ!アンデットになってもそれは変わらない――えええ!?」
「一撃で粉々にしたっスよ!?」
そ、そんな……以前、ユウさんがジュン君は強い、もしかしたら世界最強かもしれないなんて言ってたけれど…まさか本当にそうなの?…はっ!?いけない!
「「「ジュン様…しゅごい…」」」
あああ!やっぱり見られてたぁぁぁ!ど、どうしよう…アレは間違いなく天災級の魔獣…それを討伐したとなればジュン君は公爵に陞爵してもおかしくはなし…で、でもそれを陛下に伝えればすぐさま噂は広がり増々ジュン君を欲する人間が増える…更に飛行魔法まで使えるとなれば周辺国も本格的に動き出すのは間違いない。
どうする…三つ子含めて今回の件は口止めして情報封鎖する?幸い、あのドラゴンを討伐したという証拠は何も無いし、ジュン君は説明すればわかってくれる――
「なんか落ちていくっスね。アレは…魔石っぽいスね。それもかなりデカい」
「あんなデカいドラゴンが持ってた魔石なら相当な大きさでしょうね」
…証拠出て来ちゃったかぁ。これは隠しきれないかも…ジュン君が無事なのは良かったけど…やりすぎよ!もう!




