第143話 調査開始しました
「アレが『赤の楽園』…確かに真っ赤ですわ」
「ウチは初めて来たけど…まさか木だけじゃなくて雑草まで赤いなんてね」
「わふっ」
レッドフィールド公爵領領都トレッドを出て一日。俺達は目的地『赤の楽園』に到着した。
実際『赤の楽園』を眼にして浮かんだ感想は…あまり長時間居たい場所では無い、だ。
赤は暖色系だから目に優しいかなと思っていたが、そうでも無い。慣れるまではすぐに眼が疲れてしまいそうだ。
後、違和感が凄い。
土や岩、樹の幹は本来の色のようだが葉や草は赤ばかり。
花も樹の実も赤いのだから違和感が半端なく、その違和感がまた精神的な疲労を増加させる。
サングラスでも用意しておくべきだったかな…
「奇妙な場所でしょう?」
「レッドフィールド家に深く関わりのある森ですのであまり悪く良いたくはないのですけど」
「自分から入りたいとは思えませんね」
「「「ノワール侯爵様が望まれるのでしたらお供しますが」」」
此処でも完璧なユニソンを見せる三つ子…彼女達は森の入口で待機なのだが、武装している。
本当に言えば付いて来るつもりみたいだ。
言わないけどね?そこそこ戦えそうだけどさ。言えば確実にソフィアさん達も付いて来るし。
「ほんっとーにあたしらは行かなくていいんスか、団長」
「………良いのよ、今回は、今回ばっかりは!理由は説明出来ないんだけどね!」
「…めっちゃ無理してるっスよね」
…ベルナデッタ殿下の予言でドラゴンに乗っていたのは俺とアイ、イーナとハティのみ。
今回の予言は外れて欲しくないので、予言に出てない人は連れて行かない事に。
ただし、何かアレば魔法を打ち上げる、狼煙を上げる等して連絡。即座にソフィアさん達は突入、救助に来る流れだ。
「んじゃ、取り敢えず入ってみよっか」
「ですわね。先頭はわたくしが―――」
「あ、ウチが先頭ね」
「何故ですの?!」
そりゃ不安だからだろうな。
アイもこの数日の旅で十分、イーナのドジっぷりを堪能した事だし。
「じゃ、入るよ。真っ直ぐ進むからね」
「危なくなったら直ぐに呼ぶっスよ!」
「危険な真似も避けるのよ!」
「「「ご武運を。私達も此処で待機しております」」」
アイが先頭で森の中へ入り調査開始。
小鳥の鳴き声や虫の気配、木々のざわめき…目を閉じれば普通の森を歩いてるのと変わらない。
が、やはり此処は普通の森では無いと直ぐにわかった。
「アイ、何故曲がる?」
「え?ウチ、曲がってた?どっちに?」
「左。太陽がある方向に進んでたのに、右側にあるだろ」
「…本当だ。どうして…」
「わたくし、後ろで見ていても殿下が曲がった事に気付きませんでしたわ」
「わふぅ…」
ほんの数m歩いただけでこれか。
取り敢えず、公爵の話は本当だと証明されたな。
「ジュンは平気なの?」
「平気というか…すぐに気付けたな」
「ジュン様は気付けた…一体何の違いが…あら、これは野イチゴですわ!」
野イチゴ?野イチゴは確か五月が時期の筈。今はもう7月だが…いや日本の野イチゴと同じと決めつけるのは間違いか。
この世界においても特殊な森だしな、此処は。
見た目確かに野イチゴだけど、赤色に変わった別の植物の可能性も……
「って、何食ってんの?!」
「はい?だって野イチゴですし…好物ですのよ。ジュン様も如何です?」
「いや無警戒過ぎでしょ!此処が何処だか忘れたの?!」
「見た目野イチゴでも全く違う植物かもしれないだろ!」
「あ」
下手すれば毒があるかもしれんのに!元は野イチゴでもこの森で育てば毒を持つとかも有り得るし!
ええい!メーティス!
『はいはい…ん〜…毒性は無さそうやで。でも普通の植物と違って魔力を含んどるのが気になるけど』
魔力?野イチゴに?
『せや。ごく僅かやけどな』
…怪我の功名か?植物に魔力…もしかして、それがこの森の特性?
「ど、どど、どうしましょう?!わたくし、これで死ぬんですの?!」
「…落ち着け。即死じゃなきゃ毒だろうと怪我だろうと治せるから。何かおかしな事はあるか?」
「な、無いですわ…美味しかったですし…」
「美味しかったのね…でも、ウチはやめとこ」
「…わふっふ」
「…ハティにまで呆れられてる気がしますわ」
気のせいじゃないだろうなぁ…満場一致だよ。
「異常がないならいい。進もうか」
「うん。えっと、こっちだよね」
再び、アイを先頭に森の中心を目指して進む。
しかし、直ぐにアイは方向を変えた。俺は気付けるって事はメーティスの言う通り俺には効かない何かが作用してるらしい。
「アイ――」
「アイシャ様、今度は右に曲がってますわよ」
「へ?あ、ほんとだ…全然気付けないわね、これ…」
「…んん?」
今度はイーナが気付いた?さっきは気が付けなかったのに?
「…イーナは何故気が付けた?さっきは気付けなかったろ?」
「あ、あら?言われて見れば…どうしてでしょう?」
「…次はイーナが先頭を頼むよ」
今度はイーナ先頭、次にアイ、俺、ハティの順で縦一列に歩く。
因みにイーナの装備だが両手持ちのハンマーと軽装の鎧という…貴族がする武装としては異色の装備だ。イーナが持つギフトを最大限に活かす装備…なのだろうけど。
でも…無駄にエロいんだよなぁ。胸当てはあっても胸の谷間は見えてるし、脚に防具はあっても太腿は見えてるし。
お尻もいい形して…ハッ!いかんいかん。こんな所で発情するわけにもいかんし、そんな場合でもない。
集中せねば…
「って、アイ。何故曲がる」
「…へぁ?!あれ、何でウチ…」
「わたくし、曲がってませんわよ?」
ふむ…やっぱりイーナはこの森の特性の影響から脱してるな。
そうだ、ハティは?
「って、おいおい。ハティ!戻って来い!」
「…わふふ!?」
最後尾を歩いていたハティもいつの間にか単独で別方向に歩いていた。やはり、イーナだけが影響を受けていないようだ。
考えられるのは…さっきの野イチゴか?
『…そういう事なんやろな。詳しい原理はわからんけど、イーナだけがとった行動ってそれくらいやろ』
やっぱり、そうだよな。俺もそれしかないと思う。
「という訳で。アイとハティも野イチゴを食べてみよう。丁度そこにあるし」
「うぇ…マジ?」
「大丈夫ですわよ。わたくし、何もおかしなことになってませんもの。あ、中にアリが入ってる事がありますので割って中身を確かめてからがよろしくてよ」
「早く言ってよ!食べちゃうとこだったじゃない!」
「わふ!」
…イーナは河港都市育ちなのに詳しいな。いや、近くに山もあったけどさ。貴族のお嬢様っぽくない。
「山中行軍の訓練を受けた事がありますの。その時、食べられる野草や木の実なども教わりましたの。その時に食べた野イチゴが美味でしたのよ」
はぁ、なるほど。
…その時に慎重に行動するようにとは教わらなかったのかな?
「…なんですの、そのジトッとした眼は…」
「いや、何でも。さ、進もうか」
「うん。って、ジュンは食べなくて大丈夫なの?」
「ああ、俺は平気。最初から俺は平気だったろ」
「そうだった…なんで?」
「わふぅ?」
「ま、それはいいから。進むよ」
はてさて。これで問題無く進めるように…なるかな?




