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第125話 誘われました

「い~い天気だねぇ。お野菜が美味しい」


「お前は天気に関係なく野菜か果物が食えりゃいいんだろ。もっと肉を食え、肉を。カウラもファウも冒険者にしちゃ細すぎる」


「アムは野菜を食べるべき」


 久しぶりの冒険者活動の後、イエローレイダー伯爵の突撃訪問があった日の翌日。


 今日からはアム達の冒険者ランクを上げる為にCランク帯の依頼を受ける事に。表向き、俺はそれにただ着いて行くだけとなっている。


 今は目的地までの道中、街道の脇で昼食の最中だ。


 今日も行列をなして着いて来ようとする人達が居たが前回と同様に警告を出し、それでも着いて来ようとする人は門番の兵士に止めてもらっている。


 面子はほぼいつも通り。アム達三人にカタリナとゼフラさんにファリダさん。それから護衛役の白薔薇騎士団の四人。


 そして昨日従魔になったハティだ。


 帰ってから詳しく調べたのだが、ハティはリトル・フェンリルというかなりレア種の狼らしい。


 本来、王都周辺の森に居ない筈の種であり、何故あんな所に居たのかはわからないが成長すればAランクの魔獣の中でもかなり上位に位置する存在なのだとか。


 リトル、なんて名前が付いてる癖に成長すれば馬より少し小さい程度の大きさになるらしい。


 そんな強力な存在なら番犬代わりに使うのではく冒険に連れて行けと周りから推すに推され。


 やむを得ず今日も連れて来た次第だ。


 正直、俺Tueeeeeのチャンスが奪われそうなので遠慮したかったのだが。


「クゥン?」


「…そんな澄んだ目で見るな」


 俺Tueeeeeしたいが故に邪魔者扱いしたようで罪悪感が生まれてきちゃうじゃないか。


 やめて!僕の汚れた心を見透かさないで!


『大丈夫大丈夫。マスターは神様のお墨付きで善性の人間やねんから』


 それ、ほんとーかなぁ。ほぼヒモな生活を続けてる俺は果たして善性な存在なのだろうか。


「しかし、見違えるように綺麗になったな。毛並みもいい」


「だよな。モフモフだよな」


 昨日、イエローレイダー伯爵が帰ってから二時間以上かけてハティを洗体し。


 全て終えた後は輝かく銀毛に覆われた狼が。


 ただ、もうすぐ夏本番。狼も生え替わりの時期らしい。


 抜け毛がこんもりと出来ていた。室内でやらず、庭でやって本当に良かったと思う。


「サラサラ…モフモフ…真冬だと極上の抱き心地だろうな」


「ふ、ふん!あたいの尻尾だって負けてねーぞ!」


 アムさんや…何も従魔と張り合わんでも。ハティは従魔、ペット枠だよ?


 それにアムが勝負するならカウラとファウのでは逆立ちしても勝てない胸部であって尻尾のモフモフ具合じゃ…


「何故かなぁ。今ちょっとだけジュンを叩きたくなったよぉ」


「同感。やっちゃう?」


 単なる勘とは馬鹿に出来ない精度だけども。そんなんで叩かないで。


 てか、カウラとファウの胸部については何も口に出して言及してませんが?


「口に出してなくても眼が語って……団体が近付いて来るよ」


「どっちからだ?」


 カウラが気付くと同時にハティも気が付いていたらしい。


 ハティが顔を向ける方を見ると、まだかなり距離があるが確かに何者かが近付いて来る。


 だが、此処は街道の傍。当然、俺達以外にも街道を使う人はいるし、堂々と近付いて来るのを見るに盗賊の類では無いだろう。


「警戒しなくも大丈夫そうだな」


「だな。…てか、アレ、貴族っぽくね?」


「馬車だけじゃなく、護衛の騎士も…二十は居るな。あの家紋は…わかるか、ゼフラ」


「交差する盾の前で交差する槍と剣…アレはブルーリンク辺境伯家の紋章です」


 …えぇ…そう言えば、この街道を進んだずっと先にあるのがブルーリンク辺境伯領か。


 こないだの叙爵の儀に参列してから今日まで王都にいたのか。


 それにかち合ってしまうとは…運がない。


『これまでの経験からして、ほぼ確実に絡まれるもんなぁ。隠れた方がええんとちゃう?』


 いや、もう遅いっぽいな。もう先頭の騎士は俺達に気が付いてるっぽい。


 下手に隠れると、それこそ難癖をつけられそうだ。


「辺境伯か…黙って過ぎ去ってくれるのを期待するしかないか」


 まるで嵐みたいな扱いですけども。


 まあ同意だ。少なくとも俺達に用事はないし。


 向こうもそう思って…くれないかなぁ。


「…おいおい、停まるなよ」


「なんで停まるのぉ…」


「シッシッ」


 流石に小声だがアム達の声で俺達の前で停まったのがわかる。


 目を合わせないように街道とは反対側を向いてたのになぁ。


 なんで停まるかなぁ。


「失礼。ローエングリーン家の方とお見受け……あ、貴方はまさかノワール侯爵?!」


 おう?俺に気が付いて停まったんじゃなくカタリナに気が付いて停まったのか?


 いや…そうか、馬車か。今日はローエングリーン家の馬車を借りて来たから、馬車にローエングリーン家の家紋がある。


 それを見て近付いて来たのか…こりゃ俺が隠れてても接触は避けられなかったな。


「…フゥ。如何にも私はノワール侯爵です」


「私はローエングリーン家が嫡子カタリナだ。我々に何用か」


「ぽっ……はっ!し、失礼しました!私はブルーリンク辺境伯家に仕える騎士です!我が主、ブルーリンク辺境伯様が昼食を共にしてもよいかとお聞きして来いと言われ来た次第です!如何でしょうか!」


 声デケェ…そんな大声出さんでも聞こえるっちゅうねん。


 で、昼食ねぇ…俺達もまだ途中だし、時間的余裕はある。


 皆はどう思って…あぁ、俺が決めろって眼で言ってるな。


「…構いませんよ。ただ、そちらの分まで我々で用意することは出来ませんが」


「はっ!お受けいただき感謝申し上げます!では!」


 …スキップしとる。


 そして馬車に戻り大声で報告したんだろう。


 戦闘に勝利したかのような大歓声が挙がった。


「…決めさせといてなんだけどよ、良かったのか?」


「…仕方ないだろ。相手は辺境伯だし。それに…あんな圧力かけられたらな」


「「「あぁ…」」」


 いや、もう、ね。俺が居るって気が付いた後のブルーリンク辺境伯家一団から送られる期待の眼差し、その圧力といったら。


 つい最近、行列をなした女性達とほぼ同じよ。


「やぁ。提案を受け入れてくれた事、感謝する。ヒルデガルド・レアンティーヌ・ブルーリンク辺境伯だ。親しい者らはヒルダと呼ぶ。ノワール侯爵も、そう呼んでくれて構わない」


 馬車から出て来たのは叙爵の儀で見た人物に間違い無い。


 青髪で糸目、年齢は…二十代半ばか後半か。背はイエローレイダー伯爵とは比べるまでもなく低い。が、決して低くもない。160cm前後か。


 で、だ。ブルーリンク辺境伯の後ろにもう一人いる。


「それから私の妹の…」


「姉からお話しを聞いて会いたいと思っていました、ノワール侯爵様。カミーユ・リアン・ブルーリンクです」


 これまたどえらい美人が来た。クリスチーナに匹敵する美人だ。


 辺境伯と同じ青髪でセミロング。背は辺境伯より高く168cm前後。


 年齢は俺と同じくらいか。


 スタイルは抜群で、まるでトップモデル。


「…初めまして。ジュン・レイ・ノワール侯爵です」


「ジュンの婚約者、カタリナ・リーニャ・ローエングリーン。ローエングリーン伯爵家嫡子です」


「それから彼女達は平民ですが私の仲間であり家族も同然。同席しても構いませんね?」


「勿論。後から来たのは我々だし、同席を願ったのもこちら。平民だからと追い払うような真似はしないとも」


 挨拶を交わしている内にも辺境伯家の家臣達がせっせと食事の準備に動いてる。


 それはいいのだが…なんか本格的な料理を始めようとしてません?


 騎士の一人…いや三人が鎧を脱いでシェフみたいな格好になりましたけども。


 他の騎士達も野菜の皮剥きとか調理用テーブルを出したり椅子を出したり…なに、キャンプでもするの?


 俺達は昼は肉を焼くくらいはするけど、大抵は事前に用意したパンやら果物を食べるだけで、外で本格的な調理なんてしないんだが。


「どうかしたかな?驚いているようだが」


「あ、あぁ、はい。随分と本格的な昼食を用意するつもりに見えたので」


「あぁ、うむ。私の拘りでね。人生における楽しみの一つは食べる事だと思っている。故に野外だろうと出来るだけ美味い食事を食べたいが為に、遠出をする時はいつも調理器具を持って出るんだ」


「毎度、家臣達の負担になるから自重して下さいと言ってるのですけど」


「何を言う。私だけが食べるならまだしも、家臣達も食べるならいいだろうに。それに見ろ、奴らの楽しそうな顔。不満なんてまるで感じないぞ」


 いや、あの顔は知ってる。だらしなくゆるんだあの顔…俺が宿舎で暮らし始めた頃の白薔薇騎士団員が同じ顔してたもの。


 間違い無くくだらない妄想で頭がいっぱいな筈。


「用意出来るまで時間がかかりそうですね…」


「ま、それは仕方ない。出来るまでは世間話にでも興じようじゃないか、ノワール侯爵」


 仕方ないって、あーた。それまで俺達に待てっての?


 そりゃ了承したけどさぁ…此処に何時間足止めさせる気だよ。


 今日は日が暮れる前に村に入る予定だったんだが…間に合うかなぁ。

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