第123話 誰か来てました
「お願いします、カタリナさん!」
「当家のお茶会に御招待しますので、是非あの方と御一緒に!」
「ええい、しつこい!ダメだと言ってるだろうが!」
冒険者ギルドを出ると…そこでは予想通りの光景が。
貴族令嬢と思しき女のコ達に囲まれ辟易してるカタリナ。
そして囲まれてるのはカタリナだけでは無く…
「頼みますよ、ゼフラ先輩!」
「同じ剣術道場で汗を流した仲じゃないか!」
「無理なモノは無理だ!」
「お願いよ、ファリダさん!」
「あの方の下で働けるように口添えを!」
「すみません、何度言われても無理です」
カタリナの従者であるゼフラさんとファリダさんまで囲まれていた。
察するに知人なんだろう。いや、普通に考えて赤の他人にああまで詰め寄る事は出来ないか。
「あ、出て来られたわ!」
「お願いします!どうか私を妻の一人に!」
「貴方様の為なら何でも致します!」
そうでも無かった。赤の他人の俺にグイグイ来すぎやろ。引いてまうわ。
「下がれ!この方はノワール侯爵様だぞ!」
「不用意に近付く者は実力を持って排除する!」
「死にたく無ければ下がれ!」
お、おう…白薔薇騎士団員が壁になってくれたが、こんな真剣な姿は初めて見たな。
宿舎でのだらしない姿とのギャップが凄い。
最強騎士団の呼び声高い白薔薇騎士団の警告を受けて、興奮状態で詰め寄って来た女性達もタジタジだ。
『ついでにマスターからも警告したらどないや?今なら耳に入るやろ』
お、おう…そうだな。でも、最初だし出来るだけ穏便に…
「皆さん、こちらの騎士が言ったように俺…私は侯爵です。その私に不用意に近付いては困りますし、冒険者として仕事をしてる時に着いて来るのも止めていただきたい。いずれは力尽くで排除しなければならなくなりますので。…警告しましたよ?」
「「「「「うっ…」」」」」
最後に少し睨むように言って、ようやく離れてくれた。
これからも同じ事が暫くは続くだろうが、同じように対応して様子を見るしかないだろう。
「全く…遅いじゃないか。早く離れるぞ」
「そうしよう」
未だ縋るような視線を送って来る女性達を置いて、屋敷に帰る。
道中の話題はステラさんとの会話だ。
「ふうん…ランクアップか。Bランクにはどうやってなるんだ?」
「Cランクまでは依頼をこなして行けばなれるけど…Bランクから試験があるんだっけか?」
「うん。確かギルド職員が同行した上で、依頼を完遂するんだって」
「面倒」
一般的にはBランクから高ランク扱いになる。国によってはBランクから特権が与えられたりするし、特定の場所にも入れるようになったりもする。
「特権?んなもんあんのか?」
「それなら私も知っているぞ。確か我が国ではBランク以上の冒険者は騎士になる事が容易になるんだ。Sランク冒険者ならば名誉貴族にもなれるぞ」
名誉貴族…ってなんぞや?
『名誉貴族っちゅうのはな、貴族になった者だけの一代限りの貴族や。子から子へ、爵位を継承が出来んちゅうわけやな。継承出来る貴族…永代貴族になろうと思たら、そこから更に功績を挙げなあかんわけや』
ほうほう。…あれ?それってつまり院長先生達は貴族になれたって事では?
『なれたやろうけど、望まんかったんやろ。そこは人それぞれやろ』
そりゃそうだな…Sランク冒険者ならお金はそれなりに稼いでただろうし。院長先生は地位とか興味無さそうだしな。
「名誉貴族ねぇ…あたいは興味ねぇな。騎士にもなるつもりはねぇし」
「わたしも。ジュンと一緒にいれるなら、平民でいいし」
「同感」
クリスチーナほどじゃないけど、アム達も貴族好きじゃないもんな。
そう言うと思った。
「それで話を戻すが、アム達はどうするんだ。暫くはランク上げに動くのか?」
「どうすっかなー…確かに面倒事を避けようって思えば上げた方が良いよな」
「でもそれだとジュンが一緒に行けないからねぇ」
一緒には行けるぞ。ただ俺の功績にはならないだけで。
「俺の事は気にしなくていいから。着いて行くのもいいし、ソロで活動するのもいいし」
「ん〜…んじゃCランクの依頼の中でも簡単そうな依頼を受けてみっか」
「そうしよっか」
「同意」
…ソロで活動もしてみたかったんだけどな。
カタリナは着いて来るだろうし、白薔薇騎士団の護衛も来るだろうから、完全なソロではないが。
「それとジュン。この狼はどうするんだ?冒険に連れて行くのか?」
「それも良いけど。普段は屋敷の番犬ならぬ番狼にしようかなって」
「それは勿体無くね?」
「狼なら鼻が利くし、役に立ちそうなのに」
「追跡に便利」
ああ、そっか。普通はそういう使い方が一般的なのか。
人間に出来ない事をやらせる為の従魔だもんな。
しかし俺にはデウス・エクス・マキナがある。メーティスも居るし、従魔の必要性が…全く無いとは言わないが、薄いよな。
「ジュンの従魔だから好きにすりゃ良いけどよ…取り敢えず屋敷に帰ったら風呂だな。こいつ、臭うぞ」
「あ、やっぱり?わたしも臭いと思ってた」
「野生臭」
「………クゥン」
臭いと言われて落ち込んどる。完全に俺達の言葉を理解してるな。
「それよりも名前だろう。なんなら私が考えてやろうか?」
「…参考までに、どんな名前を?」
「そうだな……やはり狼なら強そうな名前が良いな。オグマとかデュークとか」
…それって御伽噺…いや神話に出て来る英雄の名前じゃね?
人名だし…あまりに立派すぎやしないか?
ダサいとは言わないでおくが。
「カッコよすぎじゃね?」
「そもそもこの子は雄なの?」
「どれどれ。雌だ」
「ガウガウ!」
ファウが持ち上げて確認すると止めろとばかりに抵抗する狼。
何処を見て確認したのかは明言しないが…狼も見られたら恥ずかしいのか?
「雌、か。…ジュン、お前って奴は…狼の雌ですら虜にするのか?」
「人聞きの悪い事を……てか、まるで誰かを虜にしたかのようなセリフですけど?一体誰を虜にしたって言うんですかねぇ?教えてくれますぅ?」
「そ、それは…きょ、今日大勢虜にしたろうが!行列になるくらいに!」
しまった藪蛇だった。久々にツンデレ令嬢カタリナをからかうつもりが。
「話を戻そう。雌の狼なら…」
「…ならばハティはどうだ?神話に出て来る狼にハティと言うのがあった筈だ。雄なのか雌なのかはわからないが、響きは雌の名前っぽいだろう?」
ハティ?…悪くないな。
「お前はどうだ?ハティでいいか?」
「ワフ!」
「喜んでんじゃね?」
「じゃあ決まりかな」
「決定」
尻尾振ってるし、ハティで決定だな。よく見れば可愛らしい瞳してるし、汚れを落とせばモフモフな可愛い狼になるかも。
「着いたな…って、まぁた来てんぞ。馬車が」
「でもいつものナントカ公爵の馬車じゃないっぽい?」
「紋章が違う」
…ほんとだ。何度か見たレッドフィールド公爵家の家紋とは違う紋章だ。
ローエングリーン家の家紋とも違う、初めて見る紋章だな。
誰が来てるんだ…?




