栄次はどこに?3
栄次は忍の少女スズの監視を始めた。
スズは庭で鳥を見ていた。
いや、そういう風に見えているだけで、おそらく、屋敷全体の構造を見ているのだろう。
栄次と更夜を殺した後に、すぐに逃げられる方法を考えているはずである。
スズは栄次に見られていることにすばやく気づき、子供らしい笑顔を向けた。彼女は必死に売られてきた子供を演じているようだ。
「栄次様、なにか?」
「いや、特に用はないが、ひとりでいた故、遊んでやろうかと思ってな。迷惑なら良いのだが」
栄次の言葉に、一瞬、スズはいぶかしげに栄次を見たが、笑みを向けて言った。
「栄次様、遊んでくださるの?」
「ああ、なんの遊びが好きか? 女の子の遊びは何が流行っている?」
「じゃあ、おいかけっこ」
「元気だな」
少女が走りだし、栄次が軽く追いかける。
「栄次さま~! こっちだよ~」
スズは忍だけあり、かなり足が速い。この身軽さに周りが忍だと気づくかもしれない。
そう思った栄次はスズに注意をした。
「スズ、しっかり前を向きなさい。『お前は速いな、そんなに速く走ったら』転ぶぞ」
栄次に言われ、スズは忍だとわかる行為なのだと気づく。
足をゆるめ、わざと転んだ。
「ほら、だから言ったのだ。大丈夫か?」
栄次が駆け寄り、スズを抱き起こす。
「うん。大丈夫です。栄次様、遊んでくださり、ありがとうございます」
スズが栄次から離れようとしたため、栄次はすぐに口を開いた。
「俺の部屋に来るか?」
栄次は、スズが奪われた小刀を取り返しにくると確信し、部屋に呼んだ。
「いきます」
スズはすぐに返事をした。
……やはり、小刀を奪いに来るか。
監視するならば、離れぬ方が良い。
栄次はスズを連れ、屋敷へと帰っていった。
「……バカ丸出しだな」
庭の木に体を預け、それを黙って見つめている銀髪の青年がいた。いつ、いたのかもわからない。存在を感じない青年である。
目が悪いのか目を細めて、状況を眺めている。
「あいつ、寡黙なくせに女児好きか? 男が女の童と部屋に帰るなど、怪しさしか感じぬではないか。……くくっ、違和感だらけだな。目を引いている事に気づいておらんのか。バカな男だ。あのガキが忍だとあいつが証明しているではないか。……くくく」
銀髪の青年はおかしそうに笑うと、栄次とスズの後を追いかけ、屋敷に入っていった。
スズと栄次は再び部屋に入った。スズは忙しなく辺りを見回し、小刀を探している。
「そんなに怯えるな。何もせん。何もないが、何もせずに過ごすのも一日として良いものだぞ」
「あの……栄次様、護身用の小刀を返してほしいのです。ないと怖くて」
進展がないと思ったスズは栄次を騙し、小刀を取り戻そうとし始めた。
「……戦慣れした男が沢山いるここでは、不安かもしれぬが、俺から離れなければ何も起こらん。逆に刃物は危ないだろう」
「……そんな……」
「俺が戦に出る時に返す。戦に子供を連れていくわけにはいかんからな。そうなったら、自衛をするのだ」
栄次はスズの返答がすべてわかっているため、落ち着いて会話を進める。忍といっても七つの子供。当時三百歳を超えていた栄次を騙す事など不可能である。
スズは幼いながらも栄次を暗殺する方法を必死で考えていた。
そしてスズは子供だとは思えない恐ろしい計画を思い付くのである。
「小刀は……もういいです。確かに栄次様から離れなければ酷いことはされなさそう」
「……?」
栄次は素直に引き下がったスズを一瞬訝しげに見たが、優しく頭を撫でた。
「賢い子だ。わかればよい」
「はい」
スズは目を伏せてから、返事をし、栄次に寄り添ってにこやかに笑った。
特になにもせずに時間が経ち、夕日が障子扉から漏れてきた頃、スズは立ち上がる。
「どこへ行く? 飯なら飯炊きからもらう故……」
「栄次様……あの……」
スズが腿を擦り合わせ、恥ずかしそうに下を向いていたので、栄次は拘束しすぎていたことに気がついた。
「すまぬ。恥じらわずとも良い……。行ってきなさい」
「ありがとうございます」
スズは安心した顔で部屋を出て行く。
「……さすがに……ここでさせるわけにもいかぬ、監視するわけにもいかぬ……。子供だが、女の子だ。男にたいしての恥じらいもあることだろう……。仕方あるまい」
栄次は彼女が帰ってくると信じ、黙って待っていた。
しかし、しばらくしてもスズが帰ってこない。
「いくらなんでも、遅すぎるな。……覗きに行くのは……やや抵抗があるが……」
栄次は困惑しつつ、スズを探しに立ち上がる。
「姿を確認したら、部屋に戻ろう」
栄次は小さくつぶやくと、障子扉を開け、廊下に出ていった。




