表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指風鈴連続殺人事件 ~恋するカナリアと血獄の日記帳~  作者: 須崎正太郎
天ヶ瀬佑樹《あまがせゆうき》の日記
25/131

天ヶ瀬佑樹《あまがせゆうき》の日記 総括

「天ヶ瀬佑樹の日記はそれでおしまいです。その日記を書いた翌日、つまり袴田みなもと安愚楽士弦と待ち合わせの約束をしていたその日、天ヶ瀬佑樹は殺害されました」


 日記を最後まで読み終えた私に向けて、A氏は淡々とその事実を告げた。

 私はたいへん驚いた。なるほど、確かに天ヶ瀬佑樹の日記はここで終了しており、ノートの残り部分はなにひとつ文字が書かれていないものだったが、まさか天ヶ瀬がこの直後に殺されていたとは。


「2001年8月26日の午後2時ごろ、自宅近所の公園の片隅で、殺害されているのが発見されたのです。死因は撲殺。なにか鈍器のようなもので後頭部を殴られていました。しかし殺害現場は公園ではなく、天ヶ瀬の自宅だと思われるそうです。自宅アパートの玄関先に、天ヶ瀬の頭から流れ出たらしい血が、血痕となって残っていましたので」


「自宅の玄関先で……? すると犯人は天ヶ瀬佑樹の顔見知りでしょうか。この日記を読む限り、殺害直前の天ヶ瀬はかなり人を警戒しています。見ず知らずの人間が自宅にやってきても、玄関を開けることはないでしょう」


「むろんそうです。当時の警察もそう考え、天ヶ瀬の母親や、母親と離婚している父親、さらに待ち合わせの約束をしていた袴田みなもや安愚楽士弦を徹底的に取り調べました。――しかし犯行を疑われた人間たちには、いずれも完全なアリバイが存在していたのです。天ヶ瀬を殺したのは両親でも、袴田みなもでも安愚楽士弦でもありませんでした」


「…………」


 私はしばし呆然としていた。

 この血まみれの日記帳を記した少年、天ヶ瀬佑樹……。

 幼なじみの少女に恋をし、同級生たちと青春を送り、そして事件の犯人を見つけ出そうとする、少年らしい正義感に満ち溢れていた人物が、まさかこうもあっさりと殺されようとは。


「し、しかし――」


 私はA氏に、視線を向けた。


「この日記だけでは、なにがなにやら分かりませんね。御堂若菜、長谷川幸平、天ヶ瀬佑樹を殺した犯人は? 過去の指風鈴事件の真相は? 山本キキラの行方や、袴田みなもたちが最後に話そうとしていたことは? さらに、日記自体が血痕によって読めない部分も多々ありますし、それに――何者かがマジックで日記に手を加えています。そこもいったい、なにがなにやら」


「……むろんそうです。天ヶ瀬佑樹の日記だけでは、事件の全貌はなにひとつつかめません。ですが……ここにはまだ、あと3冊の日記があるのです」


 そうだった。

 A氏が持ってきた日記帳は、合計で4冊ある。

 いま読んだのは、そのうちの1冊に過ぎないのだ。


「先生、次はこの日記を読んでみてください。……2001年の事件、最初の被害者である、御堂若菜の日記です。彼女の日記を読めば、また事件の別の側面が分かりますよ」


「御堂若菜の。彼女も日記をつけていたんですか?」


「そうです。こちらも、ぜひとも目を通していただきたい」


「……分かりました」


 天ヶ瀬佑樹の幼なじみにして、最初に殺されてしまった少女、御堂若菜。

 彼女の日記は、いかにも少女らしい、ピンクの小さな日記帳だった。

 19年前、弱冠15歳で強制的に人生を終わらされてしまった女の子の日記……。


 いったいなにが記されてあるのだろう?

 そこに、天ヶ瀬の日記からでは推測さえできなかった、事件の真相につながるなにかが、記されてあるのだろうか?


 私は再び、コーヒーを一口だけ口に含んで、その香りを鼻腔に突き抜けさせてから、眼前の日記を征服にかかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ