第1話 横領の罪を着せられる
俺は戸塚・健、30歳。
ソフトウェア開発会社の社員。
もうエンジニアとしての俺は賞味期限が切れたかな。
体力もだし、新しい技術に追いついていない気がする。
経験という武器はあるけども。
「先輩、社長が呼んでましたよ。昇級の話だったりして、課長に抜擢されのなら、先輩の下で働きたいですね」
そう言ったのは後輩の辻堂。
歌手の物まねが上手くてひょうきんな奴だ。
今時の若者といった感じだ。
「なら、今日は祝杯ですね。飲みに行きましょう」
そう言ったのはやはり後輩で女性社員の藤沢。
藤沢は地味な恰好をしてるが、ちゃんとすれば美人だと思う。
男性社員に人気があるのを俺は知っている。
「じゃあ行って来る」
俺は社長室の扉をノックした。
いたのは、社長の宮山と、専務の尻手。
そして、専務の甥で、課長の尻手・賢吾。
この3人がいる。
「戸塚君、とんでもないことをしてくれたね」
専務の尻手がそう言った。
「ええと、製品に致命的なバグでも見つかりましたか」
「惚けるのか。ならこれを見ろ」
専務が出してきたのはプログラムを外注するための発注書。
「これが何か?」
「白々しい。この外注の成果物は一つもないのだよ。架空発注というわけだ。金は払われているから横領だな」
「俺に何の関係が?」
「印を見たまえ。戸塚とあるだろ君の印だ。君が出した領収書の印と一致している」
「そんな馬鹿な」
寝耳に水とはこのことだ。
俺は何も知らない。
その書類に俺の印鑑が押されていたのだ。
とうぜん俺は押した記憶などない。
それに外部に発注する権限もない。
「戸塚、お前その発注書を俺の所に持ってきたじゃないか。忘れたのか」
そう言ったのは課長の尻手。
この事件に課長の尻手が関わっていたのが分かった。
やろう、俺の机を開けて印鑑を盗んで使ったな。
「残念だよ。君にはこの会社の幹部になってもらう予定だったのに」
そう言ったのは社長。
くそっ、どうする。
ごねても俺の話を信じて貰えるかが分からない。
「印鑑の他に証拠があるのか」
「もちろん、指紋や会話も録音してある」
どうやったかは分からないが、たぶん別の発注の件とすり換えたのだろう。
これだけ証拠があるなら仕方ない。
司法に全て委ねよう。
「訴えろよ。俺は構わない」
「もちろんだとも。横領だからな。言っておくが、首だ」
「俺は無実だ。それ以外もう話すことはない」
そう言って俺は社長室を出た。
「先輩、何だったんですか?」
「横領で首だってさ」
辻堂に尋ねられたので淡々と返す。
腸は煮えくり返っているがな。
「まさか、そんなの嘘ですよね」
「俺は無実だ」
「そうだと思います。俺も信じてます」
「そんな、先輩が首になるなら、私も辞めます」
「藤沢まで辞めることはないよ。そんなことをしたら今のプロジェクトが火の車だ。ただでさえ俺が抜けて大変だってのに」
「私、先輩の無実が実証されて会社に戻る日を待ってます」
そんな日が来るといいな。
机の中の物を段ボール箱に入れて、会社を出る。
とりあえず弁護士だな。
俺は弁護士とアポを取った。
そして、数日後、打ち合わせが始まり。
「戸塚さん、残念ですが裁判に勝てる要素はひとつもありません」
「そんな。無実なんだよ」
「相手は、戸塚さんが架空請求した外注費、3千万を払えば、民事の訴えをやめると言ってます。刑事告訴もしないと。どうします?」
「俺は無実なんだ」
「示談することを強く勧めたいですね。確かに裁判をすれば私達の懐は潤いますが、あなたは裁判に負けて費用が更にかさみますよ。親切心から示談をお勧めします」
「もういいよ。示談でいい」
「分かりました。ではそれで進めます」
スマホに電話が掛かってきた。
相手は今打ち合わせをしているのとは別の弁護士だ。
伯父さんが亡くなったらしい。
伯父さんには子供がいなくて、相続人に俺が指定されている。
急なことで大変だったが、俺は伯父さんの葬儀を執り行った。
ほとんど葬儀屋さん任せだったが立派な葬式を上げられたと思う。
伯父さんにはかなり財産があった。
大きいのは持ち家である不動産。
1等地だから、億は下らないだろう。
リフォームすれば家付きで売れる。
そして現金が1千万。
一気に金持ちになった。
俺はアパートから伯父さんの家に引っ越した。
横領の穴埋めは痛いが、これで何とかなる
お釣りさえ出るだろう。
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俺の収支メモ
支出 収入 収支
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貯金 381万円
遺産(現金) 1,000万円
弁護士費用 35万円
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計 35万円 1,381万円 1,346万円
相続税 2,000万円
示談金 3,000万円
遺産(不動産) 10,000万円
不動産は軽く見積もった。
来年の固定資産税が怖い。
だが家が売れれば取り返せるはず。




