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理由ありきの差別

 抵抗は簡単に出来た。

 時間を止めても良かったし、強くした身体で暴れても良かった。


 それをやらずに素直に誘拐されたのは、こいつらがどうするか見たかったから。


 俺を否定した奴は池田と対立する政党の人達。

 支持すると声明を出した時点ですでに死に体。


 もう終わっている人たちで、政治家として余命宣告を受けている。

 そんな彼らの最後の悪あがき、燃えるろうそくの最後の煌き。


 そうなってしまうと、豚の仮面をかぶる理由がない。

 ここで俺を何とかしないと死ぬのだから、命を賭けた本音を聴ける。


 何も言わず気絶したふりをして黙って連れ去れれる。

 目をつぶっていたで具体的な場所は分からなかったが、多分どこか人目のつかない場所に連れ去られる。


 目的地に着くまで暇なので会話をする。

 相手は池田だ。


『いけだー げんきー』

『色葉くんか。驚いたよ。念話も作ったのかかね?』

『もっと驚かせるけどいい?』

『あいにくこれ以上きみから驚かされることは――』

『誘拐されてる』

『はぁ?』


 やったぜ。念話じゃなくてテレビ通話をやればあのすました顔が崩壊した所を見れただろうが、今はいいや。


『確認しておきたいことがあるんだけど』

『いま聞くことか?』

『こうなった場合、殺してもいいんだよね?』

『………マジかよ。やりやがった』


 なんかいわれのない妄想をされたので訂正する。


『洗脳とかはしてないからね。そういうのは持たないようにしてる」


 ただいい機会だから、経験しておこうと思った。

 正当防衛が成立するのは同じ等級の市民だけだが、気持ちとしてはそういうものがあった方が楽になる。


『とりあえず答えはどう?』

『問題ない。なにも問題はない』

『さんきゅー。じゃ、また後で』

『まて! いまどこに』


 用事は終わったので念話を終わらせる。

 ちょうど車も止まった所で目的地に着いたのだろう。


 気絶の演技と考えると難しいが、2度寝する演技なら何度かある。

 これまでの経験が生きた。


 しかしどうなんだろう。こんな明るい気分でいいんだろうか。

 誘拐されたらもっと怖がったり落ち込んだりした方がいい?


「どうすんだよホント!」

「消えてもらうしか……」

「特級の武器を手配しろ! すぐにだ!」


 一派たちはてんてこ舞いで騒ぎだしている。


「すみません。こんなガキなら普通に殺せばいいんじゃないですか?」


 そんな中一人随分と若い男の声がする。

 俺の数段上の年だろうが、この中だと二番目か。


「……バイトか。何身分だ」

「第8っすけど、それがなにか」

「だったら黙ってろ」


 俺は知っているしここにいる人も大体知っている。

 なんで俺がこうも余裕ぶっていられるのか。


 複数の能力を持っていて対処できるから、ではない。

 もっと前段階の話。


 でも可哀そうだな。この人だけ何も知らないなんて。


 正直、これ以上待ってても面白くなりそうにないしネタ晴らししてやるか。


「殺せないんだよ。こいつらはどうやっても、物理的にも身体的にも」


 誰もがその場に凍り付いた。

 あれだけ祭りの中心部にいたような騒音が、深海の奥に入ったかのように静まり返る。


 人が話をしようとするときに黙ってくれるのは好感が持てる。


「アルバイトさんは疑問に思ったことない? ただ能力が使えるかどうかで身分が変わるかなんておかしいって。しかも先人はなんでそれに賛同したかなんて」

「そんなんいわれても」


 思ったことはある。ただ立場上反論が出来ない。そんな様子だった。


「まず能力的な話になるんだけど、これは見てもらった方が早いかな」


 手ごろな凶器、花瓶を握りしめ、自分の前腕に力いっぱいぶつける。

 身体能力を強化していたので、大人の大男よりも強い衝撃がくる、一応万が一のため強固な肉体にもしているが予想通り無駄な行動に代わる。


 腕にぶつかる寸前、その花瓶は蒸発。

 まるで、消臭スプレーのように霧散し消え去った。


 当たり前の現実、俺達からすれば一般常識。

 理解できてないのはアルバイトだけ。


「な、なんで?」

「存在できないんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 これは物だけじゃない。

 能力で生み出されたもの、火や病気だって同じ。

 一つ上なら効きづらく、二つ上なら効果がなく、三つ上なら存在できない。


「あ、でも花瓶なんだから能力とは関係ないと思ったでしょ。でも違う。今の世の中能力が関わってないものを探す方が難しい」


 例えば花瓶は複製のギフトを使って作ったかもしれないし、一から作ったとしても材質は能力由来かもしれない。

 仮に職人のオーダーメイドだとしても、輸送するときに能力を使われていれば能力由来扱いになる。


「だからこの部屋にあるもので俺を殺そうとしても、やろうとしたら、それはもう存在できない」


 縄も鈍器も刃物も、一般的な商品は俺を殺すことはできない。

 だからこそ、俺を殺せる特別な凶器を持ってくるしかないが、普通そんなものはない。


「じゃあ残ったのは素手ごろ。こんなガキ、素手で絞殺か撲殺してしまえばいい」

「そ、それは」


 図星だったのだろうが、俺の視線の先を見て察する。


 俺を誘拐した仕立て人の手が、今にも外れて床に落ちてきそうなほど、動いていない。

 

「誘拐しただけでこれだ。ことに及ぼうとすればどうなるか、察しが付くだろ」


 とはいっても実際見ているわけじゃないので、これから余裕があったら試すわけだが。


「中流階級ですらこれなんだから。バイト君がやろうとすると、ぐずぐずになって溶ける」


 教育ビデオの知識でそう教わったし、今の様子を見るにきっとそうなる。


「話を戻すけど、何で身分があるのか、そしてそれに抵抗しなかったのか。分かったでしょ」


 歴史的に抵抗はあった。革命の動きも何度もあった。

 ただそのすべてが、記録にならないほど簡単に塗りつぶされる。


 火炎瓶を使おうがそのオイルが能力由来であればかき消される。

 鉄パイプなんて工業製品は間違いなく能力由来なので、パイプの方がひん曲がる。


 物質的に平等ではない。

 能力的に平等ではない。

 生命的に平等ではない。


「お前達が何万人いようと、俺に傷一つつけることはできない」


 この世界の構築が不平等だから、俺達も不平等で生きている。



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