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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
情に棹させば流される

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流されるも(5)

「良くも悪くも、お人好しっていうのは他人に生かされ他人に殺されるのです」

 モッサはルオーがなにを言い出したのかすぐにはわからなかった。

「それは極論ではないか?」

「一面、事実です。実際に僕の両親がそうでした。頼られて助けた誰かに騙されて社会的に死にかけ、頼られて助けた誰かから恩を返され救われて生かされています。他者に重心を置くかぎり自力では解消されません」

「そんなことが」

 青年が老成して見えるのは苦労人だからだと知る。

「僕はそんな生き方が嫌なので、自分でしたいことをして生きると決めました」

「ときには自分勝手でいるのもいいが」

「他者に芯を求めてはいけません。芯とは自分の中にあるべきなんです。そうしないとブレブレで行き先は不透明になってしまいます」


 ルオーの言わんとしていることが徐々に明らかになってきた。モッサの他者を慮るばかりの行動が自身を迷わせていると教えられる。


「誰かの感情ばかり気にしていると足元が危うくなってきてしまうんですよ。ときには自分を通さないとまとまるものもまとまりません」

 不安定なのは自身の所為だと気づかされる。

「確かにな」

「でも、パットほど自分勝手なのは考えものですからね?」

「ぼくは彼ほど唯我独尊にはなれないよ」

 苦笑する。

「だが、もう少し自分の考えを押し付けてもいいのかもしれないな」

「人間関係なんて妥協点を探り続けるしかないんじゃないですか?」

「もっともだ。参考になったよ。ありがとう」


 青年は「どういたしまして」と答える。柔らかな感触の人物なのに、触れた向こうには確固としたものがあった。それがルオーの芯なのだろう。


(経験もあるが性分という部分が大きいな。でも、改められないほどじゃない。ぼくもまだ青いということか)

 上手に振る舞うことで大人になったつもりになっていたのかもしれない。


 モッサは考えを改める必要に駆られた。ところが事態は彼が思っているほど悠長に進んではくれない。


(なぜ、こうなった?)

 思わず無表情になってしまう。


「やっぱり新鮮な魚料理っていいわね」

「なんか、天然ものの食感って贅沢な感じする」

 ピレニーとフィルフィーの二人に挟まれての夕食。

「このカルパッチョ、美味しいわよ。食べてみる?」

「モッサはたぶん、こっちのスープのほうが好みでしょ? ウチ、彼がどんな料理選んで食べてるかよく見てるもん」

「駄目よ、偏りは。身体のためにならないじゃない。健康を考えてあげるのも大事だわ」


 まるで二人に取り合いされているかのよう。少し前までのパトリックのポジションがモッサに入れ替わった感じだ。


「君たち、これはどういう? パトリックのことはもういいのか?」

 飽きてしまったのかと思う。

「あなたの決断待ってらんないからタムに譲ったの」

「そうそう、あたしたちったら大人じゃない? 後輩の頑張りにご褒美をあげなきゃって思ったのよ」

「しかし、だからって急に……」

 矛先が変わると困惑する。

「だってモッサが悶着を避けろって言ったんだもん。ウチたちを暇させずに楽しませる責任があるって思わない?」

「よねえ。ただ悶々と他人の恋の行き先を眺めてるだけなんてつまんないもの」

「それを言われるとつらいものがあるが」


 状況はそんなに変わってない気がする。タムがパトリックの視線を独り占めしているだけで、モッサが二人に挟まれルガーに恨めしそうに睨まれているだけだ。


(ルオー君の言ってた、他人の感情ばかり気遣っていると振り回されるっていうのはこういうことか。ぼくがはっきりしないかぎり解決はされないと)


 当の青年は我関せずとクーファの面倒を見ている。誰に頼れるもなく、流されてばかりになるのは自身の行状が招いたもの。改めなければ事態が打開されることはない。


(こういっては失礼だが、ピレニーもフィルフィーもちゃんとした女性だ。妙に世を儚んでるところはない)

 傭兵(ソルジャーズ)をしている女性には過去の傷を癒やしきれず死に場所を求めているタイプも少なくない。

(いいかげんな態度を取れば男っていうものの印象を左右しかねない。二人の将来を潰してしまうかも。パトリックはこんなプレッシャーを平気で跳ね除けているのか?)


 かの色男にしてみれば、そこまで考えてはいないふうに見える。極めて自分本位に、自由に生きていると感じる。うらやましくも恨めしくも思えた。


(ぼくが思っていた責任感というのは勘違いだったのかもしれない。周りの人間に気遣って、綺麗にまとまるよう調整役をするのが正しいと思ってた。単なる驕りだったか。できているようでできていなかったんだな)


 今は全体がバラバラのように思えて、どこかバランスが取れているとも感じられる。それは皆がそれぞれ自身の理性を働かせて角が立たないように振る舞っているからだ。わざわざ彼が出しゃばる必要などない。


「で、モッサはどっちを選ぶの? ウチお勧めのスープよね?」

「違うでしょ? カルパッチョに決まってるじゃない。今ならあたしの『あーん』まで付いてるんだから」


 これはこれで悩ましいとモッサは頭を抱えた。

次回『流されるも(6)』 「じゃ、なにが欲しいんだよ」

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