すり減ろうとも(4)
操舵室のルオーたちもゆっくりと待ってはいられなかった。ヘルガに続いて別口の客人も来てしまう。そちらは彼らで対応しなくてはならない相手だった。
「今度はザーディラの首都警察ですか」
二台の警察車両に分乗してきた警官が六名、対面を望んでくる。
「引き渡し要求か」
「でしょうね。僕が対応します」
「ああ、オレはやることあるし」
クーファにも待っているように言って下に降りる。ハッチを開いて警官らと相対すると、すかさず要求してきた。
「船内にいるワイアット・クスタフィンの身柄を拘束にきた。国家騒乱罪の容疑である」
逮捕状を見せてくる。
「立ち入らせてもらう」
「お断りします」
「なに? 公務を妨害するのか?」
居丈高に威圧してきた。
「公務の及ぶ範囲ではありませんから。本船『ライジングサン』の船籍は星間管理局のものとなっています。つまり船内はあなた方の権限が及ぶ国内とはみなされません」
「それは……」
「もし、どうしても立ち入りたいとおっしゃるのなら星間管理局に申請して立ち入り許可令状をお持ちください。必要が認められたなら間違いなく交付されます」
正当な権利を正当に伝える。一部の警官は憤然と表情を険しくしたが上司らしき警官に止められる。
「立ち入りはできないのは認める。容疑者の身柄引き渡しに協力しなさい」
表面的には冷静に告げてくる。
「お断りします」
「なんだと? 貴様、犯人隠避罪と逃走幇助罪で拘束してやるぞ。嫌なら引き渡せ」
「僕は現在、契約による任務遂行中です。当社『ライジングサン』は星間管理局の社籍となっております。拘束したいのであれば、星間保安機構の逮捕状によるものでなくてはなりません。緊急を要しない案件の逮捕は無理ですよ?」
興奮して掴みかかろうとしてくる警官が上司に制止される。
「確かに君の主張に間違いはない。拒否するというのだね?」
「ええ、現状、容疑も定かでない逮捕状による氏の拘束を許すわけにもまいりませんし」
「困ることになると思うがね。例えば、この船が宙港から飛び立つ許可が降りなくなったり」
遠回しな脅しに切り替えてきた。その程度は予想範囲内だが。
「許可が下りない場合、管理局ビルに申請しますよ。もし、宙港サイドが星間管理局の要請を受け入れられないようでしたら余計に大変なことになると思いますね」
「うむ、困ったな。できれば穏便にすませたかったのだが」
「僕も穏便にすませるつもりですよ?」
(ずいぶんと正攻法で攻めてくるなぁ。すると、本命はあっちのほうか)
ルオーは頭上の様子を窺った。
◇ ◇ ◇
「なにか問題が?」
ワイアットは部屋から出ないよう連絡を受けて問い掛ける。
「ちょっと揉め事。動かないでくんない?」
「言われるとおりにするが」
「いえ、まいりましょう、ワイアットさん」
背中に固いものが押し当てられた。真後ろにヘルガが立っている。その手にはハンドレーザーが握られていた。
「両手を頭に。このまま降ります」
ぐいぐいと銃口で押してくる。
「しかし、動くなと」
「いいえ、お迎えが来ているのです。あなたは議会に戻って査問を受けなくてはなりません」
「なぜだ、ヘルガ君」
強制までしてくる理由がわからない。
「まさか、大統領閣下が?」
「おしゃべりが過ぎます。黙って従ってください。わたしも慣れていないので誤って撃ってしまうかもしれません」
「わ、わかった」
部屋を出て通路を進む。ハッチ近くまで降りると外に警官の姿が見えた。
「引き渡すのか」
「はい。あなたはやり過ぎました。このままでは国が乱れてしまいます」
彼女に後ろから促される。
「そんな……」
「議員たるもの、国家に忠実であらねばならないのではありませんか?」
「違う。私たちは公僕として働かねばならんのだ」
説得も通じそうにない。
「査問会で申し開きを。この場での証言は意味がありません」
「うーん、君のこの場での行動にも意味がないんだけどさ」
「なっ!」
押し当てられていた銃口が突如として無くなった。振り返ると、パトリックがヘルガに後ろから手を回して抱きしめている。銃口は下がって床を向いていた。
「どうして!?」
ヘルガは驚愕していた。
「どうしてって言ったってさ、肩を抱けば腰の後ろになにか提げてるくらいわかるよ。君がなにをしに来たのかもね」
「そこまで?」
「なんだったら着けている下着の種類までわかるね」
「変態さんなのぉ」
クーファが取り落とした彼女のハンドレーザーを拾ってそそくさと離れる。ヘルガを捕まえているパトリックがハッチを覗き込んだ。
「どうする?」
「一緒にお帰りいただきましょう。ここでどうこうできるものでもありませんから」
パトリックに促されてヘルガがラダーを降りていく。
「ヘルガ君」
「あなたは英雄気分なのでしょうね? でも、これから我がメーザードが大変なことになるのがおわかりにならないんですか?」
「大変なこと?」
「いずれわかります」
ルオーがハンドレーザーを返している。この期に及んでなにもできまい。
「ついでに、あのビルのスナイパーも帰らせてもらえません? 次は撃つって伝えてください」
「馬鹿な。500m以上離れているんだぞ? 見えるわけが……」
「では」
狙われていたルオーが平然と戻ってくるのがワイアットには理解できなかった。
次回『すり減ろうとも(5)』 「搦め手もこのくらいでしょう。時間切れだと思いますし」




